※こちらは2021年8月に公開された記事の再掲です。
消費財や化粧品は、マーケティングが事業の成否を決すると思われがちですが、顧客との接点づくりを担うセールスもまた、戦略とクリエイティビティが問われる刺激的な仕事です。
「自社の売上だけを追求するのではなく、得意先の集客や売上にいかに貢献するか。これがこれからのセールスが持つべきミッションです」
こう話すのは、2020年にP&G Japanを離れ、資生堂にジョインした柳内清隆さん。柳内さんは今、同社営業の改革をミッションにさまざまな施策を遂行しています。
150年の歴史と共に積み重ねた関係と信頼を武器に、今、資生堂のセールスは進化を遂げようとしています。今回の記事では、柳内さん(写真:右)と、チームのメンバーで営業担当者として活躍する白石さん(写真:左)に、資生堂のセールス職の面白みを語っていただきます。
資生堂を世界一のブランドにしたい。フランス・カンヌで目の当たりにした「期待」と「可能性」
──柳内さんは20年間務めたP&Gから資生堂に転職されました。次のキャリアになぜビューティー領域を、そして資生堂を選んだのですか?
柳内:P&Gでは営業を軸に、さまざまなエリアや役割を経験してきました。国内では営業現場から責任者まで、シンガポールの本社ではアジア地域のトレードマーケティング(小売店の売り場を起点としたマーケティング活動)や、免税店のセールスディレクターも担当しました。
これまでさまざまな商材を扱ってきましたが、中でも化粧品は人が介在することに面白みを感じました。同じドラッグストアに並ぶ商品でも、日用材は卸売業者や棚割りを決定する小売店の影響力が大きく、自社ができることも限定されます。
一方で化粧品は、商品の製造、出荷から店頭に並ぶまでには得意先との関わりがありますし、また、店頭ではビューティーコンサルタントがお客さまの美しさを引き出すコミュニケーションをとるなど、生活者の手に商品が渡る瞬間まで、多くの人が関わり続けます。こうした特性は、働く人のマインドにも表れていると思います。
柳内 清隆(やなぎうち きよたか):株式会社資生堂 プレミアムブランド事業本部 副本部⻑、第4事業部事業部⻑
1999年にP&G入社。日本国内のヘアケアや男性用カミソリ、SK-IIなどのマーケットストラテジー&プランニングを担当後、シンガポールのAPAC本社でセールスディレクターを歴任。日本に帰国後はP&Gプレステージ事業代表(SK-II)・執行役員に就任。2020年12月に株式会社資生堂へ入社し、現職。(所属部署はインタビュー当時のものです)
──興味深いです。どういうことでしょう?
柳内:P&G時代に「紙おむつに一生を捧(ささ)げたい」「洗剤のこのブランドが好きで好きでしょうがない」という社員はあまり見たことがないんですよね。ブランドに対する愛着よりも「売れる商品が良い商品」と考える方が多かったと思います。
一方、僕が担当していたスキンケアブランド「SK-II」は、P&Gの中でも少し変わった存在でした。「SK-IIだから働きたい」、「このブランドを50年、100年先まで成長させたい」という思いを持った人が多かったのです。化粧品は社員のブランドロイヤルティが高く、生活者も長期愛用者が多い。これもビューティー領域に携わり続けたいと考える理由の1つです。
──外資系企業も含め、数ある化粧品会社の中で資生堂に入社した理由を教えてください。
柳内:日本発のリーディングカンパニーとして、日本の美容文化を作ってきた企業であり、ビューティーで世界を変えようとしている企業だからです。「ビューティー領域で日本人としての誇りを持って働きたいなら、資生堂しかない」と思いました。
資生堂は2022年に創業150周年を迎えますが、得意先から寄せられる信頼や期待の大きさを日々感じています。前職でシンガポールに赴任していたころから、資生堂の海外展開を目の当たりにしていたので、当時から興味があったという点もありますね。
──P&G時代に、資生堂の存在感を意識したエピソードはありますか?
柳内:免税店のセールスディレクターを務めていた2017年、フランスのカンヌで行われた「TFWA(Tax Free World Association)World Exhibition & Conference」という免税店の展示会に参加したときのことです。その展示会は世界中のラグジュアリーブランドがブースを出店し、世界の免税店バイヤーに新商品や売り場の戦略を披露します。
その年はカンヌの街の至るところを資生堂の広告がジャックしていて、カンヌ映画祭でスターが滞在するような高級ホテルの壁面にまで、一面に屋外広告が掲載されていました。例年は地元フランスを代表するラグジュアリーブランドや企業が街の広告媒体を独占していることが多いので、衝撃を受けましたね。展示会のブースも会場の一等地にあり、資生堂の世界進出への強いコミットメントを感じました。
──地元企業に負けないくらいに広告を出していたと。それはすごいですね。
柳内:でも、その展示会の資生堂ブースには日本人のスタッフが誰もいなかったんです。グローバル展開を見据える上では惜しいと感じました。現在の資生堂も、まだまだトヨタ自動車のような世界一のポジションには程遠いと思っています。これまでの経験を生かし、日本のブランドを世界に知らしめていくことにも貢献したいですね。
「資生堂の営業がそんなことやっちゃダメだよ」
──白石さんは2012年に新卒で資生堂に入社されました。今までどんな仕事を担当してきたのですか?
白石:入社後は人材育成の一環でヘッドオフィスにてスタッフ業務に携わり、2年目からセールスとして埼玉県内の個店営業やエリア商談を経験しました。
2017年から今に至るまでは、再び都内のヘッドオフィスにてドラッグストア向けの本部営業を担当しています。具体的には、売上データの分析などをしながら、得意先の本部にいる経営層やバイヤーに対し、全国的な取り組みや中長期的戦略の提案を担当しています。
白石 直嗣(しらいし なおつぐ):株式会社資生堂 プレミアムブランド事業本部 第4事業部
2012年に新卒で資生堂に入社。企画統括部を経て、大宮東オフィスの個店担当に配属。2017年からは本部担当として全国展開のドラッグストアの販売戦略を担う傍ら、全社横断プロジェクトにも参画している。(所属部署はインタビュー当時のものです)
──個店営業とは、小売店に足を運び、店舗の担当者に対して販売戦略や売り場づくりの提案をする業務です。セールス職の多くが経験する仕事ですが、当時の思い出などはありますか?
白石:営業先のお客さまに愛あるお叱(しか)りをいただいたことです。あるとき販売効率が高まるだろうと、担当している得意先に同じ配置展開を提案しようとしたことがありました。
ローラー作戦のように順番に提案していたところ、わずか3店目で店長さんと化粧品担当さんから「どの店でも同じ提案をしているんでしょう。資生堂の営業がそんなことやっちゃダメだよ」と見抜かれてしまいました。
──そんなにすぐに分かってしまうものなのですか?
白石:各店舗の客層や特徴を全く考慮しない提案は、すぐに得意先にも伝わります。私たちは「資生堂」という看板があるから、優先的に打ち合わせの時間を取っていただけますし、当たり前のように店舗に商品を置いてもらえるけれど、一方で得意先からの期待に応える難しさも痛感しました。
資生堂のセールスはこれからもっと面白くなる。「選択と集中」の営業改革
──化粧品や日用品をはじめとする消費財は、マーケティング戦略に光が当たりがちです。セールスはどんな役割を果たしているのですか?
柳内:どちらも生活者に向き合う役割ですが、マーケティングは消費者(コンシューマー)に、セールスは購買者(ショッパー)に軸足を置いています。
紙おむつが分かりやすいでしょうか、マーケティングは製品を通じて消費者である赤ちゃんの満足度を高める方法を考えますが、セールスは「どうすれば購買者である親が、売り場でオムツを買いやすくなるのか」を考えるのが仕事です。化粧品も同様に、「どういう商品展開でお客さまに満足してもらうか」はマーケティングが突き詰めて、セールスは「どうやって化粧品選びや購買体験を高められるか」に注力するのです。
例えばコロナ禍の中でも納得できる買い物ができるよう、購買者の視点で商品の見せ方やテスターの提供方法を考えるのも僕たちの仕事です。
──柳内さんは社内の営業改革を推進していると聞きました。どんな戦略を掲げているのでしょうか。
柳内:全商品を勧めるスタイルから、得意先のニーズやビジネス機会にマッチするブランドやプロモーションに集中投資する提案へと変化を呼びかけているところです。これまで等分していたヒト・モノ・カネの投下先をぐっと絞り込むことで勝ち筋を作ろうとしています。
白石:今までは新商品が出たら「どのブランドも売上が大きいので、まんべんなく拡販しましょう」と売り込んでいたところを、カウンセリング販売を強化したい得意先に対しては「来季の新商品の中でも、このブランドを集中的に販売しましょう」と提案する、という動きが求められるようになりました。そのためには、得意先といっそう深いコミュニケーションをとり、現状や抱えている課題や、その先にある彼らのビジョンを理解しなければいけません。
柳内:全商品に等しくリソースを割こうとすると、新商品の売上は伸びても、全体を見ると売上の伸びが鈍い、といった事態に陥りがちです。「コア&モア戦略」という言葉もありますが、注力すべき商品(コア)をきっちり定め「ヒーロープロダクト」として育成し、周辺の商品(モア)を展開していくことが、長期的な成長には大切だと考えています。
──なるほど。資生堂の全社戦略でもある「選択と集中」に通ずるものがありますが、これはP&Gでの経験がベースになっているということですか?
柳内:P&Gは社員の生産性を重視する文化で、物事の仕組み化や効率化を実現しながら、少ない人数で最大の売上を達成する点に強みがありました。
一方で資生堂の営業の強みは、個店をカバーする範囲の広さと、きめ細かいフォローの両輪がそろっていることです。その意味ではもともと営業力の高い組織ですが、これまでは売り方が戦略的に決まっていなかった。「全力で全部やらなきゃダメ」という風土があったと言いますか。このカルチャーを変えるために、商流の川上からセールスの戦略的な意思を反映するステップを整えているところです。
得意先とWin-Winの関係を作る「プロデューサー」へ。変わるセールスのミッション
──店舗によって注力する商品を変えるとなると、全ての商品に全力投球していたころに比べ、考えることや決断することも増えますよね。ある意味で、コンサルティングの要素も強くなっているイメージがありますが、いかがでしょうか。
柳内:そうですね。今は単なる売り込みではなく、得意先とWin-Winの関係を築き、共に価値を生み出すことが求められています。
かつては自社の売上だけを追求し、商品を仕入れてくれた得意先が在庫過多になってしまうケースもありました。しかし、それでは持続的な成長は実現できません。売り場づくりや新たな価値創造を通じて、いかに得意先の集客や売上に貢献するかが重要なミッションです。
──白石さんは、こうしたミッションの変化を現場で感じることはありますか。
白石:昔のようにマーケティング部門が用意した資料を読み上げるのではなく、自分自身の幅を広げてプロフェッショナルたちの間に立つことが求められています。本部担当になりたてのころに先輩から聞いた受け売りですが(笑)、今の僕らが目指す姿は、社内外にいるプロフェッショナルと連携して成果を出す、いわばプロデューサーなのだと思います。
──単なる物売りからプロデューサーへ。発揮すべき価値が変われば、営業に必要な素養やスキルも変わってくると思います。
白石:個人的には、マーケティングやファイナンスなど、営業「以外」のスキルを持ったセールス人材の価値が高まると考えています。
例えば今、資生堂はデジタルに力を入れていますが、もし得意先に対してデジタル施策を提案するとしても「細かい内容は分からないので、後は社内のプロに任せます」と丸投げにするのか、自分自身もデジタルのリテラシーを身に付け、ビジョンを持って社内のプロフェッショナルと協働するのとでは雲泥の差がありますよね。自分自身も幅広いスキルや知識を身につけなければいけません。
──白石さんは、個店営業の経験が今の業務に役立っていると感じることはありますか? 新しいミッション下では、キャリアとしてあまり結びつくイメージが沸かないのですが……。
白石:少なくとも、若いうちにチームマネジメントを経験できたのは大きな武器になっているように思います。現在の本部営業は、自分から関係者に意見を発信する機会が多いです。そのとき「どうすれば効果的にメッセージが伝わるか」「どう話を整理したらいいか」をうまく考えられるのは、個店営業のおかげでしょうね。
個店営業として、自分よりも経験豊かなビューティーコンサルタント10人以上をマネジメントする中で、納得してもらえる伝え方が身についたのだと思います。
また、今はデータを分析することが多い立場になりましたが、店頭の情報を加味して考えることが非常に重要で、それは個店営業の際に身についたスキルだと思います。数字だけで考えを進めると、的外れな提案をしてしまう可能性もあるので、今も店舗に足を運んでいますし、新型コロナウイルスが流行する前は、全国の主要店舗は自分の目で確かめに行っていました。
P&G仕込みの「フィードバック文化」を資生堂に。過渡期の今は、突き抜けるチャンスが転がっている
──営業改革が始まって、まだ日が浅いとは思いますが、変化を感じる瞬間などはありますか?
白石:そうですね、まずはデータ分析やデジタルリテラシーなどを体系的に学ぶ機会が増えてきました。今までは各本部担当が手探りで分析していたID-POSデータ(生活者の購買実績データ)も、目的設定や分析の切り口を学んで、示唆を出せるようになりました。最近では、部門内プロジェクトとして、各担当者の分析結果やナレッジを共有・蓄積し、共に販売戦略を考えるような試みもしています。
そして何より、柳内さんをはじめとした部門長から日常的にフィードバックをもらえるようになったのが大きな変化だと思います。もちろん、今までもコミュニケーションはありましたが、実務面でのアドバイスも数多く受けるようになりました。メンバーの成長につながると思いますし、ありがたいですね。
柳内:事業部内でオープンに遠慮なくフィードバックしあえる機会を作りました。例えば白石くんが作った提案資料は直属の上司だけではなく、他社を担当している管理職も一緒に確認してフィードバックしています。フィードバックは受ける側だけでなく、する側にとっても成長機会になりますから。
──P&Gの「Feedback is a gift」を彷彿(ほうふつ)とさせます。社内にはまだまだ変化が待ち受けていそうですね。資生堂のセールスは、これからさらに面白くなりそうです。今のタイミングで資生堂に入社し、セールス職を経験することは、キャリア上でどんなメリットがあると思いますか?
柳内:資生堂は今が過渡期なのだと思います。ジョブ型人事制度が昨年から採用されたことで、年次ではなく能力や意欲に基づいて仕事ができるようになりました。特に、デジタル領域はベテランの経験がかえって障壁になるケースもあると思うんですよね。誰もが横並びでスタートを切ったばかりなので、若くしてリーダーシップを発揮するチャンスが増えています。
白石:意欲さえあれば機会をどんどん得られる実感がありますね。僕は全社横断プロジェクトにもアサインいただいていますが、「幅広い経験を積んでいきたい」と意思表示したから声がかかったのだと思います。意欲をオープンに示して、目の前の業務に真摯(しんし)に取り組めば、年次にかかわらずチャンスをつかめる環境です。
──逆に、今の資生堂にとっての組織課題、伸びしろは何だと思いますか?
柳内:若いうちからビジネスリーダーを目指す気概を育てチャンスを与えることと、グローバルで活躍できる機会づくりです。
若手でも早いタイミングで自分がリーダーとして組織を変えたり、ビジネスを作ったりする役割を担ってほしいし、必要だと思えば新しく部署やプロジェクトを立ち上げる提案をしてもいいと思います。誰もがビジネスリーダーとしての裁量を発揮できるチャンスを作りたいですね。
P&Gでは同僚に外国人がいる環境も当たり前でしたし、キャリアアップのために彼らと競争することも必要でした。既成概念に囚われず、日本だけでなく海外でも活躍できるようにセールス職社員にも、若手のうちからいろいろな経験やダイバーシティのある環境を経験してほしいです。
──ありがとうございました。この記事を読んだ就活生に向けて、お二人から応援のメッセージをお願いします。
白石:人の話を聞くときは、「何を聞いたか」だけではなく「自分がどう感じたか」を大切にしてほしいです。説明会で一生懸命メモをとるのもよいですが、スピーカーの話し方や熱量などから何を感じるかはその場限りしか分からないことです。
何か魅力的に感じたものがあるなら、それを突き詰めていくのも一つの企業研究ですし、感じたものを言語化して整理すれば志望理由にもなりますよ。自分自身の感覚を大切にして、さまざまな企業を見ていただきたいと思います。
柳内:営業はビジネスの最前線で活躍するエキサイティングな仕事です。資生堂のセールスは、データ分析やOMO(※)といったデジタルマーケティングを活用し、得意先の化粧品カテゴリーに新しい価値やソリューションを提供する、戦略的でクリエイティブな仕事に変わりつつあります。
ジョブ型人事制度もスタートし、全員に活躍できるチャンスや成長できる機会があります。得意先の大きな期待を背負い、ビューティービジネスを最前線でリードし続ける資生堂のセールス職に魅力を感じてほしいです。
(※)……「Online Merges with Offline」の略称で、日本語に直訳すると「オンラインとオフラインを併合する」という意味。
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【ライター:中山明子/撮影:赤司聡】