研修や演習プロジェクトで、怒涛(どとう)のように過ぎたコンサル初月はいかがだっただろうか。
「いよいよ客先に出られる」という高揚感と散々な結果に終わった演習のトラウマで、複雑な心境の方も多いころでもあるだろう。
そんな「1年生」に向け、今回は1年目のコンサルが陥りがちな落とし穴と、それを回避するために意識してほしい、働き方のポイントを紹介したい。もちろん、コンサル以外の業界で働く1年目の人も、参考になる内容が多いので、ぜひ目を通してもらえればと思う。
<目次>
●1:会議に手ぶらで来るな、何が何でもチームに「+α」の貢献をせよ
●2:仕事の早さは優秀さ。「上司には進捗(しんちょく)50%で壁打ちをする」習慣を身につけよ
●3:プライドを捨ててでも、分からないことはすぐに調べ、尋ねよ
●4:上司との議論では、ファクトを押さえて勝て
●5:常に「提案の全体像」を意識した作業を心得よ
●6:全て「人」がやる仕事。人情味のあるコミュニケーションを忘れずに
●おわりに:コンサルティングワークに「ホームラン」はない
1:会議に手ぶらで来るな、何が何でもチームに「+α」の貢献をせよ
会議に参加する際には必ず、プロジェクトに関連する調査や分析を行い、チームにその成果を共有するつもりで臨もう。会議は議論をする場である一方で、若手コンサルタントにとっては、自身の作業成果を共有する場でもある。
残念ながら、会議で何をしたらいいのか分からない1年目は「とりあえず手ぶらで顔を出し、発言しないまま話を聞いて、その後見返すのかも怪しいメモを取っている」という過ちを犯すことも多い。上司からすれば、そんな1年目は会議にいてもいなくても良い存在だ。むしろ稼働のムダ程度にしか思わない過激派上司も存在するので、たとえ1年目でも、フリーライダー根性丸出しの姿勢は、コンサルタント以前に「社会人として失格」だと心得た方がいい。
もちろん、プロジェクトに参加したばかりで右も左も分からず「会議で何をすべきか分からない」という場合も多いだろう。しかし、そんなときでも、必ず見るであろう基本的な資料は検討がつくはずだ。プロジェクト関連の市場レポートや記事、クライアントの資料を収集しておくだけでも良いので、何かしらプラスになる動きはしておこう。
何より、分からないときこそ素直に上司に聞けばいい。「今度始まるプロジェクトに先立って事前に情報収集をしたいのですが、まずは、市場環境関連のレポート収集とクライアントの基礎財務情報の分析をすればいいですか?」程度の質問で先手を打てれば、「まだ1年目の春なのに、主体的でチームプレイができる有望そうなやつ」と、上司も多少は心強く感じてくれるはず。
まずは「とりあえず会議に参加するだけの新卒くん」の卒業を目指そう。
2:仕事の早さは優秀さ。「上司には進捗(しんちょく)50%で壁打ちをする」習慣を身に付けよ
仕事の早さは、すなわち「優秀さ」だといっても過言ではない。上司からすれば、新人は基本的に「仕事の質は低く、作業が遅い存在」だ。しかし、作業時間については質よりも、努力次第で改善しやすい。低レベルな資料を半日かけて出す新人と2日かけて出す新人、上司から見れば、どちらと共(とも)に仕事がしたいかは明らかだろう。
プロジェクト中に「来週月曜朝までには、作成した資料を共有するので確認お願いします」とマネジャーに告げ、土日返上で資料を作成し、月曜朝を迎えたにもかかわらず、マネジャーの考えていた方向性と食い違ってしまったために目の前で全てやり直しとなる……といった悲劇も、ダメな若手コンサルにとっては日常茶飯事だ。
そんな先人たちの悲劇を繰り返さないよう、まずは半分くらいの完成度でも良いので、手戻りの時間を見越して上司にぶつけ、軌道修正を行えるようにすべきだ。
また、レビューというのは、上司の考えを拝借して自分の資料を磨く絶好のチャンスでもある。「上司の考えも含めて、自分の成果にしてやる」くらいの心構えで資料を作る方がちょうど良いのかもしれない。
3:プライドを捨ててでも、分からないことはすぐに調べ、尋ねよ
分からないことがあればすぐに調べ、それでも分からないのであれば上司に聞く、というのは社会人として最低限の常識だ。
しかし残念なことに、国内外屈指の有名大学を出ている高学歴新人コンサルタントにも非常識な人間は存在する。これまで「賢い賢い」と周りからちやほやされてきた「出木杉君」が多いがために、能力以上に高いプライドを持って、社会人になるケースが多いのかもしれない。そんな出木杉君は、分からないことがあっても人に質問できない、間違ったプライドを身に付けてしまっている。
先輩社員からすれば、1年目ができないのは当然なのだが、それに加えてプライドまで高いと教える気にもならないだろう(さらに攻撃的でツンケンしたコミュニケーションをとる人なら、なおさらだ)。
まずは、Web検索や収集資料を使って自力で調べ、それでも分からないのであれば、プライドを捨て、素直に「分からないので教えてほしいのですが……」と聞いてみよう。多忙な上司もあなたに向上心やかわいげさえあれば、きっと快く指導してくれる。ぜひ「質問もできる出木杉君」を目指してほしい。
4:上司との議論では、ファクトを押さえて勝て
入社直後の新人であれば、十中八九、上司に議論で勝てない。プロジェクトについて検討する社内会議でも、上司の発言に押されっぱなしという方も多いのではないだろうか。
若手のうちは、プロジェクト関連情報の「生き字引」となることで価値を発揮できる場合が多い。クライアントの財務情報の各数値、市場規模、論文の引用、ヒアリングで得た情報など、会議で即答できるようになれば「勉強熱心なやつだ」と上司も一目置く。
コンサルティングファームは、役職が上がれば上がるほど、抱える案件が増える傾向にあるため、1つの案件に集中して情報を集めることができなくなってくる。だからこそ、若手の武器は「少数の案件に時間を大量に投下できること」なのだ。
特に、議論において重要なファクトを押さえることができていれば、社内会議でパートナーが相手だろうが、「このファクトからは、あなたの言っている仮説は間違っています」と一矢報いることさえできる。
簡単な例で言えば、観光業を収入源とする地方企業が顧客のプロジェクトの際、社内会議中にパートナーが「近年は中国人観光客によって国内観光市場が伸びているから、中国人向けのサービスラインを注力すべきだ」などと言ったとしても、「日本全体としてはそうだが、この県に限って言えば、近年の観光客構成が中国人中心から欧米へと変わってきているので、その仮説は間違っている」と一刀両断にできる……といったイメージだ。パートナーとしても、そんな「生意気」で仕事熱心な若手は評価せざるを得ないだろう。
若手コンサルタントのうちは、誰よりもプロジェクトに詳しくなる「生き字引」として臨むくらいがちょうどいい。
5:常に「提案の全体像」を意識した作業を心得よ
上記のような「生き字引」になるために、情報収集や分析業務に追われていると、いつの間にかそれが目的になってしまい、それらの作業がプロジェクトにとってどのような意義や目的を持つのかを見失っていることも少なくない。
「結局、提案としてはこれが言いたいから、自分はこの作業を行っている」といったマネジャーの視点で、常に作業の位置づけを把握しておくべきだ。実は私も、クライアントから渡された膨大な量のデータを用いて分析作業を行った際にこの落とし穴にハマったことがある。
複雑かつ細かな作業を続けていると、そちらに意識が集中し、自分が今何のためにデータを分析しているのか、求めたいデータは何なのか、そのデータは何を言うために使うのか……といった全体感がどんどん薄れていく。結局、私は提案の趣旨から完全にズレた内容の分析を上司に出し、翌日のレビューで「作業としては大変だったと思うが、無駄な作業だったので、再度やり直してほしい」とバッサリ切り捨てられた。
不安ならば、常にロジックツリーを手元に書いておくのもいい。眼前の作業の位置付けだけは忘れないようにすべきだ。
6:全て「人」がやる仕事。人情味のあるコミュニケーションを忘れずに
結局のところ、コンサルタントでも人情味のあるコミュニケーションができる人間が優秀なのは間違いない。
コンサルティングは、論理や事実関係を用いて、大層なことを提言するビジネスであるがために勘違いしている人間が多いが、結局は個々人の人間性が、競争優位の源泉となるピープルビジネスの一種だ。クライアントから仕事の受注を得る際、「Aさんがいるから、この会社にコンサルティングをお願いしたい」というドラマのような話も、何度も耳にしてきた。
だからこそ、日々のクライアント、上司、同僚、その他関係者への礼節は非常に重視すべき仕事だと言える。働き方改革の影響もあってか、昨今は若手に優しい世の中でもあるので、一年目だからこそ優しく(時には甘く)迎え入れられるケースが多いかもしれない。しかし、そんな世の中だからこそ謙虚に、素直に仕事に臨むべきだろう。
おわりに:コンサルティングワークに「ホームラン」はない
ここまで読んだ方は既にお気付きかと思うが、どれも小学校高学年程度の分別があれば判断できる、「考えれば当たり前」のことなのだ。
小説やドラマにあるような、ドラマチックな経営改革の先導役になるべく入社した人も多いかと思う。しかし、残念ながらそんな超人的な仕事は、上記の6つの働き方をこなした上で、一部のエースたちができるかどうかといった類のものだ。
むしろ、この6つのポイントを全て満足にこなして、仕事ができている若手は何人いるだろうか。どれほど有名なファームであっても、1割もいないのではないかと思っている。
威勢よく会議で自分の意見を言うのも結構。自分の優秀さを誇るのも素晴らしいことではあるが、その前に一度、上記の働き方を踏まえて働けているのか見直してみてほしい。
これら全てができるようならば、あなたは「同期上位10%の1年目」になれているのではないだろうか。
(Photo:Elnur/Shutterstock.com)
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※こちらは2019年5月に公開された記事の再掲です。