日本のIT業界は成長が著しく、今後も伸びていくことが予想されています。しかし、ITの恩恵を受けているはずの日本企業が伸び悩んでいることに、疑問を持ったことはないでしょうか。世界の時価総額ランキングを見ると、バブルの絶頂期(1989年7月時点)はトップ10のうち7社が日本の企業だったのに対して、現在は世界30位以内に日本企業はランクインしていません(2023年3月時点)。一方、テクノロジーを活用して変革を成し遂げている海外企業が多く名を連ねています。この違いの理由は何でしょうか。
その理由は「ITの位置づけや向き合い方の問題で、その結果として外部に依存せざるを得ないという日本企業の実情があり、相対的な競争力が下がっているため」だと、株式会社ブレインパッドの代表取締役社長 CEOである関口氏は語ります。同社は、データサイエンスを駆使してクライアントのビジネスモデルの変革に挑む成長企業。今回、関口氏に日本のIT業界とそれを取り巻く環境の話やこれからのDX支援で必要なこと、今後同社が手がけていきたいことなどを伺いました。
<目次>
●コンサルタント時代の違和感を解消すべく、ブレインパッドへ
●日本の産業は「ITとの向き合い方」が間違っていたという仮説
●理系脳と文系脳を併せ持った人が、活躍する時代になる
●意思決定の際に、もっとデータサイエンスを活用してほしい
●学生の皆さんへ。「一流の素人であれ」
関口 朋宏:代表取締役社長 CEO
早稲田大学理工学部卒業。アクセンチュア株式会社に入社後、戦略コンサルタントとしてさまざまな業界の事業戦略、大規模な組織再編、人事戦略の立案・実行を支援。2017年4月、ブレインパッド参画。ビジネス・コンサルティング組織の立ち上げを行い、収益拡大をけん引。2019年9月より取締役に就任し、大手企業との資本業務提携や大規模プロジェクトの実行責任者を務めるとともに、2021年からはプロダクト事業を統括し、株式会社TimeTechnologiesの子会社化を推進。2023年7月代表取締役社長 CEOに就任。
コンサルタント時代の違和感を解消すべく、ブレインパッドへ
──まず、これまでの経歴とブレインパッドとの出会いについて教えてください。
関口:私は大学卒業後にアクセンチュア株式会社に入社し、戦略コンサルタントとして約16年、さまざまな業界の事業戦略や大規模な組織再編、人事戦略の立案・実行を支援してきました。数々の日本企業にコンサルタントとして関わっていく中で感じるようになったのが、多くの日本企業は海外企業の背中を追いかけているばかりということ。そして、コンサルタントの仕事がそれを助長している面もあり、「このままでは日本企業は世界を追い越せない」と、自分の中でモヤモヤした気持ちが生まれ始めました。それがコンサルティングファームからのキャリアチェンジを考えるようになったきっかけです。そんな時に出会ったのが、データ分析やデータサイエンスを強みに事業を展開するブレインパッドです。
経営においては「事実」や「データ」がとても重要です。きちんと事実を理解した上で、次の一手を打っていくことがとても大事ですが、日本においては、事実・データよりも、定性的な情報や人の声・意見が中心となって課題設定や解決策が組み上げられていくことのほうが多い傾向にあります。海外企業の経営事例を見ると「事実」や「データ」に対する感度が高く、経営層のレベルまで意識浸透している。その点が今の日本企業と海外企業の差じゃないかと思うようになりました。
主に日本企業の経営を支援する立場として、データやファクトに基づいた経営コンサルティングをすることがとても重要で、「データをいかに扱うか」という観点は経営にとって有効な武器になる。その考えと、ブレインパッドはとてもフィットしたのです。
──入社された2017年は、人工知能(AI)の基礎技術である「機械学習」が実用化されだした頃ですね。
関口:いわゆる第三次人工知能(AI)ブームで、日本でも各業界でAI活用が求められるようになっていました。当社のデータサイエンティストもまさに引っ張りだこ状態で、これからの業界改変が始まっていくだろうなと感じました。
しかしAIブームによって、日本の世の中がすごく進化したか、海外企業と比べて爆発的に伸びた企業があったかというと、実はそんなことはありませんでした。このことからも、日本企業は「ITとの向き合い方」が海外企業と根本的に違う、という結論にたどり着きました。
私たちはデータを扱うプロですが、日本の企業・産業を支援している立場として、根本的な問題意識は忘れてはいけないと思っています。単なるデータ分析の会社ではなく、データサイエンスを柱にしながらも、日本の企業や産業に対して変革をもたらすことを、会社としては大事にしていきたい。2023年7月にCEOに就任し、経営の方針やビジョンとしてもその観点を大事にしつつ、次の目指す姿を作ってきました。
日本の産業は「ITとの向き合い方」が間違っていたという仮説
──「ITとの向き合い方」で、日本企業が間違ったのはどんな点だとお考えですか?
関口:あくまでも仮説ですが、今の日本においてはITが「モノ」と考えられている点だと思います。
例えば、これまで急成長した日本の自動車産業や電機産業などは、誰もが知る有名企業の下に、パートナー企業が何社も連なるピラミッド的な産業構造になっていました。それぞれの会社で担当する製造分野や役割が決められており、産業構造上トップの会社が製品の全体像や販売戦略を練って、具体的な製造や技術部分をパートナー企業にも依頼する多重構造です。まさにITも同じで、自社では開発を行わず、パートナー企業に依頼する業界構造になっていると考えています。そして、世界に名だたる優秀な電機メーカーが国内に多数あったことも影響した可能性もあります。
しかし時代は変わりました。特にここ数年はIT・デジタル分野の成長はすさまじく、知識の深いエンジニアでなくても、デジタル技術を簡単に扱えるようになり、手を動かせるエンジニアを有する企業ほど、ITを導入するスピードが速くなっています。そうであるにもかかわらず、日本企業はITに関することを外部に依頼することを続けているため、スピードで負けてしまう。加えて、外部に依頼することで高コストになり、余計に日本企業のデジタル化を妨げることになる。もちろんこれは現時点での結果論でしかありませんが、そんなネガティブな状況が発生していると思います。
──IT業界が出来上がった時点の産業構造が問題だったということですね。
関口:あとは、大学教育や新卒採用も少なからず影響していると考えます。日本では、大学の学部を文系と理系で二分化しますよね。海外ではそのような考え方はありません。さらに海外では、いわゆる文系科目と理系科目の両方の学位を取る、いわゆるダブルディグリーの人が数多くいますが日本はそこが進まない。大学卒業後の就業先も「技術系」「事務系」と分離する考え方もまだ根強く残っていると思います。
時代の流れを受け、文理という概念をなくしたほうが良いと思いますが、歴史的・文化的な背景から急に変えることは難しいのでしょう。特に大企業にとっては非常に難しいと思っています。だからこそ私たちみたいなベンチャー企業が新しい方法に挑戦し、それがうまくいった時に、大企業がその方法を取り入れてくれれば、日本全体で新しい流れが一気に進むと思います。そんな意味では、今の日本のIT産業において、私たちのような企業が果たす役割は非常に大きいのです。
理系脳と文系脳を併せ持った人が、活躍する時代になる
──これまでにお聞きしたIT業界の現状に対して、どのように取り組んでいこうと考えていますか?
関口:今回、私がCEOに就任した際に中期経営計画で掲げたのが、まさに「理系的思考を持った」人材から将来の経営人材をつくるということです。日本の経営者はまだ文系学部の出身者の方が多いように感じています。
ありがたいことに当社はデータサイエンティストやエンジニアが数多く在籍していて、理系出身者が大半です。しかも修士号や博士号を取得している人が非常に多い。しかし、社会に出て仕事をしていこうとなった時に、技術だけでは活躍できません。データサイエンティストは、お客様と向き合ってビジネスの課題を解決していく仕事ですので、ビジネスの知識も身につけなければいけません。コミュニケーションにしても、多様性や相手の考えを尊重する必要がありますし、「大きなものを動かしていく」「人を動かしていく」「新しい発想をしていく」など、哲学的思考がより求められてくる。 今後はそんな点を強化する人材教育を考えています。
──いわゆる、理系的・文系的な能力の両方が、入社後は求められるということですね。
関口:分かりやすく、「理系脳」と「文系脳」という表現を用いて説明しましょう。
「理系脳」はいわゆる左脳の思考であり、提示された課題を早く正しく解く能力ともいえます。課題を解く力。まさにデータサイエンスの中では重要な力です。しかし、これは一つ大きな問題を抱えていて、提示された課題がそもそも間違っていたら、全く意味のない解答になってしまうのです。それは、課題を解く作業そのものが全く評価されないことと同義です。
そこで、与えられた課題が「正しい問い」なのかどうかを見極める必要が出てきます。正しい問いは、そこらへんに転がっている訳ではないので、幅広い興味を持っていろんな物事を観察し、人や人の話に興味を持たないと立てられない。さらに、問に対して答えは一個ではない可能性もあるので、いろいろとアイデアを発散させていくことも必要になる。私はこれが「文系脳」、右脳思考だと思っています。
関口:人間的な部分に興味を持って、発想を拡散させる力と、拡散させたアイデアを収束させていく力。この二つを鍛えていくことが、これからの人材には求められると思いますし、実現できれば市場価値の高い人材になれるはずです。
意思決定の際に、もっとデータサイエンスを活用してほしい
──お客様にはどのような価値を提供しようとしていますか?
関口:私たちが扱うデータやデータサイエンスを世の中に役立てることが、当社のビジネスの基本です。日本の産業のさまざまな課題に対して解決策を提示して、ビジネスを支援していくことは、当社が提供する価値に間違いありません。
しかし、これまでの当社は「分析の上手な人がたくさんいる会社」だったのかもしれません。分析が上手なだけだと、お客様が設定した問いが間違っていた時、私たちの価値は全く出せなくなります。お客様と一緒に正しい問いを考えられるという点も非常に大事で、その点を強化しています。
それは「コンサルタントの仕事と同じじゃないか」という人もいるかもしれませんが、少し違います。これまで「問い」は定性的な情報をもとに立てることが非常に多かった。それだと伝える人自身のバイアスがかかっていますし、客観性が足りません。声の大きな人の課題が優先されることもあります。ですから、私たちは問いを立てる段階でさえも、データをフル活用し、定量的に客観性を持って行いたいのです。この過程を通してお客様の意思決定のスタイルをデータ・ドリブンに変えていく。この点が、これまでのコンサルタントとの違いだと考えます。
──データサイエンスを存分に活用して、問いを設定し、課題解決に臨むわけですね。
関口:「課題解決」という観点では、価値の提供の仕方は二つあると考えています。
一つは「AIを使って自動化しましょう。効率化しましょう」という、オペレーションサイエンス。人間が行っている仕事を置き換えてしまう方法です。今のAI業界では、アルゴリズムの大半はオペレーションサイエンスの現場で使われていると思います。
でも世の中の企業が一番気になっているのは、「うちの会社は今後どっちの方向に事業を進めていけばいいんですか?」という重要な意思決定の場面におけるAIの活用です。この意思決定におけるデータサイエンスを「ディシジョンサイエンス」と呼んでいます。残念ながら、重要な経営判断に限らず、「この商品を仕入れますか?」「何個仕入れますか?」といった日々の業務レベルでの小さな意思決定でも、全くサイエンスされていないのが現状です。
関口:ディシジョンサイエンスにより「判断の武器」を与えるのは、すごく面白いことだと思うし、それにより日本中の経営者の発想や判断をよりバリエーション豊かなものにしていければ、日本企業はもっと強くなれる。そんなふうに日本の産業を支えていけたらいいなと思っています。
──意思決定の場でのAI活用は、なかなか実用化が難しそうですよね。
関口:そうですね。この分野はとても難しいです。人がAかBかという答えを出すときに、何をもってAかBを判断しているのか、その人の思考回路を解きほぐさなければいけません。データだけでは全てが解けないかもしれませんが、一定量のデータが集まれば解きほぐすことができるかもしれない。これまですごく曖昧だったことを改めてデータサイエンスを使って再現性を高めていくことが、今後のAI利用において一番求められることです。
難しいがゆえに、取り組もうとする人や企業は国内では非常に少ないです。高度なデータサイエンスやデータ解析能力が必要ですし、企業のビジネスそのものを深く知る力も必要になります。つまり、「理系脳」「文系脳」の両方がないとできない世界です。膨大なトライ&エラーを繰り返して、PDCAを高速で回していかないといけない。生半可な技術と覚悟では、結果は出せないような領域です。
本気で取り組んでいる人が少ない領域だからこそ、ものすごく価値があるし、挑戦していきたいのです。オペレーションサイエンスだけでなく、企業経営の根幹に迫るディシジョンサイエンスにも挑んでいくのが、他社との違いでもあり、当社の強みでもあるといえます。
学生の皆さんへ。「一流の素人であれ」
──これからブレインパットへ入社する学生に、求めたいことはなんですか?
関口:社会人になると、皆さん「その道のプロ」を目指そうとしますよね。ですが、私はプロであることと同じくらい「素人の感覚を忘れないこと」も重要だと考えています。プロは豊富な知識やスキルを持っている分、ビジネスにおいても高度なテクニックを見せたくなってしまうものです。しかしそのテクニックは、一般人にとっては「こ難しくてつまらないもの」であることを忘れてはいけません。一種の自己満足ですね。
例えば、もしプロの写真家が一般人向けのカメラを作ったとしたら、素人でも使いやすいカメラが出来上がる気がしますか?(笑)。プロ向けのカメラなら細かなこだわりも歓迎されるでしょうが、一般人は簡単でそれなりに上手に撮影できるカメラの方がいいですから。であれば、高校生が考えるカメラの方が面白くて使い勝手のいいものになりそうですよね。
関口:当社の内定式でも、「残りの学生生活をどう過ごすべきか?」という質問を学生からよくされますが、とにかく学生らしく過ごしてほしいと伝えています。一点だけお願いするならば、学生の目から見て「世の中のここが嫌だ」「社会のこんな部分を直したい」と思うポイントを、入社するまでに見つけて来てほしいです。一つでも見つかると、世の中が今までと少し違って見えるはずですから。
──最後に、学生へ伝えたいメッセージがあればお願いします。
関口:ブレインパットでは行動指針としてのValues(バリューズ)の一つに「未来をつくる」という言葉を掲げているのですが、これはベテラン社員の力だけではなかなかできないことだと考えています。新しい技術をどんどん取り入れて未来を創造していけるのは、やはり今を生きる若い方々です。「若手が会社をひっぱる環境」を、もっと作っていきたいのです。私は46歳で当社の代表になりました。まだ代表になって日が浅いですが、すでに次の社長候補をつくる仕事が始まっています。妄想ですが、次は30代の社長を輩出できたら……なんて考えているところです。少なくとも私より若い社長にはしたいですね。
プレインパットは従業員が600名ほどと、IT業界の中ではまだまだ小粒の会社です。だからこそ、チャレンジしなければならないことは圧倒的に多い。「若いうちにたくさんのことに挑戦したい」と考えている方には、ピッタリな会社だと思います。
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