「本当は地元で働きたいけど、とりあえず東京かな……」と思っていませんか?
「就活も脱・東京だ!」とか、「働き方は多様化している!」とか耳にはしても、就活で実際に飛び交う情報は東京の企業が多くで、どうしても目が向きがちです。
一方で、どの地域にも圧倒的な個性を放つ企業はあります。
地元愛にあふれ、地域の課題を解決しようとするひたむきさ。地域密着だからこその信頼と、愛され度と、強さ。若手でも安心して挑戦できる、ユニークな仕組み──。目を凝らせば、そんな知られざる顔が浮かぶかもしれません。
ワンキャリア編集部は、会員の学生が「お気に入り」に登録している企業の数を、地方ごとに集計。大学のある地域に本社を構える企業を対象に、30位までのランキングにまとめました。
今回は北海道編。広大な面積をカバーする、スケールの大きなインフラ系や、豊かな自然を生かした第一次産業の企業などが目を引きます。北の大地に根を張りながらも、道外や海外へ果敢にチャレンジするパイオニアが居並びます。
就活とて、やはり足元から。コロナ禍で世の中の物差しが変わる今、「灯台下暗し」で後悔しないためにも、身近な選択肢を探してみませんか?
ニトリ
概要
ニトリは、1967年に創業された家具や日用品の製造・販売会社です。本社は北海道札幌市にあります。
事業・特色
「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」を理念に、手に取りやすい価格設定にこだわり、高い品質や機能を両立。創業時の原点は販売でしたが、今ではそこに商品企画や調達、製造、物流も組み合わせ、一連の過程をグループ内で手がけるビジネスモデル「製造物流IT小売業」を確立しました。
2020年度の売上高は7,169億円で、34期連続の増収増益を達成。「3,000店舗売上高3兆円」を目指しています。またアパレルや飲食、ホームセンター業界にも参入し、「衣・食・住」にトータルで事業を拡大する方針です(※1)。
地元貢献に積極的なことで知られ、小樽市とニトリホールディングスは包括連携協定を結んでいます。市内で「小樽芸術村」を運営し、歴史的建造物を美術館として活用。老舗の高級旅館の取得やレジャー施設の跡地の利活用支援(※2)などで、観光業界の期待を高めています。
北海道大学や北海道、札幌市と連携して「みらいIT人材」の育成にも注力。「北海道応援基金」で、環境や教育、福祉などの幅広い分野でサポートしています。
(※1)参考:テレ東プラス「独占密着『ニトリ』がホームセンター参入!『島忠』買収の舞台裏:ガイアの夜明け」
(※2)参考:北海道新聞 どうしん電子版「オタモイ遊園地跡再開発計画 ニトリが小樽商工会議所に調査費5千万円寄付 『夢の計画』動きだす」
▼ニトリのインタビュー記事はこちら
・【ニトリ・白井社長】創業1年目に掲げた「日本一」。時価総額2兆円でも満足しない「現状否定」の執念
よつ葉乳業
概要
よつ葉乳業は、牛乳や乳製品を製造・販売する酪農家資本の会社です。1967年に設立され、登記上の本社は北海道音更町にあります。
事業・特色
乳原料は全て北海道産。「北海道のおいしさを、まっすぐ。」をコーポレートスローガンに掲げ、道内の酪農家と全国・海外の消費者をつなぎます。
牛乳パックには品質基準を満たした「特選」の文字が躍り、道内でも品質の高さには定評があります。最新のフレーバー分析機器を導入するほか、各大学との共同開発も積極的に展開(※3)。粉乳やバター、生クリームなどの業務用商品の全国シェアは25%に達します(※4)。
昭和期には乳業会社による買い叩(たた)きが横行し、不均衡な力関係から、酪農家の生活は不安定になっていました。そこで酪農家自らが生産・流通に乗り出す機運が高まり、1967年に新しい組織を設立。当時から現在に至るまで、「適正乳価の形成」と「酪農経営の長期安定」を目指しています。
「北海道ブランド」が訴求しやすい台湾やシンガポールには社員が配置され、東南アジアを中心に市場開発に乗り出しています。台湾では小売店でも販売しています(※5)。
(※3)参考:よつ葉乳業「新卒採用サイト 未来への研究開発」
(※4)参考:よつ葉乳業「よつ葉の約束」
(※5)参考:よつ葉乳業「新卒採用サイト 未来へつながるグローバル事業」
セコマ
概要
1974年設立の、北海道札幌市に本社を置く事業持株会社です。コンビニエンスストア「セイコーマート」などの小売のほか、製造、物流などの事業領域があります。
事業・特色
1971年に札幌市内でオープンした一号店が日本初のコンビニ。道内で約1,100店舗あり、人口カバー率は99.8%に及んでいます(※6)。各地の素材の魅力を掘り起こして自社開発する豊富なプライベートブランド(PB)商品や、店内調理が人気です。
「買い物難民」を防ごうと行政からの出店要請も多く、一般的に必要とされる商圏人口3,000人に満たずとも、営業時間の設定やコスト抑制といった工夫を徹底し、人口900人や1,300人といった過疎地にも出店しています(※7)(※8)。短期的な利益や成長を求めず、地域に根差した持続的な経営を目指し、「地域残し」に貢献しています。
それを可能にするのが、自前の物流網をベースとした、原材料の生産から製造、小売までつなぐ独自のサプライチェーン。グループ内の農業生産法人や水産加工会社などが生産し、物流網に乗せることで、効率化につなげています。
人口減少を見据えて力を入れるのは、牛乳や乳製品などのPB商品を、道外のドラッグストアやスーパーで販売する事業。2015年に東京に専門部署を設け、2024年度には売り上げ100億円を目指しています(※9)。
(※6)参考:セコマ「数字でわかるセコマ」
(※7)参考:セコマ「人口1,300人の村への出店 人口減少、高齢化が進む北海道での出店政策」
(※8)参考:東京商工リサーチ「『地域興しではなく、地域残し』『セコマ』 丸谷智保社長 独占インタビュー(下)」
(※9)参考:北海道新聞 どうしん電子版「<コンビニ50年>セコマ赤尾社長に聞く 道産食材を活用、独自性重視」
札幌駅総合開発
概要
JR北海道グループで、不動産賃貸業などを展開。本社は北海道札幌市で、2005年に札幌駅南口開発株式会社から商号変更しました。
事業・特色
札幌駅に直結した「JRタワー」の商業施設(「エスタ」「パセオ」「アピア」「札幌ステラプレイス」)などを運営。この4商業施設には約630店舗が入居し、道内最大規模のショッピングセンターとなっています。コロナの影響が顕在化する前の2019年度はテナント売上高が計927億円で、全国でもトップクラスの集客力を誇ります(※10)。
2030年度末には北海道新幹線が札幌まで延伸される予定で、駅を含めた周辺では複数の再開発事業が進行中。2029年秋には、駅と一体開発される形で、道内で最高層となる250メートル級の高層ビルが完成予定です(※11)。高級ホテル、商業施設、バスターミナルが入り、札幌の顔が大きく変わりそうです。
このため札幌駅総合開発としては、「施設の改良、建替え等激動の10年間」(平川敏彦社長)となります。経営難に陥っているJR北海道は、国に提出した「長期経営ビジョン」で、自立経営に向けて「札幌駅前の再開発や関連事業による増益」の重要性に触れています。JR本体や北海道全体に与えるインパクトも大きくなりそうです。
(※10)参考:朝日新聞デジタル「『北海道は弱者じゃない』 札幌駅で稼ぐJRが新タワー」
(※11)参考:NHK おうちで学ぼう!for School「北海道新幹線開業5年 加速する札幌市の再開発」
【番外編1】北海道は宇宙産業のメッカに?
ランキング外でも、北海道には個性ある企業が多くあります。中でも注目されるのは、広い土地や、打ち上げやすい海域に面するという地の利を生かした宇宙関連産業です。
宇宙産業の市場規模は、2040年に100兆円まで拡大するといわれ、世界各地で開発を加速する成長分野です。十勝地方の大樹町には発射場があり、宇宙版シリコンバレーを目指して環境整備が進んでいます。
実業家の堀江貴文さんがファウンダーとなり、民間企業として国内で初めてロケットを宇宙空間まで飛ばした「インターステラテクノロジズ」と、ドラマ化された小説『下町ロケット』のモデルともいわれる「植松電機」の2社を紹介します。
インターステラテクノロジズ
概要
2003年設立。北海道大樹町に本社を構え、ロケットの開発・製造・打ち上げサービスを手がけます。
事業・特色
「世界一低価格で、便利なロケット」の商用化をミッションに掲げています。目指すのは「ロケット界のスーパーカブ」。
2019年、観測ロケット「MOMO」3号機が高度100kmに到達し、民間単独で初めて宇宙に到着。その後も、民間企業との協同プロジェクトで打ち上げに成功しています。現在、打ち上げニーズの増加が見込まれる超小型衛星を高度500kmまで運ぶ「ZERO」の開発を進めていて、2023年度中の打ち上げを目指しています(※12)。
これまで国が主導してきた宇宙開発は莫大(ばくだい)なコストがかかっていました。打ち上げコストを下げることで衛星を増やしやすくなり、アクセスできる関係者が増え、ビジネスチャンスが広がるとインターステラテクノロジズは予想しています。
本社と発射場のある大樹町は東から南まで太平洋が広がり、打ち上げの適地です。町は、アジア初の民間に開かれた宇宙港「スペースポート」を稼働させていて、関連産業の集積が期待されます。
(※12)参考:インターステラテクノロジズ「【プレスリリース】超小型人工衛星打上げロケット『ZERO』、実機サイズの推進剤タンクを試作」
▼インターステラテクノロジスの企業説明会動画はこちら
・【ワンキャリア社長採用】堀江貴文氏×宇宙ロケット開発ベンチャー社長登壇!インターステラテクノロジズ 新卒採用説明会
植松電機
概要
1962年に設立、1999年に法人化。本社は北海道赤平市で、車両搭載型低電圧電磁石システムの設計・製作・販売や、宇宙航空関連機器の開発・製作などを手がけます。
事業・特色
本業で扱うのは、建設・解体・リサイクル現場で使われるマグネット製品(電磁石)ですが、これにとどまらず、宇宙航空関連など幅広い研究開発をすることで知られています。
宇宙航空関連では、北海道大学と連携し、初の道産人工衛星などを製作(※13)。ハイブリッド型のロケットは打ち上げに成功していて、本社敷地内ではロケットエンジンの実験サポートも行っています。
技術力を応用し、医療機械の開発や、南極探検用のソリの開発、建設機械の技術研究など、守備範囲は多彩。本業のマグネット製造だけでなく、社員各自が研究活動をしやすくなる環境を整えています。
研究開発や製造に加えて、教育事業に力を入れているのが特徴です。宇宙をテーマにした科学教室「コズミックカレッジ」(JAXAとの共同事業)や、モデルロケットの製作と打ち上げを体験できる「ロケット教室」などを定期的に開催しています(※14)。
(※13)参考:植松電機「研究紹介」
(※14)参考:植松電機「教育活動」
【番外編2】素材と環境を求めた企業の「新天地」としても注目
近ごろは、本州の企業がより良い環境を求めて新しい挑戦をする場所として、北海道が注目されています。世界のお茶を販売する「ルピシア」は食の分野で事業を開拓するにあたり、2020年、豊富な食材が集まる北海道ニセコ町に本社を移転しました。
ルピシア
概要
1994年設立で、2020年に東京都渋谷区からニセコ町に本社を移転。世界のお茶や茶器雑貨の輸入、製造・販売をしています。
事業・特色
世界中の産地から、安心安全な紅茶、日本茶、ウーロン茶などを買い付け、国内140以上の店舗を運営。パリ・メルボルン・ハワイなどにも店舗を置きます。
2011年からは、高品質な食品や雑貨などを世界中から届けるセレクトショップ「ルピシアグルマン」も展開し、事業領域を拡大。翌年には、ニセコ町で、ブティックやスイーツショップを設けた食のリゾート「ヴィラ・ルピシア」を開店しています。2015年6月からは、露地栽培の「北限のお茶」を目指し、ニセコで植樹に挑戦しています。
2020年7月、澄んだ空気やきれいな水があり、健康的なライフスタイルがクリエイティビティにつながるとして、既に工場などがあったニセコに本社を移転。同年11月からは、羊蹄山麓の湧き水にこだわったオリジナルのビールも出荷しています(※15)。
採用ページで、「北海道産のおいしさを世界の食卓へ」とうたうほど、北海道の企業としての顔をのぞかせています。
(※15)参考:北海道 ニセコ町「移住者モデル ルピシアグループ代表 水口博喜 会長」
またルピシアと同じ2020年には、1877(明治10)年創業の岐阜県中津川市の老舗「三千櫻酒造」が、全戸に地下水を供給する東川町に移りました。温暖化で本州の酒米の品質が変化していることや、冬の仕込みの冷却に苦労するようになったことが、背景にありました(※16)。
気候変動の影響で、栽培できる作物や水揚げされる魚種などが今後変化すると見込まれています。素材にあふれた生産地として、豊かに暮らす場所として、北海道に注目する企業がまだ続くかもしれません。
(※16)参考:NHK おうちで学ぼう!for School「北海道で酒蔵 “新設ラッシュ” 背景に何が?」
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【ライター:松本浩司】
(Illustration:matsukiyo8379/Shutterstock.com)