こんにちは、ワンキャリア執行役員の北野です。
今回は、日本のアドテクノロジーを切り開いてきた企業のCEOにインタビューする機会を得ました。その人物とは、株式会社マイクロアド代表取締役社長 渡辺健太郎氏です。
彼は、アドテクノロジーの最先端を常に走り続けてきました。今回は、「渡辺氏が描くアドテクノロジーの将来」をはじめ、「今、マイクロアドを選ぶ意味」などを伺います。
マーケティングはサイエンスの時代へ
北野:早速ですが、アドテクの領域はDSP(※)の活用だけでは企業間の差別化が難しく、価格競争に突入していくと考えられます。実際に渡辺さんは自身のブログで「Adtech is dead」とも発言していますよね。この状態では、学生たちが既存事業に「今、入る魅力」は薄く、新規事業にこそ意味があると感じますが、渡辺さんはいかがお考えですか?
(※)DSP:Demand-Side Platformの略称。ユーザー情報に合わせた適切な広告を半自動的に生成することで、効果的な集客や情報拡散を可能とする。
渡辺:私が「Adtech is dead」と言ったこと自体が2013〜2014年ごろなので、かなり前の記憶です。そして、この表現自体は、あくまでも当時のアドテクを取り巻く状況を表すためのワードです。今、インターネット広告の世界は、DSPといったツールではなくデータそのものをどのように活用するかへの移行期を迎えていると思います。世界のマーケティングは、データやデータ処理の方法といった、サイエンス寄りの手法へとシフトしているので、その意味では学生さんたちがアドテクの領域に参加する意義はあるのではないでしょうか。
北野:そうなのですね。サイエンス寄りのマーケティングを実践するために、マイクロアドではどのような取り組みを進めていますか?
渡辺:私たちはUNIVERSE(ユニバース)という、企業のマーケティング基盤構築サービスを開発しました。お客さまの元に蓄積された複数のデータに対して多面的な分析を実施し、それによってユーザーペルソナを的確に把握した上で、適切な広告の配信や顧客管理施策につなげています。UNIVERSEは、顧客の生涯価値を最大限化するための要素を提供しているのです。
渡辺健太郎(わたなべ けんたろう):株式会社マイクロアド代表取締役社長
1999年、創業間もない株式会社サイバーエージェントに中途入社。同社にて大阪支社を立ち上げるとともに支社長に就任、その後「Ameba」のサービス開始に伴い事業責任者を務め、取締役として活躍。その後、2007年に株式会社マイクロアドを設立し、同社代表取締役に就任。現在までアドテクノロジーの前線を走り続ける。
全ては商品を導く「ストーリー」が決める
北野:ありがとうございます。UNIVERSEはどのような背景から開発に着手されましたか?
渡辺:マイクロアドはアドテクノロジーでトップシェアを得られましたが、同時に「そこに未来はないな」とも感じていました。マーケティングプラットフォームの理想はラーメン屋など小規模の事業主でも使えることだと思っています。しかし「今のままでは到底ムリだ」と分かったからです。
北野:それはなぜでしょうか。
(※)オンライン・オフラインのマーケティング施策を統合して管理していくマーケティングプラットフォームの概念イメージ。オンライン広告、テレビCM、店舗への来店など消費者が購買活動へ至るまでのさまざまな行動ログを集約、分析できる状態を目指す。そのために近年マイクロアドでは位置情報、購買情報、レシート情報などオフラインデータの連携を積極化している。
渡辺:人は私たちが思う以上に、多面的な存在だったからです。同じ人間が消費者でもあり生活者でもあるとはいえ、行動や判断のロジックは単純ではありません。この中で、レベルの低いデジタルなデータだけを通して、「こんな人」「こんなデモグラフィック」「こういう内容に興味を持っている」と区切るのは表層的でイケてないことを痛感しました。
北野:確かに「ネット」で取れるのは、人が行動するデータのほんの一部ですからね。これは、広告業界ではずっと言われてきました。渡辺さんが考える、ラーメン屋など小規模事業者がアドテクの世界に入るためのボトルネックは何ですか?
渡辺:そうですね……今あるラーメンを売る方法という発想よりも、「この場所で◯◯なストーリーを感じながら食べられるラーメン」といったそのラーメンを取り囲む環境や内容から支援ができることの方が、より消費者の購買意欲を刺激するかと思います。どれだけお得なクーポンをつけたとしても、今の時代は「ストーリー」がなければラーメンは売れません。消費者の情報感度が高くなっており、安いから売れるといった時代はもう終わったのです。
マイクロアドは消費者自身が知らない「未来」を予知する
北野:なるほど、ストーリーですか。まだ抽象的なので教えてください。具体的に、どうやって「ストーリーを紡ぎだすのか」の例を教えてもらえますか?
渡辺:分かりました。それでは、冷蔵庫と中学生を例に挙げて説明します。まずこれまでの広告では、家電量販店が売りたい商品について新聞やテレビにCMを打つだけでしたが、これからの時代では「その人がたどる未来を見ること」がポイントとなってきます。
北野:「その人がたどる未来を見る」……つまり、「相手が冷蔵庫を購入したいタイミングを事前に知ることが重要になる」ということでしょうか?
渡辺:その通りです。例えば冷蔵庫の買い換えを検討する購入者の傾向を分析していくと、「中学生ぐらいの子供」を持つ家庭に購入傾向が高いことが判明しました。なぜだか分かりますか? これは、子供が中学生になる頃って「小さな冷蔵庫」ではちょうど足りなくなるタイミングだからなんですよ。
北野:なるほど、言われてみたらそんな気がします。食べ盛りですしね。
渡辺:さらにEC(※)の購入履歴や検索内容などを分析していくことで、中学生の子供がいる家庭だからこその日用品購入や興味関心ごとを割り出すことができます。このデータの掘り下げをどんどん繰り返していくことで、中学生の子供を持つ家庭の購買傾向や行動を知ることが可能です。結果として効果的に彼らが閲覧するサイトに冷蔵庫の広告を掲載することで、無駄のない戦略的なマーケティングを仕掛けていけるのです。
(※)EC:electronic commerceの略称。インターネット上で物やサービスを売買する電子商取引全般を指します。
北野:なるほど。他にも面白いマーケティングの切り口がありましたら、ぜひ紹介してもらえますか?
渡辺:もちろん。次はおむつを例にご説明しましょう。おむつは、そもそもブランドスイッチしない商品で、消費者は一度使ったメーカーを使い続ける傾向にあります。これを狙って、メーカーは産婦人科で出産時に無料で配ったりするんですよ。それがきっかけで、そのメーカーの商品を使い続けることが多いのです。
北野:つまり、初期段階で商品を使用してもらい、かつ印象が特に悪くないと、その後も続けて使用してくれると。
渡辺:そうです、併せて自社製品を選んでもらうためには早い段階で妊婦への訴求が必要だというのもお分かりいただけるかと思います。実際にターゲットの行動データを洗っていくと、出産半年前には特徴的な行動(特定の商品やメディアを見るなど)が読み取れます。つまりデータを通じて、その人がたどる未来を見ることができるのです。
大量生産・大量消費時代のマーケティングに終止符を
北野:この「未来をたどる」というのは、ある意味怖い気もするのですが、渡辺さんはデータテクノロジーの将来についてどのように考えますか?
渡辺:そもそも、時代に合わせて新たな技術が登場すれば、データテクノロジーの仕事や周辺環境は常に変化するものです。したがって「自分は◯◯屋だ」という自認が危険な世界になると思います。例えば、電車において昔は駅員さんが切符を切ってくれていたのが、今では自動改札、そしてICカードに変化をしていますよね。もちろん広告にも同じことが当てはまります。時代が変われば、求められる広告も変わっていくし、広告会社やアドテクノロジーも変わっていくのです。とにかく、今の会社の存在価値は「新しい需要を生めるか」どうかと言っても過言ではありません。ダイヤモンドが出した「今と30年前の時価総額ランキングの比較」もそれが如実に反映されていると言えます。
北野:マイクロアド自身が考える、国内外の競合と比べた差別ポイントや強みは何ですか?
渡辺:正直な意見を伝えると、「競合を意識して何かを創る」という考えではなく、より良い未来のために今何が必要とされているのかを考えて、ビジネスをしています。それは、常にマイクロアドが時代の先端を走っているからです。私たちが今ミッションとしているのは、自動掃除機のルンバが人間を家事から解放したように、人を「どうでもいい意思決定」から解放していくということです。大量生産、大量消費の時代が終わって商品の選び疲れや所有疲れがあり、今の世の中には、しなくてもいい意思決定があふれかえっています。
北野:「どうでもいい意思決定から人を解放する」というのは大変興味深いミッションです。
ゴミの山が21世紀の石油に。そんな世の中の流れに気づけるか
北野:その中で、マイクロアドだからこその面白さ、つまり、御社に入社してデータを扱う最大の利点は何ですか?
渡辺:「実証すれば答え合わせができる環境が整っている点」です。データはその扱い方次第で、ゴミにも金にも化けます。例えば過去にある画像解析企業のプレゼンで、「高度な画像解析技術を駆使した結果、おじさんの画像よりもアイドルの写真の方がクリックレートが高いことが分かりました」という発表を聞きました。その時には失礼ながらも「そんなものデータ解析しなくても、人間として当たり前に分かることだろう!」と感じたことを覚えています。
北野:そりゃそうですね(笑)。つまり、意味のないデータのために、分析を行っている企業が存在するということですか?
渡辺:そういう落とし穴があることを理解しておく必要があります。データ解析の肝は、「人間がこれまでの経験や人生からでは一見分からない相関性を見つけること」だと思います。ですが世の中や他人の気持ちへの関心が低いと、「知名度のあるアイドルの方がクリックされやすい」といった、人として当たり前に分かるはずのことが分からないのです。そのため、自分の立てた仮説を正解がどうか確認できる環境があることが重要になってきます。
北野:確かに、意味のあるファクトを集めないとデータとしても役には立ちませんよね。
渡辺:データは「21世紀の石油」と言われていますが、加工しないのであればそれはゴミの山です。また持つだけではなく、組み合わせることによって、より価値を発揮するものであり、そういったデータ自体にレバレッジをかけられるのはマイクロアドならではの環境であり、誰にも模倣できません。
変化が多い中でゴールを考えても意味はない。今自身に不要なものを見極めろ
北野:ワンキャリア読者の学生たちは大半が20代です。渡辺さんが考える、20代で学んでおくべき経験がありましたら教えてください。
渡辺: 2つあります。「(1)言いきる力」と「(2)理不尽への打たれ強さ」です。
まず「(1)言いきる力」について、私が初めてサイバーエージェントで大阪支社長となったとき、マネジメントすらもやったことがありませんでした。その中で、社内外の優秀な人たちに自社の可能性を信じてもらうためにはやっぱりある程度「言いきる力」が必要なんですよ。未来はこう変化する、と自信満々にプレゼンすることによって、トップという役割を演じていたことを覚えています。そうして新たな道が開けることが実際に多くありましたし、可能性に賭けてくださる顧客やパートナーの皆さまによって、今があると強く実感しています。「言いきる力」とは言いましたが、その本質は「不確実性の高い状況においても、信じたものを正解に変えるという情熱が一番大事」ということです。言ってしまったら、やるしかないですしね。
これが1つ目です。
北野:2つ目の「(2)理不尽への打たれ強さ」についても教えてください。
渡辺:「何でこんなことを」と感じてしまう局面がいろんなタイミングであると思います。そのような状況においては、実は、本質を見極めるための「打たれ強さ」が求められます。なぜなら、目の前にある出来事をその瞬間の損得で判断すると「経験をストックできなくなる」と考えているからです。重要なのは、課題に深く入り込んで消化していく時間も必要であり、その時間は短期的なメリット・デメリットとは関係がないということです。
北野:この背景にも、渡辺さん自身の経験があるのでしょうか?
渡辺:そうですね。振り返れば、「なぜあのタイミングで分かりやすい成果を急いでいたんだろう?」と感じることが多くあります。周囲から向かい風となる声が挙がっているときにも耐えしのぎ、自ら考え抜く胆力が重要だと思います。私の経験上、時とともに思った以上に世論が変わることもありますし、それまで正しいと言われていたことが間違いとなることも多くあります。だからこそ自らが考え抜いて結論を出す過程が、血肉になるということです。
北野:これらの経験があったからこそ、今の渡辺さんがいるわけですね。ここからは学生の皆さんに向けて、マイクロアドのインターンについても教えてください。
渡辺:この冬、東京と大阪で1dayインターンを開催します。マイクロアドについてはもちろん、業界全体も一緒に理解できるプログラムを組んでいます。アドテクやビッグデータといった業界知識のインプットとグループワークを交互に経験する中で、1日とは思えない成長を実感してもらえるはずです。
北野:学生がインターンへの参加を決意するファクターとして「先輩のクチコミ」が挙げられます。率直に、学生からの評判はいかがですか?
渡辺:過去に参加した学生からは「体験型のプログラムが多く、参加した瞬間から最後の発表まで濃密だった」「1dayにもかかわらず、内容も社員の対応も手厚かった」などの声が届いています。社員たちも通常の採用活動とはまた違った刺激や発見を受けるようで、インターンを通して少しでも相互理解が進むとうれしいです。
北野:最後に、これから就活に挑むワンキャリア読者にメッセージをお願いします。
渡辺:今の時代はレガシーなことと新しいことが8:2の割合で形成されています。色々なことが並行している中で、自分にとっていらないものを見極めることが必要です。また今ゴールのことを考えても、正直意味はありません。世の中の変化値が大きすぎるので、ゴールを目指すと遭難してしまうからです。特に成長産業で若くから働いていると、自分の担当領域を超えた仕事をせざるを得ない状況に出会うと思います。そのときは、一つ一つの意味を考えるよりは、やっていく中で正解が見つかることも多いと思います。
周囲に惑わされず、どんな環境が自身にとって必要なのか見極めてください。
北野:膨大なデータを扱うマイクロアドだからこそのメッセージですね。渡辺さん、本日はありがとうございました。
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聞き手:北野唯我(きたのゆいが)
兵庫県出身。ワンキャリアの執行役員。著者。博報堂、ボストン コンサルティング グループを経て現職。テレビ番組・ラジオ番組のほか、日本経済新聞、東洋経済、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。
初の著書『転職の思考法』(ダイヤモンド社)は発売2カ月で10万部突破のベストセラーになっている。
【カメラマン:塩川雄也/ライター:スギモトアイ】