先日、ワンキャリアで「東大・京大2021卒生の就職人気ランキング」が公開された。
例年同様、当然のように複数のコンサルティングファームがランキング上位を独占していた。ささいな変化としてはアクセンチュアがマッキンゼーを抜いて首位になったそうだが、別のファームに人気が移っただけとも言える。
そんな東大・京大就活生の「コンサル人気」を見て、思うことがあったので、今回はそれについて少し考えたい。
「第一志望企業ランキング」ではなく「採用動向を見ておきたい会社ランキング」
ランキングの内容に踏み込む前に、前提として、あのランキングは「(厳密に言えば)第一志望の企業ランキングではない」という点に触れておきたい。ランキング下部にある「調査詳細」を読んでみるとそれが分かるだろう。
そう。このランキングは「お気に入りの登録数(複数選択も可)」を基に作成している。この「お気に入り登録」とは、ワンキャリア上で各企業の更新情報を把握するために就活生が設定するものなので、「お気に入り登録数」=「採用動向を把握しておきたい人の数」ということになる。言うなれば、SNS上の「フォロー」と似たようなものだ。
<調査詳細>
調査対象:東京大学・京都大学、または同大学院に所属し、2021年度卒予定のONE CAREER会員2,693名(=同大学の就職者数約41%相当)による、企業別のお気に入り登録数(複数選択可)をもとに作成
調査主体:株式会社ワンキャリア/集計時期:2019年5月19日時点
そのため「第一志望はA社だけど、『滑り止め』としてB社も見ておくか」みたいな人であっても、A社とB社の両方に「お気に入り登録数」が加わるわけだ。
もちろん、志望度が高いからお気に入りに登録するという人も多いだろうし、あのランキングが就職活動における企業人気を表していることには違いない。
しかし、単純に「あの会社を強く志望している人が多い」という風に捉えると本質を見誤ってしまう。むしろ、「学生が今、どの企業の採用活動を気にしている(フォローしている)のか」程度に捉えた方がいいデータなのかもしれない。
ある就活生が挙げた、コンサルを志望する「4つの理由」
「採用動向を見ておきたい企業ランキング」とはいえ、トップに挙がっている企業の並びに全く違和感はない。どれも素晴らしい企業だと思う。
しかし、それでも上位10社のうち8社がコンサルティングファームが占めているというのは、やはり異様な光景だ。
知人の就活生に聞いてみたところ、どうやら今の学生がコンサルを志望する「本音ベース」での理由は、主に以下の4つになるらしい。
・汎用的なスキルが身に付く
・ブランドが得られる
・キャリア上のモラトリアムを享受できる
・早期に内定が出る
確かにコンサルティングファームでの仕事は、問題解決における頭の使い方や調査分析や資料作成等のスキル、広範な産業・サービステーマの知見など、得られるものが多い職場だ。その効果もあってか、出身者の評判も他業界に引けを取らず、引き合いもいまだに多い。先輩方の頑張りによって、多くのファームは社会的な知名度やブランドを得ており、「就活で認められたい」学生の承認欲求をくすぐるのもよく分かる。
「コンサルタント? なんか賢いらしいしカッコいい!」と思考停止して評価する人が存在するのも事実だ。かつての自分も、そうだった。
また、この時期の就活生にとって特に人気なのも納得がいく。確かに最速内定時期が3年生の夏から秋と、他業界に比べて非常に早い。
ベンチャー企業や一部の他業界の外資系企業を除けば、3年生の夏から内定を出し始めるのはコンサルティングファームくらいしかない。ランキング上に載っている会社でも、例年の最速内定時期は外銀は3年生の冬から春、商社や不動産、インフラなどの日系大手は4年生の初夏と、圧倒的にコンサルティング業界の方が内定出しが早いのだ。
初夏の今、夏に内定出しを行っているか否かも「とりあえず採用動向を見ておくかどうか」に影響するのだろう。
しかし、その話を聞いているとどうにも気になって仕方がない点が1つあった。
「コンサルティングがしたいからコンサルタントになりたい」といった話がほとんど出てこなかったのだ。
コンサルタントは「ネクストキャリアのための準備期間」ではない
先程の就活生の話を考えると、コンサルティングファームが人気なのは「ネクストキャリアの準備期間」として捉えられているためである。「汎用性の高いスキルやブランドなどを求める就活生が、キャリア上のモラトリアムを得るためにとりあえず志望する業界」になってしまっているようだ。
しかし断言できる。
コンサルタントは「ネクストキャリアのための準備期間」ではない。
本来コンサルタントは「コンサルティング」を生業(なりわい)としたいと思う人間がなるべき職業だ。そうでなければ、本当に身についているのかも分からないスキルや、社外に出ることが少ないが故に実感しにくいブランド、「モラトリアム」とは呼べないような温くない日々の仕事に、まず耐えきれない。最悪の場合、得るものが少ないままファームを去ることになる。
そして、コンサルティングファームはそれらコンサルティングを生業にしようと思う人間が集う組織なのであって、ビジネススクールのような人材輩出機関とは全く異なる組織だ。「ネクストキャリア」とやらのための組織ではない。
「もともと大して仕事自体に興味はなかったけど、やっぱり違った」となってしまうことほど、会社と学生の双方にとってむなしいことはない。
大学受験生のような、「発散」的なキャリア志向の危うさ
そもそも、ファーストキャリアを「準備期間」と捉えるような、自身の将来の選択肢をできるだけ広げっぱなしにするようなキャリアを望む「発散」的志向は危うい。
「将来何がしたいのか」という考えを明確に持たずに、「とりあえず有名大学を出ればキャリアを狭めることはないだろう」と、安易に進路を決めてしまう大学受験生のような考え方に近いのだ。
その危うさを実感している方も多いだろう。
キャリアを狭めないように大学に入り、数年間がたって、「将来何がしたいか」は見えてきただろうか。具体的になっている人は素晴らしい。しかし、現実はそんな幸せな人ばかりでもない。何も考えずに過ごしてしまった人も大勢いるだろう。
やはりかつての自分も、そうだった。
キャリアに「白馬の王子様」は訪れない。シンデレラコンプレックスを捨て、自分と向き合え
このようにキャリアに対して「発散」的な人は、シンデレラコンプレックスのような考えを持つことも多い。
つまり、いつになっても、結局自分がどう職業人生を歩みたいかを決め切れず、「いつか自分のやりたいことが生きている間に出てくるはず」と待ち望み、日々我慢をして「白馬の王子様」を待ち続ける……ということだ。
もちろん、「白馬の王子様」なんて大ウソだ。現れるはずもない。
それは、多様な業界に触れる可能性があるコンサルタントになったとしても同じこと。勤務中に受動的に「天職」を見つけるコンサルタントなんてほとんど聞いたことがない。クライアントからの引き合いなどもあるが、成功している人は皆、自分のキャリアを能動的に選択している。
もし、あなたがそんなシンデレラコンプレックスに陥りかけている就活生なら、今すぐにでも紙とペンを持って、自分の人生について考え始めた方がいい。自分は何ができる人間なのか。今後何を成したい人間なのか。どうありたいのか……。
自分の将来は今の自分の延長線上にしかないのだから、将来あなたが何をすべきかの手掛かりは、既に二十数年を生きてきた今のあなたの中から必死に探すしかない。そうでなければ、できるだけいろいろな人の話を聞きに行こう。就活が始まったまさに今、結局は、大いに悩むことでしか、あなた自身の最善のキャリアは知り得ないのだ。
悩みに悩んで、それでもやっぱり「コンサルティングがしたい」と思えるような、そんなすてきな就活生に出会いたいと思っている。
(Photo:beeboys/Shutterstock.com)
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