「新卒採用の女性総合職比率を現状の20~30%から、3年以内に40~50%程度にする」。2021年1月の丸紅の発表が話題になりました。
世界を相手にするビジネスということもあり、海外への転勤やハードワーク、取引先との飲み会など、総合商社に対して「男社会」というイメージを持つ学生は少なくないはず。現在、丸紅の総合職の女性比率は約10%。この現状をどのように変えようとしているのでしょうか。
「目指すのは多様性がある組織。女性比率はその取り組みの一つにすぎません」
そう話すのは、人事部の松尾さん。新卒から20年以上働き続ける彼女は、丸紅の変化を最前線で見てきたと言います。今回は営業部に所属する川合さんと段さんを交え、丸紅社員の働き方や変革の裏側について、お話ししていただきました。
プロフィール含め、記事内容は2021年2月取材時点のものです
女性比率向上はあくまで「1つの手段」。性別関係なく、多様な方に応募してもらいたい
──先日、新卒採用の女性総合職比率を3年以内に40~50%程度にするという発表が話題になりました。採用ページの募集概要を見ると、2021年卒の新入社員は約30%が女性だったわけですよね。この比率をさらに引き上げるということですか?
松尾:女性比率を引き上げるというのは、あくまで「ダイバーシティ(多様性)」に関する取り組みの1つです。当社はここ数年、「応募者の多様性を高める」ことを目的に、新卒採用の手法を多様化させてきました。ある分野で第一人者と言える経験を応募資格とする「No.1採用」や、入社後の部署や業務を明示して募集する「Career Vision採用」など、従来の一括採用以外の手法でも採用を行っています。
松尾 麻記子(まつお まきこ):丸紅株式会社 人事部 採用・人財開発課長
1998年入社、10年で電子機器部、航空機・防衛システム部、投資金融部と3つの部署を経験する。その後、PEファンドへ出向し、2009年には専門分野研修生(MBA)に。2011年に人事部キャリア開発課に異動、育児休職を取得後、同課に復職。2017年より現職。
──女性の比率を上げることが目的というわけではないと。
松尾:はい。当然、女性比率だけを上げればいいとは思っていませんし、目標を達成したらダイバーシティはばっちりだ、と言うつもりもありません。年代や国籍など、他にも多様化させなければいけないことはありますし、そもそも、根本的には個人差の話ですよね。「性別に関係なく、さまざまな個性を持った方に応募してもらいたい」というのが大前提です。
──発表を聞いて、川合さんはどう思いましたか?
川合:女性を増やすのは良いとして、新卒採用だけだと年次がだいぶ偏りますよね。管理職くらいの年次の女性も増やしていった方がバランスはいいと、個人的には思っています。
松尾:川合さんの言う通りで、人事としても新卒採用だけに留めようとは思っていません。キャリア採用ではさまざまな年次の女性を増やしたいと考えています。
また、社内でも一般職から総合職に切り替えるキャリアパスを用意しています。2021年7月からはグローバルな転勤を伴う総合職だけではなく、勤務地を限定した総合職のコースも導入しますので、内部での配置転換も含め、さまざまなアプローチで取り組んでいきたいですね。
──段さんはいかがでしょう?
段:私は男女関係なく、ライフステージに合わせて働きやすい環境をつくることが必要だと思っています。そのためには、やはり男性100%で議論していてもうまくいかないですよね。まず比率を合わせようと考えるのは至極真っ当な判断だと思いますし、女性比率を上げるというメッセージはその第一歩になると思います。
段 牧(だん まき):丸紅株式会社 次世代社会基盤事業部
2017年入社。入社後は電力本部において電力アセットマネジメント部や電力IoT・ソリューション事業部に所属。2018年度ビジネスプランコンテストに15%ルールを活用してエントリーし、ファイナリストに。その後、次世代社会基盤事業部に異動し、スマートシティの開発を担当。
松尾:実は私が新卒で丸紅に入ったのも、当時五大商社の中で丸紅が最も女性を多く採用していたから。やはり実績があるのは、後から入る人の安心につながりますよね。そういう意味でも、女性に対してウェルカムだという姿勢を示せたのは、個人的にもうれしかったです。
「実力主義」を加速させる評価制度の変革、女性管理職を増やす切り札にも?
──実際、丸紅で働く総合職の女性というのは、どれくらいいるんですか? 先ほど川合さんが管理職のお話もされていましたが、そちらの方はいかがでしょう。
松尾:総合職全体の比率でいえば10%くらいです。若手になればもっと比率は上がりますが、全ての年代を含めるとこれくらいの数字です。管理職は6%くらいですね。
──なるほど。確かに割合としては低いように見えます。女性管理職が少ないのは、単純に総合職の女性が少ないことが要因なのでしょうか?
松尾:そうですね。社内アンケートでは「周りに同性の管理職がいないこと」が、女性が管理職になるのをためらう理由として挙げられました。一方、実はこの春も課長や部長などの管理職に新たに就任する女性が出てきています。人数の増加とともに事例が増え、このようなためらいも解消されていくのではないかと考えています。
──女性の人数が増えていけば、自然と女性の管理職も増えていくということですね。ただ、管理職の女性比率を上げるのは時間がかかりませんか?
松尾: 2021年度からは、ミッションの大きさに基づいて等級や報酬を決める制度を導入します。実力に応じて裁量を与える基本方針に変わりはないですが、従来は過去数年間の累積評価で資格や報酬を決めていたのに対し、ミッションの大きさでその年の資格や報酬を決める仕組みになりました。性別はもちろん、年齢などにもかかわらず、実力本位で時価的な処遇を目指すものです。
──なるほど。単年での評価になると「飛び級」のようなケースも生まれてくるというわけですね。
松尾:これまでは上に上がるのにどうしても時間がかかってしまっていたのですが、今後は仕事ができる人がスピード感をもって昇格できるようになります。
──他に多様性に関する取り組みとして行っていることはありますか?
松尾:例えば新入社員1人を含め、所属部署や世代の異なる三者でトリオを作り、定期的に双方向のコミュニケーションを取る「トライアングルメンター」という仕組みがあり、組織や世代を超えたつながりの形成を促進しています。段さんもいくつかトリオをやっていますよね。
段:私は毎年応募していて、今年は掛け持ちで2つのトリオをやっています。人事部からは「1年間で最低4回は何かしら話してください」と言われていますけど、普通に4回以上話す場を設けていますね(笑)。
──段さんとしては、トライアングルメンターでどのようなメリットを感じていますか。
段:どの会社もそうだと思うんですけど、違う事業をやっている人が何を考えているのか、分からないじゃないですか。私の場合、トレードの仕事をやったことがないので、現場の具体的な話が聞けるのが面白いんです。
何の参考になるかは分からないですけど、話のタネにはなるし、将来どこかでつながるかもしれない。今年はリモートなのでなかなか会えないですけど、トリオを通じて社内のネットワークは広がっています。
男性社員の40%以上が育休を取得し、在宅勤務も加速。「激務の総合商社」は変わりつつある
──海外駐在で厳しい現場を経験したり、顧客との会食が多いイメージだったりと、商社に対して「男社会」のイメージを持っている学生は多いと思います。その点についてどう思いますか?
川合:男社会を旧態依然とした、保守的な社会と考えれば、そういう部分もあるとは思います。比率として男性が多いのも事実です。でも、それによって「仕事がやりづらい」と感じたことはないですね。同期の女性で産休や育休を取った人はもちろんいますし、女性が働く上でハードルがあると思ったこともありません。
川合 佑美子(かわい ゆみこ):丸紅株式会社 飲料原料部 飲料原料第一課
2009入社以降、コーヒー生豆のトレード業務に従事。2012年には外国語研修生としてホーチミンに。
段:単純に数でいえば男性の方が今は多いので、傍から見たら男社会に見えるかもしれないですね。あいにく、私がいる部署は全員男性ですし(笑)。ただ、私も実態は違うと思っています。例えば、男性が育休を取ることへの理解がないという話を聞くことがありますが、当社はそういったことが全くなくて。私も育休を取得しています。
──育休はどのくらい取ったんですか?
段:2020年2月に娘が生まれたんですけど、翌週から2週間の「育メン休暇」と、通常の有給を2週間取って、合計1カ月のお休みをいただきました。コロナの影響で復帰時には在宅勤務に切り替わったので、結局そのまま半年ぐらい出社はしなかったですね。
──1カ月ですか! それはさすがに珍しいケースだと思いますが、いかがでしょう。
段:確かに最初に上司に相談したときは少し驚かれましたが、背中を押してくれました。休んでいる間も周りの皆さんが支えてくれましたし、同期をはじめ、若い世代は育休を取るのが当たり前だという空気になっているのを感じます。
松尾:男性社員の40%以上が、パートナーが出産した年の1年以内に育休を取っています。私の父も商社だったんですけど、運動会や卒業式など、私の学生時代のイベントに父が来たことはほとんどなくて。一方で、最近の若手社員は当然のように学校行事に参加していて、男性の育児への考え方がずいぶん変わったと感じています。
──皆さんは実際、どのような働き方をされているのでしょうか。部署にもよるとは思いますが、過去の取材では激務だと話す商社パーソンも少なくなかったので。
川合:業務量は一様ではないので、タスクが多いときに残業が増えることは当然あります。でも、長く働くこと自体が評価されることはないですね。
段:私は基本的に家庭を優先したいですし、そもそも残業は嫌いです(笑)。時期によって遅くなることはもちろんありますけど、特に最近はコロナ禍で、フレキシブルに仕事がしやすい環境になりました。在宅勤務中はタイミングを見計らって、夕方ちょっと離席して子どもの面倒を見ることもありますし、その分夜に仕事をすることもあります。
松尾:過去には、オフィスにいることが重視され、その場にいるかどうかを問われる場面もありましたけど、働く場所を自由に選べるリモートワークの制度である「どこでもワーク」がコロナ禍を経て浸透した今は、目の前に相手がいなくても仕事ができるという理解が進みました。
川合:会食についても毎日のようにあるわけではありませんし、あくまでビジネスの一環としてやっていること。仕事を進める1つのやり方として、その機会をどう捉えるかは自分次第ですよね。
社内ビジコンや15%ルール、丸紅の働き方を変えた背景にある「危機感」とは?
──皆さん新卒で丸紅に入社していますが、入社してから現在に至るまで、会社の変化をどのように捉えていますか?
松尾:より成果に着目する度合いが高まっていると思います。私が入社した頃はきっちり時間をかけて成果を出すという考え方がありましたが、今は効率を上げる方向にシフトしていますね。
川合:残業管理は年々厳しくなっている印象です。やらなければいけないことがたくさんあるとはいえ、時間は有限であり、ある程度の時間で切り上げなければいけない。
そのような中で、新入社員への仕事の教え方も変化しています。手探りで一から学ばせるようなやり方から、効率的に業務を理解できるようにエッセンスを抽出して伝える方法に切り替わりつつありますね。
段:私は4年目とまだ在籍年数は短いですが、入社2年目頃から会社の新しい取り組みが始まって、ガラリと変わったように思います。正直、1年目は「日本の大企業はこんな感じなんだろうな」という印象で、良くも悪くも想像通りだったんですけど(笑)、2年目から会社への印象は一気に良くなりました。
──きっかけは何だったのでしょう。
段:2年目から始まったビジネスプランコンテストに出て、運よく最終審査まで残れたことですね。入社2年目でもちゃんと最終審査まで残れたし、勝ち残った人も年次に関係なく、素晴らしいアイデアを持った人がきちんと選ばれていました。
就業時間の最大15%を目安に、自分の担当分野内外にかかわらず、丸紅グループの価値向上につながるような事業の創出に取り組むことができる「15%ルール」も始まって、他部署の方にも話しやすくなりましたし、風通しが一気に良くなったと感じました。
松尾:ビジネスプランコンテストも15%ルールも、まさに横の組織との意見や情報交換を活性化し、アイデアの種を育てようと考えて導入されたものです。商社は縦割りだと言われますけど、それだけではイノベーションは起きませんから。
実はこれまでもビジネスプランコンテスト的なことは何度かしているのですが、当時は一部の人が参加する単発のイベントで終わってしまっていました。でも今は継続的に行われ、事業化の権利を勝ち取った人は本業として、予算を持って取り組める。実現度も大きく変わったと思います。
──過去に単発で終わってしまったイベントとは何が違うのでしょう?
松尾:「このままでは10年後、丸紅は残っていないのではないか」。そんな会社の危機意識は大きいと思いますね。今まで当たり前だったことが当たり前ではなくなるスピードと、その変化の大きさは多くの社員が実感していると思います。
──川合さんは15%ルールやビジネスプランコンテストが始まったことで、何かプラスに感じることはありますか?
川合:私は専門性を高めて一つの商材を扱う仕事をしていることもあり、段さんほどは制度を活用していません。ただ、今ある市場の中でさらにシェアを取り、事業をどう発展させていくのか。そのアイデアは、外部からインプットしなければいけません。
そういう意味では、ビジコンの発表や提案内容は今やっている業務とリンクする部分もあって。自分が参加しなくても、新しい視点を拾うチャンスになっています。それを具体的にビジネスに発展させていくのが、次のステップなのかもしれないですね。
就活生の皆さんへメッセージ──丸紅は、現状に満足しない会社
──最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。皆さんはどのような人と一緒に働きたいですか?
段:いろいろなことに好奇心を持って、積極的にチャレンジする人が入社してくれたらいいなと思っています。私は「残業が嫌い」だと言ったんですけど、別に長く働くことの全てが嫌いなわけではなく、無駄に長く同じ場所にいるのが嫌なんですよ。新しいアイデアって、ずっと机の上で調べ物をしていても出てこないじゃないですか。
だからこそ、積極的にさまざまな場所に行って、多様な経験をしたがる人がいっぱいいれば、新しい発想がどんどん出てくるんじゃないかと思います。
川合:私もまさに同じことを考えていました。好き嫌いなく、最初はいろいろなことに興味を持ってもらいたいですね。私の場合はコーヒーという一つの商材をずっと扱っていますが、例えば飲用シーンはさまざまですよね。同じ商材であっても、探究心を持って取り組める人はクリエイティブだと思います。
段:丸紅は、現状に満足している人がいない会社ですよね。物足りなさを感じていたり、「こういうことがやりたい」という思いがあったりと、何かしら悶々(もんもん)とした気持ちを抱えていて。
先ほどビジコンや15%ルールの話をしましたけど、制度を用意しても、やりたいと思う人が少なければ浸透しないし、やりたい人がいても周りに理解されなければうまくいかない。その点、丸紅は頑張る人を応援してくれる人が多い会社だと思います。そういう意味では、今は本当に働きやすいですよ。
松尾:「とがった丸になれ、丸紅。」という言葉にも表れていますが、今までの常識を覆すために、既存の枠組みを壊せる商社にならなければいけないという危機感は強くあります。
だからこそ、やりたいことを実現する場としては最高の環境です。幅広くアンテナを張ってやりたいことを見つけ、それを実現する行動力や当事者意識を持っている人にはもってこい。夢を実現する場として、ぜひチャレンジしてほしいですね。
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