2019年7月4日、就職活動を控えた大学生に向けたトークイベント「絶対内定×メモの魔力 〜自分の未来を作る究極の自己分析〜」が開催されました。
登壇したのは、キャリアデザインスクール 我究館の館長を務め、就活生のバイブル『絶対内定』シリーズの著者である熊谷智宏さん。
外資系投資銀行、DeNAを経て起業し、現在は仮想ライブ空間サービスを運営するSHOWROOM株式会社の代表取締役社長を務め、自身のメモ術と思考法をまとめた『メモの魔力』の著者である前田裕二さん。
幻冬舎の書籍編集者として『メモの魔力』をはじめ、ベストセラー本を次々に手がける傍ら、1000人規模のオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰する箕輪厚介さんの3名。
イベントは3部構成で行われ、他の就活生と差のつく自己分析をするための思考法について熱いディスカッションや、会場にいる学生たちの自己分析への本気のフィードバック、質疑応答が行われました。
多くの就活生が悩む正しい自己分析の方法。その思考法と深め方について聞いていきます。
成功する就活生は、抽象と具体を往復させている
第1部では、他の就活生と差のつく自己分析の方法について、登壇者3人によるディスカッションが行われました。
熊谷さん:『絶対内定』を出版して30年近くたち、毎年10万部ほど就活生の手元に届くんですが、「ワークシートに書き込んだはいいけど、自己分析ってこれでいいのか?」とか、「思考が深まらない」とかの相談をよく受けるんですよね。
我究館の生徒たちには、僕らがマンツーマンで考え方を説明していたんですけど、そもそも僕たちがその思考をうまく言語化できていなかったんですね。『メモの魔力』を読んだときに、ここに書かれている「ファクト・抽象化・転用」の思考法(※)で『絶対内定』のワークシートに取り組んだら、就活生の思考がより深まるなと思いました。
(※)……(1)インプットした「ファクト」をもとに、(2)気付きを応用可能な粒度に「抽象化」し、(3)自らのアクションに「転用」する。
熊谷 智宏(くまがい ともひろ):我究館 館長
横浜国立大学卒業。新卒で株式会社リクルートに入社し、2009年から株式会社ジャパンビジネスラボに参画。10年で3000人以上の大学生・社会人の就職、転職のサポートを行う。ベストセラー『絶対内定』シリーズの著者。
箕輪さん:僕は1回目の就活は、自己分析をしないで大失敗しているんですよね。テレビ局と出版社は全部落ちて、沖縄のリゾートホテルでパラソルを差す仕事に内定したものの、リーマンショックで倒産。2回目の就活をすることになった。それで、たまたま『絶対内定』のイベントに参加して、やっと自己分析の重要性とやり方を理解したんですよね。
熊谷さん:『絶対内定』のワークシートには具体を書くんですけど、それが何を意味するのかという抽象に転化することができないんですよね。『メモの魔力』に書かれている、転用というプロセスができずに、自己分析に苦しんでいる人が結構いるんじゃないかなと思うんです。
前田さん:確かに面接をしていると、具体と抽象のどちらかしかないケースが多く見られます。「あなたの長所はなんですか?」と聞いたときに、「コミュニケーション能力です」というのは抽象じゃないですか。そこから、それにひも付く具体的なエピソードがないケースが多い。
一方、「大学時代、一番楽しかったことはなんですか?」と聞いて、「文化祭の準備です」と答えるのはファクトです。そこから抽象に上がっていかないケースで、この抽象とファクトを行き来させながら話してくれると、こちらもスムーズにその人のことを理解できるし、面接でもきっと勝ちやすいのだろうなと思います。
前田 裕二(まえだ ゆうじ):SHOWROOM株式会社 代表取締役社長
2010年に早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系投資銀行に入社。2013年にDeNA株式会社に入社し、同年、仮想ライブ空間サービス「SHOWROOM」を立ち上げる。2015年に事業を独立させ、SHOWROOM株式会社を設立。現在はSHOWROOM株式会社代表取締役社長を務める。
熊谷さん:「大学時代、一番楽しかったことは文化祭の準備です」を抽象化すると、「みんなで1つの目標に向かって走る」とか「強い一体感を持つ」とかになります。ここまで踏み込んだ自己分析をするためには『絶対内定』と『メモの魔力』、2冊セットで取り組むとかなりいいと思います。
箕輪さん:『絶対内定』が自己分析のワークシートだとした場合、そのやり方を『メモの魔力』で、しかも、前田さんの人生を通しながら理解できるとしたら最高のセットですよね。
箕輪 厚介(みのわ こうすけ):株式会社幻冬舎 編集者
2010年株式会社双葉社に入社、ファッション雑誌の広告営業として4年間、タイアップや商品開発、イベントなどを企画運営、『ネオヒルズジャパン』与沢翼 創刊。2014年から編集部に異動し『たった一人の熱狂』見城徹/『逆転の仕事論』堀江貴文/『空気を読んではいけない』青木真也などを担当。2015年7月より現職。オンラインサロン「箕輪編集室」を運営。エクソダス取締役などを兼務。
前田さん:これまでの自己分析って、思考のフォーマットが提供されていないんですよね。
箕輪さん:確かに。「問い」だけが与えられていて、それにただ答えて終わり、というのがほとんどですよね。
前田さん:答えた内容がファクトであれば、それをどう抽象化するのか? もし抽象的な答えであれば、どうファクトに落とし込むのか? という思考法こそ提示すべきなんじゃないかなと思います。
熊谷さん:自己分析の思考を深める方法を言語化したのは『メモの魔力』が初めてかもしれない。さらに言うと、思考のフォーマットは、自分に定着させる必要があると思います。だから『メモの魔力』の思考フォーマットを、ずっとトレーニングしていくことがすごく大事だと思うんですよね。
箕輪さん:問いのフォーマットは『絶対内定』で、思考のフォーマットは『メモの魔力』という使い分けがよさそうですね。前田さんは就活のとき、自己分析をどういうふうにやっていたんですか?
前田さん:まさに、『メモの魔力』に載せたフォーマットでやっていました。過去の経験で、楽しかったこと、つらかったことというファクトがありますよね。例えば僕の場合は、親が亡くなったことが一番つらかったとする。それを深掘ると、そこからいろいろな観点を得られるなと。
親の死という避けられない不遇に直面したこと自体がつらいのか、あるいは、亡くなった事実は仕方なくて受け止められるけど、そこから抜け出せていない自分に対する憤りなのか。僕は乗り越えたいけど、そのエネルギーが出せない自分にイライラしているのか。
熊谷さん:多くの人の自己分析って最初は気持ちいいところから分析するんですよね。何が楽しかったとか、何が強みかとか、表面的なところからいくんですよ。でも、コンプレックスに目を向けて、それを晴らそうと思うと人ってエネルギーが湧いてくることがある。いじめられていたとかすごく悲しい出来事とかですよね。自己分析をしないと、ただ単に自信を吸い取るコンプレックスなんだけど、自己分析をしてこれを強みに転じた人のエネルギーはすごい。
ネガティブな体験やコンプレックスがあることって、プラスになる場合も多いので、目を背けないことが重要だと思っています。
抽象化すれば「自分の軸」は見つかる
第2部では、参加者が事前に提出した「理想の人/信念/30代は世の中にどんな影響を?」という問いに関する自己分析に対し、直接フィードバックが行われました。
箕輪さん:理想の人に本田圭佑さん、信念として武士道を挙げているってことは、努力が好きな人だよね。今何歳ですか?
参加者A:22歳です。学部4年生で、大学院に進みます。
箕輪さん:本田圭佑さんのどういうところに憧れているんですか?
参加者A:彼のプレースタイルがすごく好きで、プレー動画をたくさん見ていたら、彼のビジョンに関する動画を見つけました。ウィル・スミスと投資をするなど、サッカー以外の活動も多くて。自分のやりたいビジョンがあって、それに向かって型にはまらない生き方をしているのがいいなと思いました。
前田さん:プレースタイルはきっかけであって、最終的には彼の生き方とかサッカー選手っていう枠を越えて活躍しているところとかに憧れを持ったっていうことですね。それは自分が型にはめられて生きてきたという感覚があるんですか?
参加者A:すごくあります。大学まで体育会系の部活に所属していたのでルールが多かったし、家庭も父がすごく厳しかったですね。
前田さん:なるほど。簡単にフィードバックをすると、「憧れの人は本田圭佑さん」は具体。それを抽象化して面接の場では、「自分が本田圭佑さんに憧れているポイントは、ある分野で圧倒的な成果を出していることと、その圧倒的な成果を出しているにもかかわらず、その枠にはまらずに生きていることの2つです」とパッと言えたら一番分かりやすいなと思います。
さらに言うと、常にその2つを自分の心の中に持っておくことが大事で、その観点に照らし合わせて、日々の行動のやるやらないを決めたり、過ごし方を決めるものさしにできたりしたらいいだろうなと思います。
熊谷さん:抽象化したときに「型にはまらない」と気付いたのはすごくいいことなので、日常の中で型にはまらない行動ってなんだろう、と考えて動き続けるといいですよね。
前田さん:そうなんですよね。本田圭佑という具体を自分の胸の中に持っていても、行動にはひも付きにくい。ある分野で圧倒的に成果を出し、それにもかかわらずその型にはまらずにさらにその先に行く、っていう2つが自分の中に入っていると、目の前にチャンスが来たときに自分の価値観に沿って行動できるようになると思います。
箕輪さん:それはほんとそう。僕は楽しいことしかやらないというのを価値観として持っているから、テレビ番組の出演もドタキャンするんですよ。芸能界のルールで言ったらアウトなんですけど、俺は楽しいことを選ぶって決めているんですよね。番組に出るよりも、沖縄へ行ったり、武田双雲さんとアート作ったりしている方が楽しいし、それで仕事がなくなっても別にいいと思っている。自己分析をすることによって、自分の人生が明確になっていきますよね。
自己分析から次のステップへ
参加者B:理想の人として挙げた友達とは、お互い『メモの魔力』を読んで一緒に自己分析を始めました。ある日彼は「俺はラップで人生を歩んでいきたい」と宣言して、大学を辞めたんです。当然、周りの人たちからは批判的な意見も出たんですけど、本人は「他人に言われたくらいで諦めたら後悔するから」と、そのままラップの道に進みました。自分はやりたいことを探している途中なんですけど、まだ行動できていない自分に対して、すごくコンプレックスがある。その友達は、手本のような身近で刺激的な存在なんです。
箕輪さん:すばらしい。言語化の解像度が高いよね。解像度が高いと何が良いかっていうと、再現性がある。自分が見つけていなくても、自分の次の人生に横展開できるぐらい言語化できているんだよね。
参加者B:自分は自己分析をしてだんだん自分の軸が見えてきたけど、そこから先が今もよく分かっていないんですよね。「いろいろな経験を積め」とよく言われるけど、それもざっくりしていることだと思うんですよ。だから、今行動できていない人って結構いると思うんですけど、将来的に、そういう人たちにとって、自分がバイブル的な存在になれたらいいなと思っています。
箕輪さん:なんか自己分析的には完結している気がしましたね。後はどうするかだけですね。
熊谷さん:その次はアクションをしてみるということですよね。もうジャンプするしかない。ただ、今までいろいろな方の自己分析を手伝っていて思うのが、自己分析って終盤に近付いてくると、ほとんどの人が怖くなるんですよ。
ご友人もそんな簡単な決断じゃなかったと思うんですよね。「俺、ラッパーになりたい」って自己分析をしたけど、「やばい、このままいったらマジでラッパーになっちゃう」、「ラッパー? 大学まで行って冷静にないだろ」という瞬間があったはずなんですよ。
夢って本当は見つからないんじゃなくて、うっすら見えているけど解像度が上がってきて、勝負するしかない瞬間になってしまうのが怖い人の方が多いんじゃないかなと思うんです。でも結論が出た以上は、もう目を閉じてジャンプするしかないんですよ。そのジャンプする瞬間は震えるほど怖くても、それがやりたいと思ったらあとは飛んで全力疾走するだけ。
これがベストだ、ってちょっとでも直感的に分かったら、もう勢いで行く。そういう感じがオススメかなぁと感じます。
「インターンの選考で結果が出ない」、「自分は何をしたいかわからない」と悩んでいる人も多いと思います。そんなとき、焦って小手先のエントリーシート、面接対策をしても意味がありません。『メモの魔力』の思考フォーマットを活用し、『絶対内定』のワークシートに取り組む。この方法で自己分析を行えば、あなたが進むべき道が見つかるはずです。
【執筆・撮影:箕輪編集室】
【特集:人生100年時代、『自己分析』は本当に必要か】
<我究館 熊谷智宏氏>
・「この10年で劇的に変わった」『絶対内定』著者が語る、自己分析に起きた変化とその理由
<法政大学 田中研之輔氏>
・自己分析など不要、学生はもっと戦略的にキャリアを考えよ──気鋭の大学教授が唱える「新・就活論」
<「就活ブランディングポート」代表 安藤奏氏>
・「ストレングスファインダー」は自己分析の扉を開けるカギ──適職診断に使ってはいけない理由とは?
<前田裕二×箕輪厚介×熊谷智宏 対談>
・自己分析でライバルと差をつける、最強の思考法