ある外資マーケ人の告白(@markesaiyo)です。
外資系企業でマーケティングのお仕事と、たまにマーケティング職採用のお仕事をしています。
前回はマーケティングのお仕事の全体像についてお伝えしましたが、
今回は、マーケティングのお仕事の中でも非常に重要な「広告」の話をしたいと思います。
企業のマーケティング活動をリレーに例えるなら、広告は価値を消費者にお伝えする「アンカー(最終走者)」です。
アンカーは世間から非常に注目されます。また、バトンが回ってくるまでの段階(商品やサービス自体の魅力など)で、大きく後れを取っている場合でも、アンカーの走り次第では全ての後れを取り戻せる、やりがいのある仕事だと思っています。
さて、広告のお仕事と聞くと、真っ先に広告代理店のお仕事を思い浮かべる方も多いと思います。広告を作るとき、企業側のマーケターはいったい何をしているのか、いまいちピンとこない方もいるかもしれませんね。
そこで今回は、われわれのように商品やサービスを売りたい企業のマーケティング部や宣伝部が、どのように広告代理店と関わりながら広告を作っているのか、役割の違いに焦点を当ててお話しします。
Q1. そもそも、なぜ広告代理店に頼むのか?
そもそも、広告を出したい企業はなぜ広告代理店(以下、代理店)に依頼をするのでしょうか?
私は以下の3つが大きな理由だと思います。
(1)マス媒体の広告枠(テレビCMなど)は、代理店を通さないと買えない
(2)多くの企業には、広告制作のケイパビリティ(※)がない
(3)消費者視点での市場分析ができていない企業がある
われわれのような企業のマーケティング部門(以下、広告主)にとって、代理店はマーケティング活動をしていく上で、なくてはならないパートナーです。
(※)……ビジネスで他の企業よりも優位性を持つ組織能力
Q2. 広告はどうやって生まれるのか?
続いて、広告主と代理店がどのような経緯で広告を作っているかを見ていきたいと思います。
次の表は、広告ができるまでのフローと、広告主と代理店の役割を表しています。
広告主 | 代理店 | |
1. 課題やチャンスを見つける | ○ | △ |
2. ターゲットや便益を設定する | ○ | ○ |
3. 広告アイデアと展開案の提案 | ○ | |
4. 広告プランの決定 | ○ | |
5. 広告の制作 | ○ | |
6. 広告投下後の検証 | ○ | △ |
1. 課題やチャンスを見つけ、代理店に発注する
まず、ビジネスに何かしらの課題や、チャンスがない限り「広告を打とう」とはなりません。
また、仮に課題やチャンスがあっても、それらを解決する手段は広告だけとは限りません。
製品自体の改善や価格変更など、あらゆる解決策の中で、広告が最も適切な手段だと判断して初めて、広告の制作を代理店にお願いします。
もちろん課題やチャンスを代理店が発見し、提案する場合もありますが、広告が必要かどうかを判断するのは広告主である企業側です。
2.「ターゲット」「ターゲットの心理」「商品の便益」を設定する
広告を打つことが決まったら、広告主は代理店に対して、広告を出す背景や目的をオリエンテーションします(外資系企業では「ブリーフ」と言ったりもします)。
マーケティング機能がしっかりしている会社はこのときにターゲット、ターゲットの心理、商品の便益を確定させて、それに沿った提案がもらえるようにリクエストします。
社内に消費者理解を専門に行う部隊がない場合は、ターゲットや伝える便益なども広告代理店に提案してもらうよう発注します。
さて、広告主と代理店のどちらが担当するにしろ、
・ターゲット
・ターゲットの心理
・商品の便益
の3つを設定することは非常に重要です。これらは、クリエイティブ(広告表現)を大きくジャンプさせるための「発射台」です。
「発射台」を間違った向きで作ってしまうと、どんなにいいジャンプをしても消費者には届かない、まったく意味のない広告を作ってしまうことになります。
3. 広告アイデアと展開案の提案
ここからが代理店の本領発揮です。広告主からのリクエストを持ち帰り、核となる広告アイデアや各媒体での展開案(TVCMなら「絵コンテ」と呼ばれるマンガ調の下書き)を作成します。アイデアは複数案用意する場合もあります。このタイミングで、どの媒体でどのくらいの量の広告出稿をすべきかも提案します。
「広告代理店は商品を持たない」と言われますが、この広告アイデアや展開案の提案内容こそが彼らの商品であると思います。
そして、広告主は、代理店の提案内容を買うか否かを決定します。
ちなみに、広告主はアイデアを同時に複数社に提案してもらう「コンペ」を行う場合もあります。
4. 広告を制作する
広告主がどの案を買うかを決めたら、ここからは実際に広告を作るフェーズに入ります。
代理店は、買ってもらったアイデアをより良いものに仕上げるために、制作会社・撮影監督・芸能事務所など、多くのスペシャリストを巻き込みながら広告を作ります。
代理店はそれと並行して各媒体の枠の買い付けを行い、提案した量の広告を実際に流せるようにします。
5. 広告の投下
こうしたフローを経て、ついに広告が投下されることになります。企業の広告担当は「ほっ」と一息つきたいところですが、きちんと効果を振り返らなければなりません。
広告が流れると、各所から効果測定されたデータが次々と上がってきます。
代理店からは、CMがどのチャンネルのどの時間帯に流れたか、インターネット広告ならどれくらいの量が表示されたかなど、広告の投下実績が上がってきます。
調査会社からも、広告投下後の商品の認知や想起がどの程度上がったのか報告が来ます。
自社には購買データがどんどん蓄積されていきます。
広告主はこれらのデータをもとに広告の効果を分析し、次のアクションにつなげていかないといけません。
ここまで読んでみて、広告が世に出るまでの流れや、広告主と広告代理店の役割の違いは、ご理解いただけたでしょうか。
Q3. 広告主と代理店にとっての「成果」はどう違う?
制作の流れとは異なる観点で、広告主と広告代理店の違いを2つご説明します。
まず両者は、成果を何と捉えるかが違います。
広告主の成果は「商品の売上を最大化すること」ですが、代理店の成果は「広告の売上を最大化すること」です。
もちろん代理店が、商品の売上を意識しないわけではありません。広告主の売上を最大化するような提案が信用につながり、中長期的に広告売上の最大化につながる可能性は大いにあります。
しかし、双方の利害に少しの食い違いがあることは、ビジネスを進める上で忘れてはいけないポイントの一つです。
Q4. 広告主と代理店、「マーケティング」の仕事はどう違う?
最後に、広告主と代理店で「マーケティング」というお仕事の魅力がそれぞれどう違うかについて書いてみます。
<広告主企業>
・タイムリーに自社のデータにアクセスして課題や機会を発見したり、アクションの提案ができる
・広告以外(商品自体)のマーケティングプランに携われる
・実行プランの最終判断ができる
<広告代理店>
・広告制作の一番クリエイティブな部分に関われる
・深い専門性が身につく
・担当企業が数年に一度変わるので、同じ会社にいながら、いろいろな業種に関われる
・芸能界や放送業界など華やかな世界に友だちができる
それぞれの魅力を踏まえ、自分はどちらを目指したいか? を明らかにしておくと、就活でのミスマッチも少なくなるのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
少しでも興味を持たれた方は、広告代理店や企業のマーケティング職採用にチャレンジしてみてください。
若くて優秀な皆さまが、広告の世界を盛り上げてくれることを楽しみにしています。
(Photo:Rawpixel.com/Shutterstock.com)
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