2020年ももう終わろうとしていますが、今年を振り返ると「新型コロナウイルス」一色の年だったと言っても過言ではないでしょう。
合同説明会の相次ぐ中止や選考や説明会のオンライン化など、就活にも大きな影響を与え続けています。
一方、そのような状況下で苦しむ就活生を支援できないかと、新たな動きを見せた企業も少なくありません。広告会社大手の「博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ」もそんな1社です。
同社は12月2日、大学生・大学院生向けのオンラインサロン「ハクスク」を開設しました。サロンに参加する学生から意見を集め、記事や企画を行う……とウェブサイトには書いてあるものの、具体的な話はなく、謎は深まるばかり。
「なぜこのタイミングでサロンを立ち上げたのか」「博報堂がやるメリットは?」「これから結局何をするの?」
ハクスクの仕掛け人である人事部の3人にさまざまな疑問をぶつけてみました。
(右上:利光 健一)博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局 人事部 マネジメントディレクター(左上:山本 桃子)博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局 人事部 マネジメントプラナー(下:秋葉 遼太)博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 人事局 人事部 マネジメントプラナー
「ハクスク」で大学生、大学院生の全員にキャリアを考えるきっかけを作りたい
──本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介として、現在の携わっているお仕事やミッションについて聞かせてください。
利光:私は新卒・キャリア採用のリーダーとして、博報堂と博報堂DYメディアパートナーズ2社合同で採用を行う責任者をしています。過去には、クライアントと一緒にビジネスを行うビジネスプロデュース職や人事労務の領域を担当していた時期もあります。
山本:現在は利光さんのもと、新卒・キャリア採用における採用マーケティングに携わっています。採用活動におけるPDCAサイクルは年々スピードが上がっています。そのダイナミズムを感じながら、日々チーム一丸となって奮闘しております。
秋葉:僕も山本さんも新卒で人事部に配属となり、新卒採用活動をメインに人事業務を行っています。配属当初は、現場で働いた経験のない自分に採用活動ができるのかと不安だったのですが、「採用マーケティング」において、学生の視点から選考や広報を考えることは、とても重要だと分かりました。
もちろん、先輩方から学ぶことも多いですが、新卒採用においては「学生に近い立場」として、むしろ自分がチームを引っ張るくらいの気持ちで日々業務に取り組んでいます。
──ありがとうございます。早速「ハクスク」についてのお話を伺いたいのですが、これはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
ハクスクの構想は、そのときに僕が持ってきたものですが、博報堂と博報堂DYメディアパートナーズには「アイデアの下に皆平等」という言葉があります。それを体現するよう、チーム全体でアイデアを具体化し、サービスを作り上げていきました。
秋葉:コロナ禍でこれまでの就活のやり方がまったく通用しなくなった──それは企業にとっても同じです。そんな中で「このままではいけない」という危機感と「こんな状況だからこそ、何か新しい試みができないか」というワクワク感が採用チームにはあって。その両方の思いがこのハクスクを生み出す原動力になったと思います。
山本:うちのチームは平均年齢29歳と全社的に見てもかなり若い部です。ブレストのときもみんな満身の企画をどっさり持ち寄るなど、文化祭準備のような熱気がありました(笑)。その熱量を保ったまま、実装からリリースまで2カ月で走り抜いた感じです。
──リリースまでに苦労された点などはありますか? ハクスクにどのような思い入れがあるかも含めて、教えてください。
山本:ネーミングには相当時間をかけました。ハクスクは博報堂を知り尽くしてもらう場ではなく、学生の皆さんに「社会人になるのって、もしかしたら楽しいのかも」と思ってもらえるような、そんな気付きが得られる場にしたいんです。
試行錯誤を繰り返し、最終的に「博く学べる場所(Square)」をコンセプトに「ハクスク」と名付けました。「就活生」に閉じず「大学生・大学院生」全員にキャリアを考えるきっかけを作りたいですね。
秋葉:学生の皆さんが登録したい、記事が見たいと思ってもらえるように、細かなサイトの作り込みは、グループの開発会社と何度も打ち合わせをして詰めていきました。また、「自分が学生だったら、どんな記事が読みたいか」を考えて連載の企画を作るのは、今まさに苦労しているところです。
「短期で成果を出すこと」が重視されがちな世の中。自分自身と向き合う時間が取りにくい?
──学生の皆さんにキャリアを考えるきっかけを、というお話ですが、皆さんは昨今の就活に対してどのような印象を持たれていますか?
秋葉:今の日本の学生にとって、就活自体が「周りが始めているからそろそろ自分もやらなきゃな」「けど何から始めたらいいか分からないよ」というように、後ろ向きで受動的なものになっているなと感じています。
就活は人生の大きな岐路の一つだし、多様な選択肢の中から将来を考え、自分のキャリアをスタートさせる貴重な機会です。「こんなことがやりたい」「こんな社会を作りたい」「日本を、世界をこう変えたい」──。そんな野望を持って、目を輝かせながら就活に臨む学生が1人でも増えたらいいですね。
山本:これは学生に限りませんが、昨今の世の中の状況もあって「短期間で成果や結果を出すこと」にこだわる人がとても増えたと感じます。それ自体が悪いとは思いませんが、ことさら就活においては、「目先のゴール=内定」を気にして、あまり自分自身と向き合えないまま焦っている人も多いのかもなと。
就活に正解はありませんが、周りを気にせず、自分の人生やキャリアと丁寧にじっくり向き合うための情報や環境が整っていないことは課題だと思っていました。
──なるほど。内定がキャリアのスタートではなく、ゴールになっていると。
利光:そもそも、働くってなんだろう? って部分から考えるのもアリですよね。「キャリアはこうあるべきだ」というルールは存在しないわけですし。
「今の自分」というのは、数ある人生の選択の結果とも言えます。これまでの自分から大きく変えたいのか、それとも、これまでの自分を信じて人生を歩んでいくのか、そういった部分から、自分が望むキャリアは自然に見えてくると思います。
──「ようこそ『ハクスク』へ。」でも書かれているように、今はさまざまな就活サイトやインタビューメディアがあります。そういったサービスやメディアと比較して、ハクスクだからこそできることはあるのでしょうか。
利光:博報堂/博報堂DYメディアパートナーズは人材について「粒ぞろいより粒違い」ということをうたっているように、多様なメンバーが在籍していますが、その多くの方が「お人よし」。タテヨコナナメ関係なく後輩が大好きで、相手の立場になって考えることに喜びを感じる人が多いです。
人事だけではなく社員が、これからの時代を担う若手と対話することで「新しい時代の企業と学生との絆」が実現できるのではないかと思っています。
秋葉:僕が記事を書いているときに意識しているのは、「新しい発見」があるか、そして「問いを与えられているか」という点です。
他の就活サイトと同じようなことを掲載しても意味がないですし、就活のハウツーを伝えたいわけでもありません。この記事を読んで、今までと違った角度や観点から自分のキャリアを見つめ直してくれたら──そんな思いで書いていますし、今後もその視点を忘れずにコンテンツを増やしていきたいですね。
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズが考える「学生と企業の新しい絆」──学生が人生を主体的に選ぶ環境を用意するのが企業の役割だ
──就活生に人気のある博報堂/博報堂DYメディアパートナーズが、わざわざハクスクを立ち上げるメリットがあまり見えません。実際、どういった狙いがあるのでしょうか。
山本:一生活者である、学生の皆さんの課題を解決していくことが「生活者発想」を掲げる博報堂の使命だからです。皆さんの生の声や意見を吸い上げて、世の中に還元していくことが生業(なりわい)なので、こうしたインタラクティブな場があることは、ありがたく思っています。
利光:確かに、他社の方にお話しするとそう言われますが、社員からは「いいじゃん!」って言われるんですよ。この温度差に個人的には悩んでいます(笑)。振り返れば、これまでも博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ合同で「博FES」という、NGなしの質問を受けるような単独イベントをやったり、博報堂では2012年から「BranCo!」というビジネスアイデアコンテストを開催しており、長い間学生たちと向き合ってきました。
僕らからすると「若者のキャリアに向き合いたい」という思いがずっとありますし、ハクスクで得た若者の声は、僕らが掲げる「生活者発想」を培う貴重なチャンスだと思っています。
──今後の方針では「記事にしてほしいテーマを募集」「新しい時代のキャリアについて一緒に考える企画を行う」などを打ち出しています。現時点で、具体的に動き出した企画はあるのでしょうか。
利光:今は僕らからの一方的な配信になっていますが、これからは記事のバリエーションも増やす予定ですし、年明けに学生の方も交えたキックオフイベントを行おうと考えています。
実際にハクスクに登録してもらったメンバーの方とオンライン、オフラインでの交流やワークショップを通じて、あらゆるテーマについて一緒に考えていけるようなイベントを作っていく予定なので、少しだけ待っていてください!
──先ほども少しお話にありましたが、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズが考える「学生と企業の新しい絆」とはどういうものなのでしょうか。
山本:「企業から学生へ」という一方的な関係ではなく、互いに関わり合うことでより立体的にキャリアや世の中のことを理解してもらうイメージですね。学生自身が、自分自身の人生を主体的に選び取れるだけの環境を企業側も用意していく。これが就活の今後の在り方だと考えています。
学生の皆さんに最終的に選んでもらうために、企業がアピールすることも大事なんですけど、もっとその前段といいますか、「そもそもキャリアってなんだっけ」というところから、じっくり考える機会を作っていくことも大切です。
秋葉:絆って、「作る」というよりは「気付いたらできていた」というものだと思います。そういった意味で、ハクスクを「気付いたら毎日のぞきに行っているな」という場所にしたいですね。僕らも誠実に一つひとつの企画に魂込めて作っていきたいですし、学生の皆さんと共創していく部分はこだわっていきたいと思っています。
こんな時代だからこそ「ありたい未来」を描く。人の思いを届けることが広告会社の責務だ
──ハクスクのような取り組みもそうですが、大変な時代だからこそできる広告会社の役割や意義はどのようなものだと考えていますか?
山本:商材を持たない広告代理店の強みは、「さまざまなステークホルダーとのハブであることを生かした自由な発想力」、そしてその発想力の源である「多種多様な人の集合体」であることです。だからこそ、毎日劇的に変化する環境にも即座に対応し、生活者の「こうあってほしい未来」を作り上げていくことが私たちの役目だと考えています。
秋葉:これは僕の尊敬する先輩の言葉ですが、「ありたい未来」を考えて行動し続けることが広告代理店の役割であり、意義だと思います。「あり得る未来」は今話題の5GやAI(人工知能)といったテクノロジーの進化である程度予測できますし、「あるべき未来」は専門家や行政のリーダーが進めていく部分かもしれません。
その2つの未来を意識しつつ、そこにwillを込めて「ありたい未来」を描くこと、そして描くだけでなく、それを実社会に実装していく力が、未来が不確実なこの時代に必要だと思っています。その旗振り役として広告代理店ができることはたくさんありますし、僕自身も今後どんなことができるのかワクワクしています。
利光:今とても不思議な時間を生きていると感じています。つい1年前の当たり前が非現実になった。いつそれが戻ってくるのかも分からない。でも、僕はこんな時代だからこそ、「人に伝えたい」という人間の欲求と真摯(しんし)に向き合うという、広告代理店の果たすべき役割に意義を感じています。
物理的に思いを届けられない、でも表現する方法は無数にある。とはいえ、全部デジタルに置き換えればいいのかといえば、そうではなくて。こういう時代だからこそ手触り感があり、温もりを感じるアイデアを考え、世の中に提案できることが広告代理店の強みだと感じています。
──ありがとうございました。最後に、コロナ禍の中で就活に挑む学生に向けて、メッセージをお願いできればと思います。
山本:自分も当時悩んでいましたが、就活に限らず人生のあらゆることって他人と比較すると本当にキリがないです。最近は「SNS疲れ」なんて単語もよく聞きますが、見たくなくても周りの情報が入ってくるし、なんかキラキラして見える。だってそういう部分だけを見せる場ですから。
だけど、今後のキャリアはあなただけのもので、周りなんて一切関係ないです。ぜひじっくりと自分自身に向き合って、自分のことを客観的に見つめて納得できる自分なりの答えを見つけてみてください。もし知りたいことや、悩んでいることがあったらいつでもハクスクの「@Mention Square」で教えてくださいね。応援しています!
秋葉:最後は「なるようになる」と割り切ることも大事だと思っています。僕は最終面接の前、「落ちたとしてもこれで死ぬわけじゃない!」と開き直っていました。ただ、それは自分の力でできることは全てやり尽くしたと信じていたからですし、自分の心に嘘(うそ)をつかずに就活を進めた結果だと思っています。
目の前のことに一生懸命取り組むことと、長いキャリアを俯瞰(ふかん)的に見て自分の将来像を描くこと。その両輪を回すことにぜひ前向きにチャレンジしてほしいです。それは就活に限らず、社会人になってもずっと必要な姿勢です。ぜひ一緒に頑張りましょう!
利光:環境が大きく変わり、学生の皆さんは大きなストレスを抱えているかもしれません。でも、人には「いいストレス」というのも存在します。筋トレのように、自分にこれまでない負荷をかけることで、昨日の自分よりちょっぴり強くなるそうです。
この話を聞いたときに僕はもう社会人だったのですが、あえて恥をかきそうな道を選んでみる、選んだことがない選択をする。これをコツコツ続けているうちに、昔の自分よりもちょっとだけ強くなれた気がしました。
つらいことも多いかもしれませんが、皆さんはすでにこれまで世界で誰も経験したことのない、自分たちにしか語れない経験をし始めているのです。この経験に自信を持って、これからの新しい時代をともに生きていきましょう!
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