講義のメモを取るボールペンも、街を颯爽(さっそう)と走るクルマも。
身の回りのモノは最終製品として世に出るまで、目もくらむような時間と汗に揉(も)まれています。それを支えるのはいつだって素材であり、素材を動かす人。
地球の裏側でも東京でも、モノが生まれる現場にはドラマがあります。
「鉄の商社」である住友商事グローバルメタルズ(以下、SCGM)は世界を相手にトレードと事業投資を行っています。25%の社員が海外に駐在しており、入社10年目までに一度は海外駐在を経験します。一方で総合商社「住友商事」の圧倒的なアセットを生かし、他部署とのコラボレーションで、新しいビジネスを作ることも強みです。今や視線は自然エネルギーや宇宙にも向いています。
今回お話を聞いたのは、学生時代にそれぞれ外交官を視野に入れていた青木さん、パイロットの道を考えていた加納さん。なぜ鉄なのか、なぜ商社なのか──。SCGMに見いだした可能性や、現場で培った肌感覚、未来を語ってもらいました。
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欠乏していた肌感覚。現場での経験が若手を助ける
──本日はよろしくお願いします。青木さんは2010〜14年と2018〜20年の2回、メキシコに駐在されています。どんな仕事をされていましたか?
青木:どちらも現場系ですが、1回目は事業投資会社である鉄板加工をする工場、いわゆるコイルセンターへの赴任でした。2回目は、日系自動車メーカーの現地製造工場への出向という形で、部品及び鋼材を含めた資材購買を管轄していました。
青木 洋典(あおき ひろのり)
2006年、前身の住商スチール株式会社に新卒1期生として入社。主に自動車向けの鋼材輸出を担当し、2回のメキシコに駐在を経験。1回目は現地事業会社立ち上げに関わり、鋼材供給のプロジェクトマネージャーを担う。2回目は日系自動車メーカーの現地法人に出向した。2020年に帰国し、米州・欧州の自動車向けの鋼板トレードや事業投資関連に携わっている。
──印象に残っていることはありますか?
青木:1回目の鉄板加工会社にいたとき、営業業務の中で鋼材発注・輸入・加工・納入をしていましたが、国柄もあっていろんな問題が起こるんです。設備の故障とか、日本から輸入した材料の不具合とか……。お客さまへの鋼材納入が間に合わず「超緊急」で届けないといけなかったときは、自分がトラックの助手席に乗ってお客さまに現在地の実況中継をしながら対応したこともよくありました。
──まるで運転助手みたいですね。
青木:通常は運送業者のメキシコ人の運転手に運んでもらうんですけど、本当に一刻を争う緊急時は、やはり100%頼り切るには心もとないということですね。メキシコ人の国民性なのか、ドライバー1人だけだとどんなにこれから納入してもらう鋼材が緊急だと事前に念押ししていても、途中で食事をしていたり、寝ていたりすることがあるので(笑)。
盗難目的で納品中のトラックに火炎瓶が飛んできて、放火されそうになったこともあれば、トラックごと盗まれたときは、急いで別のトラックを仕立てました。
──かなりの修羅場ばかりですね……。
加納:こういう経験をしていることは、海外駐在をしたことがある私から見ても強みに感じます。私は東京のオフィスにいた入社1、2年目の頃にとても苦しかった時期があったのですが、そのときにメキシコから帰ってきた青木さんが同じ部署になってくれて、とても助かりました。
加納 優子(かのう ゆうこ)
2012年、新卒入社。東南アジア向けの自動車鋼板や北米向けのクランクシャフトの輸出を担当した。2018年、モロッコに赴任し、住友商事カサブランカ事務所に勤務。2020年に帰国し、線材特殊鋼鋳鍛事業部で事業投資・経営を担当している。
──何が苦しかったんですか?
加納:日本とタイ、メキシコで順々に新車種を立ち上げることがあって、その鋼材調達を担当しました。何度も試作車を作るため、その都度サンプル用の鋼材を出荷するのですが、今日仕入れ先を見つけて商談したら翌日には鋼材を出荷してもらって、その週末に船で出すというようなスピード感でした。尋常じゃない手間と時間がかかって忙殺され、まだ新人だったので目の前のこと以外は何も考えられませんでした。
──そのときに同じ部署に来たのが青木さんだったのですね。
青木:1回目のメキシコ駐在から帰ってきたときでした。帰国する前に既に同じ車種をメキシコ側で立ち上げていたので、状況がよく理解できました。
加納:同じことをやった経験があって、苦しさが分かる青木さんは、精神的な安定剤のような存在でした。
青木:鋼材の輸出は言うなればとてもバーチャルです。担当者である自分が、見ることも触ることもなく、鉄が製造され、船で輸出され、現地に到着し、お客さまに納入され最終製品になる。想像がつかない、肌感覚も温度感もないパラレルワールドみたいな世界です。加納さんは当時まだ入社2〜3年目で現場経験もないし、どうしても肌感覚を持てません。だから、現場のことを伝えたら、自分のやっていることの意味や立ち位置が分かって、より今の仕事に意義を見いだせるかなと思いました。そういった視点は自分が加納さん位の年次の頃に欠乏していたものでもあったので。
加納:その後、自分が取り扱った鋼材が使われている車が街中に走っているのを見たときは感動しました。「この会社に入って良かったな」と思った瞬間ですね。当時を振り返ると、青木さんが東京のオフィスでは分からない生の情報を教えてくれ、この仕事の楽しさが分かりました。
青木:僕からしたら「あのとき新人だった加納さんとこうやって取材を受ける日が来るなんて」という気持ちです。成長したな、と。
だから、今日は普段は聞けないことを僕からも質問しようと思います(笑)。
加納:よろしくお願いします(笑)。
「経営者になりたい」。2人を導いたのは「海外」と「平坦ではない道」
──加納さんがSCGMに入社した理由は何でしたか?
加納:就活中は、海外に行きたい、経営者になりたいという2つの軸がありました。実は海外ということで、パイロットの採用試験も受けていたのですが、自分で操縦するより、乗せてもらって海外に行った方がいいなと思えて、商社に絞りました。
──パイロットが比較対象というのは独特ですね。
加納:海外勤務や事業経営ができる会社を探して、SCGMとご縁がありました。いろいろな会社を受けましたが、肌感覚で「こんな人間になりたい」と思える人が一番多い会社でした。
青木:加納さんは学生時代、工学部でしたよね。メーカーの技術職に進むという道はなかったですか?
加納:メーカー推薦の求人はある程度用意されていたので、そちらの道にも進めたと思います。でも、メーカーに入ると商品群が限られます。学生時代に「これがやりたい」と思っても、その後はどうか分からない。幅広いものを扱う方が、自分なりにやりたいものを探し続けられると考えました。
青木:分かります。僕も就活中は、「もしその商品に興味がなくなったらどうしよう」「1つのものだと飽きるんじゃないか」と思っていました。だから、自社の製品だけを扱うよりも、多様性がある商社に目を向けました。自分の業務の規模というか、幅の広さが大事だなと。SCGMは鉄鋼専門商社だけれど、鉄のバリエーションのみならず、使用する産業にも多様性があり、また、会社の雰囲気として「何でもやってみよう」という文化があるのが良かったですね。
加納:私も就活中にSCGMは幅広い産業に関わっていると分かって、夢があるなと思いました。入社してからは自動車セクターが長いのですが、金型を担当して驚いたことがあるんです。ペットボトルを作るのに、鉄の金型を使っているんですよ!
青木:それは知らなかった。膨らませて作っているのかと思っていました。
加納:他にも、ボールペンの型も鉄なんです。自動車という大きなモノも、日常生活に密接したモノもあって、鉄はさまざまな世界に広がっています。
──青木さんが入社を決めた理由は何でしたか?
青木:もともと、外交官になりたい夢があって、一方で経営者である父親の背中を見て育ったので、経営者になりたいとも思っていました。大学時代に留学も経てどうしようかと考えて、「ビジネスしながら『外交』しよう。いろんな国の人と交わって仕事を作ろう」と決めました。「外交」とビジネスの両立なら商社だろう、そして父が携わっていた鉄だろうと。
加納:SCGMの前身である住商スチールに、新卒第1期生として入られたんですよね。
青木:今思えば、当時はまだ名も知られていない会社だったので、よく飛び込んでいったなと(笑)。当時は資本金も大きくなく、駆け出しくらいの規模でした。そして面接やOB・OG訪問で話を聞くうちに、「知識も経験もつけて、もっと成長しないとやっていけない」と感じたんです。知名度や規模が大きい企業に進む選択肢もありましたが、そちらは「今の自分のまま、ある意味平坦(へいたん)な道を行けるだろう」と思えました。それと比較して、山を登っていく、苦しい方を選びました。
──どんな部分が大変そうでしたか?
青木:トレードにおいては、貿易実務知識のみならず、財務・会計などあらゆる知識をつけて日々の業務をしないといけません。また、事業投資においては、投資先国の税務・会計・法務といった知識も必要となり、先々は投資先の事業会社に派遣されてマネジメントの立場になる可能性もあることから、経営者に近づくためのステップをさらに上れると思いました。
──若手からでも責任ある仕事が任せられるのでしょうか?
青木:若手だからといって単純作業を上から頼まれるとか、上司の下働きをするとかはないですね。私自身、1年目のときは指導員からよく怒られていました。さまざまな案件において、「青木はどう思うんだ」と言われ、自分の意見や軸を持つことの重要性を叩(たた)き込まれました。若手でもお客さんとマーケットを任されるので、期待されているし、成長できる環境です。
加納:若手をよく見てくれている上司が多いと、入社直後から感じていました。急に相談しても的確な反応が返ってくるし、困ったときは助けてくれる風土があるので、安心感がありました。若手を成長させるために、膨大な仕事がある厳しい環境ではありますが……。
住商の総合力とスケールで広がる、挑戦の幅
──東京のオフィスを経て、加納さんは2018〜20年にモロッコに駐在されました。
加納:私は青木さんのような現場ではなく、現地オフィスで新規の事業開発をしていました。住友商事本体に出向し、カサブランカ事務所で働いていました。東京の支店のようなところです。「グローバルインターン」という制度を使い、鉄の商売を離れた仕事を経験することが目的です。
──どのような仕事をしましたか?
加納:顧客の工場に出向いて見学やヒアリングをしたり、SCGMや住友商事グループ全体についてのプレゼンをしたりしました。青木さんのような現場ならではの生々しい経験はできませんでしたが、金属以外の目線や感覚を得て、視野や世界観が広がりました。
青木:鉄の商売を忘れるような彼女の経験が、僕はうらやましいですね。事務所でやる仕事の幅と、現場系の仕事の幅は全く違いますから。
──どういうことですか?
青木:例えば、宅配ピザを例にすると、私が赴任した鋼材加工工場がデリバリーの店で、加納さんが駐在した事務所がヘッドオフィスのような関係です。宅配ピザの丸の内店が商売を広げられる範囲は、ピザをデリバリーできる範囲になるので、丸の内店はベトナムと商売できません。他方でピザ会社のヘッドオフィスは、ベトナムに支店を作るといった動き方はできます。だから現場が良いとか、事務所が良いとかそういう話ではなく、現場では現場で身につく商売の肌感覚と経験があり、事務所のそれはまた違うということです。
実際、加納さんが赴任したカサブランカ事務所はアフリカ・ヨーロッパ大陸までが商売の範囲になるし、投資業務もできる。そういう経験はすごくいいなと思いますね。
──住友商事グループのSCGMだからこその守備範囲の広さですね。
青木:加納さんの例はまさに、同業他社との違いが表れていると思います。鉄の専門商社の社員が総合商社の海外事務所に出向することは、あっても稀(まれ)かと思います。でもSCGMなら、住友商事の事務所に出向して、他の部門の情報も入りますし、つながりが全く違ってきます。
──青木さんの2回目のメキシコ駐在で働いた自動車メーカーでも、全く違う視点が手に入りそうですね。
青木:そうですね。鉄を売る方から買う方(購買)へと、180度変わりました。正直に話すと、鉄を売る苦労を知っていただけに「購買は買う方であり地位的優位があるので、楽だろう」と思っていたのですが、全く違いました。供給の安定性やバックアップ体制、コスト・品質のマネジメントといった買う側の悩みがよく分かりました。顧客が求めているもの、どんなポイントを押さえたら「刺さる」かがこの駐在経験で分かったので、今実践できています。
──加納さんは駐在経験が今の業務にどう生かされていますか?
加納:金属以外の仕事を通して、違う部門の人と話すと、そもそもの考え方や利益の生み方、商売の作り方などが全く違うので、気付きの機会がたくさんありました。
例えば風力発電やインフラ関係だと、鉄を使うけれど鉄がメインではありません。昔の私だったら「鉄を供給する次元じゃないな……」と若干諦めていたかもしれません。でも、カサブランカを経験して「違う部門を巻き込んで一緒にやればいいじゃん」というマインドになれました。今も、いろいろな部門の人とコミュニケーションしています。
──挑戦の幅が広がりそうですね。
加納:新規のビジネスを考えるとき、裾野の広い鉄とはいえ、鉄単体では限りがあります。インフラもデジタル関連も、感覚や着目点が違う人たちといろんな分野で話し合いながら、「こういうのやったら面白いよね」と考えた方が、より大きいビジネスができると思います。
健全な危機感で、鉄を「売る」から「使う」にシフト
──事業の幅広さを知ると、学生の「鉄の商社」のイメージが少し変わりそうです。
加納:鉄鋼専門の商社というと、学生は「鉄しか売らないんじゃないか」と思うかもしれませんが、SCGMは全くそういうことがありません。各案件における鉄の関与度の濃淡はそれぞれあり、可能性の大きさがメリットですね。
──お2人とも「鉄」にとらわれない分野にも興味がありますか?
青木:めちゃくちゃありますね。社内でもいろいろなアイデアやワーキンググループがあり、宇宙事業なんて面白そうだし、世界的なカーボンニュートラルの潮流の中で、二酸化炭素(CO2)排出量のマネタイズをしていくのも興味深いです。鉄を「売る」から「使う」に、「鉄を売る」から「鉄『も』売る」くらいの感覚で、社内はどんどんシフトしています。鉄の専門商社だけれど、鉄にとらわれる必要は必ずしもないし、奇をてらうことをやろうということではないですが、意識としてはなんでもやっていくべきだと思います。
──「鉄しかできない」と思っている就活生もいそうですね。
加納:実は私も入社前はすごく偏見がありました。「町工場向けに鉄を卸しているのかな」という勝手なイメージでした。もちろんそういう仕事もありますが、2012年に入社してから部署を転々として、扱う商材はどんどん変わって「こんなものがあるんだ!」という驚きの連続です。なかなか飽きさせてもらえないんですよ(笑)。
──なぜ、既存の事業にとどまらず、さまざまな挑戦を行っているのでしょうか?
加納:このまま、これまでの商売を回しているだけではやっていけなくなる危機感があります。
──危機感、ですか?
青木:危機感といっても「ヤバい」とあおるようなものではなく「中長期でどういった事業をやっていくことがSCGMにとって軸になるか」という「健全な危機感」という印象です。
加納:既存の商売に甘んじて、何かを良くしようという姿勢や、自ら変化を望む気持ちがなければ「魅力がない」と思われて、顧客は離れていき、食べていけなくなります。新しいことをやって、その人だからこそできる仕事をしないと生きていけないという危機感です。それに、上の世代が作ってきた仕事をただ回すだけなら、面白くないし、自分としての価値もないですし。
青木:2030年に向けた会社のビジョンに、VISION2030「PASSION FOR PROGRESS 社会の進化、ワタシの真価」があります。ビジョンを単に掲げるだけでは意味がありませんが、社員全員に意識を持ってもらおうという活動があることは大事だし、トップも会社の将来をきちっと考えているんだなと思えます。
オンライン就活こそチャンス。肌感覚をつかみに行って
──SCGMにはどんな人が合っていると思いますか?
加納:誰かの「ありがとう」をもらうことで頑張れる人が、楽しく働けると思います。何をやっているか外からは見えにくい仕事ですが、私もつらかった時代、顧客からの「ありがとう」が刺さって、涙が出るくらいうれしかったです。
青木:SCGMではアウトプットのレベルの高さだけでなく、スピードも求められます。自分の成長の急激性を求める人には向いていると思います。「今の自分でいいや。平坦で、波風はなく……」と思う人は、あまりハッピーになれないかもしれません。
──お話を聞いていると、求められる水準も高い分、周囲もサポートしてくれる職場なのかと思いました。
加納:そうですね。私が青木さんにしてもらったように、これからは自分の経験を、苦しむ若手に伝えていきたいですね。これから女性の管理職が増えていく可能性もありますので、私の役割は特に女性の営業担当者をケアしていくことです。経営人材を目指していきたいです。
青木:加納さんが若い人をケアしようとしている姿を見て、「成長したな」って思います。
加納:恥ずかしいですね……。
青木:女性の基幹職にしっかり育ってもらいたいので、加納さんの存在も役割も大事です。
加納:「こんな生き方もあるんだ」と思ってもらえたら。
──最後に、就活生へのメッセージをお願いします。
青木:普段の生活も就活もバーチャルになりました。ただ就活は、その企業に対する肌感覚をいかに養うのか、だと思います。知りたいと思うことをコロナや世の中のせいにせず、積極的にドアをたたいてほしいです。私は対面でもオンラインでもOB・OG訪問は受けたいです。
加納:オンラインになったからこそ、いろんな話を聞けます。出先からでもイベントに参加して話を聞くことだってできます。
青木:逆にチャンスですよね。
加納:会社側の人も、対面より対応しやすくなったのではないでしょうか。いろんな社員に話を聞き、自分と感覚が合う社員がいる会社を探すといいと思います。
青木:私や加納さんは経営者になりたいという思いがありました。自分が思い描く社会人像や「こうなりたい」という姿があれば、それを叶(かな)えるための素地がSCGMにはあります。期待してください。
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【ライター:松本浩司/撮影:百瀬浩三郎】