こんにちは、ワンキャリ編集部です。
今回は全日本空輸(以下、ANA)で行われたインターンの様子をお伝えします。取材を行ったのはグローバルスタッフ職(事務)向けの4daysインターンの2日目です。キャビンアテンダント(CA)やパイロットだけでないANAの業務を知る機会として、ANAのオペレーションを担う3人のグローバルスタッフ職社員が登壇し、プレゼンテーションを行いました。業界が抱える課題や未来、そして入社10年目の社員たちのキャリアが明らかになった講演の内容を、ダイジェスト版でお届けします。ANAや航空業界を目指す人はもちろん、これから業界研究を行う人も参考にしてみてください。
航空業界の未来は? カギを握るのは「自由化」と「生産性」
トップバッターは2009年入社、オペレーション戦略や対外連携を担当する市川さんです。
市川 庸彦(いちかわ のりひこ):2009年入社 羽田空港でのフロントライン、スタッフ部門を経験した後、シカゴ支店空港所。現在、オペレーションサポートセンター品質企画部にて、オペレーション戦略チームと企画部イノベーション戦略チームを兼任。
まずは、航空業界全体について説明が行われました。
<航空業界の全体像>
・エアラインは全世界に1,500以上のプレーヤーが存在する。国内もANA、日本航空(JAL)だけではない
・航空会社の戦略は単独では立てられない。国内線では国交省の方針に、国際線では二国間協定をもとに路線計画を行う
・航空業界は多くのモノやヒトを必要とする「装置産業」。今後の生産性向上がカギ
市川:航空会社は、自社の収益や事業計画だけをもとに戦略を立てられません。国内線では日本では国土交通省航空局(JCAB)の方針に、国際線では就航する国との二国間協定をもとに路線計画を策定しています。これは他国も同様で、ヨーロッパは欧州航空安全機関(EASA)、アメリカは連邦航空局(FAA)という公的機関が航空産業をコントロールしています。世界の航空産業の状況を踏まえると、日本は相対的に規制が多い中でビジネスをしているのが現状です。航空産業の先進国・ヨーロッパでは自由化が進んでおり、発着枠が競売にかけられたりしています。各社の発着枠を国が配分している日本とは、かなり状況が違いますね。
規制業界からゲームチェンジへ。変化を迎える航空業界
続いて、これから航空業界が迎える未来についても紹介がありました。
<航空業界が迎える未来>
・ヨーロッパの政策を追随した、自由化の動き
・Amazon参入や「空飛ぶタクシー」の登場でゲームチェンジの兆し
・2020年に羽田空港の国際線の発着枠が大幅増
市川:JCABは海外の航空政策を参考にしながら、今後の航空業界を自由化の方向へ進めていくと予想されます。以下の図のように、航空産業は金融・電力業界などと並んで「規制と公共性」が強い領域にプロットされているビジネスです。しかしこれからは、自由で経済性を求める方向に産業構造が変化していくと予想されます。
金融業界ではブロックチェーン技術や、クラウドファンディングで資金調達の方法が変化していますし、電力には民間大手企業が参入するなどの変化が起きています。航空業界も、産業の常識や構造が劇的に変化するタイミングが間もなくやってくるのかもしれません。
その兆候は既にあります。Amazonは2016年より貨物輸送のために航空機をリースしており、今後もさらに増加させるそうです。また「空飛ぶタクシー」(※1)が実用化しつつあるという話もあります。このような動きが加速度的に生まれてくるのではないでしょうか。
(※1)空飛ぶタクシー:
・Uber社は、ビルの屋上などから垂直離着陸が可能な4人乗りの旅客機を開発中。2023年をめどにアメリカ国内で都市航空輸送サービスを始める計画を発表している。
(参考:日本経済新聞社「ウーバー、「空飛ぶタクシー」の最新仕様を公開」)
・エアバス社は、垂直離着陸が可能な機体の開発を進行中。
(参考:朝日新聞DIGITAL「エアバス「空飛ぶタクシー」の実用機仕様、来年中に策定」)
また、日本国内では、東京オリンピックを迎える2020年に羽田空港の国際線発着枠を現在の6万回から9.9万回に大幅増する見通しです。発着枠の増枠に伴い、現場のオペレーションもドラスティックに変化します。その備えも、現在進めているところです。
オペレーションは現場から変革を起こせる部署
市川:エアラインの仕事は、以下の3つのフローに分けることができます。
<エアラインの仕事>
1. つくる(Make)=ネットワーク戦略。飛行機やヒトなどのリソースをもとに、どれだけの都市に、どれだけ飛ばせるか?
2. 売る(Sell)=事業計画上の収入を最大化する。搭乗率をいかに100%に近づけるか?
3. 乗せる(Operate)=お客さまの安全性、快適性を担保しながら、いかに効率化できるか?
市川:この中でも3つ目にあたるオペレーションは、学生の皆さんにはピンと来ないのではないかと思います。ANAグループの従業員は現在4万人以上いますが、その約8割以上が現場業務に従事しています。航空業界は「現場のリアル」を知らないと変革が始まらない組織なのです。その点、オペレーションの仕事は現場に最も近く、お客さまの声をもとに変革を起こすための説得力が強い部署です。
市川さんは現在、企画部イノベーション戦略チームも兼任しています。その理由として、オペレーションと技術を組み合わせてイノベーションを起こす事例が世界でも増えていることが挙げられていました。
<オペレーション×イノベーションの組み合わせ事例>
・VRを活用した従業員教育
・顧客案内へのAR導入
・荷物運搬の自動運転化
人手不足の中での生産性向上が課題
市川:自由化へのジレンマは国もよく理解しています。最大の障壁は、人手不足です。それは公的機関も同様で、例えば空港では出入国審査がありますが、管轄は法務省です。この手続きを各航空会社でのチェックイン時に組み込めれば、出国審査を効率化できます。これは米国で既に採用されている政策で、私たちが現在、政府や経団連に対して要望している議題の1つです。
オペレーションの仕事は領域が広い仕事です。ベストな方法を模索し続ける仕事だからこそ、試行錯誤する面白さがありますし、結果がお客さまの反応としてダイレクトに返ってきます。今、こうして話しているときにも現場で答えが出ています。その魅力が少しでも伝わればうれしいです。
海外49都市に空港を持つ、日本最大のキャリアへ。国際線拡張の舞台裏を支える仕事。
続いて登壇されたのは、2011年入社の李さんです。
李さんからは、メキシコシティ空港への新規路線就航準備時の話を中心に業務が紹介されました。
李:国際線の新規就航というと、まずは路線計画が思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、就航先の空港でANAの安全・サービス基準にもとづいた体制を構築することも重要です。飛行機を運航するために行う空港業務を総じて「空港ハンドリング業務」と呼びます。例えばカウンターやゲートでお客さま対応を行う旅客運送取扱業務、貨物・受託手荷物の搭降載業務、ランプ作業全般を総称する地上走行支援業務、運航支援業務(※2)、ロードコントロール業務(※3)、貨物運送取扱業務などです。オペレーション業務に関わる私たちは、これらを提供するハンドリング業者と委託契約の交渉・締結も行います。
(※2)運航支援業務……運航管理者が作成したフライトプラン、天候・航空情報を乗務員に説明および提供、会社無線などにて乗務員にアドバイスを実施するサポート業務
(※3)ロードコントロール業務……旅客・貨物の搭載位置を計画し航空機の重量重心位置を算出・管理する業務
李 志炫(い じひょん):2011年入社。東京空港支店 旅客サービス部を経て2014年4月より現職の空港センター品質管理部 海外空港チーム。2016年ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル・ヒューストン国際空港、2017年メキシコシティ空港への就航開設プロジェクト担当。
若手でもプロジェクトを任され、ベテランと対等に仕事ができる
李:先ほど委託契約と申し上げた通り、空港ハンドリング業務はANA社員だけが行っているわけではありません。私は契約先のスタッフに「ANAらしいおもてなし」を身につけてもらうための教育も担当しています。一番のハードルは文化の違いですね。カウンターでお客さまを誘導するジェスチャー1つでも、現地では当たり前のジェスチャーが、ANAに乗りなれた日本のお客さまからすれば失礼に思われることがあります。スタッフたちのバックグラウンドを尊重しながらも、ANAらしさを定着できるようにしています。
新規路線開設にあたり、就航国の航空局や空港公団への申請、委託先への監査対応を行うのもオペレーション業務の一環です。
李:監査に立ち会うのは、その国・業界のベテランがほとんどです。入社して10年未満の私がANAを背負う担当者として対等に向き合えるのはやりがいです。
不測の事態にも動揺せず、プランBを考える力を鍛えよう
李さんからは、メキシコシティ空港での新規路線就航の際に、スペイン語が分からず苦労したという話がありました。それに対して学生から、「英語以外の言語にも精通した方が、選考に有利になるのか?」という質問がありました。
李:英語以外の言語が得意なのは強みです。しかし、私の経験から考えると、語学はあくまで「技術」にすぎないと思います。入社してからでも、語学はいくらでも身につけることができます。それよりも重要なのは不測の事態に動揺せず、「プランB」を考える力だと思います。
李さんからは、最後にオペレーション業務の醍醐味(だいごみ)が語られました。
李:戦略が優れていても、それを実際に形にする力がなければリーディングカンパニーになることはできません。世界を飛び回り、さまざまな課題にぶつかりながらも戦略を実現し、お客さまに近いところで届けられる仕事は面白いですよ。
海外でのANAの可能性は未知数。ベトナムで感じた「伸びしろ」
2008年入社の安部さんからは、ベトナムのハノイ支店・ホーチミン支店での経験が語られました。
<ハノイ・ホーチミン支店での主な業務>
・新規採用した現地社員2名への教育
・プロシージャ(業務手順)の構築
・不測の事態への対応訓練
現地社員への教育は、李さん同様に文化の違いに苦労したそうです。
安部:例えば、空き時間があると職場を離れてシャワーを浴びに行ってしまうなど、働き方の違いに驚くことがたくさんありました。それを頭ごなしに怒るのではなく、信頼関係を作り、少しずつANAならではの付加価値を生んでいただけるように対話を重ねました。
安部 智(あべ さとし):2008年入社。大阪空港支店ステーションコントロール部などを経て2014年から海外実務研修員としてハノイ・ホーチミン支店に赴任。現地スタッフの育成、現地でのプロシージャ確立などに携わる。2018年4月よりフライトオペレーションセンター B777部 所属。
安部:運航支援のプロシージャ(業務手順)構築では、ベトナム語が分からず苦労しました。荷物を飛行機に搭載するのは委託会社のスタッフです。無線で操作指示をやりとりすると、意思疎通が大変でした。そこで手荷物の個数を無線でやり取りするのではなく、メールで明文化するなど、属人化を避けるルールを作り上げました。
現在、ANAでは海外でのプレゼンスを拡大することが事業戦略に挙がっています。安部さんは実際ベトナムで働いてみて、ANAの認知拡大にまだまだ伸びしろがあることを実感したそうです。
安部:ベトナムの人口が約9,400万人いる中で、ANAのマイレージカード会員になっているのはわずか2,500人です。赴任している間、多くのベトナム人と会いましたが「ANA」の社名を分かってくれた人はベトナム航空のパイロットくらいでした。一方で「HONDA」「YAMAHA」は誰もが社名を知っています。海外のお客さまをいかに取り込むかが課題だと思いました。
HONDAとYAMAHAの2社で、ベトナム国内のバイクは90%のシェアを占めるといわれています。ベトナムでの認知拡大のため、HONDAの試乗会にANAがタイアップするイベントを企画したこともあるそうです。
面接で聞かれる3大質問に、どう答えるか?
安部さんからは、ANAの面接で必ず聞かれる3つの質問を紹介する一幕もありました。
<志望動機で必ず聞かれる質問>
・なぜ航空業界がいいのか?
・なぜ日本航空(JAL)ではなくANAなのか?
・入社後に何をしたいか?
インターンの講演では、3人の経験をもとに表からはなかなか見えない現場業務のリアルや、業界の課題を包み隠さず聞くことができました。
登壇した3名に独占インタビュー
今回、登壇した3名にはワンキャリアに向けて特別にコメントをいただきました。
──今回は貴重なお話をありがとうございました。ANAを目指す学生がオペレーションの仕事を知るべき理由はどこにありますか?
市川:CAやパイロット、あるいはマーケティングや本社の仕事以外は、エアラインで働くイメージが持ちにくいからだと思います。
李:入社する前に触れることができるのは、旅客スタッフだけです。でも実際に飛行機1機を飛ばすためにはさまざまな部署と接点があり、チーム力が必要だと感じたことはギャップでもあり、いい勉強になりました。
──市川さんはお話の中で、航空業界が持つ課題として「規制と自由化のジレンマ」を挙げられていました。他に課題に思われていることはありますか?
安部:2020年に国際線の発着増枠が決定している一方で、乗務員は不足しています。国際線中心の新しい環境に合わせて乗務員の働き方を変えるとともに、昔から運用されている古いルールを変える必要があります。
李:そうですね。10年前までは国内線がメインの会社だったので、仕事の進め方が日本式になっている点がたくさんあります。例えば乗務員のブリーフィングを現在はface to faceで行っていますが、海外ではスタッフが各自で行うことが一般的です。国内線でのきめ細かいフォロー体制を生かしながらも、グローバルに通用する仕組みづくりが必要だと感じています。
市川:やはりシリコンバレーのスタートアップなどと比べると、事業のスピード感が追いついていないと感じます。産業によっては「明日、自分の仕事がなくなるかもしれない」という危機感を日々覚えています。航空業界もそれを見習うべきだと思います。
ANAだからこそ鍛えられる「交渉力」と「柔軟性」がある
──最近の学生は「転職ありき」で就活をする傾向が強まっています。ANAに入社すると、どんなスキルが身につくと思いますか?
市川:転職を前提にした汎用性でいうと、他の業界よりは少ないかもしれません。ただ他業界に就職した友人と比べると、部署を越えて仕事をする機会が非常に多いので、「折衝する力」や「交渉力」はつくと思います。あとは若いうちに海外に出るので、視野が広がる経験ができます。日系大手企業の中では、若手に任せる文化があると思いますね。
──若手に任せる文化について、具体的に教えてください。
安部:私は入社2年目の時に、運航ダイヤを統制する責任者を任せてもらいました。お客さまに影響を与える重要な仕事です。
李:私も一般職でありながらプロジェクトマネジャーの立場で仕事をしています。航空局の監査では、相手はゼネラルマネジャークラスが出てきて、彼らと対等な立場で仕事を進めなくてはなりません。その経験は大きな財産ですね。
入社してから、やりたいことを見つけたっていい
──最後に、読者にメッセージをお願いします。
李:海外で活躍したい人、チャレンジしたい人と一緒に働けたらうれしいです。自分が働く場所を選ぶ機会でもあるので、「選ぶ立場」という視点を持つと面接でも怖がらずにいられると思います。
市川:今やりたいことがない人は、入社してから考えたっていいと思っています。また、ANAは昔の方法論を踏襲していることも多くあります。違和感を覚えたら「おかしい」と言える人でいてほしいと思います。
安部:就活は一大イベントですが、これが人生の全てでもありません。自分を追い詰めすぎず、リラックスして頑張ってほしいと思います。
──ありがとうございました。
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【インタビュアー:めいこ/ライター:yalesna/撮影:塩川雄也】