「急成長ベンチャー」「10年連続成長」──。就職活動の際に聞く、こうした勢いのある言葉たち。その裏側には緻密な戦略があると想像する人もいるのではないでしょうか。
「確かに、事業は順調に成長を続けています。ただ、これはキレキレの戦略で実現した数字ではありません」
そう語るのはキュービック代表取締役・創業者の世一英仁さん。個人で始めたデジタルメディア事業を、年間123億円の売り上げを誇る同社の主力事業へと成長させ、新規事業にも挑戦しています。
世一さんが力を入れているのが、若手社員の「抜擢(ばってき)」。重要なポジションに登用することで、さらなる成長軌道を描こうとしています。
なぜ抜擢は企業を大きくするのか。成長の方程式に、ワンキャリ編集部が迫りました。
連続成長はキレキレの戦略ではなく、現場から生まれている
──キュービックは平均年齢28歳と若い組織ながら、この7年で33倍成長を達成しています。世一さんはその成長の秘訣(ひけつ)はどこにあると考えていますか?
世一:確かに、コアであるデジタルメディア事業を中心に、事業は順調に成長を続けています。ただ、これはキレキレの戦略で実現した数字ではありません。現場から生まれたタネを磨いてきた結果です。
世一 英仁 (よいち ひでひと):キュービック 代表取締役 CEO
1981年埼玉県さいたま市生まれ。東京大学 法学部卒業後、弁護士を目指して司法試験の勉強をしながら、デジタルメディア事業を開始。2006年に事業を法人化する形でキュービックを創業、代表取締役社長に就任。金融・人材・美容・士業などの分野で複数のメディアを展開し、事業を成長させる。
キュービックは2006年の創業時から学生インターンを仲間に加えるなど、若いメンバーとともに成長してきました。その過程で感じたことは「会社の成長が続くかどうかは、変化対応力や意思決定力を高めたメンバーが現場に何人いるかで決まる」。これは100%間違いないです。
近年は経験のない若いメンバーを「抜擢」して、重要なポジションを任せています。
──抜擢された若手は、どのようなポジションにいますか?
世一:新卒2年目のメンバーが新規事業を担当し、芽が出たので事業責任者になったことがあります。年間123億円の売上があるデジタルメディア事業をリードするのは入社5年目です。20代半ばのマネージャーも少なくありません。
経営陣が「ベンチャーなんだから、もっとやっちゃおう」と前を向いて強い意思決定をするようになり、順当な昇格ではない「抜擢」をする傾向が加速しました。
──活躍のチャンスがあることは若手には魅力的に映ると思いますが、失敗するリスクもありますよね。それでも経営陣が抜擢に力を入れるのは、どうしてでしょうか?
世一:成功確率が70%だと「抜擢」とはいえないので、うまく行く確率は五分五分、もしくはそれ以下のこともあります。
その分、強烈なバックアップをしています。例えば戦略の立て方に経営陣がフィードバックを出したり、メンバーとの関係構築は人事やゼネラルマネージャーが支援したり。抜擢文化が定着しているので、エラーがあっても「まったく、もう……」と、周りが自然とカバーする空気になっています(笑)。
──それは心強いですね。
世一:もちろん、全てをサポートするのも、それはそれで違うと思いますが、成長機会を提供できるようにしています。
私自身、会社を経営する中で、成長を実感できました。一方で、20代半ばでも責任のあるポジションで活躍する若いメンバーを見ていて「自分は同じ年齢のとき、ここまでできていなかったな」とも思います。1人1人を心からリスペクトしている仲間たちがいるからこそ、抜擢して新規事業を任せようと決心できました。
事業の成長よりも、人間としての成長の方が豊かさを感じられた
──世一さんは経営をする中で、どのような成長を実感できたのですか?
世一:創業から10年弱たって30歳を過ぎたとき、自分より若い起業家が成長しているのを見聞きするようになりました。競争に勝つことが目的ではなかったんですが、「人生これでいいのかな」と考えて「頑張れるのに頑張らずに終わると後悔するかも」と思い、会社を大きくする方向にかじを切りました。
事業を大きくするプロセスではいろいろな苦労があって、古株社員と泣きながらお酒を飲んだこともありました。事業の成長もうれしいですが、より手放しで「良かった」と言えるのは、自分の人間としての成長を実感できたことですね。
──人間としての成長? どのような場面で実感するのですか。
世一:一緒にいて楽しい、若くてもリスペクトできるメンバーが周りに増えたことに表れています。10年前の自分の人としての器を考えると、そういう人たちは一緒に働いてくれなかったでしょうから。私にとっての精神的な豊かさとは、「一緒にいたい」と思える人が周りにどれだけいるかです。
──目の前にいる人のポテンシャルを信じ、リスペクトするという点では、コアバリューの「ヒト・ファースト」にもつながる気がします。
世一:そうですね。ただ、誤解のないようにお伝えすると、「ヒト・ファースト」は単に「人を大事にすること・優しくすること」という意味ではないんですよね。
──どういうことでしょう?
優しさだけでない「ヒト・ファースト」の真意。目の前の人を、前向きに疑う
世一:その人のインサイト(深層心理)に向き合って、本質的な課題解決に取り組もうとする。ユーザーのことをユーザー以上に理解する。一緒に働く人のことを、その人以上に考え抜く。そうした姿勢のことを「ヒト・ファースト」と呼んでいます。
──粘り強く考えることを求める側面もあるんですね。
世一:人間って言葉にしたことが本当に正しいとは限らないじゃないですか。ウソをついているわけではなく、自分自身でも「何か違うな」と思っていても言語化できていないようなケースです。
だからこそ、本人の言っていることを「本当かな?」と前向きに疑うことが重要なんです。表面的なニーズではなく、本人も気付いていないような深層心理が「インサイト」です。
──なるほど。インサイトを獲得するための仕組みはありますか?
世一:自社のフレームワークである「CUEM(キューム)」です。マーケティングだけでなくビジネス全般で使えるもので、評価基準や人事の現場でも浸透しています。
メンバーたちは「なぜあの行動をとったのか」「本質はどこか?」という問いを解くために、活用しています。成果が出た取り組みは「Best CUEMing賞」で社内表彰しています。
キュービック独自のフレームワーク「CUEM」(※引用:キュービック:CUEM)
──どのようなものが受賞していますか?
世一:脱毛系のデジタルメディアを担当していた社員が受賞した例があります。ユーザーからは「とにかく安いサービスを探していた」という声がありましたが、実際に申し込んだサービスは最安ではなかったそうです。
そこで、「値段よりも大事なもの」を探りました。「声よりファクト」と考えるメンバーで、ユーザーの声を真に受けず「本当はこうじゃないのか」と意識してインタビューを重ねました。
こうしてインサイトに迫ることで、本当に刺さるコピーを作れて、大きな成果を導きました。このプロセスが「CUEM」です。看護師向けのデジタルメディアでは、看護師の方をマーケターとして採用しました。そうして作ったメディアは、やはりユーザーへの響き方が違うんですよ。
「ユーザーのことが分からないと気持ち悪い」
──インサイトにこだわることがキュービックの強みだというのは分かりましたが、そこまでこだわるのは、どうしてでしょうか。
世一:やろうと思えば、適当にやってもサイトやコンテンツは作れてしまうものですが、事業を始めた当時、私は純粋に「ユーザーのことが分からないと気持ち悪い」と感じたんです。
デジタルメディアのビジネスモデルは、そのメディアにあるリンクから広告主のサイトにユーザーがアクセスすることで報酬を得るケースが多いですが、遷移率は2%〜5%。つまり、90%以上は無視されているわけです。リアルな現場だと厳しいですよね。もっとユーザーを知らないといけない。だから、直接話を聞きに行くことを大事にしてきました。
それに、デジタルメディアの仕事は、工夫を重ねた結果が数字で分かるのが楽しいんです。今でも、自分でメディアを立ち上げて最初のアクセスを示す「1人」の数字が出た瞬間、申し込みが入ったとき、売り上げが立ったシーン、あの震える喜びは忘れていません。経営しなくていいなら自分でメディアをやりたいくらい、好きなんです(笑)。
──「ユーザーのことを知りたい」という世一さんの原点が、今ではキュービックの事業上の強みになっているのですね。
世一:そうです。創業からの16年間で、確実にユーザーに届ける自社の技術やノウハウが蓄積されてきたことで、クライアントに頼ってもらえるようになりました。また、ネット広告の市場規模も拡大していることも追い風に、デジタルメディア事業は絶好調です。
既存事業が絶好調な今こそがチャンスだと思い、新規事業開発に本腰を入れています。強みを生かして既存事業からエース級の人材を集め、予算を投入し、不退転の覚悟で挑んでいます。
「仕事には人生を変える力がある」。ユーザーに直接価値を届けられる新規事業を
──新規事業は、どのような構想があるのでしょうか?
世一:人材、金融、法律相談などいくつかの領域でデジタルメディアやマーケティング事業を展開しており、一定のユーザーやトラフィック数が集まるまでに成長しました。これをベースにして、広告事業者としてクライアントに広告成果で貢献するだけでなく、自分たちがドライバーになってユーザーに向き合える事業をつくるのが悲願です。
──特に注力したい領域はありますか?
世一:リソースを集中させる上では、人材やキャリアです。広く組織開発を含めて、新規事業開発室で準備しています。もともと、人のインサイトにフォーカスしてきましたし、Great Place to Work Institute Japanの「働きがいのある会社」ランキングで5年連続選出されるなど、組織づくりの面でも対外的に評価されてきた自負はあります。
──なるほど。確かに強みが生きそうです。進捗(しんちょく)はいかがですか?
世一:まだ本格始動前ですが、軌道に乗れば非常に価値のある事業だと思います。
仕事には人生を変える力があります。私自身、そう感じる経験をしてきました。でも、これを信じている人は日本では少ない気がします。多くの人が信じられる世の中を、キュービックのマーケティング力やインサイト獲得力でつくっていきたいですね。
──今の仕事を「楽しくない」と思っている人に「本当はこういう仕事を欲しているのでは?」とインサイトを探しに行くようなアプローチが、キュービックならできそうですね。
世一:その通りです。ユーザーインタビューでも、社内でも実践しています。「どのようなときにしんどいの? 楽しいの?」という風に。インサイトにこだわるコミュニケーションが社内文化になっています。
分かりやすいスキルを求めると、成長はむしろ遠回りになる
──これから新規事業を伸ばしていく上で、どのようなスキルを持った人が求められるのでしょうか?
世一:あるプロダクトがマーケットにフィットしている前提で言えば、新しいものが生まれても成長が止まってしまう理由は、「組織をうまく作れなかった」ということが多いです。つまり、事業をグロース(成長)させる力と、組織をまとめる力をセットで持っている人が日本に足りていないと思うんです。
──事業をグロースさせる力と、組織をまとめる力。具体的にはどのようなスキルでしょうか?
世一:定量的なテクニカルスキルと、定性的なソフト(ポータブル)スキルがあると思います。テクニカルスキルは、キュービックでは事業仮説を持ってPDCAを速く回し、事業を成長させる力が代表格です。
──そうしたスキルはビジネスの基本ですし、求める学生は多いと思います。
世一:確かにそうなのですが、最近は社会が不安定だからなのか、分かりやすいテクニカルスキルを求める人が増えている気がします。「1つの領域を極めたい」のような。ただ、特にデジタル領域では3~5年で使い物にならなくなったり、機械に代替されたりします。短期の生産性だけを追求したら、成長はむしろ遠回りになることもあります。
だからこそ、ソフトスキルが重要になってきていると思います。
──ソフトスキルとは、どのようなものでしょうか?
世一:人に向き合う「インサイト」もそうですが、領域をまたいだ調整業務やマネジメント、目的に向かう力などです。キャリアにおいてはめちゃくちゃ重要です。
──確かに。どのようなビジネスでも実現に向けて汗をかける人は重宝されますよね。
世一:若いときに抜擢されると、ソフトスキルを磨く経験ができます。事業の管理も人の管理もできないといけませんし、戦略作りや、法務や会計といった各部門との連携も欠かせません。小さなサイズでも事業を見渡して強くする経験を積むと、ソフトスキルは身に付きやすい。どこでも通用するビジネスパーソンになれます。
目の前の扉を開くか、見なかったことにするか。そこでキャリアが変わる
──新規事業には若手も挑戦していると冒頭にお聞きしましたが、抜擢される人の特徴はありますか?
世一:社内で表彰されるようなメンバーに共通するのは、「越境」をちゃんとできる人材です。与えられたミッションを超えて隣の部署にガンガン相談に行ったり、エンジニアやデザイナーに話を聞きに行ったり、管理職層に「もっとこうしたらいいんじゃないか」と言ったり。
──「与えられた仕事をちゃんとやろう」という姿勢ではいけない、ということですね。
世一:初めはそれでもいいですが、仕事を続けていると「もしかしたら越境したら面白そうだな」「越境してここまでやってみたら喜ばれたな」といった、扉が開く瞬間は絶対にあります。そのときに、見なかったことにして扉を閉じてしまうか、一歩入ってみるかの違いは大きいですね。
──採用などで、それをどうやって見抜きますか?
世一: 少し話が変わりますが、私は読書が好きではなかったんですよ。
──え、そうなんですか!? 意外です。
世一:もともと恐怖症というくらい大嫌いだったんですけど、仕事をする中で知りたいことが増えると、苦にならなくなりました。
何が言いたいかというと、好奇心や探求心が大事だということです。それがある人は成長が早いので、「面接では最近新しく始めたことを教えてください」と聞くようにしています。私もキュービックを創業したときは、好奇心と探求心の赴くまま動いていました。
一方で、どんなに優秀でも、事業をゼロから始める「ゼロイチ」を任せられて、つらくなる人はいます。屋台骨のデジタルメディア事業を担う人材も重要なので、適材適所が大切だと考えています。配属自体はその人の特性を見て決めますが、キュービックでは異動希望があれば8割方通ります。
──新規・既存事業に関係なく、人材に求めるポイントは、他にどのようなものがありますか?
世一:KPIや生産性、効率性といった数字の魔力に引っ張られすぎないために、ユーザー、品質や本質、クライアントに真っすぐ向き合うことを自然にできる人です。器用で賢い人をそろえるというより、自分が作るものにこだわる職人魂やプライドを持てる人を集めたいです。
──キュービックは100人以上の長期インターン生がいることで知られています。「越境」できる人材を育てたいなら、インターン生がそのまま社員になってもらうことが近道のような気もするのですが、新卒採用に力を入れるのはなぜでしょうか?
世一:もちろんインターンを2年経験したら、入社時に3年目くらいのアドバンテージはありますが、未経験でも大きく活躍するケースが多くなっています。立ち上がりに時間がかかってもいいんです。
──急ぐ必要はないということですね?
世一:キュービックは長期的な価値に向き合えるので、将来の大きな成長を大事にしています。短期で成果を求められる上場企業とは違います。インサイトにこだわり、正面からユーザーにぶつかるマーケティングをする会社は多くありません。新卒で一から人材を育てる方が、実は近道だということもあります。
成長を目指すなら、違和感のある環境を選んでほしい
──就活や将来に不安があり、自分にどのような仕事が合うのか分からない学生も多いです。将来が見えないという人にアドバイスをお願いします。
世一:会社の雰囲気や人で選ぶ学生さんは多いはずで、間違いではないと思います。ただ「成長したい」と思うのなら、違和感のない環境を選ばない方がいいと思いますね。
──どういうことですか?
世一:社会に出る前の学生さんからすると、「成長=今持っていないスキルを身に付ける」というイメージが強いと思います。言ってみれば「足し算」の成長です。ただ、私が思う本当の成長は「引き算」なんです。自分を壊す、これまでと違う価値観に頭を殴られるような感覚から価値観を再構築するのは、違和感のある環境だからできることです。
──同じ価値観を前提にして、レールの上に乗ったような連続的な成長をするのか。もしくは、価値観を破壊して、まだ世にないイノベーションを生み出すのか。スティーブ・ジョブズも引き算を大切にしていました。
世一:「まったくストレスがない」という職場だと、スキルは身についても価値観のアップデートは難しい。自分の理解が追いつかないような違和感があれば、仕事を続けていけば出会える「扉」で花開くかもしれません。「前向きな違和感」を大事に、会社を選んでみてはどうでしょうか。
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