「本当は地元で働きたいけど、とりあえず東京かな……」と思っていませんか?
「就活も脱・東京だ!」とか、「働き方は多様化している!」とか耳にはしても、就活で実際に飛び交う情報は東京の企業が多くで、どうしても目が向きがちです。
一方で、どの地域にも圧倒的な個性を放つ企業はあります。
地元愛にあふれ、地域の課題を解決しようとするひたむきさ。地域密着だからこその信頼と、愛され度と、強さ。若手でも安心して挑戦できる、ユニークな仕組み──。目を凝らせば、そんな知られざる顔が浮かぶかもしれません。
ワンキャリア編集部は、会員の学生が「お気に入り」に登録している企業の数を、地方ごとに集計。大学のある地域に本社を構える企業を対象に、30位までのランキングにまとめました。
今回の近畿編では、日本を代表する機械・日用品・食品のメーカーなどが多く名を連ねました。言わずと知れた創業者をもつ企業も少なくなく、重ねた苦労や、旺盛な研究心、たくましい起業家精神など、胸を打たれるストーリーがあります。
就活の情報収集も足元から。コロナ禍で世の中の物差しが変わる今、「灯台下暗し」で後悔しないためにも、身近な選択肢を探してみませんか?
サントリーホールディングス
概要
1899年、ぶどう酒の製造販売で創業。2009年に持ち株会社化しました。大阪市に本社を置き、ソフトドリンク、酒類、健康・スキンケア食品、花・野菜などを製造販売します。
事業・特色
グループ企業は303社に及び、サントリーグループの酒税控除後の連結売上収益は2兆1,083億円(ともに2020年12月31日時点)です(※1)。
創業者でウイスキーづくりに挑んだ鳥井信治郎は、「やってみなはれ」の言葉で有名です。1923年、日本初のモルトウイスキー蒸溜所(じょうりゅうじょ)の建設に着手。「良質な水」と「自然環境」にこだわって候補地を探し、名水が手に入る京都郊外の山崎を選びました。
1963年から発売を開始したビールも、その約9割を占める水にこだわります。京都などにある拠点は「天然水のビール工場」と呼んでいます。
サントリーのものづくりの源泉は「水」。森からの天然水が長く育まれる環境を整えようと、2003年から「天然水の森」と呼ぶ森づくり活動を展開。木々のDNAにまで配慮した植樹、生態系のバランスを考えた間伐など、約9,000ヘクタールで取り組んでいます。「工場で汲(く)み上げる地下水よりも多くの水を生み出す森を育む」を目標にしています(※2)。
飲料の研究を重ねたことで、新規事業へも参入を果たしてきました。
大麦やぶどうなど原料となる植物を研究してきたことがきっかけで、1989年に花苗事業を始めました。2004年には「不可能」の代名詞とされてきた青いバラの開発に世界で初めて成功。今では家庭菜園向けの野菜苗や青果物の販売にも広がっています(※3)。
ウイスキーやビール、ウーロン茶に含まれるポリフェノールの研究も続けたことで、「セサミンE」が1993年に誕生。健康食品事業の礎を築きました。
(※1)参考:サントリー「企業概要」
(※2)参考:サントリー「サントリーグループ『水理念』を発表しました」
(※3)参考:ホームセンターを遊び倒すメディア となりのカインズさん「あのサントリーが“本気で”野菜や花を作るワケ」
日清食品
概要
1948年設立。大阪市に本社を置き、即席めんやチルド・冷凍食品などの製造・販売をしています。
事業・特色
2021年3月期連結決算では、純利益・売上高とも過去最高で、誕生から50周年を迎えた「カップヌードル」は4年連続で国内の売上記録を更新しました(※4)。
グループのビジョンは「EARTH FOOD CREATOR」で、ベースには「食足世平」「食創為世」「美健賢食」「食為聖職」の4つの創業者精神が息づいています(※5)。
創業者の安藤百福は、世界に新しい食文化を広めた立志伝中の起業家として知られ、NHK連続テレビ小説のモデルにもなりました。終戦後の食糧難を目の当たりにし、大阪府池田市の自宅庭に建てた小屋で研究に没頭。1958年、世界初のインスタントラーメンの「チキンラーメン」を世に送り出しました(※6)。
1971年にはカップヌードルを発売。今では累計販売500億食を超えるブランドに成長しました(※7)。インスタントラーメンは総需要1,000億食という世界食に育ちました。
二代目の安藤宏基社長は「打倒カップヌードル」を掲げ、「どん兵衛」「やきそばUFO」などヒット商品を展開。三代目の現社長・安藤徳隆氏は、「既存事業の深掘り」と「新規事業の探索」の両立を進め、インスタントラーメンの開発などで培った技術を基にカロリーや塩分、糖質などがコントロールされた「完全栄養食プロジェクト」を手がけています(※8)。
2020年度からは、自律的なキャリア形成を後押しし、健全な社内競争を生み出そうと、手上げ制の企業内大学「NISSIN ACADEMY」を設立しました。ハングリー精神のある、将来の経営者やリーダーを育てます(※9)。
(※4)参考:KYODO「日清食品HD、過去最高益 巣ごもり需要で即席麺好調」
(※5)参考:NISSIN CAREER RECRUITMENT「ABOUT US」
(※6)参考:日清食品「安藤百福クロニクル」
(※7)参考:日清グループ「『カップヌードル』ブランドが、発売50年目に世界累計販売500億食を達成」
(※8)参考:BSテレ東「偉大なる発明を超えろ! 日清食品 強さの秘密」
(※9)参考:日清食品「働く環境」
阪急阪神ホールディングス
概要
1907年創業で、大阪市に本社を置きます。2006年、阪急電鉄や阪神電鉄など6社の持ち株会社制に移行しました。
事業・特色
ベースとなる都市交通(鉄道)のほか、不動産、エンタテインメント、旅行など7つのコア事業領域があります(※10)。2025年までの長期ビジョンは「関西で圧倒的No.1の沿線の実現」。不動産では、長年のノウハウを生かした海外事業も急成長しています。
開業当初から、良質な住宅や商業施設などの沿線開発を重ね、新たな需要を生み出してきました。阪神タイガースや宝塚歌劇など全国区のエンタメも創出し、関西の発展やまちづくりをリード。沿線では、関西で人気の高いエリアを多く抱えます。
2008年、スタジアム跡地にできた「阪急西宮ガーデンズ」は西日本最大級のショッピングセンターで、全国で1、2を争う顧客満足度を誇ります(※11)。
日本最大級の顧客満足度調査(2020年度)では、阪急電鉄が近郊鉄道の部門で12年連続1位。宝塚歌劇団がエンタテインメントの部門で、阪急交通社が旅行部門でそれぞれ2位(2019年度)になるなど、全国的にブランド力の高さが知られています(※12)。
関西圏の将来を左右する大プロジェクトも手がけます。リニア中央新幹線の開業で巨大経済圏を創造する国の「スーパー・メガリージョン構想」を背景に、阪急沿線と新大阪駅、関西国際空港とを結ぶ新線建設を目指しています(※13)。
関西の経済の中心地・梅田の価値を高めるプロジェクトもあり、大規模ビルを建て替える「梅田一丁目一番地計画」では、道路上空を利用できるよう法改正にもつなげました。
(※10)参考:阪神ホールディングス株式会社「グループの事業領域」
(※11)参考:株式会社矢野経済研究所「主要ショッピングセンターにおける消費者利用満足度調査を実施(2020年)」
(※12)参考:阪急阪神ホールディングス「グループの特徴と強み」
(※13)参考:阪急阪神ホールディングス Recruiting SITE「新線の事業化で沿線価値のさらなる向上、ひいては大阪・関西、日本の発展にも貢献したい #5 新線プロジェクト」
ユー・エス・ジェイ
概要
大阪市に本社を置き、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を運営しています。1994年に企画・調査会社「大阪ユニバーサル企画」を設立、1996年に商号変更しました。
事業・特色
「東のディズニー、西のUSJ」ともいわれるUSJは、海外からも注目されるテーマパークであり続けるため、多彩な職域があります。
ゲストと接して現場を運営する「オペレーション本部」や、ショーやイベントの制作・運営などをする「エンターテイメント本部」などに加え、ビジネス戦略の策定やコンテンツ開発を担う「マーケティング本部」も充実しているのが特色です(※14)。
2001年のオープン時は入場者数1,100万人を超えたものの、翌年は700万人台まで減少。低迷が続き、2005年には産業再生法の適用を申請しました(※15)。
外部からマーケターを招いて改革に乗り出し、「映画専門」のカラーをなくし、家族で楽しめるテーマパークにシフト。2014年には『ハリー・ポッター』のエリアをオープンさせ、V字回復への道筋をつけました。
2015年度には東京ディズニーシーを超え、1,390万人が訪れる世界第4位のテーマパークに生まれ変わりました。これまで『ワンピース』『妖怪ウォッチ』『鬼滅の刃』など人気コンテンツを次々と取り込んできました(※16)。
知的財産戦略に力を入れる、同じ関西勢の任天堂とタッグ。2021年には「スーパー・ニンテンドー・ワールド」をオープンさせ、コロナ後を見据えた集客力強化を図りました(※17)。
(※14)参考:USJ RECRUITING WEB SITE「OUR TEAMS」
(※15)参考:産経新聞「夢洲IR波及効果6900億円 USJの教訓生きるか」
(※16)参考:SankeiBiz「不振からV字回復の『USJ』 社員のこだわり一蹴した立役者の破格戦略」
(※17)参考:日本経済新聞「USJ、マリオに託す『コロナ後』 任天堂エリア開業」
【番外編】独自性のある事業・制度も関西ならでは?
ランキング外にもある魅力的な企業として、今回は「大日本除虫菊」「ゆめみ」の2社をピックアップ。どちらも事業や制度の独自性が光っており、関西ならではのユニークな発想がベースにあるのかもしれません。
大日本除虫菊
概要
創業は1885(明治18)年、設立は1919(大正8)年です。大阪市に本社があり、家庭用殺虫剤、衣料用防虫剤などの製造・販売をしています。
事業・特色
渦型の蚊取り線香や殺虫剤「キンチョール」などの商品や、ユニークなテレビCM、ニワトリの「金鳥」の商標で知られます。
創業者の上山英一郎は1890(明治23)年に、世界初の棒状蚊取り線香を発明。1902年には渦巻型蚊取り線香(金鳥の渦巻)を発売しました(※18)。
「金鳥の渦巻」は画期的なロングセラー商品として国からのお墨付きも得ています。2011年には「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(経済産業省製造産業局長賞)」に、2013年には国立科学博物館から「世界初の除虫菊を含む蚊取り線香及び関連資料」として「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に、それぞれ登録されました(※19)。
事業の出発点になったのは原産地がユーゴスラビア(現・セルビア共和国)の除虫菊でした。アメリカの植物会社から除虫菊の種を入手した上山英一郎が研究を重ね、生産・輸出していました。やがて1930年ごろ生産量が世界一に。長年に及ぶ関係強化や友好親善の証として、社内に「在大阪セルビア共和国名誉総領事館」が置かれています(※20)。
(※18)参考:大日本除虫菊「金鳥のあゆみ 創業~明治時代」
(※19)参考:大日本除虫菊「金鳥のあゆみ 平成時代」
(※20)参考:大日本除虫菊「除虫菊が結ぶセルビア共和国と金鳥 『除虫菊』のふるさと、セルビア共和国との関係について」
ゆめみ
概要
2000年に設立。京都市に本社があり、モバイルサービスの受託開発・制作・コンサルティング、デジタルメディアコンテンツ運用などを手がけます。
事業・特色
国内最大のチャットポータルサイト「ゆめみ亭」を1998年に個人で立ち上げ、運営していた片岡俊行社長が創業しました(※21)。
法人企業と手を携え、インターネットサービスを共創型で提供していくスタイルです。日本マクドナルドのオフィシャルメディア運営や、NTTドコモ「dmenuニュース」のアプリ開発など、身近なサービスの開発・運営を手がけています(※22)。リリース後も継続的なサービス進化に携わり、クライアントと10年単位の長い関係を築いています。
年次有給休暇とは別に、特別休暇を無制限に取得できる「有給取り放題制度」、書籍やイベントなど、インプットに必要なあらゆる費用を無制限で利用できる「勉強し放題制度」をはじめ、ユニークな制度が多くあります(※23)。
(※21)参考:ゆめみ「社名の由来」
(※22)参考:ゆめみ「事例」
(※23)参考:ゆめみ「数字でみるゆめみ」
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【ライター:松本浩司】
(Illustration:matsukiyo8379/Shutterstock.com)