「100人いたら100通りの働き方」を掲げ、働く場所も時間も自由、副業(複業)もOK! という先進的なワークスタイルで注目されるサイボウズ。
そのホワイト企業ぶりに、「居心地良さそうだけど、ゆるすぎて成長できないんじゃない?」と感じる学生もいるのではないでしょうか。本当のところはどうなのか、なぜそこまで社員に選択の自由を与えるのか、代表取締役社長の青野慶久さんに疑問をぶつけました。
残業削減だけの働き方改革でいいの? 働く人の幸せのために変えるべきことはもっとある
──サイボウズは2017年に日経新聞に「働き方改革に関するお詫び」という全面広告を出すなど、世間の働き方改革に一石を投じてこられました。青野さんご自身は、働き方改革にどのような思いを抱いていますか?
青野:政府が働き方改革を言い出してからの大きな流れは、「まずは残業削減」でしたよね。電通やNHKで将来有望な若い女性が働きすぎて亡くなってしまったというニュースが衝撃を与え、「さすがにこれはマズイ」という雰囲気になりました。あれで「まずは長時間労働をやっつけないと」ということになった。順番としては悪くないですが、長時間労働さえ食い止めれば、それで働き方改革は終わりですか? そんな狭い文脈で語るのはもったいないですよね。
──もっと変えるべきことがあると?
青野:そう。もっと短時間だけ働きたい人もいるだろうし、通勤しなくてよくなればラクに働ける人もいるでしょう。人生100年時代をどう生きるかということも、副業ができれば解決できるところが結構ある。「せっかく働き方を考えるなら、もっと色々考えない?」というのが、僕が問題提起したかったことです。
──それなのに、ただ残業を禁止するだけになっている会社が多い……。
青野:時間が来たらPCがシャットダウンしたり、オフィスのゲートが閉まっちゃったりする会社もあるらしいですね。閉まったゲートの下をほふく前進で戻って、残った仕事をやるとか、もうギャグの世界ですよ……。
──どうしてそうなってしまうのでしょう?
青野:何を軸に考えるのかが定まっていないからでしょう。「残業減らしたら売上が減るからマズイ」と言う人がいるんですけど、それは組織の短期的な業績に重きを置いた発想ですよね。目指すところが違えば、当然手段も変わります。何のための働き方改革なのか、ちゃんと議論した上でやらないからおかしなことになるんです。僕は「働く人の幸せ」を目的に働き方を考えてみませんか? と言っています。それなら、売上や利益は一回脇に置いておけるので、議論がシンプルになります。
青野 慶久(あおの よしひさ):1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月、代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進め、2016年にクラウド事業の売上が全体の50%を超えるまで成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーや一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文藝春秋)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)など
──サイボウズは「100人100通りの働き方」というコンセプトを打ち出していますよね。でも、多くの会社は、社員をどこまで自由にしていいものか迷っているようです。
青野:「これをやったら何が起きるだろう」という不安との戦いではありますよね。「もし副業を解禁したら、全員副業して最後には出ていってしまうんじゃないか」みたいな。でも、期間限定とか先着10人とかでもいいから、スモールスタートで始めてみたらいいじゃないですか。
──副業に関しては、社員に対する信頼が問われるような気がします。
青野:その点で私たちが重んじているのは「ウソつくな」「隠すな」ということです。サイボウズでは「副業」ではなく「複業」と言っていますが、それで業務がおろそかになっても、隠さなければOKです。「今までサイボウズにこれだけの力を入れていたけれど、複業が面白くなっちゃってこれだけになりました」と言ってくれれば、それに合わせて給料を変えるだけだから構いません。でも、世の中には「おろそかになったらダメだ」と言っちゃうところが多いですね。幸福をベースにするなら、その人が楽しくやっているならいいはずなのに。
──幸福をベースにするというのは、社長だけが言っても始まらないというか、みんなが納得していないと難しそうですね。
青野:会社を作った時のことを考えれば、それが最重要であるのは間違いないですよ。いいグループウェア(※)を作って世界に広げる──これをやったら世の中も喜ぶし、自分たちも絶対楽しいと思うから、僕らはわざわざ会社を作ったわけです。バンドと一緒ですよ。楽しくなくなったら解散すればいい。バンドの存続や拡大のために、無理して嫌いな音楽をやるなんて、変でしょう?
──「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念は、創業時からですか?
青野:いえ、以前はグループウェア以外にもいろんなソフトを作っていました。1年半の間に9社も買収して、事業の多角化を図ったこともあります。でも、イマイチ楽しくなれなくて……。そこで、私は何をすれば楽しいのかと考えてみたんですけど、やっぱりグループウェアなんですよね。世の中のチームのチームワークが良くなっていくのを見ているのがめちゃくちゃ楽しい。それが生きがいだと分かったから、グループウェアに集中して他のことはやめようと決めたんです。日経に「一本足打法で事業が危うい」とか書かれても、もういいやと(笑)。
※グループウェア……企業内の情報共有や業務をスムーズに行うためのソフトウェア。サイボウズでは「サイボウズ Office」や「Garoon(ガルーン)」「kintone(キントーン)」といった製品を展開している
アホな質問でもいい。「おかしい」と思いながら疑問を発しないのは卑怯である
──「100人100通りの働き方」を認めてくれる会社というと、すごく自由で良さそうに聞こえますが、そういう環境で成長できるのでしょうか?
青野:サイボウズでは「自由」ではなく「自立」という言葉を使います。これは、選択権が自分にあると同時に、その結果を受け入れる責任も伴うという意味です。例えば、今年から新卒の配属のプロセスを社内にオープンにしました。新卒の社員は、部署ごとの受け入れ可能人数も知った上で、第三希望まで社内のアプリに登録し、必要なら自分から面談を申し込むんです。人事もサポートしますが、あくまで自分で考え、その結果キャリアがどう形成されていくのかは本人の責任だということです。自己責任だと突き放すわけではなく、「選ぶということは重たいことなんだ」と理解し、それをできるようになるのが自立だと考えているんです。
──入社していきなり自立を求められるんですね。
青野:はい。もし選ぶことに興味がなければ、「配属先を決めてくれれば、そこで頑張ります」でもいいんです。「自分で選ばない」ということを意識的に選んで、その結果を責任持って受け入れる覚悟をしているということですから。
──なるほど。世の中には、選びたくないし、その結果を引き受けるのも嫌だという人も多い気がします。学校では、選ばない、手を挙げない、主張しないで、黙ってマジョリティについた方が生き残りやすいという現実があります。そういう風にしてきた人にとっては、サイボウズは厳しい環境かもしれませんね。
青野:そうですね。自立の意味をより明確にするために、サイボウズでは「説明責任」と「質問責任」という言葉も使います。「説明責任」は「聞かれたら答えなさい」ということ。逆に聞く側にも責任があるというのが「質問責任」です。「これ、問題じゃないかな」と思ったときは言わなきゃいけない。「僕は気付いてたんだよね」と後で言うのは卑怯(ひきょう)で、質問しなかったことで起こる結果の責任はあなたにある、ということです。サイボウズの社員は、居酒屋で愚痴を言っても「おまえ、それは質問責任、果たしてないでしょ」って仲間から突っ込まれるらしいですよ。怖いですね(笑)。
──居酒屋なんて普通は愚痴だらけなのに、それはすごいですね。
青野:当然、仕事の中でも質問がどんどん出てきます。それに対して説明責任を果たす側も大変ですよね。お互い鍛えられて、改善のペースも速くなります。
──「何でも聞いてくれ」と言われても、上司や先輩に対して聞きづらい雰囲気の会社もありますよね。「これを言っても怒られない」という心理的安全性をどうやって作っているのでしょうか?
青野:サイボウズは「自立」とセットで「公明正大」であることも大事にしています。「アホはいいけど、ウソはダメ」というキャッチフレーズがありまして、人間だからミスはする。ミスは許されるけど、それを隠したりウソをついたりするのはアウトです。だから、たとえアホな質問をしても「質問責任を果たしているからナイス!」と褒める文化があります。
理念に対する異常なこだわりが、高い理想と妥協のない仕事を要求する
──そんなサイボウズに、新卒で入ってキャリアを積むメリットはどこにあると思いますか?
青野:自分らしくやっていける可能性は高いですよ。配属先も、仕事をする場所も、複業するかしないかも、自分で選択していけますから。選択に失敗することもあるでしょうけれど、それも含めて自分らしさです。「上司との相性が悪かったからうまくいかなかった」なんて言い訳はできません。
──大企業に自分の人生を預けるというのと、かなり違いますね。
青野:それはリスクが高いですよね。今は大企業でも突然倒産するでしょう。そのときに会社の外でやっていける力がないと、怖いですよ。
──世の中には、「1つの企業の中で、長時間労働も厭(いと)わず努力してきたから今の自分がある」と考えている人たちもいます。そういう考えはもう古いですか?
青野:歯を食いしばって長時間頑張ることが成果に結びついた時代は、それが正しかったんですよ。工場で何か作っているようなイメージですよね。「3時間で帰るとは何事だ! もっとやればその分成果も増えるぞ!」という……。今はそういう仕事が人件費の低いところに持っていかれますから、アイデアが生産性を左右するんです。そうすると会社で8時間頑張るよりも、むしろ複業している人の方が、視点が増えて面白いアイデアを出せることがあります。生産性と働き方のパラダイムシフトが起きているんですよ。
──アイデアといえば、広告業界では「キャッチコピー100本ノック」みたいな教育がありますよね。1つのコピーを生み出すのに100個は案を出せという。サイボウズは、そういう厳しさがなさそうなイメージもあります。
青野:「理想への共感」と言っていますが、サイボウズでは一人一人が心の中に高い理想を置いて理念の達成に向かうことを求めます。これはある意味とても厳しいことで、「100本出せ」と言われて100本出す方が正直ラクだと思いますよ。「チームワークあふれる社会を創る」という理念は、アイデアを100本出したくらいじゃとても達成できません。みんな理念に対して異常にこだわりがあって高い理想があるから、やるべきことをとことん考え、どんどんバージョンアップしているんです。
──妥協が許されないわけですね。具体的には、入社1〜3年目くらいの若手はどんな働き方をしているのでしょうか?
青野:人それぞれだから、あまり年次で考えるということはないんですよね。ただ、1年目から普通に複業している社員がいるし、一番パフォーマンスを出せる働き方として、在宅勤務なんかも各自が判断してやってますよ。
情報の透明性の上に成り立つ「新しい個人主義」
──自分の行動に責任を持ち、必要なコミュニケーションをとって進めていけば働き方は自由という点で、サイボウズは外資系コンサルなどに近いように感じます。
青野:選択と責任の取り方については、近しいところがありますね。確かに、組織主義ではなく個人主義の会社として紹介されることも多いです。ただ、これまで言われていた「個人主義」とは少し違う気がします。外資系でイメージする個人主義というのは「自分を鍛えて自力で生き残っていけ!」という感じですけど、僕らはもっとインターネット時代らしく、いろんな人とつながっていて依存先がたくさん存在する状態です。個人を大事にしているのは同じですけど、子どもが熱を出して帰らないといけないときには、周りがそれを理解してすぐに手助けしてくれるような、自分だけで頑張る必要がない社会です。
──なるほど。例えば、新人が自立してやろうとしても、方向性がずれていたり、間違ったやり方をしたりしていることもありますよね。そういうときはどう対応するのでしょう?
青野:その場合、「理念と照らし合わせて向かっている方向が違う」ということをフィードバックしますね。ただ、それもオープンにしておくことが大事で。ある上司はそう考えたけれど、他のマネジャーは違うということもあるでしょう。グループウェア上で誰でも見られる状態で行われていれば、もしフィードバックに失敗しても、他の人が助けてあげられる。
──そういうやりとりさえ、オープンにしておくんですね。
青野:「公明正大」ってそういうことなんです。そこまで見せちゃうからこそ、いろんな人とつながれてリカバーできる。そうでないと、「学校でクラス担任と合わなくて1年間つまらない」みたいなことが上司との関係でも起こり得ます。
──チームワークを良くするためには情報の透明性が必要で、グループウェアがそれを可能にする、ということですか。
青野:そうそう。メールは宛先に入っている人としか情報共有できないけれど、グループウェアは誰でも見られて、議論に参加できます。情報格差がない状態を作れるんです。
──一般的には、会社の中に情報格差が存在するのは当たり前だったりしますよね。
青野:学生でも、サークルの中で部長しか知らないことがあったり、一部のメンバーだけで何かが決まっていたりといったことを、経験しているんじゃないですか。「僕だけ知らなかったのか?」と後から気付いてショックを受ける、そんな楽しくない経験をなくすのがグループウェアなんですよ。
会社選びはブランドではなく、中にいる人間を見ろ
──透明性が高く、情報が飛び交っている会社の方が働きやすいのでしょうか?
青野:そう思いますし、これからはそういう会社が伸びていくのだと考えています。昔は、組織の必然性として情報格差があったんですよね。ヒエラルキー型で運営していくには、一部の人に情報を集めて判断してもらうのが効率的だった。階層を維持するための権威付けという意味でも、部長にならないと参加できない会議みたいなものが必要だったんでしょう。だけど今は、インターネットで地球の裏側の人とも情報共有できるようになり、違う形のマネジメントが有効になってきています。企業の中で起きている不正や世間で起きている事件なども、透明性が高かったら途中で止められていたことがたくさんあると思いますよ。
──透明性がどんどん高まっていくと、組織や社会の行き着く先はどこになるのでしょう?
青野:それは分かりませんが、少なくとも人類の共通の関心は「幸せになりたい」ということですよね。不幸せになりたい人はあまりいない。物がなくて食うのに困っていた時代は、とにかく生産性を上げて全員が食べられるだけの食料を確保する必要がありました。それがある程度できるようになったら、もっと個別にニーズを拾っていかないといけません。今は「これだけ豊かになったのに、なぜか不幸せな人がいる。みんなが幸せな状態を作れていない」というのをどうにかするために、次のステップを踏もうとしているところなんだと思います。
──サイボウズにはどんな人に来てほしいですか?
青野:「チームワークあふれる社会を創る」ことに、本気で貢献したい気持ちがある人であれば、誰でも受け入れたいというのが理想です。ただ、現状ではマネジメントスキルが追いついていなくて、自立度の高い人に来てもらっている状態ですね。理想に共感している、多様な個性を重視する、公明正大である、自立して議論を大切にできる、という4つが整っていることを「チームワークあふれる状態」と定義していて、この価値観に共感できる人は受け入れやすいです。
──最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。
青野:これほどの売り手市場、ビッグウェーブが来てるんですから、もっとワガママに会社を選んでほしいですね。『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』にも書きましたが、会社のブランドで選ぶと「イメージが違った」ということになる可能性が高いです。結局、中にいるのは人間であってブランドではありません。会社のイメージではなく中にいる人、特に経営者をよく見ておいた方がいいよ、と伝えたいです。「働き方改革やります!」と言いながら副業を禁止していたり、「女性活躍」と言ってるのに女性がお茶を出してきたりしたら、おかしいですよね? 口先だけの人間じゃないかどうか、よく見てみてください。
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【ライター:やつづかえり/撮影:加川拓磨】