こんにちは、ワンキャリア最高戦略責任者の北野です。今回はアカツキのCOO、香田さんに独占インタビューを行いました。アカツキといえば、モバイルゲームの有名タイトルを続々とリリースし、2017年に東証一部上場を果たしたエンタメ界の注目企業。事業をドライブする秘訣(ひけつ)から、香田さん自身のキャリア観まで、余すことなくお聞きしました。
8年で東証一部上場させたCOOの学生時代。内定辞退し、2度目の就活で「外資系コンサル」を選んだ理由
北野:アカツキはゲーム開発を主軸にさまざまな「ワクワク」を社会に提供し、2017年9月には東証一部上場を果たしています。香田さんは共同創業者で、COOを務められていますね。
香田:はい、今日はよろしくお願いします。
北野:ご経歴を拝見して興味深かったのが、ファーストキャリアはアクセンチュアだったところ。初めからコンサル業界を志望していたのでしょうか?
香田:いえ、大学時代はロボットに搭載する人工知能を研究していて、その流れでロボット系のベンチャーに内定もいただいたんです。でも、その後にインターンをして「やっぱり別の方向性を探ってみよう」と、大学4年で内定辞退してしまいました。
香田哲朗(こうだ てつろう):株式会社アカツキ 共同創業者 取締役 COO
筑波大学卒業後、 新卒でアクセンチュアに入社。 大手電機メーカーなど、通信ハイテク業界の戦略・マーケティング・IT領域のコンサルティングに従事。退職後、CEO塩田氏とともにアカツキを創業。
北野:へえ! それは思い切りましたね。
香田:とはいえ、次にやりたいこともなかなか見つからなかったんです。インターンで知り合った共同創業者の塩田と「いつか起業しよう」と約束していたこともあり、若い会社を中心に当たったものの、当時はベンチャー自体あまりなくて。
ただ、エンジニアリングのスキルや大学時代の経験、あとは自分の性格を振り返ってみて、自分には「事業をつくる仕事」が合うと確信していました。だったら違う力を身につけようと、修行のためにコンサルティングファームに行くことにしたんです。
コンサルで学べたことは「言葉の解像度」、学びたかったのは「リアルさ」
北野:あえて違う能力を身につけ、掛け合わせる戦略だったわけですね。ここ数年、コンサルティングファームを志望する学生が大きく増加しています。香田さんがアクセンチュアで得たもっとも大きな学びは何でしたか?
香田:「情報を正確に整理する力」です。コンサルに入社してまず厳しく言われたのは、実は日本語の使い方だったんですよ。
北野:日本語、ですか?
香田:「適量」はどれくらいなのかとか、「頻繁」と「しばしば」をなぜ使いわけたのかとか、厳密にチェックされました。情報としての言葉を1つずつ精緻に見て、理解して、それを使って自分の考えをアウトプットする力は身につきましたね。
北野:言葉の解像度が高くなったわけですね。これは私もコンサル出身なのでよく分かります。逆に、コンサルで学びたかったものは?
香田:それはもう、たくさんあります(笑)。一番は……リアルさですね。自分が当事者になる感覚というか。コストカットを提案しても、実際に人員調整の対象となる人たちの前で説明するのと同じ感覚にはなれませんから。
北野:なるほど、すごく分かります。
それで1年間「修行」して退職、アカツキを立ち上げられたわけですが、当時を振り返ってみていかがですか?
香田:立ち上げから4〜5カ月間、最初のゲームタイトルをつくっているときは「恐怖」の一言でしたね。世に出して、興味を持ってもらって、お金を払ってもらって、楽しんでもらう──そんな「サービス」を設計・開発することへのプレッシャーがすごくて。
北野:ああ、それはリアルですね。一般的に起業直後というと文化祭前夜のようなノリをイメージされがちですが……。
すべてを賭けたものが無になるかもしれない。その経験が仕事の「驚き」や「喜び」を教えてくれた
香田:だって、数カ月間社会と断絶して、自分を100パーセントつぎ込むわけですから。「失敗したら収入もないし、この時間が無意味になるんだな」って頭の片隅で常に考えていました(笑)。すべてを賭けたものが無になるかもしれない……これは震えるほど怖かったです。
北野:リリースしてみて、その恐怖はどのように変化しましたか?
香田:バグが出たら対応する、というように「すべきこと」がクリアに見えてきたとき「不安」が「大変」に変わっていきました。そして、自分たちが手掛けたゲームが大ヒットするようになると、「驚き」や「喜び」になっていった。世界中のApp Storeランキングで1位を獲得したり、見たこともないようなダウンロード数を記録したり。信じられない出来事ばかりの8年間でしたね。
全員に求められる嗜好品はない──「すべての人がすべてのエンタメを好きである必要はない」
北野:私、実は結構なゲーム好きなんです。だからこそ世の中には「しょせんゲーム」という見方や、ゲームに対する批判的な意見があるのも承知しています。香田さんはゲームの持つ社会的な意義について、どう考えていらっしゃいますか?
香田:ゲームをはじめとするエンターテインメントは、いわば嗜好品(しこうひん)。僕は、「全員に求められる嗜好品はない」と考えています。
北野:……というと?
香田:マンガが好きな人もいれば一切読まない人もいるし、音楽が生きがいの人もいれば、まったく興味のない人もいますよね? エンタメ自体は人生を豊かにしてくれますし、社会に必要なものです。でも、世の中のすべての人がすべてのエンタメを好きである必要はない。各エンタメが、それぞれ好きな人に求められれば十分です。
北野:ゲームはゲーム好きな人にとって意義がある。それでいい、ということですね。
香田:はい。ただ、ゲーム──特にモバイルゲームは、ジャンルとしてはまだ新しい遊びで、据え置き型のゲームと比べて「よく分からない、怪しいのでは」と、まだまだ思われがちな部分もあると思います。
北野:ええ、そうですね。
香田:人間は、よく分からないものに恐怖を覚えるものです。つまり、ゲームをしない人にとってゲームが「怖いもの」になってしまった。業界も、その恐怖を払拭(ふっしょく)し切れないまま、既存のユーザーに向けて閉じられた方向でゲームをつくり続けた側面があります。だから、ゲーム人口もなかなか増えない。……近年のこの流れは良くないと思っています。
モノづくりは「誰でも理解できるもの」と「分かる人には分かる」ものを、高い次元で統合することが大切
北野:なるほど。では今後ソーシャルゲーム、ひいてはゲームをつくる会社がいいイメージを持たれるためにどうすればいいのでしょう。
香田:例えばあるロックバンドが、それまで彼らがやっていた路線とは違うJ-POPの曲をリリース、大ヒットしたとします。このとき、音楽をやっている人からは「売れ線を狙った」と批判を受けるわけです。
北野:分かります、魂を売ったと(笑)。
香田:でも、たとえマスに理解されなくてもとがった音楽をつくり続ける方が尊いかというと、そうじゃない。僕は、「誰にでも理解できるもの」と「分かる人には分かる」ものを、高い次元で統合することが大切だと考えています。こうした、ローコンテクストでもハイコンテクストでも通用するモノづくりを達成しているのが、ピクサー・アニメーション・スタジオや任天堂だと。
北野:ああ……なるほど! 間口の広さと質の高さが併存しているのが、いいコンテンツである──それってゲームに限らず、モノづくりに関する普遍的な話です。
香田:素人にも玄人にも深く刺さるものは、本質的かつ普遍的なものです。質問に戻ると、ソーシャルゲームもその領域にまで近づけていければイメージを変えられるはず。もちろん一筋縄ではいきませんが、そこを目指していきたいと思っています。
エンタメで生きていくって相当な覚悟が必要。生半可な気持ちではダメ
北野:アカツキのような会社だと、「ゲームが好きだから」と志望する学生も少なくないと思います。ゲームをプレイすること、すなわち消費者であることとビジネスとしてつくる側に立つことの違いを伺いたいです。
香田:まず、仕事は自分が熱中できることが何よりも大切なので、「ゲーム好き」なのはいいと思います。ただ、僕は無類のエンタメ好きですが、「消費するエンタメ」では超えられないのが「自己表現としてのエンタメ」だと感じていて。
北野:「自己表現としてのエンタメ」どういうことでしょう?
香田:この仕事は、エンタメを通して「自分」を表現することが大切だし、醍醐味(だいごみ)です。もちろんゲームをプレイするのも楽しいけれど、「自己表現することで喜んでもらえる喜び」を感じられるようになると、また一段違う面白さを感じられます。
北野:それはまさに、ユーザーとクリエイターの違いですね。仕事を通して表現者にもなれるというのは、とても魅力的だと思います。一方で、モバイルゲームを主軸としているベンチャーにはやや不安定なイメージもあるのですが、そこはどう捉えられていますか?
香田:そもそも、エンタメで生きていくって覚悟が必要なんです。自己を表現するのは基本的に不安定な仕事でしょう?「バンドマンになりたいけど安定志向」なんて、何を言っているんだと思うはず(笑)。それと同じで、「自分の好きなことで人を喜ばせてお金をもらえる」という魅力的な仕事に対して安定を求めるのは、ちょっと違うんじゃないかと思っていて。
北野:はい、はい。とてもよく分かります。エンタメは基本的に不安定であり、「売れないもの」ですよね。一見楽しく華やかですが、日の目を見るのはごく一部です。
「エンタメ」と「ビジネス」の要素が複合的に重なり、テクノロジーを理解してはじめてビジネスを設計できる世界
香田:そんなエンタメのマーケットで勝ち残るには、「どうすればもっと社会を動かせるか」とか「どう自己表現するか」とか、そういう次元のマインドを持っていないと厳しいでしょう。
それを踏まえた上で、エンタメビジネスの実力をつけるのにモバイルゲームづくりは最適だと思いますよ。文字どおり「エンタメ」と「ビジネス」の要素が複合的に重なり合っているし、テクノロジーを理解して設計できるようにもなる。さらにIT業界は歴史も浅く、開発サイクルも短いから、若い人でも次々と打席に立てるしイニシアティブを取れます。
北野:確かにそこは、歴史ある業界とは違うところですよね。「自分」がイノベーションを起こせる可能性も、業界をひっくり返す可能性もありますから。そして次々に打席に立てるということはPDCAを回すサイクルも早い、つまりスピーディに成長できるということでもある。
香田:おっしゃる通りです。若いときはやはり、量が質を生むところも多い。1回でも多く打席に立ち、1回でも多くPDCAを回すことで、他の企業や業界でも十分に通用する実力をつけられるでしょう。
「簡単にできるものは他の人もすぐ参入してくるし、あっという間に真似されてしまう」アカツキがデジタルからリアルへ進化する理由
北野:モバイルゲームの会社として確固たる地位を築いたアカツキですが、次はどのような「ワクワク」するチャレンジを考えているのでしょうか?
香田:リアルの場で「新しい体験」をつくっていきます。実は、いままさにエンタメ複合ビルを横浜駅前につくっているんです。地下1階から地上4階、屋上を含めた約3600坪を、さまざまなエンタメが体験できるようリノベーションして独自コンテンツを開発したり、エンタメのコンテンツをキュレーションした場にする予定です。
北野:ええっ、それはすごい規模ですね! なぜ、ゲーム事業にとどまらず、リアル領域に注力しているのでしょう? 勝手の違う領域で、どういった勝算があるのか気になります。
香田:もちろん新しい取り組みですから、明確な勝算はありません。でも、モバイルゲームで培ってきた「クリエイティブ」と「テクノロジー」、そしてエンタメの本質は、ネット空間に限定されたものではなくリアルな場にも転用できる確信はあります。それに、そういう遊びを提供している施設は他にないんです。百貨店もゲームセンターも映画館も、数十年前から提供する体験はずっと変わっていません。
北野:なるほど。つまり、リアルな場での遊びをクリエイティブとテクノロジーでアップデートする、大きなチャレンジに取り組んでいるわけですね。ものすごく楽しみです、現場はきっと大変なんでしょうけど(笑)。
香田:はい。面倒くさくて、大変で、カオスです(笑)。でも、だからこそ長い目で見たときに大きな成果が生まれると信じています。簡単にできるものは他の人もすぐ参入してくるし、あっという間に真似されてしまいますから。
企業にとって自社HPやオフィスは、洋服や家のようなもの
北野:アカツキはベンチャーらしい明るくフラットな雰囲気ですが、企業文化はどのようにつくっているのでしょうか。ここまで組織が大きくなると、ほころびが出てきてしまいそうですが。
香田:「仕事にワクワク感がある」「一緒に働いている人が優秀で面白い」。この2つを満たし、社員を抑圧・妨害さえしなければ、自然とみんな楽しく働くんですよ。だから、採用は非常に重要です。僕が一番見ているのは、「目線が自分にばかり向いていないか」ですね。
北野:自己成長や自己実現ばかり考えていないか、と。
香田:その通りです。「志は社会に向き、夢や野望は自分に向く」と僕は考えています。もちろん夢や野望、成長意欲や自己実現欲求は絶対に持っていてほしいものです。けれどそこに「志」がないと、自分の価値観に閉じこもったり周りを蹴落とそうとしてしまいます。
北野:なるほど。あと、気になったのがオフィスの遊び心あふれるデザインです。今僕たちが話しているのも、アートやデザインに関する本やおもちゃが並んでいる図書館のような場所ですし。これも企業文化づくりの一環ですか?
香田:企業にとって自社HPやオフィスは、洋服や家のようなものです。おしゃれすると気分が上がるし、いい家に住むとやる気も出るでしょう? あとは、「自分たちはこういう存在だ」とアイデンティティを確認でき、誇りを持てる場であればいいなと。
北野:定量的には測りにくいけれど、影響の大きい要素ですよね。コンサル出身の人はどちらかというと定量的なものを好む傾向がありますが、香田さんはなぜデータで見えないものも大事にされるのでしょう。
香田:うーん、感情的なのかな(笑)。 冗談はともかく、「自分が入りたい会社になっているか」という観点は常に持っています。「ちゃんと『スタイル』があるか?」って。
北野:スタイルというと?
香田:スタイルとは、一貫性です。ラグジュアリーブランドでもファストファッションでも、一貫性があればスタイルになる。そして、スタイルがあるということは価値観を持っているということで、それはカルチャーにつながります。スタイル、価値観、そしてカルチャーのある会社は僕にとって魅力的だし、生み出すプロダクトもすばらしいものになるはずなんです。
学生を「子ども扱い」せず、バックステージを見せる
北野:採用や環境が企業文化をつくることがよく分かりました。その流れでいうと、やはりインターンにも力を入れているのでしょうか?
香田:はい。今後は徐々に、新卒採用をすべてインターン経由にしていこうと考えています。夏休みに開催するイベント化されたインターンではなく、通常業務の中で働いてもらう形にして。その中でも注目してほしいのは、「カバン持ちインターン」。2週間から1カ月間、僕や執行役員に四六時中付いて回ってもらいます。
北野:へえ、それは勉強になりそう! 私も参加してみたいです(笑)。
香田:アカツキのインターンの醍醐味は、仕事の「バックステージ」が見えることです。学生が客席から見ているのが、説明会。舞台に上がって一緒に踊るのが、一般的なインターン。その舞台裏では何が起きているのかリアルに体験できるのが、アカツキのインターンというわけです。
北野:必然的に少数精鋭になるし、受け入れる側も本気にならざるを得ませんね。
香田: 僕たちは、学生を子ども扱いしません。そうじゃないと、社会が成熟していかないから。大人扱いすれば、大学生も背伸びして頑張ります。新人教育に1年かけるのだって、新卒社員を子ども扱いしているといえますよね。
就活そのものが仮説検証。ITの世界は「業界に就職する」つもりで
北野:確かにそうですね。今後はコンサルに並び、IT業界を志望する学生もさらに増えると考えられます。香田さんがおっしゃるように若いうちから活躍できるし、現実的なことを言えば選考時期も早いですから。IT業界を志望する学生に何かアドバイスがあればお願いします。
香田:IT業界に関しては、「業界に就職する」感覚でいいと思います。その中で価値観が合う会社を選んで、いまいちだったら次に行く。そもそも僕は、IT業界に限らず就活自体が仮説検証であるべきだと思っています。
北野:「仮説と検証の就活」、面白いですね! 学生にとっては「一度きりの就活だ、失敗できないぞ」と思い込んでいるところだと思いますが。
香田:「この会社・業界は自分に合うかどうか」と仮説を立てて真剣に考えるから、実際にどうだったか検証できるんです。その結果、僕のように内定辞退することもあるけれど、それで構わない。ただ時期が来たからとなんとなく就活をスタートさせても、意味がありません。逆に、自分で仮説を立てて考えていれば、どこに行っても得られるものがあるはずです。
北野:万一失敗しても、仮説検証に役立ったと次に行けばいい。なんだか気が楽になりますね。いやあ、本当に勉強になりました。やっぱり、1日でもいいからインターンに参加してみたい(笑)。ありがとうございました!
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聞き手:北野唯我(きたのゆいが)
兵庫県出身。ワンキャリアの最高戦略責任者。著者。博報堂、ボストン コンサルティング グループを経て現職。テレビ番組・ラジオ番組のほか、日本経済新聞、東洋経済、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。
初の著書『転職の思考法』(ダイヤモンド社)は発売2カ月で10万部突破のベストセラーになっている。
【ライター:田中裕子/カメラマン:塩川雄也】