あらゆる企業を「会計」という側面から支援する、EY新日本有限責任監査法人(以下、EY新日本)。日本での事業展開の歴史はBIG4ファームの中でも特に長く、多くの日本企業の成長を支援し続けてきました。
とはいえ、「会計面から企業を支援する」といっても、あまり具体的なイメージが湧かないのが正直なところ。「監査室にこもって、書類を入念に確認して……」という印象が強いかもしれません。
しかし、EY新日本で働く伊藤美沙子さん、木内志香さんに話を伺うと、「いわゆる伝統的な監査業務以外に、NPO(民間非営利団体)法人の会計業務や購買プロセス構築の支援を行っています」「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)を持続可能性の面からサポートしました」と、意外な答えが返ってきました。
一体、監査法人とはどのような仕事をしている場所なのか。インタビューでは、基本的な部分から、最先端のトレンドまでを解説いただきました。グローバルな「EY」ならではの、自由かつダイナミックな社風やキャリア形成にも注目です。
ベンチャーIPO支援から書籍執筆まで手がける? 知られざる監査法人の「日常」
──まずは、伊藤さんがEY新日本に入社したきっかけから教えていただけますか。
伊藤:私は以前から「英語を使った仕事がしたい」「人の役に立つことをしよう」と考えており、経済学部にいた流れから国際的に活躍できる会計士を目指して、公認会計士の勉強を始めました。そして、卒業後1年間で無事、公認会計士試験に合格できました。
公認会計士試験に受かった人は、まずBIG4の選考を受けることが多いので、私もその流れでEY新日本を受けました。当初、EY新日本は第一志望ではなかったのですが、説明会で登壇していた女性の先輩と男性のメンバーがすてきな方で、志望度が大きく変わりました。
特に女性の先輩が「やりがいもあって、毎日ハッピーだ」と言い切っていたことが印象的でしたね。他の監査法人で、そんなことを言う人はいませんでしたから、特に印象に残りました。その方とは、入社後に同じプロジェクトを担当する機会もありました。私自身も「毎日ハッピーだ」と思いながら働いています。
──なるほど。確かに、働いていて「幸せだ」と言い切ることができる人は珍しいかもしれませんね。入社後はどのようなプロジェクトに従事したのでしょうか?
伊藤:入社後は、海外展開している日系メーカーの監査チームに入り、海外監査チームとのやりとりや英文財務諸表の開示チェックなどを担当しました。その後、日系製薬企業の監査チームに移って、M&Aや金融商品などを国際会計基準に基づいて会計処理の検討を担当しました。
このほかにも、バイオベンチャーのIPO(新規上場)に関する会計面からのチェックをしたり、スポーツビジネスがテーマの書籍の執筆活動に参加したり。EYの「Global New Horizon(GNH)プログラム(※1)」という人材交換プログラムに参加し、4カ月間オランダのアムステルダムへ出向したこともあります。
(※1)……EYの海外駐在制度の一つ。3カ月ほど、他国の監査チームで実務を経験し能力を高める短期集中型のグローバル人材育成プログラムの名称。
──すごい。お話を聞いていると、興味のある分野にどんどん挑戦されているという印象を受けます。
伊藤 美沙子(いとう みさこ):EY新日本有限責任監査法人 第4監査事業部 マネージャー
上智大学経済学部卒業後に公認会計士試験に合格し、2012年2月EY新日本有限責任監査法人に入社。2015年シニア、2019年にマネージャーに昇格。米国製薬会社の主査を担当。現在は、製薬セクターにおいて日本製薬企業の監査業務に従事。その傍らでバイオベンチャーのIPOサポートや、EY RipplesでNPO団体を会計面から支援し幅広く活動。
一度はオファー辞退寸前まで? 「国際協力」を志した学生が、監査法人に入社した理由とは
──一方、木内さんの入社した経緯はどのようなものだったのでしょう。会計士などの資格を持っているわけではなかったんですよね?
木内:そうですね。私はロンドン大学の修士課程を卒業するタイミングで、現地の就活イベントにてEYに出会い、選考を受けました。
最初、EYから提示されていたのは金融事業部だったのですが、私は国際協力の分野で人権や環境、食糧(しょくりょう)、貧困などの課題解決を行いたいと考えており、既にアフリカで国際協力を行う企業のポジションも見つけていたんです。そのため、EYのオファーを辞退しようと思っていたのですが、大学の友人に話したら「EYに行った方がいい!」と強く推薦されました(笑)。
──おお、それはなぜですか?
木内:欧米でのEYの知名度は日本より圧倒的に高く、「一流のグローバル企業」というイメージがあることが大きな理由でしたね。辞退するのはもったいないと。それで再度EYの方とお会いして、自分が国際協力の分野で働きたいことを説明しました。
すると、「実は今後、気候変動やサステナビリティサービスを扱うチーム(Climate Change and Sustainability Services(以下、CCaSS))を立ち上げる。あなたの興味に近いからぜひ入社しないか」と誘ってもらったんです。そのポジションなら自分のやりたいことを実現できると思って、オファーを承諾しました。
──新規で立ち上がるチームに新卒として飛び込む、というのはレアな体験ですね。入社後はどのような業務を担当しましたか?
木内:入社後はCCaSSの立ち上げから関わり、必要なことは何でもやりました。最近では「ESGインデックス」と呼ばれる、ESG(環境・社会・ガバナンス)にどれだけ積極的に取り組んでいるかを示す数値を、企業が向上させるための支援を行うプロジェクトが多いですね。
木内 志香(きない しずか):EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)マネージャー
ロンドン大学で人類学、環境開発学の修士課程を卒業後、2015年1月EY新日本有限責任監査法人に入社。CCaSSチームの立ち上げフェーズから携わる。人権やESGといった新たなサービス開拓を経験。2017年より国際イベントと持続可能性の分野を中心に従事。
監査法人は経済市場を守る「最後の砦」になる
──ESGですか……。監査法人というと「会計」の支援をするというイメージがあるのですが、お二人のお話を聞いていると、あまり「監査法人らしさ」を感じないです。そもそも監査とはどんな業務なのか、簡単に教えていただけますか?
伊藤:監査を一言で表現すると「世の中の経済市場を守る業務」だと捉えています。経済市場では、多くの上場企業の株式が売買されていますが、その企業の財務状況や経営状況を記しているのが「財務諸表」などの書類です。会社の成績書のようなものですね。監査はこの財務諸表などをチェックし、内容が適正かどうかを判断しています。
もし、監査のない世界だったら、不正確な書類が投資家の目に留まって、不正に投資を受けられてしまいますよね。こうした無秩序な状態にならないように存在する「最後の砦(とりで)」が監査であり、監査法人だと思っています。
──最後の砦、ということで責任やプレッシャーの大きな仕事だという印象があります。
伊藤:「この数字でOKを出した」という責任は大きいですし、常に感じています。万が一ミスがあれば、財務諸表を作り直して、私たちも監査をやり直すことになります。そうなれば会社の評判に傷がつき、信頼が落ちる。正確ではない財務諸表を見て、投資を決めてしまった人もいるかもしれません。本当にミスが許されない仕事だと思います。
──さまざまな企業や投資家に影響を与える役割なのですね。
伊藤:今お話ししたのは基本的な監査業務です。実はこれ以外にも、さまざまな業務を行っています。
例えば、大企業は世の中の変化やビジネスチャンスに対応するために、毎年新しいビジネススキームを検討したり、会社を売買したりしています。そのビジネススキームが会計上問題ないかどうか、会社を売買する際に資産額をどう算定するかなどの相談にも応じています。
監査業務の本来の「役割」は、経営層と直接話して問題点や悩みを探ることなんですよね。部屋にこもって資料とにらめっこしている印象を持たれている方も多いとは思いますが、ヒアリングがとても大切な仕事です。
決算だけではなく、環境や社会へのコミットメントも。企業が開示すべき情報は増え続けている
──意外でした。「チェック」が仕事の中心かと思っていましたが、本来的にはやはり「アドバイザリー」なのですね。
伊藤:また、数字を扱うことだけが監査の全てではありません。最近、よく企業の課題として挙がるのが「非財務情報の開示」です。
──非財務情報、ですか?
伊藤:財務諸表で開示される情報以外の情報のことです。先ほどESGインデックスの話に触れましたが、具体的には、経営理念や経営戦略・経営計画、環境や社会へのコミットメント状況、サステナビリティをめぐる課題への取り組みなどが挙げられます。最近は決算などで、こうした情報も開示する必要があるのです。
──それも投資家にとって必要な情報だから、ということでしょうか。
伊藤:そうですね。2022年4月に東京証券取引所の上場区分が変更され、最上位の「プライム市場」に区分されるためには、非財務情報の開示が必須になりました。最近では、環境に配慮した取り組みを行う企業へ積極的に投資する「ESG投資」が広がりつつあり、多くの上場企業から相談が相次ぎ、対応に追われています。
──非財務情報というと、木内さんの業務にも深く関わりがありそうです。
木内:そうですね。非財務情報は持続可能性の分野でも重要な内容です。もし非財務情報の英文開示に取り組まないと、どんなに持続可能性に関する施策を行っていても、海外からは「この企業はサステナビリティに取り組んでいない」と見られ、投資を受けられるチャンスが減ってしまいます。これは企業にとって避けるべき事態です。
とはいえ、非財務情報はすぐに整理できるほど簡単なものではありません。そこで4年ほどの中期計画を立て、マイルストーンを置きながら、徐々に対外的に発表できる情報を整えていくお手伝いをしています。
──事業にまつわる数字だけでなく、さまざまな情報を発表することになっているんですね。企業の負担は増え続けていると。
木内:非財務情報には会社の成長要素が含まれているので、会社の財務諸表をいずれ向上させる力を秘めています。EYはこの非財務情報の重要性に早期から着目しており、財務情報と非財務情報の両面からコンサルティング・アドバイザリー業務を行っています。
事実、2022年2月に発表された、調査・アドバイザリー会社Verdantix社の「Green Quadrant: ESG & Sustainability Consulting 2022(※2)」において、EYは、ESGサービスやサステナビリティ・コンサルティングサービス分野で最も高い評価を受けました。この分野でEYは頭一つ抜けていると思います。
(※2)……調査・アドバイザリー会社Verdantix社がまとめたESG(環境・社会・ガバナンス)における最新レポート。
「東京2020大会」の裏にEYの支援あり。監査法人が活躍するのは、企業だけではない
──伊藤さんはEY新日本に入社後、さまざまな監査を担当しています。その中で印象に残った案件を教えてください。
伊藤:2015年頃に米国製薬会社の日本子会社の監査リーダーを務めたのが、今でも印象に残っています。通常こうした案件は、子会社分は日本の監査チームのみで担当し、親会社の監査チームと連携することはあまりありません。しかしこの案件では、日本子会社の売上が大きいこともあり、米国の監査チームが密に関わってきました。
毎週電話会議やレビューを行い、米国の監査チームが日本に出張してきて対面で指導されることもあり、監査の本場、米国ならではの厳しいチェックを体験しました。しかし、精一杯食らいついた結果、最後には米国のチームから褒められ「西海岸の監査チームにおいでよ」と、グローバル異動のお誘いまでいただき、全てが報われた感じがしましたね。
──厳しい局面を乗り越えたのですね。木内さんの印象深い案件は何でしょうか?
木内:私のキャリアのハイライトは、東京2020大会を持続可能性の面から支援したことです。
──えっ? 東京2020大会に「監査法人」が関係するんですか?
木内:日本には、大規模なイベントでどんな持続可能性に関する施策を行ったらいいか、具体的にどう実行するのかなどのノウハウが何もありませんでした。アクセシビリティーやゴミの処理、人権への配慮……など、考えるべきことは多岐にわたります。
そのため、以前の開催国の担当者や、現地のEYメンバーに連絡して成功事例を取り入れながら、施策を構築していきました。EYのグローバルネットワークのおかげで何度も救われましたね。
──それは確かにグローバルなファームだからこそ、提供できる価値ですね。
木内:準備は順調に進んだのですが、新型コロナウイルスの感染拡大で開催が延期になりました。ショックではありましたが、戸惑ってはいられないので、また一から準備し直して開催当日を迎えました。
このイベント開催前に第一子を出産し、予定よりも少し早めに職場復帰しています。万全ではない体でしたが、それでも復帰して開催に立ち会えたことが何よりの思い出です。このノウハウを今後の大規模イベントのサポートにも生かしていきたいと思います。
──企業だけでなく、パブリックな色が強い組織を支援することもあるのですね。
伊藤:そうですね。EYでは、本業以外の「EY Ripples 企業責任プログラム(※3)」など興味のあるプログラムに、気軽に手を挙げられる環境があります。
私はこのプログラムで、子どもの貧困に取り組むNPO法人のサポートを担当しました。会計面での支援や購買プロセスの構築など、NPO法人の方と一緒にゼロから立ち上げる経験をして、監査では得られない達成感を得ましたね。「人の役に立ちたい」という思いも満たされる経験でした。
(※3)……EYメンバーが自らの知識・スキル・経験を生かし、より良い社会の構築に貢献するCorporate Responsibility(CR)プログラム
自分のパーパスを実現するために。グローバル環境で心の向かう方向にキャリアを作る
──新卒でEY新日本に入社すると、どのようなキャリアパスを選べるのでしょうか?
伊藤:まずは所属部署内のチームに配属され、大きな上場会社の担当の場合は、30〜40人ほどのチームで一つの会社を担当します。あるいは、中規模の上場会社や上場企業の子会社などを担当するのであれば、一つのチームで年間2〜3社を監査することも。その中で監査の基礎や付随する業務を学んでいきます。
3〜4年目になったら数人の部下がついて、小さなチームの責任者に。そうやって監査経験を積んでいくうちに、チームの人数がだんだん多くなり、大きな上場会社や複雑な案件を担当するようになります。
EY新日本はセクター・業界ごとに部署が分かれているため、部門ごとに独自のノウハウを蓄積しやすいのが特徴です。希望すればセクター・業界の変更も可能ですね。
──EY新日本の新卒採用では、監査だけではなくアドバイザー/コンサルタント職はもちろん、エンジニア職の窓口があることに驚きました。何をしているのでしょうか。
伊藤:会計士が監査対象企業のヒアリングなど「人間にしかできない仕事」に集中できるよう、AI(人工知能)による作業の自動化や、不正検知ツールを開発しています。AIが問題のありそうな部分を検出して、会計士が詳しく調べるといった形を想定しています。
──業務の自動化は、差別化できるポイントに注力する体制を整えるという面もありますよね。数ある監査法人の中で、学生がEYに入るメリットは何でしょうか?
木内:私がロンドンで友人に入社を勧められたように、EYはグローバルで広く活躍できる可能性を秘めています。手を挙げれば多くの経験が積める環境もあります。東京2020大会のように、海外のノウハウを必要とする場面でもEYは強みを発揮します。
他のプロフェッショナルファームと特に異なるのは、担当者同士が気軽にチャットや通話で情報交換できることだと思っています。EYの海外メンバーから「新しい情報があるから、今電話できる?」などと気軽に連絡が来るので、新鮮な海外の情報を国内企業へ常に提供できます。
また、社内イベントで、転職した元EYメンバーから話を聞く機会も設けられているのですが、社外に出てからもEYでの経験は生きていると聞きます。社外で活躍することにポジティブな社風も、私が好きな「EYらしさ」の一つです。
──EYは、自身の理念を大事にしていると感じます。EY JapanのCEO(最高経営責任者)、貴田さんのインタビューでも「パーパス」をとても大切に捉えていました。お二人が今後、仕事を通じて実現したいパーパスを教えてください。
伊藤:私のパーパスは「人の役に立つ」ということ。人の笑顔に通じる仕事が好きだと感じます。企業の将来の成功を願うからこそ、長期的なメリットを考え、あえて厳しいことを言う場面もあります。これからも関わる人たちを笑顔にしていきたいです。
木内:「次の世代により良い世界を残す」ことですね。子どもを出産したこともあり、これから子どもたちが大きくなったときに、人それぞれの違いや多様性を受け入れられるような社会を作りたいと思います。また今後も安心して住める場所が地球上に一つでも増えるよう、引き続き、持続可能性に関するサポートに取り組んでいきます。
──ありがとうございました。最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。
伊藤:就職活動をしていると自分が何を目指しているのか、どんなキャリアを歩みたいのかが分からなくなったり、選びきれなくなったりするときもあるかと思います。そんなときにぜひ、EYでのキャリアのスタートを考えてみてください。EYには本当にたくさんの可能性とそれぞれの選択を応援してくれる人が集まっています。
木内:私は、就職活動はお見合いに似ていると思います。ぜひ、たくさんのお相手を見て、話して、吟味していただいて、納得できるお相手を見つけてください。EYもその選択肢の一つに加えてくださると、とってもうれしいです!
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