「本当は地元で働きたいけど、とりあえず東京かな……」と思っていませんか?
「就活も脱・東京だ!」とか、「働き方は多様化している!」とか耳にはしても、就活で実際に飛び交う情報は東京の企業が多くで、どうしても目が向きがちです。
一方で、どの地域にも圧倒的な個性を放つ企業はあります。
地元愛にあふれ、地域の課題を解決しようとするひたむきさ。地域密着だからこその信頼と、愛され度と、強さ。若手でも安心して挑戦できる、ユニークな仕組み──。目を凝らせば、そんな知られざる顔が浮かぶかもしれません。
ワンキャリア編集部は、会員の学生が「お気に入り」に登録している企業の数を、地方ごとに集計。大学のある地域に本社を構える企業を対象に、30位までのランキングにまとめました。
今回は九州・沖縄編。インフラや交通、マスコミなどの企業がランクインしました。地理的な近さを生かして早くからアジア市場を取り込んだり、地域に深く根差して盛り上げ役を買ったりと、活力をみなぎらせる企業がめじろ押しです。
就活の情報収集も足元から。コロナ禍で世の中の物差しが変わる今、「灯台下暗し」で後悔しないためにも、身近な選択肢を探してみませんか?
JR九州(九州旅客鉄道)
概要
福岡市に本社を置き、旧国鉄改革で1987年に設立されました。九州地方と山口県の一部の営業エリアとする鉄道会社ですが、不動産業・農業など「非鉄道」事業の存在感が増し、総合事業会社に変化しつつあります。2016年に上場し、完全民間会社になりました。
事業・特色
JR九州グループは、「安全とサービスを基盤として九州、日本、そしてアジアの元気をつくる(※1)」をあるべき姿としています。
メインの鉄道事業では、地域と連携してデザイン・エンターテインメント性を高めた列車を運行しています。周遊型で地域の魅力に触れる、日本初のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は全国的なインパクトをもたらし、2016年には第1回「日本サービス大賞」の最優秀賞に輝きました(※2)。乗ることそのものがイベントになるような観光列車も多くあります。2022年秋には、九州新幹線の新ルート開業も控えています(※3)。
「非鉄道」の新事業を拡大し、九州を元気にする多彩な挑戦をしています。まちの玄関口の駅を軸にしたまちづくりでは、PARCOからノウハウを学び、地方都市での初の大規模な駅ビル案件となった長崎駅の「アミュプラザ長崎」などで成功。2011年には日本最大規模の駅ビル「JR博多シティ」を開業し、九州新幹線の全線開業効果と相まって、福岡経済に大きな影響を与えました。その後も「JRおおいたシティ」の成功につなげるなど、九州各地に波及させています(※4)。
2014年には農業に参入しました(※5)。2021年には歴史的建造物を再生した旅館ブランド「茜さす」を立ち上げた他(※6)、地場の中小企業に投資する地域特化型ファンドを設立しました(※7)。
(※1)参考:JR九州「トップメッセージ」
(※2)参考:JR九州「クルーズトレイン『ななつ星 in 九州』」
(※3)参考:JR九州「西九州新幹線とは」
(※4)参考:JR九州「博多まちづくりプロジェクト」
(※5)東洋経済オンライン「JR九州を農場経営に駆り立てた『問題意識』 鉄道とは縁遠い農業、意外と共通点がある?」
(※6)参考:SankeiBiz「鉄道各社、古民家と好相性 コロナ後の需要にらみ再生ビジネス」
(※7)参考:JR九州「地域特化型ファンドの設立について」
TOTO
概要
1917(大正6)年創立。本社は福岡県北九州市で、便器や洗面器、手洗器といった衛生陶器、システムトイレ、浴槽などを扱います。
事業・特色
ヨーロッパを視察し、水洗トイレを目にした創業者の大倉和親が「快適で清潔な生活空間を提供したい」と1912年、製陶研究所を立ち上げました。
下水道の概念も広く知られていない時代でしたが、1914年に日本初の陶製腰掛水洗便器を開発。普及を目指し、1917年に北九州・小倉に東洋陶器を設立しました。原料産地や炭田、駅や貿易港への近さが立地の決め手になりました(※8)。
1927年に日本初の高級便器を開発し、1931年に帝国議会議事堂(現:国会議事堂)へ納入(※9)。1963年には日本初のユニットバスルーム(JIS規定による)をホテルニューオータニへ納めました。新しい生活文化となった「ウォシュレット」は1980年発売で世界に広がり、累計の出荷は2019年に5,000万台を突破しました(※10)。
創立の原点と位置づける海外事業では、文化・習慣の違いや、貧富・インフラに差があるため、長期戦で臨みます。M&Aに頼らず現地に合った製品を作り、じっくりブランド力を高める手法です(※11)。
海外進出は早く、1977年にインドネシア事業に着手。1979年には中国の高級ホテルなどで受注、最高級ブランドとして浸透を図り、アジア進出を加速させました。アメリカではキャンピングカーで各地を周り、4年で100万回超の実演を重ね、節水技術の高さで成果を収めました(※12)。
現在の事業は「国内移設」と、成長のエンジンの「海外住設」に加え、新領域として「セラミック」と環境浄化技術を使った「建築建材」があります。
(※8)参考:TOTO「創業者の想い」
(※9)参考:TOTO「TOTOミュージアム 所蔵品の認定遺産」
(※10)参考:TOTO「TOTOのご案内 2021-2022」
(※11)参考:産経新聞「九州の礎を築いた群像 TOTO編(8)七人の侍インドネシアで苦闘」
(※12)参考:TOTO「プロローグ 海外事業はTOTO創立の原点」
福岡ソフトバンクホークス
概要
1969年設立。福岡市に本社を置き、プロ野球チーム「福岡ソフトバンクホークス」の運営、施設経営、コンテンツ配信サービスなどを手がけます。
事業・特色
球団運営にとどまらず、「ボールパーク」と呼ぶ、スタジアム周辺でのエンターテインメントビジネスに独自性があります。
「野球運営事業」のチケット販売では、価格変動型のダイナミックプライシング導入など、先進的な取り組みをしています(※13)。球団本拠地の福岡PayPayドームは自社所有でこまめなリニューアルができ、毎年違ったシートを提供しています。
日本一のファーム施設といわれる「HAWKSベースボールパーク筑後」では、地元の自治体と連携し、地域振興にも取り組んでいます(※14)。この他「放映権」「グッズ・ライセンス」、イベントを開く「貸館」など、幅広い事業領域があります。
2020年には、福岡の新名所として次世代型複合エンターテインメント空間「BOSS E・ZO FUKUOKA」を、ドーム横にオープン。絶景アトラクションやHKT48の劇場などを集め、プロ野球チームから総合エンターテインメント企業としての飛躍を目指しています(※15)。
球団を含めたスローガンは「めざせ世界一」(※16)。球団のコンテンツを生かし、福岡発のエンターテインメントビジネスを成長させます。
ソフトバンクグループの強みを生かし、ビッグデータ・AI(人工知能)を活用。チーム編成やコンディショニングに生かす「世界一のデータ球団」を狙います。球場へのスムーズな入出場や決済を可能にする「スマートスタジアム化」にも乗り出しています(※17)。
(※13)参考:ソフトバンク「事例から学ぶダイナミックプライシング入門講座。AIがもたらす『価格』の未来とは?」
(※14)参考:筑後市「『HAWKSベースボールパーク筑後』関連情報」
(※15)参考:Business Insider「福岡ソフトバンクがPayPayドーム隣接『商業施設』を開業した理由…目指すは総合エンタメ企業」
(※16)参考:福岡ソフトバンクホークス「CSR活動」
(※17)参考:福岡ソフトバンクホークス「『福岡PayPayドーム』と、『BOSS E・ZO FUKUOKA』の飲食店へ『PayPayピックアップ』を順次導入」
久原本家グループ
概要
1893(明治26)年創業の総合食品メーカーです。本社は福岡県久山町。
事業・特色
福岡市の隣の久原村(現・久山町)で1893年、初代村長が醤油蔵「久原醤油」を開いたのが原点です。2013年には旧工場を改築。醸造専門の工場に再生され、麹(こうじ)づくりから醤油(しょうゆ)・酢・味噌(みそ)を醸造しています(※18)。
代表的な商品に「キャベツのうまたれ」、椒房庵の「あごだしめんたいこ」、「茅乃舎だし」があります。
博多ならではの美食を楽しめる「椒房庵(しょぼうあん)」、レストラン発で化学調味料・保存料無添加の「茅乃舎(かやのや)」など5ブランドを展開(※19)。地域性や歴史など文化的な背景を大切にします。2016年にはベトナムに日本料理店「KUBARA」を出店し、海外事業も始めました(※20)。
新ブランド「たべよう北海道」は、からし明太子(めんたいこ)のブランドとして「椒房庵」を立ち上げた1990年から、上質なたらこの卵を供給してきた北海道への恩返しのため、札幌市内に新会社を起こして展開。道産食材を使い、北海道の食文化を全国に届けています(※21)。
企画・製造した商品を、直営店と自社の通信販売のみで売る「製造小売業(SPA)」と、小売を通じて売る「製造業」の側面の両方を持ち、大手にないビジネスモデルを確立。SPAは顧客との距離が近いのが強みで、クリエイティブチームを社内に置く点も特色です(※22)。
新卒でも安心できる「奨学金返済支援制度」や、感性を磨ける「芸術鑑賞支援制度」、オンライン英会話の受講料補助など独自の制度があります。2020年12月時点の過去3年の実績では、新卒の定着率は100%です(※23)。
(※18)参考:久原本家グループ「会社概要・組織図」
(※19)参考:久原本家グループ「ブランド紹介」
(※20)参考:久原本家グループ「歴史・沿革」
(※21)参考:久原本家グループ 新卒採用「プロジェクトストーリー:北海道アイ 久原の本気」
(※22)参考:久原本家グループ 新卒採用「ブランド・直販モデル 久原の基本」
(※23)参考:久原本家グループ 新卒採用「久原の環境 福利厚生・各種制度」
【番外編】ユニークさ、地域密着で存在感を放つ企業も
顧客を満足させる製品・サービスを生むのは、技術力や、全国的な販売網だけではありません。福岡県の「キャニコム」はユーモアを忘れず、顧客の心の声を丁寧に拾うことで独自の存在感を放ちます。沖縄県の「りゅうせき」は離島での暮らしに不可欠なサービスを網羅的に展開し、県民のそばで寄り添います。
キャニコム
概要
本社は福岡県うきは市で、農業用・土木建設用・林業用運搬車、草刈作業車、産業用機械の製造販売を手がけます。創業は1948年、設立は1955年です。
事業・特色
1986年に発表した運搬車「ピンクレディ」や、2001年に登場した業界初の乗用四輪駆動「草刈機まさお」をはじめ、性能の高さに加え、製品のユニークなネーミングと斬新なデザインで知られます。ネーミングや産業デザインで多くの受賞歴があります(※24)。
経営スローガンは「我々は超一流のグローバル中小企業を目指す」。超一流とは、D・N・B(デザイン・ネーミング・ブランド)を生かした品質目標を指し、世界100カ国との取引、売上100億以上を目標に、グローバル展開を進めています(※25)(※26)。
同時に中小企業の良さを忘れず、開発では「ものづくりは演歌だ」「義理と人情」の精神を標ぼうしています。相手の気持ちをすくい上げ、心を込めて歌う演歌のように、顧客の苦労や困りごと、ボヤキに耳を澄まし、「心にグッとくる熱意」が感じられるような製品を生み出します(※27)。2021年に完成した新工場は「演歌の森うきは」と名づけました(※28)。
世界初のものづくりに取り組んでいるため、採用活動では「誰よりも挨拶(あいさつ)は負けない」「ネーミングに関心がある」「プレゼント心がある」「歌心がある」「デザインに興味がある」など元気でユニークな人を求めています(※29)。
(※24)参考:キャニコム「沿革・受賞暦」
(※25)参考:キャニコム「CSR・企業活動」
(※26)参考:キャニコム「キャニコムのネーミング物語」
(※27)DIAMOND online「『何なんや?何してんのコレ?』と思わせたら勝ち――『驚き』を原動力にする『演歌工場』」
(※28)参考:キャニコム「『演歌の森うきは』工場建屋デビュー!」
(※29)参考:キャニコム「人事担当からのメッセージ」
りゅうせき
概要
1950年創業。沖縄県浦添市に本社があり、石油・ガスの卸や直売などを手がけます。
事業・特色
沖縄経済復興へ情熱をささげた創業者・稲嶺一郎らが、戦後初の民間石油供給会社として1950年に創業しました。台風などで生活に影響を受けやすい沖縄のライフライン企業として、受け継がれる「社業の公共性に徹する」という精神に基づき、エネルギーを安定供給してきました(※30)。
生活や産業基盤を支える石油事業では、県民に身近なガソリンスタンド運営や、産業分野への給油サービスなどを展開。県内6カ所にある石油基地がベースです。1957年に始まった第二の事業がガスで、先進機器の導入やシステムの活用により、高付加価値のサービスを提供しています(※31)。
グループ全体の売上高と利益の約8割は、石油・ガスが稼いでいますが、ガソリン需要や石油製品の減少により、携帯電話販売やホテル運営をはじめとする「非エネルギー」に事業領域を広げています。
島しょ地域へのエネルギー供給では、目先の利益より安定供給を優先させるため、非エネルギー事業の利益で投資することを目指します。「100年企業」を見据え、売上高の目標は1,000億円に置いています(※32)。
多岐にわたる「りゅうせきネットワーク」が強みです。グループ会社ではカー用品販売や人材サービス、携帯電話販売、ホテル運営、介護サービス、ハウジングなどの事業を担当。県民に身近なサービスをワンストップで提供します。ガソリンスタンドとコンビニエンスストアの複合店舗も増やしていく方針です(※33)。
(※30)参考:りゅうせき「メッセージ」
(※31)参考:りゅうせき「部門紹介」
(※32)参考:日本経済新聞「りゅうせき社長、売上高1000億円へ海外で非エネ事業も 戦略 トップに聞く」
(※33)参考:りゅうせき建設「セブンイレブン併設複合店舗 エネオスうるま与勝店オープン」
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【ライター:松本浩司】
(Illustration:matsukiyo8379/Shutterstock.com)