※こちらは2018年1月に公開された記事の再掲です。
現在は、就職氷河期に比べると「就活売り手市場」であると、ニュースなどではよく言われます。
実際に、18卒の内定辞退率は過去最多の64%(※1)にのぼるとの報道もありました。
ですが、就活中の皆さんの中には「自分は苦労しているのに、『売り手市場』と言われても……」と戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、バブル時代から現在までの就活に関するデータを見ながら、「今って本当に売り手市場なの?」という疑問について考えたいと思います。
(※1)出典:SankeiBiz「新卒内定辞退 最多の64% 来春、売り手市場鮮明」
バブル・就職氷河期を経て、「売り手市場」の時代へ
まず、就職バブル期・就職氷河期がいつだったのかを、簡単に説明します。
・バブル期:1988~1992年(当時の22歳→現在51~47歳)
・就職氷河期:1993~2005年(当時の22歳→現在46~34歳)
バブル崩壊から長らく続いた就職氷河期は2005年に一度終わり、2006~2008年は景気回復を受けて一転して売り手市場となりました。
しかし、2008年のリーマンショックの影響で、2010年卒~2013年卒は再び就職難となり、2014年から売り手市場へと転じていきました。
就職氷河期と売り手市場における、大卒求人倍率の比較
では、そんな就職の状況をグラフで見てみましょう。
以下は、皆さんに最も関係のある大卒求人倍率の推移です。
(以下すべて、「リクルートワークス研究所」のデータを元に筆者がグラフ作成)
(※1,000人未満:1,000人未満の企業における大卒求人倍率/1,000人以上:1,000人以上の企業における同数値。なお、1987~1995年は企業規模別の数値はなし)
大卒求人倍率とは、求人総数を民間企業就職希望者数で割った数のことです。この推移から、以下のことが読み取れます。
・現在の売り手市場はまだバブル期を超えていない
・2016と2017年卒の1,000人以上の企業における大卒求人倍率は0.9以上で、10人に9人がいわゆる大企業に就職可能だった(やはり売り手市場である)
・1,000人以上の企業における大卒求人倍率は、就職氷河期が最も厳しかったと言われる2000年よりも1996と1997年卒の方が約0.3(=3人に1人しか規模の大きな企業に入れない)と数値が悪かった ※おそらくこれは、1996・1997年卒の大学生数が多かったため
・就職氷河期と売り手市場を比べると、1,000人未満の企業における大卒求人倍率の差が激しい
グラフを見ると、求人倍率の変化は中小企業の求人倍率に対応していることが読み取れます。日本企業の9割が中小企業であることから、大企業よりも中小企業での大卒求人数の方が、倍率に与える影響は大きくなります。そして、中小企業の方が景気の影響をダイレクトに受けやすいことから、求人倍率が大幅に変動するのです。
さて、就職氷河期の真っ只(ただ)中であった2000年卒は、大卒求人倍率が0.99と唯一、1.0を割りました。
この年の求人総数は407,768人、民間企業就職希望者数は412,300人で、求人総数よりも就職希望者数が多かったからです。
これはどういうことか想像してみてください。
ハローワークの求人を見ると実感できますが、求人の中には「絶対入りたくない」と思うような労働条件が悪い会社も多数あります。たとえば、給料も安く社会保険もなく、サービス残業を強いられるといった会社です。2000年は、このような悪条件の求人が全部埋まってなお、どこにも就職できない人が発生した年でした。当然、条件がよい会社ほど競争は熾烈(しれつ)になり、条件が悪い会社も横柄な態度に出ることができたのです。
今のように景気が良ければ、そういった会社には人が集まらずに淘汰(とうた)されていきます。
最近は、人手不足による倒産(※2)もよく聞きますが、この現象には労働条件が悪いから人が集まらない、しかし条件を良くすることが経営上できないため、業務が回らなくなって倒産した場合も含まれるでしょう。
(※2)参考:MONEYZINE「企業の人手不足、49.1%が正社員不足 「求人難」型の倒産が前年比2.2倍に増加」
金融・保険は就職氷河期よりも狭き門! 業種別の求人倍率から意外な事実が
では次に、各業種における大卒求人倍率の推移を見てみましょう。
(※1987~1995年は業種別の数値はなし)
このグラフから、とても興味深いことが読み取れます。
1.「金融・保険」は、実は就職氷河期よりも現在の売り手市場の方が数値は低い(年々低下)
2. 就職氷河期と売り手市場で、もっとも数値差が大きい業種は「流通」
以下、詳しく見ていきます。
1. 金融・保険は「10人中8人が落ちる」就職氷河期より厳しい競争
まず1について。衝撃的なデータですが、「金融・保険」の求人倍率は景気の影響を受けずに年々低下し、2018年卒では0.19倍となっています。いま金融・保険業界に就職したい人は10人に2人しか就職できず、実は就職氷河期よりも大変な就職活動をしていると言えるのです。
その理由は、企業数に対応して求人数が減る一方、就職人気は依然として高いままだからです。
金融・保険業界は合併や再編が進んだ結果、就職先の企業数が減ってきています。
例えば、1980年台には30行以上、2000年台でも10数行あった銀行は、現在3メガバンクとりそなHDに集約されています(出典:朝日新聞デジタル「データでみる就活」)。
さらに今年、銀行最大手の三菱東京UFJ銀行は最大2割程度の人員削減検討、みずほFGは今後10年で19,000人分の業務量削減化を発表しています。現代ビジネスの「『銀行消滅』は、こんな順番でジワジワ進行する」という記事は、「確かに今後、AIの影響で銀行業務は消えていくのかもしれない」と思わせるものでした。
にもかかわらず、東洋経済ONLINEの「就職人気ランキング」(2018年卒)では、三菱東京UFJ銀行が2位、10位以内の6社が金融・保険業と、金融・保険業の学生人気はとても高いのです。
※三菱東京UFJ銀行(BTMU)は、平成30年4月1日より三菱UFJ銀行(MUFG)に変更となりました。本文中の名称は掲載時のものに準拠しております。
2. 「売り手市場」で苦戦するのは外食産業や運送業
一方で、「売り手市場」化とともに求人倍率を急激に伸ばしているのが「流通」業です。これは生産者と消費者をつないでいる産業で、小売業・卸売業・運送業・倉庫業などを指します。「拘束時間が長いのに給与が安い」と言われる外食産業なども、この流通業に入ります。
特に、2018年卒の求人倍率は11.32と異常な高さで、求人に対する就職希望者数が非常に少なかったことが分かります。景気が良くなって働く側が企業を選べる状態になると、顧客対応でストレスの多い外食産業や小売業を選ぶ人が減ってくるのかもしれません。「ブラック」と言われる外食産業のアルバイトをわざわざ選ぶ若者が減り、少子化もあって、都心の牛丼屋などの時給が上がってきているのは身近な例でしょう。
まとめ:「売り手市場」のリアルを知った今、あなたがすべきこと
データから読み取れたことをまとめると、下記のようになります。
・大卒求人倍率は景気とともに回復傾向にあり、全体の傾向として「就活売り手市場」になりつつある
・規模1,000人以上の大企業では、求人倍率の変動は比較的小さい。全体の求人倍率は、企業数が多くて求人が景気に左右されやすい中小企業の動向に影響を受けている
・「売り手市場」では、(1)1,000人未満の中小企業(2)流通業の求人数が増えやすい
・金融・保険業の大卒求人倍率は年々低下し、競争が激しくなっている
さて、就職氷河期に就活をした私から見ると、「売り手市場」にいる皆さんが羨ましいですが、「売り手市場」自体よりもっと羨ましいことがあります。
それは、「就職活動時に、どの企業がブラックか、ある程度調べられる」ことです。
今は、ブラック企業が起こした事件や風評、元社員の書き込みなどをスマホから簡単に検索できます。企業からひどい待遇を受ければ、SNSなどで知らしめることもできます。私が就活をした時代には、社風を知るためにはOB訪問くらいしか方法がありませんでした。パソコンはまだ高価で、スマホはありませんでした。ブラック企業の内情が書き込まれるインターネット掲示板も存在してはいましたが、普通の就活生が見るような場所ではなかった気がします。何より、「ブラック企業」という概念がありませんでした。今野晴貴氏の「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」によると、「ブラック企業」という単語が使われ出したのは2010年末からだそうです。
だから、売り手市場にいる皆さんは、就職氷河期かつ情報弱者だった私よりも圧倒的なメリットを持っているのだから、それを活かして、入りたい企業や業界について徹底的に調べてください。銀行や新聞・出版など、先行きが不透明な業界がいまだに人気なのは、皆さんが親世代の価値観に影響されているからかもしれません。ぜひ、自分から情報を入手して、いろんな人の話を聞いて、古い価値観にとらわれずに今後生き残ることができるような企業を選ぶようにしてください。