こんにちは、ワンキャリ編集部です。
ワンキャリアが総力を挙げてお届けする人気企画、総合商社特集。今年は「総合商社の現場力」と題し、第一線で輝く若手・中堅社員に焦点を当ててお送りします。現場で活躍する商社パーソンは、魅力的な仕事に携わる一方、多忙を極めるためOB・OG訪問が難しいのが実情です。インタビューを通して、普段なかなか知ることができない総合商社のリアルと、大義を持って働く商社パーソンたちの気概を味わってください。
今回は住友商事の現場力に迫ります。2008年入社、木材資源事業部所属の田島佳史(たじま よしふみ)さんにお話を伺いました。
<住友商事の「現場力」 押さえるポイントはここ!>
・住友商事の揺るがぬ信頼は、誠実・実直な経営のたまもの
・総合商社は最先端の情報が集まった「図書館」のような存在
・商社パーソンは下積みで育つ。ソフト・ハードの育成に力を注ぐ
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日
国交問題が起きても「一緒に働こう」住友商事の揺るがぬ信頼
■田島 佳史(たじま よしふみ)さんのプロフィール
2008年4月:住友商事入社、タイヤ部に配属
2012年6月:語学研修のため、中国へ
2013年6月:上海住友商事に2年間駐在
2015年10月:木材資源事業部に異動、現職
──今日はよろしくお願いします。早速ですが、上海住友商事での駐在経験を通して感じた「商社の現場ならではの仕事」がありましたら教えてください。
田島:上海駐在時に「お客さまがいる場所なら、どこへでも自ら足を運んで会いに行くこと」の重要性を学びました。とにかく上海で言われたのが、「自ら進んでお客さまの元を訪問しましょう」です。このときはタイヤ部に所属していたため、市場調査のため、中国全土のタイヤ工場・メーカーに電話でアポイントを取り、毎日のように訪問をしていました。また、同時並行で木材の仕事も担当しており、木材のお客さまのもとへも訪問していました。
──中国と一言でいっても、その国土は日本の比ではありませんよね。
田島:はい。ベトナム国境付近からロシアや北朝鮮の国境付近まで、とにかくお客様がいらっしゃる場所には全て足を運びました。旅行ではまず行かないような地域や場所に、飛行機に乗って一人であいさつ・顧客回りです。とにかく顧客訪問に重きを置いていたので、多いときは月あたり20〜30件、1カ月の中で半月は出張していました。
──現場を駆け回る、まさに海外駐在の醍醐味(だいごみ)ですね。
田島:学生時代に思い描いていた「商社の仕事」をしている実感でいっぱいでした。実は初めて海外に出張したのは3年目のことでした。それまで出張に出られなかった反動もあり、この駐在ではとても濃密な時間を過ごせたと思います。
──中国に駐在していた2012〜2013年は、日中関係が悪化していたタイミングです。現地での関係性作りは大変だったのではありませんか。
田島:確かに対日感情は悪化していたので、日常生活では注意をしなくてはなりませんでした。しかし、中国のお客様からは「例え国と国との関係が悪くなったとしても、長らく協業してきたわれわれの関係は揺るがない。これからも一緒にビジネスをしていきましょう」と暖かい言葉をいただきました。これは、先輩たちが信頼を積み重ねてくれたからこその言葉だと思っています。後輩たちにもこの関係を引き継げるよう、目の前の仕事に励む毎日でした。
──駐在時の仕事では、どのような点に面白さを感じましたか?
田島:お客様と異なる価値観を超えて、関係性を作り上げることに面白さを感じました。初めて出会ったときを振り返って、その1年後に目の前のお客様と仲良くなっていたとしたらワクワクしませんか。関係を築いたお客様たちから「田島さんが言うことなら、分かったよ」「田島さんのお願いなら、やるよ」と言われたのもうれしかったです。まさに家族の一員のように接してくださったお客様もいます。春節にその方の実家に招待いただき、結婚式に同僚と出席したこともありました。
──昨年のインタビューで、「もうけが見込まれることでも、世の中のためにならない仕事はしない」というエピソードがありました。田島さんは普段働く中で、「信用・確実」「浮利を追わず」「自利利他公私一如」「進取の精神」という住友の事業精神を感じることはありますか?
田島:日々感じています。私が担当している中国やロシア市場は、まだまだ法整備などが整っていない部分があるのが実情です。そんな中でも、住友商事はコンプライアンスを絶対に守ります。現場がこの対応を貫いているので、「住友商事のスタンスだと、この提案はダメだよね」とお客様からご配慮いただくほどです。理念を曲げた商売はしません。住友商事の全ての役職員に浸透している考えです。
──そこまでのカルチャーが根付いているのは、なぜでしょうか?
田島:住友商事は、自社の利益だけを追求するのではなく、事業を通じて社会に貢献するという理念を大切にしています。コンプライアンスに反して、抜け駆けをすれば自社はもうかるかもしれませんが、他者は不利益を被ります。私たちは利益も考えなくてはなりませんが、その上で社会にも、取引相手にも貢献をしていきたいのです。こうした文化が先輩や上司から根強く受け継がれているのだと思います。
総合商社は「図書館のような存在」常に学び、最新情報をアップデートし続ける
──田島さんは、総合商社のありかたを問われたら、何と表現しますか。
田島:最先端の情報が集まった「図書館」です。各領域の最前線で働くプロフェッショナルの集合体といった感じでしょうか。質問に対しても社内の他部署の社員は気軽に対応してくれます。
学生の皆さんには「商社=体育会系」のイメージがあるかもしれませんが、ふたを開ければ、商社パーソンはとにかく皆、勉強をしています。仕事終わりや休日含め、時間があれば勉強の毎日です。商社パーソンとして広い視野を持ち続けるためには、入社後も勉強は欠かせません。
──日々仕事に勉強に励む同僚や先輩たちは、どのような「意義・大義」を持って仕事をしているように映りますか。
田島:住友商事という会社よりは「社会のために仕事をしている」という印象です。
立地・環境面から当社の中でも過酷な駐在地といわれる、ロシアのプラスタンに駐在経験のある先輩と話す機会がありました。その際に「なぜあれほど過酷な環境で、最後まで頑張れたのですか?」と尋ねたことがあります。先輩からは「プラスタンに住む人々の暮らしを支えているという気概だ」と一言で返されたのを覚えています。「自分たちは人々の生活を守るため、社会のために仕事をしている」と強く感じた瞬間でした。
──プラスタンはどのような都市ですか?
田島:ロシアのウラジオストクから車でおよそ9時間の場所にある港町です。プラスタンには当社が最大株主として出資するテルネイレスというロシア企業があり、四国の面積の1.5倍にも及ぶ約276万ヘクタールの広大な山林を経営しています。全人口5,075人のおよそ半分が同社で勤務しています。冬はマイナス30度にもなるという環境も相まって、当社内ではハードシップが最も高い過酷な駐在地といわれています。
──田島さんは、若手社員にどのような資質が必要だと考えますか?
田島:どのような要素に対しても面白いと思えるポジティブさです。社内を見ていると、「逆境だからこそ、面白い!」と感じている人が多く働いています。商社で勤務していると、先ほどの先輩の事例はもちろん、お客様との交渉などさまざまな困難が降りかかります。人によってはつらいことかもしれませんが、その中でも面白さを見つけることによって、少しでもポジティブな方向につながるはずです。
確固たる「やりたいこと」がある人は、商社に向かないと思う
──ここからは多くの学生が総合商社でのキャリアパスに対して持っている3つの先入観「下積みが長い」「つぶしが利かない」「配属リスク(※)」について詳しくお聞きします。
(※)配属リスク:新卒で配属される部門によりキャリアパスが左右されるリスクを指す
田島:配属リスクはあると思います。学生から相談を受けたときにも、「かなり具体的に扱いたい商材や関わりたいビジネスがあるなら、総合商社はすすめない。」と伝えているくらいです。「何でもやってみたい、ただし将来的にはこの商材を扱ってみたい」という気持ちなら問題ありませんが、扱いたい商材や関わりたい事業分野に強いこだわりがある人は、総合商社に入社しても必ずしもハッピーになれるとは限らないと思います。
──「つぶしが利かない」イメージについてはいかがでしょうか?
田島:「経営を知ること」でつぶしは利くのではないでしょうか。例えば商社が行う事業投資では、単なる資金投資だけでなく事業会社の経営まで深く関わっていきます。また中国出張で経験したような、人対人のコミュニケーション術も身につきます。経営知識だけでなく、ソフトなビジネススキルも実践できれば、その能力は業界や分野が変わっても生かせるはずです。こうした能力は最低でも5〜10年所属することで培われると私は考えており、そうした意味ではある一定期間の「下積み」が必要です。
──ご自身が下積みを経て身についた「商社パーソンらしい」振る舞いはありますか?
田島:「メッセンジャーにはならない」ことです。私たちの働きには、関係者をつなぐハブ(調整役)の機能が求められています。単に右から左だけ商品や情報を流しているのでは、商社の存在価値はありません。この点については商社パーソンなら誰しもが危機感を持っているのではないでしょうか。買い手・売り手のニーズを調整しつつ、その情報に付加価値を付けることを常に考え仕事しています。
仕事を辞めたい自分を止めたのも、自分だった
──この記事を読む就活生に向けて、田島さんの若手時代で特に印象に残っているエピソードがありましたら、教えていただけますか?
田島:今振り返っても、毎日怒られ続けた最初の3年間は辛かったです。正直、自信もなくしました。実はこの時期に、会社を辞めたいと思ったことが1度だけあります。1年目の冬の夜、会社から最寄りの駅に向かっているときにふと「こんなにつらいなら、仕事を辞めるか?」と自分自身に問いかけたことがあります。
──ご自身との対話を通して、どのようなことを考えられたのでしょう。
田島:「いや、やっぱり今の仕事をやり続けよう」と結論付けました。内省を深める中で、「大変なことに変わりはないけれど、今の仕事はこれまで自分が思い描いていたやりたい仕事に近いのでは?」と気が付いたのです。そして「他にこれだけグローバルで守備範囲の広い今の環境以上に『面白い』企業がないのなら、この会社で働き続けよう」と決めたことを今でも覚えています。
──当時のご自身を振り返ったとき、上司や先輩から叱られていた内容に納得感はありますか?
田島:ありますね。当時の上司からは、「田島の言いたいことは何だ」「言っても相手が動いていないのであれば、やっていないのと同じだよ」など、仕事を通して様々な言葉をかけられました。今だからこそ、こうした言葉には私が一人前の商社パーソンに成長するための愛があったのだと分かります。「一人前になってお客様のもとに出ていくあなたのために」と、厳しくもしっかりと後輩を指導できるのが住友商事の魅力ではないでしょうか。
──様々な言葉を上司や先輩にかけられた中で、当時の教えと実際に同じことを後輩に指導している・伝えていることもあるのではないでしょうか。
田島:確かに、実際に後輩へ伝えたことは何度かあります。そのときには必ず、「あなたのために伝えている」とした上で、もし後輩や部下が失敗をしてもその尻拭いをするという気持ちで接しています。これは、私がかつて先輩から学んだ姿勢です。
──先輩がサポートしてくれるのであれば、不安な気持ちがある若手でも果敢に挑戦できますね。
田島:当時の私も複数の先輩や上司から「ドンとやれ! おまえがどれだけ失敗しても怒られても、俺がなんとかする。やりたいようにやろう!」と言ってもらえたことに救われました。こうした若手や後輩を「育てよう・支えようという姿勢」が住友商事の人材育成です。
木材資源ビジネスを通じて、地球環境との共生に貢献する
──ここからは田島さんから見た、木材資源事業の将来や変化について伺います。今後、木材資源事業はどういう分野や領域に注力していくのでしょうか。
田島:当社は、住友商事グループの事業活動を通じて解決すべきマテリアリティ(重要課題)を6つ掲げていますが、その中の一つである「地球環境との共生」において木材資源は重要な領域を担っています。このビジネスの特徴は、環境に優しい運営を心がけている点です。当社は先述したロシアのテルネイレス社に加え、2013年にニュージーランドにある約4万ヘクタールの森林を獲得しました。どちらもサステナブルな(持続可能な)山林経営を行い、地球環境に配慮した木材資源の確保、供給を行っています。地球にとって森林は大事な資産、だからこそ地球・社会に貢献する事業として力を入れています。
──住友商事が入ることで持続可能な森林活用ができるのですね。田島さんは今後、木材資源事業をどのように成長させていきたいと考えていますか?
田島:森林の持つ二酸化炭素固体吸収機能を活用し、木材資源事業を経済性と環境対応を両立した当社のサステナブルな(持続可能な)環境配慮型ビジネスの顔にしていきたいです。この分野については木材資源事業部がリード役となり、他部署ともビジネスの可能性について議論を重ねています。
──最後に、総合商社を目指す就活生にメッセージをお願いします。
田島:就活は、「社会を知る」大変有意義な機会です。これほど多くの会社のことをじかに知れ、様々な社員の方と触れ合えるチャンスはありません。このチャンスを最大限に生かすためにも、まずは先入観を取り払って多くの業界、企業の方と会ってほしいと思います。
その上で総合商社、そして住友商事に興味を持ってくれたら大変うれしいです。就活中は辛いと感じることがあるかもしれませんが、逆境も含めて「就活は面白い」と前向きに楽しんでいる姿は、誰から見てもきっと魅力的に映ると思います。
──田島さん、ありがとうございました。
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日
【インタビュー:めいこ/ライター:スギモトアイ/カメラマン:友寄英樹】