「このインターンは選考に関係ありません」
──そんな言葉を、いまさら誰が信じるでしょう?
選考に関係がないと言いながら、実は本選考の一部。そんなインターンが存在することは、就活生の間では暗黙の了解となっている面もあります。そんな就活の建前に真っ向から対峙(たいじ)するのがJT(日本たばこ産業)です。
「選考とはマジで関係ないです」と採用担当が語るように、JTでは内定者の半数以上がインターンに参加していません。プログラムも異色です。インターンといえば事業計画の立案や業務体験を思い浮かべる人もいるでしょうが、JTのインターン内容は「未来を創造する・頭の中を具現化するあそび」と記されています。
にもかかわらず、JTのインターンはトップ就活生の心をつかみ続けています。今年3月に発表したワンキャリアの「就活クチコミアワード2020」インターン部門のGOLD賞に選ばれ、学生からは次のようなクチコミが寄せられています。
選考に関係はなくても、人気である理由はどこにあるのでしょうか。9月にオンラインでインターンを実施した採用担当の新島さんと須永さんに舞台裏を聞きました。
「1日かけて自己理解」「あえて学生を評価しない」名物インターンの全貌
──JTのインターンは、学生のクチコミでも人気上位の常連ですね。まずは9月に開催されたサマーインターンについて教えてください。
新島:毎年恒例の「未来の嗜好品(しこうひん)を考える」をテーマにしたグループワークです。3日間の有給インターンで、参加者は25名。これを2回実施しました。例年は当社のオフィスで開催していましたが、今年は新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインで開催しました。
【JTのサマーインターンシップ】
1日目:「自分を知る」ワークショップ
幼少期からの自分史、偏愛マップ(好きなこと・ものを1枚の紙に表現する)、粘土による感情表現などをグループ内で発表
2日目:会社紹介、「未来を考える」ワークショップ
各グループで10年後の「わくわくする未来」を自由に発想する
3日目:「未来の嗜好品を考える」ワークショップ、発表
2日目のワークショップをもとに、10年後にあってほしい嗜好品を考案し、グループごとに発表
──各日程のプログラムについて、詳しく教えてください。
新島:1日目は、徹底的に自分を掘り下げてもらいました。「JT」という社名は一度も発していないんじゃないかな(笑)。
新島 優一(にいじま ゆういち):事業企画室 新卒採用担当
2008年に人材紹介会社へ新卒入社。2010年、JTに中途入社。東海支社、東関東支社で営業を経験し、2018年より現職。趣味はバスケットボールとマグロ釣り。
須永:自分史づくりも、就活のための自己分析とは違う趣向です。小さい頃から理由なくやってしまうことや、好きなことって誰でもあると思うんですよね。それを他の人から深掘りしてもらうことで忘れていた感覚のようなものを呼び起こし、自分らしさに気付いてもらうためのワークです。
──2日目の「未来を考える」ワークショップは想像がつきません。一体何をするのでしょう。
須永:10年後に「こんな未来だったら自分も行きたい」と思える未来を描きます。人工知能(AI)の進化や全自動運転の普及といった現実的なテーマはあえて取り払い、夢物語でもいいから自由に考えてもらいます。3日目に「未来の嗜好品を考える」にあたっての考え方を知ってもらうワークです。
──現実的なテーマを取り払うのには、どんな狙いがあるのですか?
須永:目に見えている未来を前提にすると、人工知能(AI)に人間の仕事が奪われるとか、全自動運転で通勤がどう変わるなどとか、広がりのないありきたりで、自分の意志や感情が含まれない未来となってしまいがちです。それよりも「10年後の未来がこうなったら面白い」と考える方がワクワクするし、幸せですよね。だから、「こうありたい、こうしたい」という発想を期待しています。
須永 恵太(すなが けいた):事業企画室 新卒採用担当
2014年JTに新卒入社。東北支社で営業を担当し、2019年より現職。趣味は競馬とフットサル。
新島:大前提として、嗜好品に対する捉え方は人それぞれです。嗜好品は、便利だから消費するものではなく、人の心を少し上向きにしたり、息抜きになったりするものです。考え方は人ぞれぞれであるからこそ、人の心に寄り添う「嗜好品」について、真剣に考えてみるためには、自他のことを深く知ることが必要だと考えています。その上で1人1人が考える、ワクワクする未来を発想してほしいです。
──2日目までのワークの集大成が、「未来の嗜好品を考える」ワークショップにつながるのですね。最終日は何をするのでしょうか。
新島:考えてもらった嗜好品のアイデアを発表してもらいますが、社員は評価をしません。学生さん同士でいいと思うものに投票してもらいました。評価基準も、事業性ではなく「ワクワクするかどうか」を重要視しています。
須永:嗜好品は、人によって捉え方が違うものなので、好きとか嫌いとかはあるとは思いますが、いいとか悪いとかはない世界だと思います。
働いたことのない会社の事業立案って、本当に面白いですか?
──JTは、以前から「未来の嗜好品」をテーマにインターンシップを開催されています。近年は事業計画を立案するなど、ビジネスの現場でも役立ちそうなインターンが目立ちますが、あえて抽象的なテーマを貫く理由はどこにあるのでしょうか?
新島:以前はJTも事業立案のインターンを行っていましたが、少しずつ変えてきました。理由は2つあります。1つは、これもまた面白いかどうかが判断基準です。正直に申し上げると「自分が学生だったとして、まだ働いたことのない会社で、実感のないデータやロジックを並べる事業立案は面白いのだろうか?」と疑問に思うことがあったんです。
2つ目は、仕事の実態とかけ離れたことをしたくないからです。JTで実際に働く場合、新卒から事業立案系のインターンシップのような経験はしないでしょうから。現在のワークショップも現実の仕事とは離れた内容ですが、業務理解というより「上位概念」を知ってほしい思いで開催しています。
──「上位概念」ですか。具体的にどういうことでしょう。
須永:「この会社に入りたい、こういう仕事をしたい」という具体的な物差しではなく、自分がどんなことを面白いと感じるか、何を大事にしているのかという、その人の本質に近い部分ある考えや想(おも)いです。会社を人に例えるなら、外見ではなく人柄でその人のことを好きになってほしいんです。
──先が見えない不安な時代、目に見えるスキルや安定性を求めたくなる学生も多いはずです。一見して遠回りに思えますが、なぜそのような「根本的なこと」が大切なのですか。
新島:どこかで挫折を経験したとき、なにを大事にして会社を選んだのか、働いているのかが自分の中で腹落ちしていれば、立ち返る場所になります。それがないと、今は良くても将来のキャリア選択で困ってしまうのではないでしょうか。
須永:すぐに変化する時代だからこそ、抽象的な判断軸が必要だと思います。例えば、特定の仕事がしたくて、会社に入ったとしても、その特定の仕事がいつまであるか分からなかったり、自分自身が異動になったりします。もし「JTでマーケティングがやりたい」という理由だけでJTに入った人がいたら、もしそれが叶(かな)わなかったときに他の選択肢が見つけるのが難しいので、とても困っているでしょう。会社のもっと本質に近い部分が好きな人と、そうでない理由で入社した人とでは、その後のキャリアの重ね方や幅が変わってくるんだと思います。
「選考とはマジで関係ないです」腹の探り合いよりも信じたいものがある
──この記事の読者にも、JTのサマーインターンに応募して参加できなかった方がいるはずです。本選考とインターンは、実際のところ関係あるのですか?
新島:参加した人にとっては「残念ながら……」かもしれませんが、選考とはマジで関係ないです。
須永:過去の内定者でも、インターンには落ちたけれど内定が出た方は多いですよ。本選考には人事だけでなく現場社員も参加するので、そうした要因もあるかもしれません。
──インターンを経由せずに本選考から内定が出る人は、全体の何割くらいですか?
新島:半分は優に超えますね。
──水面下で選考をしているインターンが当たり前になった今、ちょっと信じがたいです(笑)。
新島:学生さんも「関係あるやろ、どうせ」って、きっと思っていますよね(苦笑)。この話に限ったことではないですが、就活って結構おかしな世界ですよね。採用側と学生とが腹の探り合いをするというか。もう少しクリーンな世界を信じたいと思っています。
面接をオンラインで行う機会も増えましたが、「私服で参加していいですよ」と伝えても、学生が本当に私服でいいのかと悩ませてしまう。これも変だなと感じます。
須永:「新型コロナの影響で就活も大変だろうし、頑張って家の中でスーツに着替えなくてもいいのに」とは思いますね。自分の内面や考え方を伝えることにエネルギーを使ってもらった方が、お互いに良い時間が過ごせると思います。
──新型コロナウイルスの影響もあり、対面のコミュニケーションが減っているのは今年ならではの傾向でしょうね。採用側と学生とで、お互いの本音がさらに見えなくなっているのかもしれません。
須永:2022年卒の学生さんを見ていると、焦っている方が多いように思います。このタイミングであれば、まだ「何が自分にとって面白いか」を考えていてもいい時期なはずなのに、まるで締め切りに追われているように切羽詰まっている方もいて、心配です。
新島:僕も同じ印象を受けました。とはいえ「大丈夫、何とかなるよ」と言うのは無責任ですし、うまくアドバイスするのは難しいな……。少なくとも、JTのインターンを受けてくれた方には「将来を考える上で参考になった」や「こういう考え方をすればいいんだ」という気付きを与えられていたらうれしいですね。
「オンラインはつまらない」を覆したかった。冬インターンも開催します
──JTでは、冬にも今回と同じテーマのインターンを実施するそうですね。
新島:はい。12月14日(月)〜15日(火)の2日間で開催します。プログラムは検討中ですが、サマーインターンの内容を中心にしつつ、JTに興味を持ってくれている方に向けてもう少し具体的に仕事のことを伝えたいと思っています。
──この記事で紹介した内容もありつつ、JTのことも学べる2日間となりそうですね。サマーインターンからオンライン開催に踏み切りましたが、苦労した点や工夫したことはありますか。
JTのオンラインインターンの様子(※参加者の同意を得て、掲載しています)
須永:グループワークがオンラインでも成立するかどうかが気になっていましたが、あえて内容に大きな変更は加えていません。学生さんから「オンライン型式のインターンはつまらない」という声は聞いていたので、燃えましたね(笑)。
新島:ちなみに学生に事前に段ボールいっぱいに贈り物をしました。その中には一見、インターンには関係のなさそうなものも入れました(笑)。僕らもオンラインで開催するのは初めてだったのですが、「とにかく楽しんでもらいたい」というのが正直な思いでした。参加した学生の皆さんがどう感じたのかは、気になりますね。
*
この日の取材には、実際にサマーインターンに参加した学生2名にも来ていただきましたが、今回はここまで。後日公開予定の記事では、学生から新島さんと須永さんに、インターンの率直な感想や要望などをぶつけてもらいます。
▼企業ページはこちら
JT(日本たばこ産業)
▼イベントページはこちら
JT Winter Internship CREATE 〜未来の嗜好品を創り出せ〜
【ライター:yalesna/編集:中山明子/撮影:百瀬浩三郎】