「本当は地元で働きたいけど、とりあえず東京かな……」と思っていませんか?
「就活も脱・東京だ!」とか、「働き方は多様化している!」とか耳にはしても、就活で実際に飛び交う情報は東京の企業が多くで、どうしても目が向きがちです。
一方で、どの地域にも圧倒的な個性を放つ企業はあります。
地元愛にあふれ、地域の課題を解決しようとするひたむきさ。地域密着だからこその信頼と、愛され度と、強さ。若手でも安心して挑戦できる、ユニークな仕組み──。目を凝らせば、そんな知られざる顔が浮かぶかもしれません。
ワンキャリア編集部は、会員の学生が「お気に入り」に登録している企業の数を、地方ごとに集計。大学のある地域に本社を構える企業を対象に、30位までのランキングにまとめました。
今回は中部編。製造品出荷額が全国の約15%を占め、43年連続日本一の「ものづくり県」として君臨する愛知県(※1)を筆頭に、製造業で日本を支えているともいえる地域です。ランキングでは、「世界のトヨタ(トヨタ自動車)」やその関連企業、自動車部品のメーカー、インフラ企業などが名を連ねました。
▼トヨタの関連企業はこちらでチェック
・【子会社特集:トヨタ自動車編】自社製品に誇りを持った仕事をしたい方へ。トヨタを支える子会社たちの魅力とは?
首都圏にも関西圏にもアクセスしやすいエリアですが、就活の情報収集も足元から。「灯台下暗し」で後悔しないためにも、身近な選択肢を探してみませんか?
(※1)参考:愛知県 産業立地通商課〜あいちの産業立地〜「あいちの概要 産業構造」
JR東海(東海旅客鉄道)
概要
愛知県名古屋市に本社を置き、東海道新幹線や在来線を運行します。旧国鉄の分割・民営化により、1987年に設立されました。
事業・特色
経営理念は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」(※2)。東京から大阪にかけてのマーケットエリアは、日本の人口・国内総生産(GDP)の約6割をカバーします(※3)。
運輸業でグループ全体の営業収益の77%を稼ぎます。運輸収入のうち、「大動脈」「ドル箱」と呼ばれる東海道新幹線が92%を占めています(いずれも2020年3月期)(※4)。
鉄道事業との相乗効果が望める分野で流通業や不動産業も営み、名古屋駅と一体となった高層複合ビルを開発、百貨店、ホテルなどを運営しています。連結子会社の営業収益は1989年度で526億円でしたが、2019年度には約12倍の6,366億円へ成長しています(※5)。
一方、数十年先を見据えた挑戦もあります。
東海道新幹線は開通から60年近くが経過。経年劣化や大規模災害への備えから、営業速度500km、東京と名古屋を40分で結ぶ「超電導リニアによる中央新幹線」の計画を進めています。注目の「国家プロジェクト」です。
また国内の高速鉄道市場が成熟期を迎える中、関連技術の向上や機器の安定調達を図る上でも、海外展開による市場拡大が求められています。ワシントンD.C.からニューヨークに超電導リニアシステムを、テキサス州のダラスからヒューストンに東海道新幹線システムの導入を、それぞれ提案しています(※6)。
(※2)参考:JR東海「経営理念」
(※3)参考:JR東海 採用・インターンシップ情報「キーワードで読みとくJR東海」
(※4)参考:JR東海「収益構造」
(※5)参考:JR東海「JR東海のあゆみ」
(※6)参考:JR東海 採用・インターンシップ情報「海外展開」
日本特殊陶業
概要
1936年設立。愛知県名古屋市に本社があり、エンジンなどで「ライター」の役割があるスパークプラグや、ニューセラミックなどを製造・販売します。
事業・特色
日本の貿易業界の草分けともいうべき「森村組」をルーツとする、世界最大級の陶磁器産業の企業集団「森村グループ」から派生しました。東海地方は古くから焼き物生産が盛んで、このグループには、現在のノリタケカンパニーリミテド、TOTO、日本ガイシなど世界的な企業があります(※7)。
日本特殊陶業はスパークプラグ世界トップのシェア。連結売上高は2021年3月期で4,275億円に上り、事業別の売上では79%が自動車関連です(※8)。
海外に強いのが特色で、1959年のブラジルで海外初進出を果たし、現在は21カ国に40拠点を構えます。海外売上比率は85.5%に達し、海外出向を経験した人は12.2%(※9)。今後は新興国での市場拡大を狙います。
人工骨や酸素濃縮装置といった医療関連製品、携帯電話にも使われる半導体パッケージなど、暮らしに身近な製品も製造。「究極のエコエネルギー」である水素を家庭でも活用するため、燃料電池の開発にも力を入れています(※10)。
2009年からは、全社横断型で新事業を推進するDNA(Dynamic New Approach)プロジェクトを開始(※11)。公募型で、年次や経験に関係なく参加できます。企業間で設備や人材を共有化し、工場の「困った」を解決するシェアリングサービスプラットフォームなど、アイデアが次々と誕生しています。
(※7)参考:日本特殊陶業「森村グループについて」
(※8)参考:日本特殊陶業「会社概要」
(※9)参考:日本特殊陶業「数字でわかるニットク」
(※10)参考:日本特殊陶業「新時代への挑戦」
(※11)参考:日本特殊陶業「新事業への挑戦」
中日本高速道路(NEXCO中日本)
概要
2005年に設立。高速道路の建設や保全・サービス、サービスエリア運営などを行います。本社は愛知県名古屋市です。
事業・特色
「建設事業」では首都から中部、近畿の大都市圏を結び、日本の中核を担う高速道路ネットワークを築きます。世界最高水準で、環境に配慮した技術が強み。計画・調査から用地取得、損失補償から建設工事までスケールの大きな業務です。
「保全・サービス事業」ではモニタリングなど交通管制や点検、渋滞・事故対策を担当。「サービスエリア(SA)事業」では、従来の「移動の通過点」から「目的地」になるような施設を企画・運営します。
新規事業にも積極的で、高速道路外で初となる複合商業施設「テラスゲート土岐」の営業を2015年に始め、2021年には宿泊機能を加えました。コンセプトは「高速道路沿線自治体と連携した地域開発」。温浴施設と地域連携施設を、連結子会社が運営します。
海外への進出にも本腰を入れ、日本の高速道路会社としては初めて、海外のSA運営に参入。台湾のSAの一部フロアを「和」をテーマにリニューアルし、人気の日本食が楽しめる飲食店舗や、日本各地の魅力を発信する物販の店舗を誘致しました(※12)。
今後もアジアや北米で多彩なビジネス展開の予定があり、職種を問わず海外で活躍するチャンスがあります。
(※12)参考:中日本高速道路「日本の高速道路会社で初めて!台湾のサービスエリア運営に参入 ~『和』をテーマにした飲食物販フロアが2020年1月18日にオープン~」
スズキ
概要
1920年、鈴木式織機として設立。本社は静岡県浜松市で、1954年に鈴木自動車工業へ、1990年にスズキへ社名を変更しました。
事業・特色
トヨタと同じく織機製造が原点で、その後は二輪車のメーカーとして発展しました。
戦後は、自転車にエンジンを搭載した「パワーフリー号」(1952年)がいち早く社会に迎えられました。日本のモータリゼーションの先駆けとなった、量産軽自動車として日本初となる「スズライト」で脚光を浴びました(※13)。
「四輪事業」では、街路が狭い日本やアジア、ヨーロッパで求められるコンパクトカーや新興国の販売網が強みです。
乗用車市場が急成長するインドで、シェア47.7%と圧倒的な存在感を誇ります(2020年度)。パキスタンで49.7%、ミャンマーで36.7%、ブータンで41.5%などと、アジアを中心に販売シェア首位の国が多くあります。18の国・地域で拠点を持ち、相手国をパートナーと位置づけ、現地の経済発展や日本式経営の移転も図っています(※14)。
このほか、スクーターから大型車までの「二輪事業」、船外機の「マリン事業」、セニアカーで知られる「電動車いす事業」があります。
2019年にトヨタと資本提携し、2021年には「浜松の中小企業のおやじ」を自任する鈴木修前会長が2021年に勇退(※15)。自動車業界に押し寄せる新潮流「CASE」(Connected=接続性、Autonomous/Automated=自動化、Shared=共有化、Electric=電動化)に、新体制で挑みます。
(※13)参考:GAZOO「スズキ――軽自動車のパイオニア (1955年)」
(※14)参考:スズキ「グローバル展開」
(※15)参考:朝日新聞「スズキ牽引43年 『中小企業のおやじ』鈴木修氏が退任」
【番外編】東海地方以外の注目企業
ランキングに登場した多くが東海地方の企業でした。ですが、北陸・甲信地方にも魅力的な企業はあります。番外編ではその1例をご紹介します。
白山
概要
1947年創業で、2016年に石川県金沢市に本社を移転。通信・電力の接続用品や光通信関連製品、金属接合機械の開発・製造・販売などを手がけます。
事業・特色
家庭用電話機の避雷器から社の歴史は始まりましたが、その需要が激減した1996年から、光ファイバーの接続技術に照準を定め、「光事業」の開発を推進。
現在では、光通信に必要なコネクタ部品「MTフェルール」が世界シェア2位になりました(※16)。国内外のデータセンターなどで採用され、トップを目指します。経済産業省の2020年「グローバルニッチトップ企業100選」に輝きました。
「特機事業」として、鉄道のレールを溶接する「レールガス圧接機」などを製作(※17)。鉄道各社で導入されています。
社内はベンチャー気質にあふれ、未来を見据えた研究も盛んです。さまざまな情報処理基盤に光技術を導入するNTTの「IOWN」(アイオン=Innovative Optical and Wireless Network)構想を推進する団体に参画。熱を電気に、電気を熱に変換して電力消費量を減らす「熱電変換モジュール」を開発しています(※18)。
一方、外部の専門家と人事制度改革を行い、経営危機を乗り越えた経験から、柔軟な考えや多様な視点を持つ人材を育てる人事制度を他社に提案するコンサル事業にも乗り出しています(※19)。
(※16)参考:白山「【2021/6/11】IoT機器利用の先進的事例として経済産業省で紹介されました!」
(※17)参考:白山「レールガス圧接機」
(※18)参考:白山「【2021/9/1】『月刊ビジネスコミュニケーション』掲載のお知らせ」
(※19)参考:白山「人事コンサルティング」
星野リゾート
概要
1951年に前身の「星野温泉」創立。長野県軽井沢町に本社を置き、「星のや」など複数ブランドの宿泊施設を運営します。
事業・特色
1904年、別荘地として発展し始めた軽井沢で、初代経営者が開発に着手。1914年に「星野温泉旅館」を開業しました。
現社長の星野佳路氏がトップを引き継いだのは1991年。翌年には、リゾートや旅館に新規参入が増える時代を迎えたことから、所有を本業とせず運営に特化する方針を打ち出しました。企業ビジョンを「リゾート運営の達人」に設定。リゾートの再生を手がける中で、軽井沢以外に進出しました。破綻した施設の再生で、存在感を高めました。
2013年には、日本で初めて観光に特化した不動産投資信託(リート)を立ち上げ、投資法人を東証に上場させました。観光立国を目指す中で、一般の投資家が観光産業に投資する素地を整えました(※20)。
星野社長は、浮き沈みの激しい旅行業界で、新業態を次々と生み出しています。コロナ禍では「マイクロツーリズム」を提唱し、感染収束後をにらんだ攻めの経営を続けています。
(※20)参考:星野リゾート「私たちについて」
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【ライター:松本浩司】
(Illustration:matsukiyo8379/Shutterstock.com)