新卒では、勢いのある「成長企業」に入った方がいい。その方が自分も成長できる──。
就活を進める中で、こうした意見を聞くことは少なくないでしょう。確かに成長している企業の方が、新たなビジネスに触れる機会や、責任のある立場につくチャンスが多いのは事実です。
今成長している企業は業績を見れば、ある程度は分かるはず。では、これから成長する企業というのは、どのように見極めればいいのでしょうか。
今回、ワンキャリア編集部はForbes JAPANが選出した「日本の起業家ランキング2021」で1位に輝いた、セーフィー 代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の佐渡島隆平さんにお話を伺いました。
同社の主力事業は安価なクラウド型防犯カメラ。この企業がなぜ、ここまで高い評価を受けているのか。2度の起業を経験した佐渡島さんのキャリアと、同社のビジネスをひもといていくと、今、学生が選ぶべき企業のキーワードが見えてきます。
<目次>
●圧倒的な強みがないと生き残れない──Webサービスで負けた経験が2度目の起業につながった
●建設現場から大手ファストフードまで。街中のあらゆる場所にセーフィーのカメラがある
●コロナ禍の2年でビジネス規模が5倍に。国内市場だけでも200倍の「伸びしろ」が
●映像データを使うことで、これまでできなかったコンサルティングができるように
●良いプロダクトを作っただけでは勝てない──敵を味方に変えるセーフィーの「パートナー戦略」
●複数の領域をまたぐ知見が大きな付加価値を生む。セーフィーが目指す「掛け算人材」とは?
●「データカンパニー」への進化をリードする新卒社員に期待
佐渡島 隆平(さどしま りゅうへい):セーフィー 代表取締役社長CEO
1999年、大学在学中にDaigakunote.comを創業。2002年、ソニーネットワークコミュニケーションズへ入社。2010年、同社出資のモーションポートレート株式会社CMO就任。2014年10月、セーフィーを設立し代表取締役社長CEOに就任、現在に至る。2021年9月、東京証券取引所マザーズ(現グロース市場)へ上場。
圧倒的な強みがないと生き残れない──Webサービスで負けた経験が2度目の起業につながった
──まずは、起業に至るまでに佐渡島さんが歩まれたキャリアについて簡単に教えてください。学生時代から起業に興味があったのでしょうか。
佐渡島:起業もそうですが、とにかく新しいサービスを作るのが好きでした。学生のときに、講義ノートを共有したり、休講情報を発信したりするインターネットサービスを開発して起業したことがあるのですが、ある方から「人のお金を使ってもうけることを覚えなさい」とアドバイスをいただいて、就活をすることにしたんです。もう20年ほど前の話ですね。
──20年前というと、スマートフォンが登場する前、ガラケー全盛の時代ですよね。そんなときからサービスを開発していたのはすごいですね。
佐渡島:就活では「大企業の看板がある、かつ自分でインターネットサービスを作れる会社はどこだろう?」と考えた結果、真っ先に思い浮かんだのがソニーグループのインターネット企業であるソネット(ソニーネットワークコミュニケーションズ)です。
入社してすぐに新規事業部門に配属され、モバイル(ガラケー)関連サービスの立ち上げ業務に携わるようになり、ある程度の成果を上げられたのですが、ヤフー(Yahoo! JAPAN)やMobage(モバゲー)などが圧倒的な集客力を武器にネットビジネスに参入してきて、状況が一変しました。「この集客力にはとても敵わない」と思い、別の道を考えることにしたのです。
──知名度勝負になってしまうと、サービス自体が優れていてもどうしようもないわけですか……。
佐渡島:何かしら圧倒的な強みがないと、サービスとして生き残れないということを痛感しました。そこで、ソニーグループの強みである「技術力」を生かしたビジネスに関わりたいと考えまして、当時世界最先端の画像処理技術を持っていたソニー木原研究所からスピンアウトした、モーションポートレートという会社に転籍させてもらいました。
──ここでの経験が、後のセーフィーの設立へとつながったわけですね。
佐渡島:はい。当時モーションポートレートには、世界最高レベルの画像処理技術者が数多く在籍していました。しかし、いくら高い技術を持っていても、それはビジネスのための「部品」に過ぎません。技術だけでは、ビジネスがなかなかスケールしないという悩みを抱えていました。
そんな折、たまたま自分の家を建てることになり、自宅に設置する防犯カメラについて調べていたところ、「この分野はテクノロジーの進化から取り残されているな」という印象を強く持ちました。
──どういうことですか?
佐渡島:当時の防犯カメラは解像度が低いのに高価で、設置工事にもかなりの費用がかかったのです。もっと安価に、手軽に設置できる防犯カメラが作れないか。そこで、当時はやり始めていた「GoPro」のような小型カメラをインターネットにつなげるようにし、自分たちで開発したソフトウェアを搭載する方法を思いついたのです。
ポンと置くだけで簡単に使えて、インターネット経由でどんどん機能を追加できる。いろんなアプリケーションと組み合わせれば、防犯だけでなく、さまざまな用途で映像コンテンツを活用できるようになるはずだ──そう考え、モーションポートレートの仲間2人とともにセーフィーを立ち上げることにしました。
建設現場から大手ファストフードまで。街中のあらゆる場所にセーフィーのカメラがある
──セーフィーのことを「防犯カメラの会社」と思う方は多いと思いますが、設立当初から、映像データの幅広い活用を視野に入れていたわけですね。
佐渡島:カメラというのは映像を捉える、人間で言えば「目」に相当する役割を担えます。マイクを搭載していれば聞く、という「耳」の機能も持たせられます。そこにデータを処理して判断する「AI(人工知能)技術」を組み合わせたらどうでしょうか。
セーフィーの屋内向けカメラ
──そうか、人間の目と頭脳をテクノロジーで一定再現できるというわけですね。面白い!
佐渡島:最近のスマートスピーカーに代表されるように「しゃべる」機能を持たせることだって可能です。こうした機能を誰もが気軽に使える製品として世に提供できれば、可能性は無限に広がると考えました。
──とはいえ「映像データの活用」といっても、多くの学生はなかなか具体的な用途をイメージできないと思います。どのような場面で使われるのでしょうか。
佐渡島:分かりやすい例を挙げれば、皆さんがよく使う大手ファストフードの店舗にも弊社のカメラが設置されていますよ。
──え、そうなんですか?
佐渡島:大手ファストフードのチェーン店には、本部のアドバイザーが定期的に訪れてオペレーションのチェックや指導を行います。とはいえ、実際に店舗に足を運ぶとなると、1日で回れる店舗数はどうしても限られてしまいますし、コロナ禍以降は店を訪れること自体が好まれない状況が続いています。
そこで弊社のカメラを店内に設置し、アドバイザーは本部にいながら多くの店舗のオペレーションをリモートで確認、指導できるようになりました。業務の効率化やコロナ禍対策を簡単に実現できたわけです。他にも、焼肉店などの飲食店やネットカフェなどで導入されています。
──身近なところでも使われているんですね。
佐渡島:最近では、建設現場に弊社のカメラが設置されることも多いです。これまでは1人の現場監督が管理できる現場の数は限られていましたが、カメラを通じて、40〜50の現場をまとめてチェックすることも可能になりますから。
今は少子化などの影響もあり、飲食店や建設現場に限らず、人手不足が叫ばれています。今後も業種や業態を問わずにニーズは増え続けるでしょう。
コロナ禍の2年でビジネス規模が5倍に。国内市場だけでも200倍の「伸びしろ」が
──なるほど。人間の「目と頭脳」を代替できると捉えれば、どんな企業でも使い道がありそうです。病院とか保育園とか。
佐渡島:そして、この傾向はコロナ禍でさらに加速しました。リモートワークが普及し、これまで現場で直接行っていた業務を、カメラを介して遠隔で実施したいという企業からの問い合わせが激増したためです。結果、弊社のビジネス規模は、2019年から2021年の2年間で5倍に急成長しました。
──5倍ですか!? 凄まじいですね……。それにコロナ禍が終わっても、リモートのニーズがなくなることはなさそうです。
佐渡島:はい。現時点で既に約15万台の弊社のカメラが設置されているのですが、日本国内のネットワークカメラの潜在需要は3,000万台あるといわれています。ということは、国内市場だけでもまた200倍の成長余力があり、これに海外市場も加えると伸びしろは限りなく大きいといえるわけです。
──伸びしろもそうですし、これだけ広い業種・業態にわたってビジネスを展開されているのは、非常にユニークな立ち位置ですね。
佐渡島:弊社の事業は、プロダクトとお客さまに提供できる価値が見えやすい分、「社会の役に立ちたい」という意識を持たれている学生さんにとっては、非常にやりがいのある仕事だと思います。
映像というのは、あらゆる企業のコアなビジネスプロセスに関わるデータです。あらゆる業種・業態のビジネスプロセスを広く知ることができるでしょう。
映像データを使うことで、これまでできなかったコンサルティングができるように
──そうなると、コンサルティングのような仕事に近くなるようにも思います。
佐渡島:事実、弊社のカメラを使って、さまざまな業界の企業にコンサルティングサービスを提供している企業もあります。
それも従来のように経営課題を数値化・指標化して分析するような手法ではなく、映像データをAIに分析させることで、これまでのコンサルティングでは決して導き出せなかった知見を見いだしています。
──どういうことですか?
佐渡島:例えば、居酒屋を経営する飲食店の例ですが、店内の映像を分析したところ、お客さまのグラスが空いてから、スタッフが声をかけるまでに少し時間がかかっているという課題が浮かび上がってきました。
そこで彼らが提案をしたのは、お客さまの「客の肘の角度」に着目すること。グラスを持ち上げた肘がテーブルに対して直角になっていれば、中身がほぼなくなっていることが分かりました。そこで「肘が直角になったときに、注文を聞きにいく」というオペレーションを提案したところ、売上が伸びたそうです。
──あっ……。確かに直角になりますね! 一般的なコンサルティングでは、確かにこうしたユニークな発想は出てこないかもしれません。
佐渡島:肘の角度だけでなく、お客さまの表情や店員の立ち振る舞いといったものまで映像から導き出してデータ化できれば、店舗のサービスレベルや顧客満足度といったものまで可視化できるようになります。
今後は、こうしたデータを基に、その企業に対する投資や買収のアドバイスまでできるようになるかもしれません。逆にいえば、こうした情報は一般的な経営指標には決して表れませんから、旧来の経営分析やコンサルティングの手法では決して扱うことはできないでしょう。Excelをいじっていても、有力な提案は出てこないというわけです。
──映像データが企業の価値を判断する指標になるかもしれないと。面白いですね。近年はGAFAなど、大量のデータを持つ企業がビジネスの主導権を握るイメージがあります。その意味で、セーフィーはカメラを通じて、大量の映像データを扱っている点に大きな強みがあるのではないでしょうか。
佐渡島:そうですね。実は、私たちのプラットフォームで扱っている動画データは、アップロード量に限っていえば、日本のインターネットトラフィック全体の数%を占めるほどの規模に上ります。
──となれば、持っている映像データの規模でいえば、日本でもトップクラスですよね?
佐渡島:ですから、実態としては弊社は国内屈指のデータカンパニーともいえるのですが、現時点ではそのことを対外的に強くアピールしていません。AIを使った本格的なデータ活用のソリューションはまだ開発途上で、現時点ではお客さまが今すぐ使える状態にはないからです。
私たちの目標はあくまでも、お客さまの現場で役立つものを作って提供すること。未来の夢の技術について語ることには、意義を見いだしていません。採用活動においても、そのように「地に足が付いた考え方ができる人かどうか」という点を重視しています。
良いプロダクトを作っただけでは勝てない──敵を味方に変えるセーフィーの「パートナー戦略」
──プロダクトの面でも、保有しているデータの面でも成長のポテンシャルが高いわけですね。一方で、セーフィーは2014年の創業以来、これまでも飛躍的な成長を遂げてきたわけですが、成功した最大の理由は何だったとお考えですか?
佐渡島:しっかりとした「商流」を作った点に尽きると思います。「質の高い製品やサービスをしっかり作る」ということは当然やってきたのですが、いいものを作れば必ず売れるというわけではありません。製品と同じぐらい重要になってくるのが商流です。
──商流、ですか?
佐渡島:言い換えれば、商品が売れる仕組みですね。「メーカー」「警備会社」「通信会社」「デベロッパー」など、カメラの製造元や利用企業をうまく巻き込まないと、ビジネスは広がっていきません。パートナーたちとWin-Winの関係を築けるよう、緊密な協業関係を築き上げることが重要なのです。ここがうまくいかずに、撤退した企業は山ほどありますから。
現在は、彼らと資本提携を結んで弊社に出資してもらうだけでなく、人的リソースの面でも深い関係を構築しています。各パートナー企業から弊社に出向という形で来てもらい、同じ釜の飯を食いながらビジネスをスケールさせようとともに取り組んでいます。
──御社のパートナー企業には、ソニーグループ、NTTドコモ、キヤノン、関西電力、オリックスなど名だたる大企業が名を連ねていますが、創業7年のベンチャー企業がこれだけの大企業とパートナー関係を築くことができた理由はどこにあったのでしょうか。
佐渡島:「圧倒的な技術力」に尽きると思います。カメラは一般的なITシステムとは違って現場に設置されるものなので、とにかく安定して動き続けなくてはなりません。
その点、弊社のソフトウェアは長年無停止で稼働し続けている実績がありますから、非常に高い信頼を獲得しています。また、お客さまやパートナー企業がお持ちの既存システムとも容易に連携できる仕組みも備えていますから、既存のビジネスに映像を簡単に取り込めるのも、高く評価いただいている点です。
──逆に御社と競合関係になるのは、どんな企業なのですか?
佐渡島:私たちは競合と張り合うのではなく「敵を味方に変えていく」をモットーに、あらゆる企業と協力しながら「競争のない環境」を作りたいと考えています。今はパートナー関係にあるキヤノンさんやセコムさんも、かつては映像サービス市場において弊社と競合関係にありました。
弊社が持つ顧客網や圧倒的なデータ量、そして充実したサービスを他社に使ってもらって、互いにWin-Winの関係を築きながら味方をどんどん増やしていく、というのが現在の私たちが目指す方向性なのです。
複数の領域をまたぐ知見が大きな付加価値を生む。セーフィーが目指す「掛け算人材」とは?
──ちなみに、もし今、佐渡島さんが大学生に戻ったとしたら、どんな基準で就職先の企業を選びますか?
佐渡島:いつの時代もそうですが、その時代に最も優秀な人たちが集まる会社が次の時代を作ると思います。同時に、今後大きな成長が見込める産業でチャレンジしている会社かどうかも大事な観点ですね。
そのような市場で、実際にお客さまの役に立つものを提供できた企業がスケールできるのです。セーフィーは、ビジネスを変える可能性を秘めたデータを大量に持っていますし、ファーストキャリアにふさわしい会社になれると信じています。
──セーフィーに実際に入社した新卒社員は、どんなキャリアを歩むことになるのでしょう。
佐渡島:弊社のビジネスは、誰も経験したことがない新しいことに取り組んでいます。そのため、過去の経験から学ぶというよりは、新卒といえども、可能な限り現場でさまざまなことに挑戦してもらいながら、自身で学びを得てもらいたいと考えています。
とはいえ、いきなり右も左も分からない状態でビジネスの現場に入っても、戸惑うでしょうから、新卒社員のためのオンボーディングや研修を充実させていく予定です。
セーフィーは「異才一体」というカルチャーを掲げています。多様な才能を持った仲間が協力して価値を生み出す。そのためにも「掛け算の人材」の育成を目指しています。
──仲間との協力だけでなく、自分ひとりでも複数の強みがあるということですか?
佐渡島:はい。エンジニアであっても、開発スキルだけでなくビジネス的な発想ができたり、営業の人材であってもマーケティングの観点が持てたり。複数の領域を掛け算できる人材こそが、お客さまにより大きな付加価値を届けられると考えています。
そのため、入社後はなるべく多くの業種の仕事を実際に経験してもらって、さまざまな経験や知識を身に付けた上で、それらの掛け算ができるようになってもらいたいですね。
「データカンパニー」への進化をリードする新卒社員に期待
──御社のようなベンチャー企業は中途採用が多いという印象がありますが、セーフィーに新卒として入社することの良さはどこにありますか?
佐渡島:私たちはこれまで、クラウドカメラの会社として事業を展開してきましたが、いよいよデータ活用のビジネスを本格的に立ち上げたいと考えています。その際には、過去にとらわれない新たな発想やアイデアが求められますから、新卒社員の活躍に大いに期待しています。
弊社としては新卒採用は初めての試みですから、社内のキャリア制度やオンボーディング制度なども、新卒1期生や2期生たちのアイデアをどんどん取り込んで整備していきたいと考えています。
そういう意味では、今新卒で入社する社員たちは「自分の会社をリメイクする」という面白さを経験できるはずです。これは大手企業では決して得られない、貴重な経験になるでしょう。
──佐渡島さんは、どんな学生に御社に来てほしいとお考えですか?
佐渡島:先ほどの「掛け算」の話とも多少重なるのですが、自分のスキルを「目的」ではなく「手段」として使える人を求めています。
例えばエンジニアであれば、技術を追い求めることを目的とするのではなく、あくまでもお客さまの役に立つための手段として、技術を使える人が弊社のビジョンやカルチャーに合うと思います。
他人の話をきちんと聞く、自分の力をきちんとアピールできる、といったコミュニケーション力を持った人であれば、きっと弊社で活躍できると思います。
──ありがとうございました。最後に、就活生にメッセージやアドバイスがあればお願いします。
佐渡島:私たちのこれまでのチャレンジも成功ばかりでは決してなく、むしろ当初は失敗続きでした。創業当初は「介護業界なら絶対に使ってもらえる!」と確信して、さまざまな企業に提案して回ったのですが、結局どこも使ってくれませんでした。
しかし、他業界での成功例が増えてきた今になって、介護業界での利用も一気に増えてきました。たとえ一度は失敗に終わったとしても、過去の挑戦が次のチャンスにつながることは多々ありますから、若い方々には、ぜひ失敗や変化を恐れずに果敢にチャレンジして次の時代を作っていってほしいですね。
私は常々「未来の勝ち筋は、今のトレンドの逆にある」と思っています。キャリアについても、今、人気のある選択が正解とは限りません。自分の可能性を広げられる会社をぜひ探してみてください。
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【ライター:吉村哲樹/撮影:赤司聡】