産学協議会による新卒一括採用の見直し提言や「働き方改革」の影響を受け、今、日本の就活が大きく変わろうとしています。就活のあり方が変わる中、企業や就活生も対応を余儀なくされるでしょう。
これからの就活はどうなっていくのか。そして、就活生にはどのような変化が求められるのか──。リクルートやビズリーチで約15年もの間、新卒採用市場に携わってきた、ビズリーチ 新卒事業部 事業部長の小出毅さんに聞きました。
「働き方改革」や「ビジネスモデルの短命化」で変わる、企業が欲しい人物像
──昨今、日本中で「働き方改革」や「生産性向上」が叫ばれており、働く人材に対する考え方が大きく変わってきているように思います。小出さんから見て、企業が求める人物像も変わってきていると思いますか。
小出:この数年、多くの企業から「好奇心が強い人を採用したい」という言葉を聞くようになりました。これは、ビジネスモデルの寿命が短くなり、新しいものを出してもすぐに他社が追随するという状況で、「新しいものを生み出せる人材」が求められているためではないかと考えています。今までなかったものを考えるのは簡単なことではありません。世の中の変化に興味を持ち、未来を予測しながら形にしていくことができる人材は、多くの企業が魅力を感じるのではないでしょうか。
小出 毅(こいで たけし):ビズリーチ 新卒事業部 事業部長。2003年、新卒でヤフーに入社しインターネット広告商品企画に従事。2005年、リクルートに入社。新卒領域の営業部門長に就任。2016年、ビズリーチ入社。OB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」などを展開する新卒事業部の事業部長を務める。
──「新卒採用」のあり方には、どのような変化が起きているのでしょうか?
小出:今お伝えした、求められている人材の変化はもちろんですが、転職や中途採用が当たり前になり始めている今、そもそも「新卒社員」と「中途社員」という区別がなくなりつつあると感じています。
具体的には、これまで新卒を総合職の枠で一括採用していた企業が、経営企画、事業企画、AI・ビッグデータを扱うデータ職種などの職種別採用を始めるケースが出てきています。こうした企業は、ジョブローテーションを中心としたキャリア設計から、スペシャリスト育成へと舵(かじ)を切っています。
──最近では、経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)がいわゆる「就活ルール」の廃止に向けて動き出すなど、今までの新卒採用のスタイルを見直す動きが広がってきています。この動きについて、小出さんはどう考えますか?
小出:一つ言えるとしたら、「優秀な学生が欲しい」という企業側のニーズはこれからも変わりません。その中で、採用手法をどう変えていくか、これは今後、採用活動において他社との差別化要素の一つとなるでしょう。現時点でその正解はないですし、一定のリスクを取ることになるとは思いますが、それでも採用市場の変化を作ろうとする企業が最後に勝つのだと思います。
先ほど、新卒で職種別採用を始める企業の話をしましたが、このような変化が既にあり、50年くらい変わらなかった選考スタイルが、10年くらいかけて変わっていくのではないか、という予感はしています。
「新卒採用」のあり方が変わる中、学生に求められる変化とは?
──企業側とともに、学生側の就活も変わりつつあります。ワンキャリアの調査でも「転職ありきで就活する」学生が年々増えていることが分かっていますし、それと同時に就活の「早期化」も進んでいます。その背景には「内定獲得への不安」もあると言われていますが、それについてはどう思いますか?
小出:調査によって多少ばらつきはありますが、現在の大卒内定就職率は90%を超えています。つまり、学生が社会に出たいと望めば、ほぼかなう状況なのです。そう考えると、彼らの不安は、本当に「内定がもらえないかもしれない」ということなのでしょうか。
就活において、「偏差値」のような絶対的な基準があると捉えてしまうと、企業にも就職難易度による優劣があるように思えてしまい、周囲にどう思われるかを深層心理では気にしてしまうのかもしれません。
──なるほど。それでは、就活生はどう動くべきなのでしょうか?
小出:先が分からない時代と言われていますが、だからこそ「現段階で後悔のない選択をした」「覚悟を持って企業を選んだ」と言えることが大切ですね。まず、「なぜ働くのか?」あるいは「自分の人生がどうなったら楽しいのか?」という本質的な問いを最初に考えるべきだと思います。
その答えから、「どの会社に入ったらそれをやり遂げられる確率が高くなりそうか」と考えるといいのではないでしょうか。そもそも、「いい企業」というのは自分自身が決めるもの。他人にとやかく言われてどうこう、という話ではありません。
OB/OG訪問やインターンで「社会」に触れる機会をつくる
──とはいえ、働く意義や人生の目的を考えるのは、そう簡単なことではないように思いますが……。
小出:そうですね。海外の大学では社会人の学生も多いですし、教授も社会人経験がある場合が多い。そのため、大学に行くだけで「働くこと」に関する知識が得られる機会が多くあります。また、金融系に就職したいのなら、入学時点で関連学部を選択しておく必要がありますし、日本と比べて人生のかなり早い段階で、自分が働きたい業界や職種、そもそもの働き方について考えなければいけません。
──メリットとデメリットの双方がありそうですね。評判や人気ランキングのようなものにとらわれず、自分にとって良いと思える仕事や企業を見極めるには、どうすればいいでしょうか?
小出:とにかく先入観を持たずに、インプットを増やすことだと思います。あえて「絶対に自分は行かないだろう」と思っている会社で、生き生きと働いている人たちに会ってみるのもいいでしょう。そういう経験をすれば、価値観も変わるはずです。インターンやOB/OG訪問、あるいは自分の親に「働くこと」について聞くのもいいですね。いかに社会を「疑似体験」する機会を増やせるかがポイントです。日本の学生も就活が始まる前から、月に1日くらい社会人に会うなど、働くことに触れる機会があったらよいのではないでしょうか。
キャリア観というものが、「キャリアについて思考した時間量 × 触れる情報の質」で構築されるとしたならば、より早期からそういったリアルな情報に触れることはとても意義があることだと考えています。
──企業への志望理由を考える際には「自己分析」などのアプローチも、有効だと言われています。こういった方法はどうでしょうか。
小出:過去を振り返ることによって、今まで自分がやってきたことの理由を深く知り、自身の性格や思考を認識できると思います。一方で、「人生100年時代」といわれる今、これまでの20年だけで今後の80年を予見するのは危険でしょう。社会人になってから、今までにはない素晴らしい経験をする機会が多くあるということも知った上で、考えてほしいですね。OB/OG訪問やインターンなど、社会に触れる経験をする中で、自分が感じたり思ったりしたことを振り返ることも、大切だと思います。
──ちなみに小出さんが今、学生に戻ったらどんな基準で企業を選びますか?
小出:就活をしていた当時は、数年スパンの仕事しか見ていなかったのですが、今就活するなら、インフラ系など10年や20年という長いスパンでやる仕事という選択肢も見たいですね。
というのも、この間、ある鉄道会社の社員の方が、学生から仕事のモチベーションを聞かれて「自分と仲間が造ったものをみて、孫がひ孫に『これはひいおじいちゃんが造ったんだよ』と言ってくれれば最高です」と答えていたんですよ。カッコいいですよね。ちょっと泣きそうになっちゃいました。当時の自分がこの話を聞いていたら、と思うと、やはり先に社会に出ている人の働く思いなどを聞くことは、「自分はどんなことに何を感じるのか」を知ることができて、選択肢を増やすことにつながるなと思いました。
私自身、新卒入社したヤフーは3年以内で辞めていますが、ヤフーには感謝しているし、就活が失敗だったとは思っていません。その選択を自分自身で決めた、と思えているからです。その上で、新しい挑戦として、自分の可能性を広げるために転職をしました。「自分の選択を正解にしてみせる」という熱量を持って頑張ることや、「やめても次こそは」と新しい選択肢として転職するなど、自分自身で決断するということが大切だと思っています。
「働く」の疑似体験、「本質的な課題」を考え抜くインターン
──「働く」を知るという意味では、インターンという選択肢もありますよね。一部では「学業がおろそかになる」という声も上がっていますが。
小出:弊社でも毎年インターンを行っていますが、社会を知るには、とてもいい機会だと思っています。「知らないことを知る」ということ自体が未来への投資になりますし、これこそが学びなのだと思います。例えば、3年生の時に金融系企業のインターンに行って、金融に興味を持ったら、その後に大学で金融の講義も選択できますよね。学業へのメリットもあると思うんです。
──ビズリーチも毎年サマーインターンを開催していますが、今年はどのような内容になっているのでしょう。
小出:ビズリーチのインターンは、「リアル」であることにこだわっています。仕事もプロダクト作りも、経験しなければ分かりません。自分たちが徹底的に考え抜いたアウトプットで「世の中が変わるんじゃないか」というワクワク感を得てほしいと思っています。また、走り続けながら考え続けた先に、素晴らしい仲間や成長が得られるという感覚も味わってもらえたらうれしいです。そのために、「リアルであること」にこだわりました。
具体的な内容としては、弊社が展開しているOB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」の事業開発をしてもらいます。まさに「新卒採用市場」について考えていただく、というわけです。
──なるほど。就活生にとっては、まさに目の前に横たわっている問題を考えることになりますね。
小出:ビズリーチ・キャンパスの現在のリアルな事業戦略を軸に、「何が本質的な課題なのか」を徹底的に考えてもらいます。そのために、お客さまである企業やユーザーの学生の方に、実際に訪問してヒアリングを行い、見つけた課題に対する解決策をプロダクトに落とし込み、事業部に提案していただきます。もちろん、決裁が下りたら、その機能を実装して世の中にリリースしますよ。
ビズリーチでは、社会の課題を解決するプロダクトを作ることを、職種を問わず全員が目指しています。そのため、このインターンはチーム間で競争するコンペ式ではなく、チーム同士でも情報交換を行い、一つの目標を達成するために、仲間意識や一体感を持って働くことの疑似体験をしてもらいたいと思っています。チーム内では、一人ひとりセールス、マーケター、PM(プロダクトマネージャー)……というように役割を決めていただき、弊社のPM、マーケター、エンジニア、デザイナーの社員と協業しながら進めていただきます。
──多数の応募があるとは思いますが、どんな人に来てほしいですか?
小出:「企業がなぜ採用を行うのか」など、就活の本質が含まれている内容なので、キャリア選択自体をより良いものにしたいと思っている学生さんに合っているのではないでしょうか。ビズリーチへの興味があるかないかは関係ありません。
──最後に読者である学生の皆さんにメッセージをお願いします。
小出:就活をする中で、周囲の話を聞いて不安になる必要は全くありません。「これやっておかないと、行っておかないと」「このイベントに行けば内定に有利」などと言われても、気にする必要はないでしょう。
今も昔も変わらないことは、「働く時間」は人生において大きな比重を占めているということです。だからこそ、働くことが楽しいと思えるかどうかは、人生自体を楽しめるかを左右すると考えています。学生のうちから「働く」ということを真剣に考えられれば、社会に出るのが楽しみで仕方なくなると思いますよ。
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【ライター:山下由美/撮影:加川拓磨】