昨今、1次選考にいわゆる「動画ES/録画面接」を導入する企業が増えています。
新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、説明会や面接をWebに切り替える企業が増えており、自己PR(自己紹介)動画による選考を行う企業も増えることが予想されます。
「面接もそうですが、動画タイプのエントリーシート(ES)でも、話し方や声の見せ方を少し変えるだけで、印象はガラリと変わります」
そう話すのは、スピーチライターとして経営者や政治家、人事や営業など、人前で話すあらゆる社会人の話し方トレーニングや原稿作成などの支援を行う千葉佳織さん。
学生時代には番組キャスター、新卒入社したDeNAでは採用人事とスピーチライターを兼任し、新卒採用から同社のイベント登壇者に対する話し方のトレーニングまで広く担当していました。
今回は千葉さんに、昨今取り入れる企業が増えている録画面接や動画ESといった、オンラインを主体とした活動を有利に進めるための「自分の見せ方」について、人事とスピーチライター視点でのアドバイスをいただきました。
千葉 佳織(ちば かおり):スピーチライター、株式会社カエカ代表取締役社長。
2017年に新卒でDeNAへ入社し、小説投稿サイトの運営を経て、2018年10月より同社内でスピーチコンサルタントとしての仕事を立ち上げ、採用やイベントに関わるスピーカーの育成に従事。退職後に創業したkaeka(株式会社カエカ)では、話すことを強みにしたい社会人に向けたサービスgoodspeakなどを通し、話すことで変わりたい全ての人の背中を押すための支援を行う。
Web面接では感情表現は3倍に。意識するのは「相手が相づちを打つタイミング」
Web面接や動画ESなど、非対面でのコミュニケーションは、言葉の強弱や抑揚といった非言語情報が対面よりも伝わりにくく、感情が分かりづらくなるといわれています。
人事として、数多くのWeb面接を経験したこともある千葉さんは、非対面の対話でも自分をより良く見せる方法として、3つのポイントを挙げました。
【Web面接で自分をより良く見せる3つのポイント】
・発言を長くしすぎない(不要な言葉をなるべく話さない)
・各フレーズの間や抑揚などの表現を強めにする
・相手が話しやすいよう、相づちを打つタイミングを作ることを意識する
ここでいう不要な言葉とは、フィラーと呼ばれる「えー」「あのー」といった言いよどみの言葉や、同じような話を何度も言い換えて話すことなどが当てはまります。
Web動画では非言語情報が伝わりにくく、言語情報がダイレクトに伝わってくるため、一方的に長く話してしまうと、対面の時よりも、相手が会話に飽きやすくなってしまいます。そこで、適度な話の尺を意識しながら話すことが重要です。
ここで注意したいのは、言葉を洗練する意識を持ち、不要な言葉を省きながらも、無機質に簡潔にし過ぎないようにすること。あくまで目的は「相手へ思いや意見を届けること」であることを忘れずに、ちょうど良い双方向的な関係性を築いていくことが大切です。
そのためにも、間や抑揚などの表現がカギになるわけですが、画面越しの相手に伝わるようにするためには「日常生活の3倍ぐらいがちょうど良い」と千葉さんは話します。
「映像を通して情報発信をする場合、『いつもの3倍以上、表情や抑揚などで感情を表現することで、初めて相手へ届く』と言われています。非対面コミュニケーションの場合、いつも通りの表現では、残念ながら相手には伝わりません。慣れるまでは大変かもしれませんが、ぜひ練習してみてください」(千葉さん)
動画で実演! 「間」を入れることで、あなたの自己紹介は生まれ変わる
先ほど挙げたWeb面接の3ポイントは、動画ESのような一方的なコミュニケーションにおいても有効です。「不要な言葉を削る」「間や抑揚の活用」といったポイントを意識すると話し方がどれだけ変わるか、千葉さんに実演してもらいました。
動画では、自己紹介のフレーズは同じ内容で、話し方だけを変えて2度繰り返してもらっています。前半と後半を比べてみると、前半は10秒程度の内容を一息で言い切っています。スムーズに話しているように見える半面、話している内容の一つひとつは、印象に残りづらいように感じませんか?
それに対して後半は、話題が変わるタイミングに「間」を入れることで、言葉が聞き取りやすくなる上、話題の変化を聞き手が分かりやすくなるというメリットがあると言います。相手と対話をしているような雰囲気も感じ取れました。
「ここでは冒頭の自己紹介のみですが、話題の切れ目に3秒程度の間を意識しました。間がないと一方的に話が右から左に流れてしまい、印象に残らなくなってしまうのですが、間があることで、言葉を理解する時間を相手に与えることができます。それによって、より印象的に物事を伝えられるようになるんです」(千葉さん)
とはいえ、間を入れるタイミングをどうするか、慣れていない人にとっては判断が難しいもの。「まずは、話題が変わるタイミングで間を入れてみてはどうでしょう」と千葉さん。「ここは特に聞いてほしい」と考えている部分の前に間を入れるのも、効果的とのことです。
聞き手が前のめりになる動画ESのストーリー。「起承転結」と「二刀流の原稿」がカギ
動画ESにおいては、間などの話し方を意識するのと合わせて、「聞き手の感情を盛り上げ、起承転結のある飽きない構成を考えることも必要」と千葉さんは強調しました。
「スピーチの原稿もストーリーが『命』なのですが、共感や笑うタイミングなど、聞き手が感情を抱く部分が生まれるよう意識して構成を作るといいでしょう。話が入ってきやすくなりますし、説得力も増します」(千葉さん)
とはいえ、いざ撮影の段階になると、原稿内容をド忘れしてしまい、何度も撮り直す就活生もいるようです──そんな話を切り出すと、「原稿の作り方を一工夫すると、その問題は改善するかもしれない」と、スピーチライターとしての経験も踏まえ、アドバイスをくれました。
「私のおすすめは、話す言葉の一言一句を全て書いた『書き起こし原稿』と要点を箇条書きにした『要約版』の両方を作ることですね。まずは書き起こし原稿で練習し、自分が話す内容の全体像を把握しましょう。
ただ、その原稿を正確に読もうと意識し過ぎると、逆に緊張してしまうことがあります。そこで要約版も作っておくと、キーワードが頭に残りやすくなるため、ド忘れによるパニックを避けやすくなるんです」(千葉さん)
完成したその動画ES、提出はちょっと待って。友達や家族などに確認してもらおう
構成の推敲(すいこう)や話し方の練習を行ったら、企業に動画ESを送付する前に、友人や家族など、自身が信頼している人に、内容の確認をお願いしてみましょう。
聞き手に思いが届かなくては、せっかく作成した動画ESも意味がありません。他者からのコメントは、一人では気付けない視点の発見や、見せ方の改善につながるはずです。
「他者から見て、自身の気持ちや思いが届くかを確認することは重要です」と千葉さん。この点は文章によるESと変わりません。恥ずかしいかもしれませんが、積極的にフィードバックをもらうのが良さそうです。
動画ESにWeb面接にと、普段とは異なるWeb上のコミュニケーションを求められる今の就活生。しかし、それは「見せ方のバリエーションを知るチャンスでもある」と千葉さんはエールを送ります。
「知らないことや初めての経験で不安な学生も多いと思いますが、対面でもWebでもそれに合わせた、見せ方のバリエーションがあります。それを知ることで、能動的に就活と向き合ってほしいですね。そして、私たちが話す力の育成を行う会社として、就活生の皆さまをサポートできるよう、これからアクションを取っていきたいと思っています」
●千葉さんの現在のお仕事についてはこちら株式会社カエカ株式会社カエカは「すべての人が話し手となりチャンスを掴(つか)む社会」の実現に向け、スピーチに関するライティング・トレーニング・スクール・ライブ事業を展開しています。※こちらは2020年4月に公開された記事の再掲です。
かつて日本には、話す力に向き合う機会がほとんどありませんでした。察する文化、教育不足など理由は多岐に渡ります。
自由な発信ができる新しい時代を迎えた今、話す力への取り組みはこれまで以上に重要になります。「話す力の強化」はAI(人工知能)やテクノロジーでは補えない「人間として発揮できる価値の充実」を目指し、事業を展開して参ります。