ワンキャリア執行役員の北野唯我が執筆した『転職の思考法』が発売2カ月で10万部のベストセラーになりました。今回はその出版元でビジネスマン向けに連載した記事を、学生の皆さん向けにリバイスしてお届けします。
日本人は実は「思考停止したロボット」だ
今から私は少しだけ悲しい話をします。
それは日本人が実は「思考停止したロボットだ」と言う話です。
私やみなさんのご両親は、家庭の中では人間味のある優しい人かもしれません。ですが、職場においては悲しいですが、「思考停止したロボット」になっている。それが今の日本の仕事に対する現状だ、という話です。
そう語る私の根拠はまず、2つのデータから始まります。1つ目は「労働時間」。2つ目は「仕事への満足度」です。まずは下の図を見てください。
(※)出典:OECD「Hours worked」
まず、事実として、日本は先進国の中で「圧倒的に労働時間の長い国」というわけではありません。むしろOECDの平均で見ると、ここ10年での急激な改善の結果、平均よりわずかに下回り、先進国の中でも、韓国、米国よりは短い状態にあります。よく誰かが「日本人は異常なぐらい働く」と論じますが、それは5年前の話なのです。では、問題はどこかというとやはり、労働生産性です。就業者数あたり、労働時間あたりで見ると、先進国の中では約15~25%低く、アメリカと比べると6割程度の水準になっています。GDPが1兆円を超える国の中で、日本より生産性の低い国は、韓国・メキシコぐらいしかありません(OECD加盟国中)。
(※)出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の 労働生産性の国際比較国際比較 2016年版」
もちろんそれでいて、人々が喜んで仕事をしているのであれば、問題ありません。仕事は人生の時間の大部分を占めるものです。
「ただ単に仕事を失いたくたくない」日本人
しかし現状は違います。日本は先進国の中でもっとも仕事に対する満足度が低いのです。つまり言い換えれば、楽しくない仕事を生産性が低い状態でしている、古いロボットのように働いている。それが今の日本の現状なのです。ではそんな私たち大人は、一体何を考えて普段働いているのでしょうか。ここでも1つ悲しいデータがあります。下の図は仕事における重要な要素の国際比較の図です。
(※)出典:NHK放送研究所「仕事の満足度が低い日本人」
上の表を見てください。日本人の特徴は、「何一つとして平均を上回っているものがないこと」だとわかります。仕事に対して何一つ重要視するものがないのです。あえて絶対値ベースで語るのであれば、人々は「ただ単に仕事を失いたくたくない」という一心で働いているとわかります。
ようやく日本人の姿が見えてきたのではないでしょうか。つまり長時間、労働生産性も低い仕事を、人々は「仕事を失いたくない」という、その一心で働いている。言い換えれば奴隷。それが日本の現状なのです。しかも、そんな私たちは、頭も悪いのです。仕事が嫌いになった大人は、50歳近くになったころ、自分の「定年までの年数」を数え始めます。自分が仕事を辞めて解放される「その日」を指折り数えるようになるのです。
ですが現実はそう甘くありません。今の日本の人口動態を考えると、定年は70歳、あるいは80歳になると言われています(※1)。ですが、このことを知っている大人は、そう多くありません。彼らは自分の思っていた「定年」の直前になって、さらに15年働き続けなければならないと知るのです。
「解放されること」を夢見て働きながらも、その懲役はまだ続くのです。
ここまで聞いて、きっとあなたは不思議に思うでしょう。
だってそんなに嫌なのであれば、仕事を変え、他の職場に移ることだってできます。ですが、ここにも絶望的な壁が立ちふさがっています。今の日本の働き方では「年を取ると、あなたの価値は下がる」傾向にあるのです。まずデータを見てみましょう。日本人は諸外国に比べて、転職する人が少ない傾向にあります。
(※)出典:NHK放送研究所「仕事の満足度が低い日本人」
これ自体に別に良し悪しはありません。問題は、統計データによると、実際に転職することによって給料の上がる可能性は一定の年齢を超える(50歳)と急激に下がる傾向があることです。まるで時限爆弾のようなものです。
(※)出典:厚生労働省「平成27年雇用動向調査結果の概況」
転職時の給料と言うのは、端的に言えばその人の労働市場での価値です。すなわち、本来であれば歳をとればとるほど経験を積むわけですから、価値が上がる可能性は高まるべきです。しかし50歳を超えると、その人の市場価値は上がるどころか下がっていくのです。仕事に絶望を見出した人々はこれを直感的に知っているため、30代〜40代から会社の中で生き残ることを第一に動き始めるわけです。
(※1)……リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、 池村 千秋訳『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社 、2016年)
思考停止社会脱出の処方箋
では一体なぜ日本はこんなことになってしまったのでしょうか。理由は複合的でいくつもありますが、ここでは3つの観点から述べたいと思います。具体的には個人、社会、システムの3つです。
1つ目は、個人です。言い換えれば「個人の意思決定能力」です。日本に限らず、全ての国の教育はいくつかの課題を抱えています。その中で、日本の教育課題かつ、就業観に影響を与える問題は、価値観を持つ、あるいは何かに基づいて意思決定を行うということを若い頃に学ばないことです。つまり、「何が大事か」を明確にすることです。
というのも、そもそも誰にとってもベストである仕事というのは存在しません。1つの価値観に基づいて自分が重要であると思うこと、それが好きだと判断することしかありません。しかし、今の教育は絶対的な正解を導き出すように訓練されています。「個人の意思決定を行う」、そのための訓練がなされていないのです。
もしも多くの人が、自分の価値観に基づき重要であるものを定義できたとしたら、たとえ仕事の生産性が低かったとしても、我々は満足できるはずです。これが1つ目です。
2つ目は社会です。 言い換えれば、日本人がなんとなく感じている「共通の価値観」です。具体的には「真面目すぎること」や、「挑戦することに対する過度な恐怖心」です。日本にはなぜか、3年は仕事を続けなければならない、転職する人間は1つの会社で勤めることができない根性のない人間だ、あるいは他の人が頑張ってるのだから自分も長時間働けなければならない、と言う暗黙の価値観があります。もちろん、これは悪いことばかりではありません。
一方で、日本人は真面目すぎるが故に、「そんなに嫌であれば転職すればいいのに」という考えが生まれてこないのです。それはレールからドロップアウトすることに対する過度な恐怖心を生み出しているのです。上述のデータのように、50歳までは、日本でも意外と「転職すれば給料が上がる可能性」が高いのにもかかわらずです。
3つ目はシステムの問題です。より具体的には、正社員の労働マーケットの流動性が低いことにあります。そもそも経済が継続的に発展していくためには、成長する産業に適切な人数の労働者が配置されている必要があります。しかし、それを事前に予測することは神様でも不可能に近いのが現状です。したがって国という有機体は「流動性を担保すること」でそれを担います。日本の就職マーケットは、職種ではなく会社単位で就職活動を行います。そのため、結果的に生まれるのは「個別の企業で最適された労働力」であり、彼らは会社を簡単に辞めることができないのです。これが3つ目です。
では、どうすれば良いのでしょうか。これは個人でできる部分と、システムを変えべき部分の両方があります。まずシステムの部分については、私の中で2つの答えが出ています。
1つは「職種別採用の割合を増やすこと」であり、もう1つは、成長産業に対して適した人数の人材が配置されるよう「公平性を保つシステムを持つこと」です。この論はまた別の記事で説明します。
では、個人としては何ができるのでしょうか。こちらも、私は2つあると思っています。1つは、学ぶことに対する価値観を180度、変えることです。私が小さいころ、よくこういう意見を耳にしました。「今のうちに、しっかり勉強しておくと、将来楽になるよ」と。
ですがこれはおかしい話です。本来、勉強すればするほど、仕事をすればするほど、技術は高まりいろんなことができるはずです。ですが一般的に言われる勉強するメリットというのは、その反対であり、楽をするために存在していると言われるのです。でもこれは嘘です。
人は学べば学ぶほど、誰かのためになることができ、世の中に対してできることが増えていくはずなのです。それがいつしか思考停止した大人の言葉によって、勉強は将来のリスクヘッジでしかなくなったのです。思考停止した人間は、頑張る人を馬鹿にし足を引っ張ります。日本の今の絶望的な労働マーケットはこの思考停止の連鎖によって生まれているのです。
もう1つは会社名ではなく、職種や業種によって仕事を選ぶ観点を持つことです。ある職種でプロフェッショナルになる(=付加価値を出せる)ということは、転職を容易にします。これはあなたが新しいチャンスを手にした時に役立ちますし、会社で直面する理不尽に対し「ノー」と言うための強い武器になります。「いつでも転職できる状態」をすべての人が実現すること。
それこそが、社会から理不尽を減らすための特効薬だと信じ、私は『転職の思考法』を書きました。
※この記事は北野唯我の個人ブログ「週報」2017年7月19日の「「仕事を失いたくない」それしか仕事に求めない僕らの悲しい現実」を一部加筆修正し、ダイヤモンド・オンラインに同タイトルで掲載した記事の転載です。
(Photo:KieferPix/Shutterstock.com)
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