ワンキャリアが経済誌『Forbes JAPAN』と共に取り組む「Great Company for Students」。学生の声から選ばれた受賞企業10社の中には、三井物産や野村総合研究所といった就職人気ランキング上位の企業も名を連ねました。
ただ、人気ランキングの上位だからこの2社が受賞できたわけではありません。むしろ人気に甘んじず、学生と誠実に向き合う採用活動を続けてきたからこそ、学生にとってのGreat Companyになれたとも言えます。
優秀な学生に選ばれる企業になるために、知名度よりも本当に必要なものは何か──。特集「採用の新常識」。今回は採用の現場に立つ三井物産 人材開発室長の古川智章さんと野村総合研究所 コンサルティング人材開発室 採用担当の毛利一貴さんと考えました。
オワハラは人事の「必要悪」ですか、三井物産さん
──「Great Company for Students」の受賞、おめでとうございます! 本日は三井物産の古川さん、野村総合研究所の毛利さんとともに「学生から選ばれる企業」について考えたいと思います。
三井物産 古川(以下、古川):ワンキャリアを利用している人は勉強熱心で自立自走できる学生が多いという印象があります。その学生から評価をいただけたというのは、非常にうれしく思います。
三井物産 人材開発室長の古川智章さん
──三井物産が支持された理由の一つは、「内定をあげる代わりに、他の選考は辞退しろ」と就活生に要求する「オワハラ」の撲滅に力を入れていることでした。
古川:オワハラって、不安な心理を抱えている学生に対していい大人がやるような話ではないと思っています。憲法では職業選択の自由が保証されていて、われわれがいつでも会社を辞めることができるのと同様に学生の皆さんも内定を辞退する権利があります。僕は大学生2人と高校生1人の子どもがいるのですが、親目線でも「?」と思います。学生が自分の中で選択肢を持ち、その中で考えればいいと思います。
──三井物産のような日本を代表する企業が、就活の闇に切り込んだ意義は大きいと思います。ただ、企業としては「内定を出すからには、入社してほしい」とも思うでしょうし、「必要悪」とも考えられないでしょうか。
古川:当社を蹴って他社に行くことはありますが、それはそれで仕方がないと完ぺきに割り切っています。例えば、うちで内定を出しても外資系企業に就職する人がいたら、その判断は尊重します。多分、日本で一番潔い会社だと思います(笑)。
企業の採用担当者は「○人確保しなくてはいけない」と考えてしまうから、刹那的にその場限りで学生を採用しようとするのかもしれません。でも、それはお互いに良い話につながらないので、変えていったほうが良いと思います。他社に逃げないように「当社は良い会社です」ときれいごとを並べたって、現実との乖離(かいり)があるのであれば、入社後すぐに辞めてしまうでしょう。今の学生はしっかりとした考えを持っているので、無理に入社しても長続きしないと思いますよ。
──オワハラをしても実は何もいいことがない。当たり前のことですが、それがはっきりと分かる時代になったのですね。
どうすれば面接は「茶番」で終わらないんですか、NRIさん
──野村総合研究所(NRI)も「学生のことを考えてくれている」との声が多かった企業です。
野村総合研究所 毛利(以下、毛利):非常に光栄な賞をいただき、素直にうれしいですね。受賞は、これまでの採用担当が採用活動のアップデートを続けてきた蓄積かなとも思います。
野村総合研究所 コンサルティング人材開発室 採用担当の毛利一貴さん
──確かに、NRIは採用手法を毎年変えていらっしゃいます。特に「隣人の構造化面接」はユニークですよね。グループ面接で隣になった学生同士で、相手の自己PRを聞いて質問し、まとめ直して相手の紹介をする。この手法はどういう理由で生まれたのでしょうか。
毛利:30分の面接でコンサルタントの素質を知るために、生み出されました。面接の際、面接官が通り一遍の質問をしているだけでは、学生がどれだけ事前に準備をし、それを詰まることなく説明できるか程度しか評価できません。
──確かに「就活はタテマエばかりの茶番劇」と考える学生も多いと思います。
毛利:一方で、コンサルタントは、お客様とのミーティングに臨むにあたって、お客様からのさまざまな情報をその場でインプットし、自分で考え、その上で今度はお客様へアウトプットを提供するという3つのフェーズを意識します。短い面接の時間で、学生のこの3点に資する能力をどこまで引き出せるのかを、採用担当として常々考えています。
今でもさまざまな面接スタイルを確立しようと、とにかくずっと考え続けています。コンサルの業務そのものが日常的にアップデートし続けることなので、それを面接スタイルに落とし込んだと考えれば、自然なことかもしれません。
──合理的に考えて変化を起こせば、面接も茶番でなくなるんですね。
採用で外資に勝つために必要なのは「良い長期戦」
──ワンキャリアの就職人気ランキングを見ると、上位の多くは外資コンサルです。外資優位な状況で「採用で外資に勝つのは難しい」と悩む人事も多いと思いますが、優秀な学生を獲得するための採用戦略はありますか。
古川:3年生の夏くらいに外資系企業から内定をもらって「就活はもう終わり」と思っている人に対し「それで良いのですか?三井物産という選択肢はあるかもしれませんよ」と思うこともあります。そういう人たちに対する働きかけは、粘り強くやっていきたいと思っています。
毛利:外資コンサルの姿だけを見て「やはり自分にはコンサルは合わないな」と判断し、コンサル業界自体を就職先から外してしまう学生が多いと感じています。私たちは、こうした学生としっかりとコンタクトを取りたいと思っています。セミナーで心掛けているのは、業界に対する学生の先入観をなくすことです。
──どうやって先入観をなくすのですか。
毛利:私はよく「論理と情理」という言葉を使います。学生の思い描くコンサルのイメージは、「論理」の方に偏ったものが多いのですが、実際にコンサルティングをやっていく上では「お客様にどう動いていただくか」「どう一緒に作りこんでいくか」の「情理」が大事になってきます。
NRIは日本発のコンサルティングファームとして、日本のいろいろな企業と長く懇意にさせていただくので、人として信頼関係を構築できるような方に入っていただきたいと思っています。ですので、情理の大切さや人の面からの魅力をなるべく伝え、コンサル業界の先入観をなくしていくことに注力しているつもりです。
──「じっくり学生と向き合い、誤解をなくしていく」という手法は、外資と比べれば「長期戦」の採用活動をやる日系企業ならではと感じました。長期戦のメリットをもう少し教えてもらえますか?
毛利:メリットということではないかもしれませんが、学生が就職活動の期間を経て、キャリア観というものを形成する、そのプロセスに関わらせていただける点は挙げられると思います。
学生を見ていると、就職先が決まるところがゴールだと思っている人が多いという印象を受けます。でも、本当に大事なのは、就職してから何を大事にして働くか、どういうキャリアを歩むかです。そこに向け、じっくりと腰を据えてコミュニケーションができるのは、日系企業ならではと思います。
例えばNRIのインターンでは、インターンに参加するための選考結果や、インターン中の活動に関するフィードバック、それからキャリアに関する相談を1対1で行う機会を、5日間の中で3回設けています。その場でお伝えした内容が5日目に改善されていることもあれば、数カ月後に再会した際に変わっていたこともある。こういう学生の成長を見ると、「面白いな」と思います。
古川:僕も間違いなく良さはあるだろうと思います。これから経団連の就活ルールが廃止になり、政府の要請はありますが4年生6月を面接解禁日とする決まりも形骸化していく可能性があります。企業が自由に面接を始める日を決めていく場合があると思うのですが、三井物産は自由になったとしても4年生の前にはやらないだろうと思っています。
──それはどうしてでしょうか。
古川:きれいごとではなく、採用活動の期間が早ければ良いとは思わないからです。学生は大学での研究や勉強、スポーツを通じて人格形成ができるし成長していくのだろうと思います。われわれが評価するのは「生きざま」と言っても過言ではないです。同じ大学1年間でも何をやってきたかによって成長の差は大きい。1年生や2年生で判断すると学歴とかそういうもので判断してしまうのではないかと思います。それに学生も、早く内定をもらっても「もう少し見てみよう」と思う人も出てくるでしょう。
──学生にとって適切なタイミングを見極め、長い目で成長を見守りながら入社を決めてもらう。そんな「良い長期戦」が日系企業には必要なのですね。
就活コミュニティーで対策は万全に。学生の本音をどう見極める?
──「就活は情報戦」という言葉が出るくらい、近年の学生たちは選考対策や企業の情報を集めています。学生の本音を見極めにくくなっていませんか。
毛利:型にはまったことをやってしまっていると、学生も対策ができてしまいます。例えば、隣人の構造化面接も今はやっていません。面接が始まると、みんな面接官ではなく横の学生を見始めるようになったんです。これって、おかしな話ですよね。
学生が本当の意味で言っているのか、覚えた内容をそのまま機械のように話しているのかを見極める力が必要だと思います。
──就活コミュニティーを運営するサービスも次々と生まれ、コンサル業界はますます対策しやすくなってきていますからね。
毛利:よく勉強してくださっているという意味では良いのですが、面接で志望動機を聞くと、業界や企業の解説をしてくれる人が非常に多いです。「あなた自身の考えとして、なぜうちの会社を選ぶのか」「本当に覚悟を持ってコンサルタントという職業に就きたいと思っているのか」という一番聞きたいところが考え切れていない。そういう印象の学生が散見されるのは気になります。
──三井物産も合宿選考で学生の本来の力を見極めようとしています。
古川:前提として、学生も会社を見間違えるし、僕らも学生を見誤ることがあると思っています。なので、もっと時間をかけて、お互いに理解し合いつつ、「一緒に働きましょう」と言えるのかを見極めるプロセスにしたいと思い、合宿採用を始めました。
──30分の面接では、無理だったのでしょうか。
古川:30分の面接でわれわれが何をやるのかというと、よろいを脱いでもらう。これにすごく時間を費やすわけです。その人の本質を見たいと思っていても、ある程度リラックスしてお互いが分かり合えないと、見えないと思います。
僕自身も、ほんの20〜30分の面接を3、4回くらいしただけで人を見極めるという日本の選考プロセスにすごく違和感を感じたのです。なので、変えていきたいと思いました。
──新卒採用の常識や予定調和に疑問を感じたら、自ら変える。それくらいの気概がなければ、学生にも選ばれないのかもしれませんね。
超売り手市場だからこそ、企業は本音を語るべき
──古川さんは最近の学生の傾向や変化を感じることはありますか。
古川:学生の働き方や企業選択のマインドが変わってきているのは間違いないです。終身雇用や年功序列のシステムが崩壊し出しているわけですから。
その中で「本当に総合商社で働きたいのか、それで正しいのか」という問いかけは常にしています。ミスマッチが起こりかねないので、気を遣うところです。
僕はよく「もし今具体的な起業のアイディアがあり、仲間が集まり、資金調達ができるなら、ベンチャーを起こしたほうが良い」と言います。「なんとなく総合商社で最初は勉強してから」と考えるなら、時間の無駄です。一方で、「国と国をまたぐような壮大な事業がやりたいなら、うちが正しいと思いますよ」とも話します。
──学生に包み隠さず話してほしいなら、まず企業が包み隠さず話さないといけないのでしょうね。
古川:やはり、お互い飾らないことが重要かなと思っています。あまり面接のときに取り繕っても、入社後に後悔してしまいますから。
例えば三井物産は「挑戦と創造」がスローガンで、チャレンジ精神を持っている人を求めています。ですので、学生時代、それこそ中高から親の敷いたレールの上を歩いてきて、なんとなく過ごしてきた人が、面接だけ「学生時代にチャレンジをしました」と言っても、入ってから困ってしまうような気がします。
──コンサル業界は転職ありきで人材の流動性も高いのではありませんか。
毛利:私個人としては、学生のセカンドキャリア志向を否定するつもりはありません。学生から「ファーストキャリアでこういう力を身に付けつつ、このように貢献していきたいです」ときちんと話をしていただき、その観点からNRIに魅力を感じていただけるのなら、NRIで頑張ってほしいと思います。
とはいえ「学校ではないですよ」とも強調して伝えています。給料をもらって仕事をする以上はクライアントにしっかりと価値を発揮していただかなくてはいけないので、そこの責任感はしっかりと持った上で働いてほしいです。外資のようなアップオアアウトはなく、簡単にクビにならないからこそ、そこはきっちりと伝えていますし、面接の際も相当深く考えを聞いていきます。
──やはり厳しさもありのままに伝えるのですね。
毛利:等身大の姿をきちんと学生にお伝えすることを意識しています。具体的には、なるべく現場の社員と会っていただくということを重視しています。良くも悪くも現場の社員を全員コントロールできるわけではないです(笑)。学生には、説明会などで聞いたことが全てだと思わず、新たな気付きを得てほしいと思っています。
──本音で向き合うためには何が必要なのでしょうか。「学生に良く見せたい」という気持ちを打ち消すためにはどうすれば良いでしょうか。
古川:仕事選びで本当に大事なことを社会人として話してあげることだと思います。僕はよく「人気ランキングや給料、華やかなイメージで会社を選んでも良いことはない。自分自身が会社という組織に入って、活(い)き活きと楽しくできる仕事を探すのが一番幸せにつながる」という話をしています。
その上で、「うちはこういう人を必要としている。そうでない人はあまり幸せじゃない社会人生活が待っているかもしれない。だから、お互いに素でいこう!」と説明します。自分が本当に働きやすい仕事を選ぶのが重要だと理解してもらうためには、地道で丁寧なコミュニケーションが要ると思います。
毛利:今は学生から見たら採用市場はバブリーな状態ですし、学生によってはたくさんの内定を持つ方も出てくるでしょう。しかし、決して各種ランキングの上位企業の内定を持っているだとか、多くの企業の内定をもらったというところまでで満足しきってほしくはありません。内定した後こそしっかりと企業に向き合い、自身のキャリアについて真剣に考えてほしいですよね。
挑戦する姿を見せないと、学生に選ばれない
──最後の質問です。これからの時代に「学生に選ばれる企業」になるためには、何が必要でしょうか。
毛利:難しいですね……。一つは、企業と学生の間での信頼関係を構築することだと思います。企業は労を惜しまず、一人一人の学生の考えや悩みに耳を傾けるなど相談に乗ってアドバイスをし、時には厳しい意見をぶつけ合うことです。
古川:選ばれるためにアピールするというよりは、そこで働く社員が活き活きと活躍する会社であり続けることで、最終的には選ばれるのかなと思います。例えば三井物産ですと、まずはわれわれ自身がしっかりと事業を通じて社会の問題に果敢に挑んでいること。かつ、楽しそうに活き活きと働いている人がしっかり報われ、働かない人は報われないというメリハリがある人事制度を整えていることがますます重要になると思います。
毛利:そうですね。成熟しきったとも言える日本においては、事業会社の一員だろうが、コンサルタントだろうが、自身で将来を切り拓(ひら)くマインドセットを持つことが何よりも重要だと思います。その意味では、社員個人としても会社としても、現状に甘んじずに挑戦し続けなければならないと思います。日本は歴史的に保守的な企業が多いとも言われますが、こうした挑戦する姿を学生にお見せすることを意識した方が良いかもしれません。
──ありがとうございました。
【撮影:保田敬介】
【特集:ワンキャリア × Forbes JAPAN「Great Company for Students」】
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<コーポレイト ディレクション×キュービック×アトラエ>
・もはや「選ばれる」という感覚も古いのかもしれない。「匂い」のする会社には自然と学生が集まる