※こちらは2022年6月に公開された記事の再掲です。
1872年の創業以来、150年にわたって美のエキスパートであり続ける資生堂。現在は約120の国と地域でビジネスを展開するグローバル企業として「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、中期経営計画では2023年にコロナ禍からの「完全復活」を掲げています。
そんな資生堂の成長のコアともいえるのが、商品開発からプロモーションまでをリードするマーケティング部門です。それぞれのブランドがまるで一つの会社のようにオーナーシップを発揮することで、時代を象徴するブランドを生み出し続けています。その強さの秘訣(ひけつ)は、優秀なマーケターが集まり・育つ組織にありました。
この記事では、外資系企業を経てマーケティング本部長を務める川上樹理さんと、2021年に新卒入社しブランド担当者として活躍する梶田直希さんに、資生堂の魅力を語っていただきました。お二人の話からは、資生堂のマーケターがいきいきと活躍できる理由が見えてきました。
<目次>
●日本発がグローバルで勝てることを証明したい。P&G Japan、Metaを経て「尊敬すべき競合」資生堂へ ●「これいいかも」「衝動買い」論理で説明できないマーケティングの面白さ
●入社2カ月目でプロモーションを任され、半年目には社長プレゼン。自分より優秀なマーケターを育てることが上司のミッション
●資生堂の起源に立ち返る「スキンビューティーカンパニー」への挑戦
●キャリアもブランドも、ぶれない軸を大切に
日本発がグローバルで勝てることを証明したい。P&G Japan、Metaを経て「尊敬すべき競合」資生堂へ
──本日はよろしくお願いします。川上さんは、マーケティング本部長として資生堂のさまざまなブランドを統括する立場にいらっしゃいます。これまでのキャリアと今の仕事について教えてください。
川上:私は2社の外資系企業を経て、2021年12月から資生堂で働いています。新卒ではP&G Japanに入社しまして、ヘアケアやメンズ向け製品のブランドマネージャー、東京支社での事業部長のような役職(マーケットオペレーションリーダー)を経て、アジアのヘッドクォーターでスキンケアブランド「SK-Ⅱ」の中長期的な戦略づくりと新商品・新サービスの開発責任者を務めました。そこからフェイスブック(現:Meta)の日本法人に転職し、日本市場でInstagramを成長させるためのマーケティング戦略の策定から実行まで携わりました。
現在は、「MAQuillAGE(マキアージュ)」「アクアレーベル(AQUALABEL)」「エリクシール(ELIXIR)」など、主にドラッグストアやスーパーなどを販路とするブランドを統括しています。各ブランドの売上・利益向上に貢献することと、どのようにブランド育成を行うかの方針をつくること、組織と人財の育成が主なミッションです。
川上 樹理(かわかみ ゆり):資生堂 プレミアムブランドマーケティング事業本部 マーケティング本部 本部長
2001年、新卒でP&G Japanに入社。「パンテーン(Pantene)」「BRAUN」などのブランドマネージャー、東京支社における事業統括を経て、アジアヘッドクオーターで「SK-II」の中長期戦略策定と新商品開発の責任者を務める。2018年にFacebook Japan(現:Meta)に入社、執行役員・マーケティング統括としてInstagramのtoB展開をリード。2021年12月より現職。(所属部署はインタビュー当時のものです)
──資生堂を次の挑戦の場に選んだのはどうしてですか?
川上:日本の会社で日本発のブランドを育てる仕事がしたかったからです。外資系企業でキャリアを重ねるなかで、日本のGDP(国内総生産)が世界3位に転落したのを契機に日本市場への投資やリソースが減っていくのを目の当たりにしてきました。グローバルにおける日本の地位の変化を痛切に感じてモヤモヤしていたところ、資生堂の「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」という企業使命に共鳴し、「これが私のやりたいことだ」と転職を決意しました。日本発の企業がグローバルで勝てることを証明したいですし、資生堂が成功することで、他の日系企業が世界で戦うための後押しになれたらと思っています。
──P&G Japan時代の川上さんは、資生堂と競合関係にありました。入社前、資生堂にはどんなイメージを持っていましたか。
川上:当時の私にとって、資生堂は尊敬すべき競合でした。私がP&G Japanで「パンテーン(Pantene)」のブランドマネージャーだった頃に「TSUBAKI」が、アジアのヘッドクォーターで「SK-Ⅱ」を担当していた頃に「アルティミューン」が発売されて──。美のエキスパートとして、エポックメイキングなブランドや商品を世に送り出している企業だと思っていました。
資生堂の一員になって、そのイメージは確信に変わりました。社内では容器のデザイン一つとっても前向きな議論が飛び交っていて、誰もが「どうすればお客さまに新しい価値を提供できるか」を日夜考えています。だからこそ資生堂はイノベーションを掲げられるのだと再認識しましたね。
「これいいかも」「衝動買い」論理で説明できないマーケティングの面白さ
──続いて、2021年に新卒入社された梶田さんにお話を伺います。現在の業務について教えてください。
梶田:入社して以来「アクアレーベル(AQUALABEL)」のブランド担当をしています。私の今のミッションは、2022年春夏シーズンのプロモーションのかじ取りと、2023年春夏シーズンのプロモーションのプランニングです。前者ではコピーライティングやキービジュアルなどのお客さまの目に触れるものや、お客さまとのコミュニケーションプランのかじ取りをしています。後者では、来年の今頃に向け、どんなお客さまに・どんな商品で・どんな価値を提供するのかのコアアイデアを決めているところです。
梶田 直希(かじた なおき):資生堂 プレミアムブランドマーケティング事業本部 スキンケアマーケティング部
2021年に資生堂に新卒入社。「アクアレーベル(AQUALABEL)」のブランド担当者として、プロモーションの実行・推進およびプロモーションのプランニングを担当。(所属部署はインタビュー当時のものです)
梶田:学生の頃は課外活動に力を入れていて、アジアの大学生と一緒にビジネス課題を検討したり、ピッチコンテストに出たりしました。マーケターの仕事に興味を持ったのは、アジアの学生たちのプレゼンに圧倒されたのがきっかけです。彼らの熱量やオーディエンスを巻き込む力に、「人は理屈だけでは動かないんだ」と痛感したんです。お客さまの「あ、これいいかも!」という感性や、衝動買いなどの論理で説明しきれないものに向き合ってみたくて、マーケティングに携わることを就活の軸にしました。
──「新卒からマーケティングの仕事がしたい」と考えると、まず外資系消費財メーカーが思い浮かぶ学生も多いのではないでしょうか。梶田さんは、どうして資生堂を選んだのですか?
梶田:理由は2つあります。一つは、川上さんと同じく、日本発のブランドに携わりたかったからです。私はファッションが好きなのですが、世界的に有名な日本のファッションブランドといえば「ユニクロ」などの低〜中価格帯が中心です。世界で戦える日本発のハイブランドが少ないことに課題を感じていたので、グローバルで愛されるプレステージ(高価格帯)ブランドに挑戦する資生堂に共感しました。
もう一つの理由は、若いうちからマーケティングの上流から下流までを経験できそうだと思ったからです。資生堂では私のような新人の担当者も、どのように商品開発が行われ、どうやってお客さまの手に届くのかまで知ることができます。商品開発チームではすでに2024年の話が進んでいて、「こんなに長い時間をかけて商品開発をしているんだ」と驚かされます。
入社2カ月目でプロモーションを任され、半年目には社長プレゼン。自分より優秀なマーケターを育てることが上司のミッション
──資生堂では、若手のうちからマーケティングの全体像を捉えることができるのですね。どうしてそんなことが可能なのでしょうか?
川上:各ブランドが独立した会社のように経営されているからです。ブランドチームはゼロからブランドを設計することに始まり、商品開発からプロモーションの実行までをリードし、各部署との協働を引き出すことが求められます。この環境は、日本にヘッドクオーターを構えているからこそかもしれませんね。
外資系消費財メーカーの日本支社では、中長期的な戦略やブランドの大枠はヘッドクオーターがあらかじめ定めているケースが多いです。キャリアにおいても、まずは国内のブランド担当者として経験を積み、ヘッドクオーターで事業の全体像をつかんだら、次は上流の戦略策定や商品開発を経験して……と、数年おきのローテーションを通じて一連のマーケティングプロセスを経験していくイメージです。
──過去のインタビュー記事でも「各ブランドチームはP/Lを管理するなど、まるで一つの会社のように事業経営をしている」とのお話がありましたね。一方で、新卒から幅広い役割に携わっても、浅く広い経験ばかりで成長を感じにくくなりませんか?
梶田:実感として、そんなことはありませんね。私は昨年の5月に今の部署に配属されましたが、6月には2022年春夏のプロモーションをリードする立場を任され、10月には社長プレゼンに挑戦しました。そして今は、プロモーションの最上流にあたるコアアイデアを作る過程を任せてもらっています。少人数のチームということもあってブランドマネージャーや部長たちとも距離が近く、直接フィードバックをもらえるので、成長や自信につながっています。
川上:価値づくりから施策実行までを一貫して担当することで、マーケターとしての成長サイクルも早く回せます。マーケティングは正解のない世界ですから、うまくいかないことの軌道修正が必要なときもあれば、うまくいったことのスケールアップが求められる局面もあります。幅広いプロセスのなかから失敗や成功の要因を特定し、試行錯誤ができる環境は、大きな成果につながりやすくなります。
──若手の挑戦を促すカルチャーが伝わってきますね。
川上:資生堂では「PEOPLE FIRST」を掲げ、人財育成に積極的に投資をしています。若手の成長こそが次世代の資生堂をつくり、日本発のビューティーイノベーションを世界に広げる役割を担ってくれると信じているからです。だからこそ、若手のうちから多くを任せていきたいですね。マーケティング事業部のみなさんには「自分より優秀なマーケターをどう育てるか?」というミッションに挑戦してもらいたいですし、私自身も「部下をどうすれば自分よりも優秀なマーケターに育てられるか?」という命題に日々向き合っています。
資生堂の起源に立ち返る「スキンビューティーカンパニー」への挑戦
──今後の展望についてもお聞かせください。資生堂の中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」では、2023年にコロナ禍からの「完全復活」を掲げています。アフターコロナのマーケティングにおいて、注目すべきキーワードはなんですか。
川上:なんといってもデジタルです。コロナ禍によってリアルの場での接触が減り、デジタルで下調べをしてから買い物をするという行動パターンがこの数年ですっかり定着しました。もはや、デジタルは「買うための場所」にとどまらず、「欲しいものを探す場所」や「ブランドとの関係を深める接点」にもなっています。
今後もプラットフォームの発展によってお客さまとブランドの関係性も変化していくでしょう。例えばコスメブランドの「NARS(ナーズ)」では、メタバース空間のアバターにもNARSのメーキャップを施せるようになりました。リアルとバーチャルの垣根がどんどんなくなって、商品を購入する理由も「生身の自分が使うため」だけではなくなるかもしれません。私たちのチームも、資生堂のデジタル施策を担う資生堂インタラクティブビューティー株式会社と協働し、デジタルを基盤とした顧客体験づくりに取り組んでいます。
──興味深いです。「WIN 2023 and Beyond」ではスキンビューティーカンパニーを目指すとの方針も示され、ブランドポートフォリオの見直しが進んでいます。マーケティング戦略にはどのような影響がありますか?
※出典:資生堂「WIN 2023 and Beyond」
川上:まず、スキンケアのブランドの成長をブランドポートフォリオ上でより中核に据えていくことです。ただ、この戦略によって、私たちが伝えるべきブランド価値に大きな変化があるとは考えていません。どちらかというと資生堂の本来の強みに立ち返っているのではないかと思います。資生堂は1872年に日本初の民間洋風調剤薬局として創業しました。肌は健康のバロメーターともいいますから、お客さまに健やかな美しさを提供することは、そんな資生堂のオリジン(起源)に立脚した戦略だと思います。
マーケティングが果たすべき役割は、新しいことを始めたり何かを大きく変えたりするよりも、資生堂が培ってきたスキンケア技術や知見をより競争優位性としてお客様への価値に転換していくことにあると思っています。例えばメーキャップブランドも、スキンケアの技術を使って価値を拡張できるはずです。一例として、「MAQuillAGE(マキアージュ)」の新製品「ドラマティックエッセンスリキッド」は、スキンケアの技術力を生かして、カバー力とスキンケア効果を両立させています。
梶田:個人的には、スキンビューティーはあくまでも手段の一つであって、コアな価値は健やかな美しさにあると捉えています。「アクアレーベル(AQUALABEL)」でも、肌の健やかさに着目した新ライン「アクアウエルネス」を昨年に立ち上げたばかりです。資生堂が大切にしてきた、健やかさから生まれる美を伝えていきたいです。
キャリアもブランドも、ぶれない軸を大切に
──最後に、キャリアについてお聞きします。今や、転職を前提とした就活のスタイルも当たり前になりつつあります。お二人はこうした風潮をどのようにお考えですか?
梶田:実は私も、3年ごとに転職を選択肢に入れたキャリアプランを考えています。決して転職ありきではないのですが、漫然と働くのは性に合わなくて。さまざまな選択肢を視野に入れたうえで、目の前の仕事にしっかりと向き合いたいと思っています。
他方で、転職が当たり前の世の中になっているからこそ、新卒から育ててくれる会社選びの大切さも身にしみて感じます。この1年間はうまくいかない時期もあったけれど、それを咎(とが)めることなく見守ってもらえたのがありがたいですね。新卒ならではの環境に感謝しつつ、最初の3年間でマーケターとしてひとり立ちできる自分になりたいです。
川上:まずは、ご自身がキャリアを通じてどんなことを望んでいるのかを考えてみてほしいですね。目指すゴールから逆算すれば、それが社外でしかできないことなのか、今の会社でも実現できることなのかが見えてくるはずです。資生堂のように規模の大きな会社なら、社内で成長する道も存分にありますね。マーケティング事業部の中でも、ブランドやエリアによって幅広い成長機会が得られますし、デジタルマーケティングに挑戦したいのであれば資生堂インタラクティブビューティーで働く選択肢もあります。
とはいえ人生経験を積むなかで考えが深まることもあると思うので、キャリアゴールは変わっても構わないと思います。実際に、私自身もそうでしたから。日頃から「仕事を通じてなにを成し遂げたいのか、そのために今からどんな挑戦をしたいのか」考えて、主体的にキャリアに向き合っていただきたいです。
──最後に、お二人から就活生へのメッセージをお願いします。
梶田:自分の好きなことに取り組めることは、仕事のつらさを乗り越える大きな力になると実感しています。論理だけに頼りすぎると、自分の中にある仮説が崩れたときに苦しい思いをするかもしれません。自分に「私は何が好きなんだろう、何が楽しいと思うんだろう?」と問いかけて、マッチする企業に出会ってほしいです。
川上:仕事選びは、妥協したくない軸をぶれずに持つことが大切です。マーケティングの世界でも、お客さまに伝わってほしいメッセージを絞り込み、ぶらさずに伝え続けることがブランドを育てることにつながります。キャリアも同じように、自分の中にある軸を大切にしながら成長を積んでいけるといいですね。
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【ライター:中山明子/撮影:百瀬浩三郎】