全11回にわたりお伝えした「外資BIG5」とKENの対談特集。5人との対談を受けて就活生に伝えたいことを、KENが3回に分けてお伝えします。第一弾は賢者が持つ「価値観の源泉」についてお伝えします。
5人との対談を終えた私は、ワクワクする気持ちと同時に「不安な気持ち」も抱えていました。
前向きな気持ちの理由はわかりやすく、「素晴らしいインタビューを世に届けることができる」ということ。一方、不安に思う気持ち理由はこうでした。
「5人が5人、全く違うキャリア観を持っていて、一見すると共通点が見受けられない」。
インタビューはあくまで、n=1の定性的な情報です。私の役割の1つは、その共通点を導き、「読者のみなさんに役立つ、汎用性の高い学びを導き出すこと」にあります。
では、5人の賢者のインタビューを横断することで見えた、「汎用性の高い学び」は一体なんなのか。私は、3点あると考えます。
KEN:
ワンキャリアの若手編集長。28歳。博報堂、ボストンコンサルティンググループ出身。ビジネス経験とは別に、学生時代にボランティア団体を設立・プロボノ支援等のソーシャルセクターでの活動経験を持つ。博報堂経営企画局・経理財務局にて、中期経営計画の推進、組織改編業務、M&A、子会社統廃合業務等の全社戦略に関わる業務を担当。2013年に退職し、アメリカ・台湾への留学を経て、The Boston Consulting Group(Japan)にジョイン。情報通信・パブリックセクター・総合商社等のコンサルティング業務を経験し、株式会社トライフに2016年メディアの編集長として参画。一方で、23歳の頃から日本シナリオ作家協会にて「ストロベリーナイト」「トリック」「恋空」等を手がけたプロの脚本家に従事。映画とドラマの脚本を学ぶ。
1.「専門性が高い領域で集中的に働いた業務経験」が、後々のキャリアにおける「挑戦」のハードルを下げる
・もう一度新卒をやりなおすなら、賢者たちは「専門性が明確な職種」か「仕事に没頭できる会社」を選ぶ
「もう一度新卒をやりなおすとすれば、どこを選ぶのか?」という問いに対する答えには、大きく2通りの答えがありました。それは「専門性が明確な職種」か「仕事に没頭できる会社」。
まず、P&G出身で、キャンサースキャンの福吉さんは、専門性がないキャリアは、将来選ぶことができるキャリアの選択肢を狭めてしまうと語られ、「就社ではなく、就『職』で選んだ方がいい」と表現されていました。確かに海外にいくと「私はxx会社に勤めています」と発言する人はほとんどおらず、「私はファイナンスをしています」といった職種で自分のキャリアを語るのが普通だといいます。「職種」という軸で仕事を見るのは、新たな視点を与えてくれるものかもしれません。
あるいは、ゴールドマン・サックス出身で、ヒューマン・ライツ・ウォッチの吉岡さんは選択肢を3つあげ、「弁護士」「コンサル」「起業」と答えられました。弁護士を選ばれた理由は、人権問題という領域で活躍されているなかで、「専門知識の重要さ」を痛感しているためでした。一方、コンサルや起業を選んだ理由は、「若くから集中して仕事を取り組めるチャンスがあること」に起因しています。同様に、マッキンゼー出身で、RCFの藤沢さんは、「圧倒的に目の前のことにコミットできる環境」を求め、もう一度マッキンゼーを選ぶということでした。
すなわち、選択肢は2つ。「専門性が明確な職種」か「仕事に没頭できる会社」です。
・仕事で挑戦する勇気は、仕事の経験からくる。外資系企業に入るメリットは、キャリアにおける挑戦を自由に選べるようになるまでの期間が短縮できること
インタビューの最中で私が繰り返し聞いた質問は「辞めるまでの年数」でした。外資系企業は、日系企業と違い、定年まで働く人の割合が少ないと言われます。現に、今回インタビューをした5人の方の勤続年数は平均で約3〜4年。この数字は一般的な日系企業に比べて、短いと言わざるを得ません。では、その期間は十分ではなかったかというと話は別です。
皆さんが共通しておっしゃったのは「そこで学んだ技術が今のフィールドで活きている」ということ。私自身が日系企業で4年弱働いた経験から感じるのは、普通の日系大手企業では3〜4年の間に「特定領域の技術を十分に獲得するのは難しいことが多い」ということです。一方、外資系企業は、一般的に「職種別採用」を行うことで、専門性のある人材を育成する傾向が強いです。そのため、よくも悪くも「専門技術を短期間で獲得できること」を求められます。
すなわち、望む、望まないに限らず、「専門性が高い領域で集中的に働いた業務経験」が、後のキャリアを自由にしたといえるのではないでしょうか。
2. キャリアにおける「挑戦」をするためには、「器用さ」よりは、「新しい挑戦を全力で楽しめる素養」が大切である
外資系出身者というと、どんなイメージを持たれるでしょうか。特に今回取材をおこなった外資BIG5出身者のイメージは、「頭がキレて物事をとにかく器用に進められる人」という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし、実際は異なるようです。詳しく見ていきましょう。
・ゴールドキャリアに見える人でも、挫折・失敗を若い頃に経験している
例えば、前Google日本法人名誉会長の村上さんは、大学時代に学生運動で捕まった経験から、通常の就活ができず「裏口入社で入った」と語ってくれました。あるいは、クロスフィールズの松島さんはBCGに入社した当時、Excelの使い方がわからず苦労したと言います。また「P&Gのマーケティングを経て、ハーバードのMBA」という、一見すると輝かしいキャリアを歩まれているキャンサースキャン・福吉さんの大学受験の話は意外な内容だったのではないでしょうか。
「ゴールドキャリアに見える人でも、挫折・失敗を若い頃に経験している」。外からすると華やかに見える人こそ、挫折や失敗を乗り越えてきていることが多い。勇気付けられる話です。
・目の前のことに全力で取り組み、新しい挑戦を楽しむ素養がある
一方で、彼らに共通するものはなんなのでしょうか。対談を通じて感じたのは、圧倒的な「好奇心」のようなものです。特に印象的だったのは、村上さんがおっしゃっていた「齢69歳になろうとして、毎日、ワクワクするような人工知能第3次ブームの真っただ中にある」という言葉です。目の前のことに全力で取り組み、新しい挑戦を楽しむ素養があることが5人の共通点であるといえるのではないでしょうか。
3.「10年後の世界」など賢者でも見えない。むしろ、今後10年の変化を起こす側でいようとする人が結果的に豊かなキャリアを歩んでいる
最後のポイントは、「10年後の世界の捉え方」についてです。
・今、注目を浴びている企業に入ることまではできても、10年後の世界から逆算してアツい企業など、わからない
村上さんは、自らが世界的企業のトップにたどり着いた背景を「キャリアはドリフトである」と表現しています。この意味は、計算しても先のキャリアなど描ききれない、ということです。しかし、同氏はもう一度就職活動をしなおすとしたら「プリファードインフラストラクチャー(PFI)を選ぶ」と即答されました。PFIは人工知能の領域内で「天才」と称されることもある経営陣を中心とした、現在注目を集めるベンチャーです。
・一方で「目の前のことに全力で打ち込むものがある環境に飛び込み、変化を起こそうとすること」はできる
この対談を通じ、私は、賢者達がベンチャー・ソーシャルセクターに進んだ理由が極めて合理的だと感じました。それは、ベンチャー・ソーシャルセクターは大企業に比べて、目に見える課題が山積みであるから。両領域は「社会が抱える負」が大きく、飛び込む理由が十分だからです。
藤沢さんはハッキリとこうおっしゃっています。「20歳のときに10年後こうなりたいと思ったとして、それは10年前の発想です。ある程度世の中を予測して動く逆算型よりも、変化を巻き起こす側でいたい」と。「10年後の世界」など賢者でも見えない。むしろ、今後10年の変化を起こす側でいようとする人が結果的に豊かなキャリアを歩んでいる、といえるのではないでしょうか。
おわりに
キャリア論は人それぞれです。しかし、今回の5人との対談を通じて言えることは3つだと感じます。
1. 望む、望まぬに関係せず、「専門性が高い領域で集中的に働いた業務経験」が、後のキャリアを自由にし、挑戦する勇気を与えた
2. キャリアのおける「挑戦」をするためには、「器用さ」はよりは、「新しい挑戦を全力で楽しめる素養」が大切である
3. 「10年後の世界」など賢者でも見えない。むしろ、今後10年の変化を起こす側でいようとする人が結果的に豊かなキャリアを歩んでいる
以上3つ、また昨日で全て公開を終えた「外資BIG5特集」の対談記事が、みなさんのキャリアに対する考えを深めるきっかけになれば、編集長としてこれ以上幸せなことはありません。明日も「外資BIG5特集」に寄せてコラムを書きます。「『学生よ、ジョブローテがある会社には行くな』KENが考える現代の就活が抱える3つの課題」も、ぜひお楽しみに。
ーー外資系企業の中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。記事一覧はコチラ。
<外資BIG5特集:記事一覧>
【1】前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏
・「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)
・日本人がグローバル企業でCEOを務めるために必要なたった2つのこととは?(中編)
・今の人工知能は、ターミネーターの一歩手前なのか?人工知能の最先端に迫る!(後編)
【2】マッキンゼー出身、一般社団法人RCF 藤沢烈氏
・「この会社の中で一番難しい仕事がやりたい」新卒でそう言った彼が今でも目の前の仕事に全力でコミットする理由(前編)
・「NPO経営はベンチャーが上場するのと同じくらい難しいと感じる」外資・起業・NPO全てを経験した彼が語る経営の本質(後編)
【3】BCG出身、特定非営利活動法人クロスフィールズ 松島由佳氏
・「BCGは今でも大好きです」そう述べた彼女がそれでもなお、新興国向けNPOを立ち上げた理由に迫る(前編)
・途上国と日本のそれぞれの良さを活かしあって描ける未来もある。「留職」が目指す未来とは?(後編)
【4】ゴールドマン・サックス出身、ヒューマン・ライツ・ウォッチ 吉岡利代氏
・「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)
・「息を吸うように仕事をしている」彼女が世界の問題を身近に感じる理由(後編)
【5】P&G出身、株式会社キャンサースキャン 福吉潤氏
・P&GマーケからハーバードMBAへ。キャンサースキャン福吉氏が今、日本の社会で証明したい「社会への貢献」と「リターン」の両立とは?(前編)
・「世界最強と言われるP&Gマーケティングの限界は存在するのか」という問いへの彼の回答とは?(後編)
【6】5人の対談を終えてKENの対談後記
・賢者が持つ「価値観の源泉」に迫る ー5人の共通点と相違点ー
・現代の就活が抱える3つの課題 ー「学生よ、ジョブローテがある会社には行くな」ー
・KENの回想記 ーソーシャル領域との出会いと、天職の見つけ方ー
※ 外資BIG5特集:特設ページはこちら