※こちらは2022年10月に公開された記事の再掲です。
日本企業の株が売買されている証券取引所。誰しも一度は、テレビなどで企業の株価がぐるぐる回る「あのモニター」を見たことがあるでしょう。
東京証券取引所グループと大阪取引所が、2013年1月に経営統合して誕生した日本取引所グループ、通称JPX。企業が株式市場を通してスムーズに資金を調達できるよう、金融市場に関わるさまざまな事業を展開しています。
投資などをしていなければ、なじみの薄い存在である同社ですが、実は日本経済を支える重要な役割を果たしており、さらにその事業も日々進化を遂げています。働く社員の業務も多岐にわたり、キャリアの形成も実に多様。
今回は、海外に赴任した経験も持ち、現在は新規事業の開発を担う中尾健太さんに、同社の役割やキャリア形成について話を聞きました。
<目次>
●上場企業は増えてほしいが、基準は緩めない。JPXは「利益」と「公共性」のバランスが求められる
●日本経済を支えたい──若いうちから挑戦できる環境に惹かれて入社を決意
●「秒間100万回」の取引を支えるシステムの裏側、そして念願の海外勤務へ
●このままでは日本は取り残される ロンドン取引所のビジネスを見て危機感を抱いた
●尖った個性を持つ社員が集うJPX マネジメントをしたいなら、ジョブローテーションは必要だ
●JPXはグローバルな証券取引所を持つ日本唯一の会社。ここでしかできない挑戦を望む学生と働きたい
上場企業は増えてほしいが、基準は緩めない。JPXは「利益」と「公共性」のバランスが求められる
──証券取引所は多くの学生が知っていると思いますが、JPXの事業の全貌を知らない学生は少なくないと思います。まずは、JPXがどのような会社なのか教えてください。
中尾:私たちは資金を調達したい企業と、企業に投資したい投資家をつなぎ合わせる「株式市場」を運営している会社です。株式会社が市場を使って効率よく資金を調達できれば、新たな事業に挑戦し、利益を上げることができる。つまり、日本経済の発展を支える立場といえるのです。
──事業という観点ではいかがでしょう。JPXはどのように利益を上げているのでしょうか?
中尾:大きくは企業向けと投資家向けの事業に分かれます。例えば、企業側としては会社が新しく上場する際に「上場料」をいただいているほか、上場企業には毎年上場を維持するための料金を払っていただいています。一方、投資家側では、株式の売買が成立したときの手数料が収入源になります。
中尾 健太(なかお けんた):JPX(日本取引所グループ) IT開発部トレーディングシステム
新卒でJPXに入社。ITサービス部や上場推進部を経て、2019年からはグローバル戦略部 ロンドン駐在員事務所に異動し、欧州における証券取引所関連ビジネスの調査・分析に従事。2022年4月より現職にて、ETFの新たな取引プラットフォームの構築・運営を担当。(所属部署はインタビュー当時のものです)
──なるほど。多くの企業が上場し、株式の取引が増えるほどビジネスが拡大していくというわけですね。
中尾:そうですね。先ほどもお話ししたように、それが日本経済の発展につながるというわけです。
とはいえ、単に上場企業を増やせばいいというわけではありません。市場に「上場」するには、事業の安定性や健全性など、厳しい審査をクリアする必要があります。その審査基準を作るのもJPXの仕事です。不適切な企業が上場すれば市場の魅力が失われ、投資する人が減ってしまいますから。
──上場企業は増えてほしいが、基準を緩めるわけにはいかないと。何とも難しい立場ですね。
中尾:厳しい審査があるからこそ「上場企業」というブランドが確立され、投資家の皆さんも安心して投資をしてもらえるのです。だから、JPXは利益を追求するだけではなく、公共性とのバランスが必要な立場といえます。上場したい会社の支援をしながら、健全に上場企業を増やしていくのが事業のカギですね。
一方、投資家の方々に対しては、投資する場を提供したり、投資をしやすくなるような情報などを発信したりしています。投資を促進するのが私たちの役目ですから。
──投資家向けの情報発信とは、具体的にどのような情報を発信しているのでしょうか?
中尾:例えば「TOPIX」が分かりやすいですね。多くの投資家たちは、TOPIXをはじめ、私たちが発信する情報を基に投資判断をしています。
情報発信も同じことをし続けていれば良いというわけではなく、時代のニーズに即した情報を出さなければいけません。例えば最近は、世界で「ESG投資(※1)」がトレンドになっています。環境や社会に大きく貢献している日本企業はどこなのか? そういった情報も投資家からニーズがあります。投資判断に必要な情報は何なのか、常にアンテナを張っておく必要があるんですよ。
(※1)……環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと
──最近、東京証券取引所で市場区分が再編されましたよね。この取り組みもJPXが中心になって進めていたんですか?
中尾:私たちは2013年に東京証券取引所と大阪取引所が統合して生まれた会社で、それ故に市場構造が複雑になっていました。例えば、スタートアップなど新興企業向けの市場を見ても、東京の「マザーズ」と大阪の「ジャスダック(JASDAQ)」の両方が残されており、「どっちに上場すればいいの?」という混乱が生まれていたのです。
そのような混乱を避けるために、5つあった市場を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つに整理し、合わせて、上場時の審査を厳しくし、維持するための水準も高くしました。
──市場を整理し、投資家から魅力を感じてもらいやすい市場にする。まさにJPXの役割にのっとった取り組みだったわけですね。
中尾:そうです。再編のプロジェクトは確かにJPXが中心にいましたが、金融庁や企業などステークホルダーが多いので、関係各所と調整しながら進めていったという形ですね。
日本経済を支えたい──若いうちから挑戦できる環境に惹かれて入社を決意
──ちなみに中尾さんは、どうして新卒でJPXに入社しようと思ったんですか?
中尾:私は大学で経済学部だったこともあり、就活では金融系の会社を志望していました。アメリカに留学したときに、日本のプレゼンスが落ちてきていることを肌で感じ、日本経済を支える仕事をしたいと思ったのも、一つのきっかけでしたね。
JPXについては「金融インフラを支える」というメッセージに惹(ひ)かれて応募したのを覚えています。
就活を始めたときは、影響力の大きな仕事がしたいと考えて、メガバンクや大手の金融機関など、大企業を中心に応募していたのですが、JPXの選考を進めていくうちに、全社で1,000人程度という小さな組織規模にも惹かれるようになりました。
──確かに、金融業界であれば1,000人は比較的少ない方ですね。
中尾:大手の金融機関だと、新卒社員だけでも1,000人規模。自分がやりたいことをやれるまでに時間がかかると思ったのです。JPXの新卒同期は30人程度と少数精鋭で、出番が回ってくる機会もそれだけ増えますから。
面接で会う社員の方々も魅力的な方が多く、選考を進めていくうちに入社したいと思うようになっていきました。
──実際に入社してみて、イメージと違うことはありませんでしたか?
中尾:面接中に聞いていた「若いうちから自分のやりたいことができる」という話は、本当にそうでした。自分の意見が言いやすい環境ですし、若い人の意見に耳を傾けてくれる度量のある先輩も多くて。
強いていうなら、歴史のある金融機関なので、お堅い印象がありましたが、いい意味でそのイメージが覆されました。大事なルールはしっかり守りますが、自分の考え方に囚われずに、若い人の意見も聞き入れてくれる方が多いです。
「秒間100万回」の取引を支えるシステムの裏側、そして念願の海外勤務へ
──入社してからは、どのような仕事をしてきたのでしょうか。
中尾:入社してすぐに配属されたのはITサービス部です。そこでは最初、システムをテストする仕事をしていました。新しい機能を追加する前に、バグが起きないかのテストを管理する部門の仕事です。
その後は同じ部署で、海外トレーダー向けの取引環境を整備・提供する仕事をしていました。最近は海外から日本の市場で取引する方も増えており、そのような方にシステムを提供する仕事です。私はいつか海外で仕事をしたいと思っていたため、その希望に合わせて仕事を任せてくれました。
──ITサービスというのは、JPXの中でもメジャーな業務なんですか? 証券取引所にITのイメージがなかったので意外でした。
中尾:知っている人は知っているのですが、JPXはかなりITに強い企業です。というのも今の取引は人を介さず、機械(プログラム)が自動で行うものが大半。ここ10年で爆発的に取引数が増え、今は平均して1秒あたり100万回のペースで取引が行われているんですよ。
──ええっ!? 100万回のペースでずっとですか? 信じられない……。
中尾:はい。だからそれだけ高速かつ大量の取引に耐え得るシステムが必要ですし、投資家のニーズに合わせて、さまざまなサービスを作らないと日本企業に投資しようとする人が減ってしまう。だから、ITは証券取引所の中でも大切な役割を担っているんです。
──株取引の裏には、強固なITがあるというわけですね。
中尾:はい。とはいえ、ずっとITサービス部にいたわけではなく、その後は上場推進の部署に移り、上場したい企業を支援する仕事をしていました。セミナーを開いて上場までの手続きや必要な準備を説明したり、問題を抱える企業を担当している証券会社、監査法人をサポートしたり。
2019年にはロンドンに赴任しました。イギリスの市場がどういう動きをしているのか、上場のルールをどのように変更したのか、英語の資料を読んで日本語に訳し、経営層にレポートを提出する仕事をしていました。入社時から海外赴任を希望していたので、感慨深かったですね。
──日本とイギリスで、そんなに株式市場が異なるものなんですか?
中尾:例えば、当時のヨーロッパは日本に先んじていわゆる「ESG投資」が盛り上がり、環境に配慮した企業でないと上場できないルールが制定されました。私が提出したレポートが、JPXの方針を決める際の大きな判断材料になったこともあります。とてもやりがいのある仕事でした。
──海外のトレンドに乗り遅れないための役割を担っていたわけですね。ロンドンでの仕事で、苦労したことがあれば教えてください。
中尾:ロンドンから日本企業に投資したい、という投資家を支援する仕事は大変でした。相手は何十年と日本企業に投資してきたいわば「プロ」。そんな方々に、日本の状況や市場の魅力を分かりやすく、納得してもらうような説明をするのは、やりがいがある一方で難しくもありましたね。
このままでは日本は取り残される ロンドン取引所のビジネスを見て危機感を抱いた
──ロンドンから帰ってきてからは、どのような仕事をしているのでしょうか。
中尾:帰国してからは、新規事業を作る部署に配属され、今はサービス開発のリーダーとして働いています。新しいサービスを作るのはもちろんですが、新しい開発手法を取り入れるなど、これまでJPXにはなかったものを積極的に導入しているチームで働いています。
現在手がけているのは、日本の機関投資家と海外のプロ投資家がETF(※2)という金融商品の価格交渉を行うプラットフォームサービスです。リリース後も細かくアップデートを行う、Webサービスやスマートフォンアプリのようなスタイルでサービスを運営しています。金融系のサービスでは、非常に珍しい取り組みなんです。
(※2)……Exchange Traded Fundsの略称。上場投資信託のこと
──海外での経験で、今の仕事に生きていることがあれば教えてください。
中尾:海外の取引所は常に新しいことに挑戦していて、新規事業も頻繁に生み出しています。企業の買収も積極的にしていて、取引所の機能をどんどん増やしているのです。システム会社を買収し、金融商品を取引する専門のデバイスを自分たちで開発して配っていたのには衝撃を受けましたね。
──一体どういうことですか? 証券取引所がデバイスを開発するというのは……。
中尾:結局のところ、証券取引所として「上場企業を増やし、世界中から投資をしてもらう」という目的を達成するために、できることは無限にあるということだと思うんです。投資を促せるのであれば、新しいサービスやデバイスを生み出せばいい。情報発信を強化したければ、そのような企業を買収しても良いかもしれません。
投資にまつわるプラットフォームを運営している、というだけでは時代遅れで、さまざまな施策を仕掛けていかないと、日本は世界から取り残されてしまうでしょう。そういう危機感があるので、既存の事業をアップデートするだけでなく、新サービスに挑戦し続けないといけないと考えています。
──JPXでは、新規事業や新しい取り組みは始めやすいのでしょうか?
中尾:もちろん、実際に始めるためには、それなりの根拠を提示しなければいけませんが、新規事業や新しい取り組みを頭ごなしに否定してくる人はいません。社風もそうですし、変わらないといけないという共通認識があるからではないでしょうか。
また、新規事業の部署でなくとも、各部署を横断的に改革する会も定期的に開かれているので、自分の意見を言える機会は多いと思います。
──金融業界において、30代でサービス開発のリーダーになるのは若い方ではないですか? 大変な場面も多いように思いますが。
中尾:そうですね。今は初めてのチームマネジメントに苦労しています。10人ほどの小規模の開発チームではありますが、皆が言った意見を取りまとめて最後にかじ取りを決める責任があって。答えがない中で、よりよい決断をするためには日々のインプットが欠かせません。
組織の規模が小さいが故に、一度若い人に任せたら上司も口を出さず、好きにやらせてもらえるのですが、それがやりがいになる反面、責任の重さにもなっています。
尖った個性を持つ社員が集うJPX マネジメントをしたいなら、ジョブローテーションは必要だ
──JPXの社風についても教えてください。社員の方は、どんなバックグラウンドを持つ方が多いのでしょうか?
中尾:バックグラウンドはさまざまで、例えば私の同期は半数が理系出身です。JPXは大量の取引データを保有しているので、それを解析し、ビジネスに活用することに興味を持って入社する方も少なくありません。実は共通点はあまりなく、入社した時点では金融や経済の知識がほとんどない方も大勢います。
会社としても、入社時の金融・経済知識は重要視しておらず、学生時代に力を入れた経験などを見ているようです。そのため、何かしら一芸を持っている方が多く、多様な人材が集まっていると思います。
──JPXに入社した場合、どのようなキャリアを歩むことになるのでしょうか。
中尾:多くの社員は、入社後すぐに株式部という株や金融の仕組みをチェックする部署に配属されます。そこでどういう人たちがどんな取引をしているのか見ながら、市場の全容をつかんでいくのです。あとは私のようにシステム部に配属されたり、上場のルールを決めたりする上場部に配属される方もいます。
その後は、いくつかの部署程度を数年ごとに異動し、自分の専門分野を見つけていくことになります。私は比較的異動が多い方ですが、特に決まりはありません。2~3回は異動する方が多いイメージです。
いずれにしても、機械的にキャリアが決まっているわけではなく、一人一人の希望や特性を踏まえてキャリアを組んでくれるので、自分らしいキャリアを歩めると思います。
──ジョブローテーションが多いと、専門性が身につかないと考える学生もいます。中尾さん自身は、異動が多いことに対してどう思っていますか?
中尾:個人的にはよかったと思います。上場のルールを作る部署やシステムを開発する部署を巡ってきて思うのは、特定の知識だけではマネジメントはできないということ。全体を見ながらバランスをとらなければいけないので、幅広い知識を持っていた方が判断しやすいのです。
マネジメントに限らず、年次が上がればそれだけ責任の伴う仕事も多くなるので、さまざまな部署を異動して得た、幅広い知識や経験は役に立つと思います。
JPXはグローバルな証券取引所を持つ日本唯一の会社。ここでしかできない挑戦を望む学生と働きたい
──JPXをファーストキャリアに選んでよかったと思うことはありますか?
中尾:若いうちから各業界の有識者の方にたくさん会えることですね。JPXという看板があるので、例えば日本経済新聞でコラムを書いている人など、普通は話を聞けない方に話を聞けるのは役得だと思います。
また、研修制度が充実しているほか、新しい知識を学ぶことに積極的な点もいいですね。語学学習や資格の勉強などを勧めてくれる先輩も多いですし、補助も充実しています。研修会などを開いて外部で学んだことを共有する文化もあるので、自然とインプットが増えていきます。トレンドに敏感な方が多いので、知識欲のある方は刺激が多い環境ではないでしょうか。
──それは面白そうですね。中尾さんは、どんな学生にJPXを勧めたいですか。
中尾:マクロな目線で日本経済を支えていきたいと思う学生ですね。また、JPXが持つ膨大なデータに興味をもっている方も大歓迎です。そのデータを使った事業やサービスを作るのはウェルカムなので、新しいことをしたい方にとってはいい環境だと思います。
JPXはグローバルな証券取引所を有する日本で唯一の企業です。JPXでしかできないことも多々ありますから、データにかかわらず、ここでしかできない何かをやってみたい、日本経済を支えていきたいと思う人にはぜひ見にきてほしいですね。
──中尾さんは、これからJPXでどんなキャリアを歩んでいきたいと考えていますか?
中尾:新しい取り組みをどんどん始めていきたいと思っています。ロンドンの取引所では、日本では考えられないような新規事業を次々と展開しており、大きな衝撃を受けました。実は今私が作っているサービスも、ロンドンでも数年前から始まっているサービスなんです。
取引所はこれまで良くも悪くも守りの産業でした。既存の仕組みを守ることも重要ですが、私自身は新しいものを作る「攻めのキャリア」を築いていきたいと思っています。
──ありがとうございました。最後に読者にメッセージをお願いします。
中尾:今の大学生たちは、コロナ禍のさまざまな制限の中で就活をしていると思います。厳しい状況ですが、考えようによってはポジティブに捉えられる点もあるはずです。
例えば、会社説明会や面接がオンラインになったことで、地方にいながら情報を得たり選考を進めたりできます。私は地方の学生だったので、就活のたびに夜行バスに乗って東京に来るのは大変でした。
それに比べれば、今の大学生は就活がしやすいともいえます。ぜひ自分に制限をかけずに、幅広い業界や企業を見てほしいと思いますし、応募してさまざまな人の話を聞いてほしいですね。もちろん、その中に私たちが含まれていれば大変うれしいです。
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JPX(日本取引所グループ)