3月1日。2019年卒学生の就活が、いよいよ解禁となった。
本記事では東大・京大生の就職人気企業ランキングをもとに、上位校の就活トレンドを明らかにしていく。
1.メガバンクはもはや「滑り止め」ですらない
2.「日系志望なら商社」は終わりつつある
3.次のバブルはIT業界。「つぶしがきくキャリア」を求めさまよう上位校学生
「まずはランキングを見せろ」という声が聞こえてきそうだが、2分だけ我慢して読み進めてほしい。この2分で、今回のランキングから見出したトピックを頭に入れていただきたいのだ。
余程の就活マニアでもない限り、ランキングだけを見て大きな変化を捉えることは難しいはずだから。一刻も早くランキングを見たい方は以下のリンクを押して、そして、またここに戻ってきてほしい。
■19年卒東大・京大生における就職人気企業ランキングTOP50
メガバンクの凋落:もはや「滑り止め」ですらない
<調査詳細:以下ランキング部分は同調査に基づく>調査対象:東京大学・京都大学、または同大学院に所属し、2019年度卒予定のONE CAREER会員3,500名のうち無作為抽出した450名調査主体:株式会社ワンキャリア/集計時期:2018年2月23日時点
作成方法:企業別のお気に入り登録数(複数選択可能)を元に作成
ランキングの中でもひときわ目を引くのが、3大メガバンクの人気凋落だ。18卒学生の前年同期から大きく順位を落とし、軒並み上位50位から脱落している。
トップ就活生のインサイトとして「メガバンは滑り止め」という認識は従来からあった。実際に、メガバンクを始めとする金融業界の選考は、セミナーやインターンへの参加状況で本選考が優遇されることから「スタンプラリー」と揶揄されている。
その中で今回のランキング順位が大きく下がった原因は、やはり2017年の人員計画見直しの報道だろう。三菱UFJ、三井住友、みずほの3行で3.5万人にのぼる人員削減を受け、志望動機が薄い学生がメガバンを受ける根拠となっていた「安定性」「ブランド力」の魅力が失われているようだ。メガバンクは本選考を前に、すでにトップ就活生の受験の選択肢から外れているのだ。
ある学生もこのように語っている。
「転勤も多いし、仕事も厳しいみたいですね。安定を求めるにしてももっと就職先の選択肢があるだろう、という感じです(慶應義塾大学4年/男)」
※三菱東京UFJ銀行(BTMU)は、平成30年4月1日より三菱UFJ銀行(MUFG)に変更となりました。
鎮静化する商社フィーバー:「そもそも受けない」学生が増加
以下は、トップ10のうち3社を占めた「総合商社」の順位だ。
ある「異変」にお気づきいただけるだろうか。
就活生の間で「5大商社」と呼ばれる総合商社5社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事)は、三菱商事を除き軒並みランクを下げている。東大・京大生の間では、「総合商社=日系企業志望の黄金ルート」という認識は失われつつあるようだ。
実際に、ある18卒就活生は「同期の男子学生は、外資や他業界が本命の人も、5大商社はとりあえず受けていた。19卒は『そもそも商社を受けない』と断言する人が多い(早稲田大学4年/女)」と語る。
とはいえ、順位変動の理由はブランド力の低下ではなく「17卒・18卒で過熱していた商社人気が正常に戻った」と言うほうが正確だろう。事実、依然として19卒のトップ就活生は総合商社に高い関心を持ち、合同説明会のブースでもその熱気はすさまじい。
商社熱が鎮静化した要因は、総合商社と自分のキャリア志向のマッチングを早期から検討する学生が増えたためと考えられる。19卒学生は(1)企業のインターンシップや就活イベント(2)総合商社社員・内定者の口コミ(SNSやOB訪問)を通じ、従来は就活解禁後のOB訪問や説明会でしか入手できなかった情報(※)を入手できるようになった。結果として、本選考開始前に「そもそも商社を受けるかどうか」を検討できるようになり、いわゆる「ミーハー層」が脱落したのではないか。商社にとって、この傾向がどうでるか引き続き注目したい。
(※)企業風土のほか、配属リスク(総合商社では、新卒で配属される部門によりキャリアパスが左右される場合が多い)などの内情
代替案としてのIT業界:スキル志向の「モラトリアム志望」がなだれ込む
では、19卒で人気を集めている企業・業界はどこか。50位圏内にランクインした企業の中でも、前年同期からのランクアップ幅が大きかったのが「IT業界」だ。米系ITのグーグル(Google)・Amazon(アマゾンジャパン)・日本マイクロソフトのほか、フリークアウト・エムスリー・ビービット・フロムスクラッチといった日系ITベンチャーが大きく順位を伸ばしている。
その理由には、トップ就活生のキャリア志向の変化があるだろう。その傾向は18卒時点で表れている。ワンキャリアが18卒のトップ就活生140名にアンケートを収集した結果、学生の7割が入社先を選ぶ理由に「得られるスキル」を挙げており、約2割がベンチャーをファーストキャリアとして真剣に検討していた。
ここから、以下のことが見て取れる。
・企業を選ぶ軸は「キャリアチェンジを見据え、スキルを得られる環境」
・「ファーストキャリアでベンチャー入社」は、もはや異端ではない
実際に19卒のトップ就活生と接点を持つ中でも、彼らの「つぶしのきくスキルを早く身に付けたい」という強い危機意識が感じられる。日系メーカーの業績不振や、前述したメガバンクにおける人員削減のニュースを目の当たりにしてきた結果、彼らが想定する「つぶしのきくスキル」──具体的にはITリテラシーや事業経営のノウハウなどが得られるであろうIT企業やベンチャーが注目を集めているようだ。
ランキングから読み取れること:行き場をなくした「進路を決められない高学歴」たち
そろそろまとめに入ろうと思う。今回のランキングから読み取れるトレンドは以下の3つと言える。
・総合商社は、17卒・18卒の過熱が落ち着きを見せる
・メガバンクは人員削減の報道を受け、ランキング50位圏外へ
・米系ITおよび日系ITベンチャーの躍進
では、この結果から何が言えるか?
「就職人気が落ちたので、総合商社やメガバンクの将来が危ない」とは決して言えないし、
「IT産業に優秀層が集まっているので未来は明るい」という楽観視もできないと考える。
それは、このランキングがあくまでも志望度にかかわらない「人気企業」の動向であり、実際の就職状況を反映するものではないからだ。あくまでもこの集計値は、2月の時点で就職先の選択肢として検討されている企業のランキングにすぎない。いわゆるミーハー層や、志望度が低く「とりあえず受ける」学生が含まれている点を考慮すべきだろう。
それを踏まえると、総合商社はキャリアの実情が明らかになったことで、メガバンクは人員削減の報道によって、志望度の高い学生が絞り込まれた結果を反映したランキング順位とも言えるのではないだろうか。マッチングの確度が高まった点では、商社・メガバンクは昨年よりかえって採用がうまくいく可能性は高い。これは広告業界の例を見れば明らかだ。電通の過労死報道によって大きくランキングを落とした一方で、過去数年で「採用する学生の質が大幅に下がった」という声は聞かれない。
では、このランキングにおける問題点は何だろうか?
それは、『進路を決められない』上位校学生の行き場が失われつつあることだ。
大学3年生(修士1年生)時点でキャリアの方向性が定まらず、どのような専門性を武器にしていくか決めきれない高学歴の受け皿が失われつつある。彼らが求めるのは、自分の志向に合った職を見つけるまでの「モラトリアムの延長」だ。だからキャリアチェンジを続けられるよう「専門を定めなくてよい『つぶしのきく』スキル」と「転職に有利に働く企業ブランド」が就職先を選ぶ条件になる。
とはいえ、スキルと企業ブランドの両方が揃う企業・業界は限られる。具体的には外資系戦略コンサルや投資銀行が想定できるが、採用数が非常に少ない。内定者は1社につきわずか数名、多くても十数名という狭き門だ。
そこで昨年まで人気を集めていたのが、採用枠が50〜100名以上と広く、かつ企業の安定性・企業ブランド・社内で積めるキャリアの幅広さの三拍子が揃った総合商社やメガバンクだった。しかし、上述の通り配属リスクが明らかになった総合商社や、人員削減で安定を失ったメガバンクには、もはやこうした『決められない』高学歴たちの居場所ではない。
すべてのIT企業は「モラトリアム採用」を開始せよ
では、『決められない』高学歴たちは、今どこを目指しているのか?
もうお分かりだろう。IT業界だ。
「ITリテラシーや事業経営のノウハウといった業界を問わないスキルが身に付きそう」
「業界に成長が見込めるので転職価値や企業ブランドが変化しないだろう」
そのような理由で、19卒の間でIT業界の人気が高まっているのではないだろうか。
しかし、現在のIT業界、彼らにとって最も厳しい世界と言わざるをえない。IT業界は、たとえ事業環境は「安定」でも、一社員としての働き方は「安定」ではないからだ。
IT業界では、事業部の再編や経営陣の交代でポストを失うことも決して珍しくない。実際にあるITスタートアップに新卒入社した東大生は、社内のジョブローテーションを経験した後に、事業部の統廃合でポストを失った。専門スキルを持たなかった彼は入社2年目にして「社内失業」の状態となり、転職を余儀なくされたという。
今の就職活動は、「やりたいこと」が明確でない学生に冷酷だ。就職活動ではじめに突きつけられる就活の軸探しや自己分析は最たるものだ。選考が始まれば「弊社で何がしたいの?」「5年後のキャリアプランは?」と面接で問われ、『決められない』高学歴たちはますます「やりたいこと」に追い詰められていく。
リクルートやヤフー(Yahoo! JAPAN)が掲げる新卒採用の年齢引き上げや、ワークスアプリケーションズの有効期間が数年にわたる入社権は、結局のところ社会に出る前に「やりたいこと」がある学生たちのための制度だ。決して「やりたいこと」が決まらない高学歴たちを救済するわけではない。
『決められない』高学歴たちは叫ぶ。
向き不向きなんて、働いてみないと決められないと。
だが、いかに売り手市場といえど、経験の浅い新卒社員が「働いてみて向かなかった」という理由で転職を繰り返すのは難しい。中途採用の現場では、依然として年齢と経験社数のバランスは厳しく問われるからだ。
だからIT企業は腹をくくって、『決められない』高学歴たちを受け入れる採用枠を設けてはどうか。リクルート、ソフトバンク、ヤフー(Yahoo! JAPAN)など複数の大手IT企業が連合し、新卒3年間は連合内のどの企業の事業部にも、好きな期間だけ所属できるようにする。専門領域が定まればそのままキャリアを積めばよいし、IT業界自体にマッチしないのであれば転職に踏み切ればよい。
一見、乱暴な説だと感じるかもしれない。しかし実際に、銀行や商社をはじめとする日系大手企業は、その企業ブランド・安定性・社内でのキャリアパスの幅広さに惹かれる『決められない』高学歴を大量採用することで繁栄してきたのではないだろうか。金融の専門知識を身に付ける学習能力の高い人材が必要で、ITの導入が遅れたため労働集約に陥ったメガバンクは、その最たる例だ。「賢い人材(=高学歴)が大量にほしい」業界として、『決められない』高学歴たちの最適な受け皿となったのだろう。
そんな「ちょうどよいモラトリアム」であるメガバンクを奪ったのが、ITだ。いつの世も、『決められない』高学歴たちが消えることはない。IT業界が成長産業として拡大を続け、従来の「モラトリアム」を崩していくのならば、その対価を払うのもまた、彼らが果たすべき責務ではないだろうか。
「トップ10を商社・コンサルが制覇」東大・京大19卒 就職人気企業TOP50/2月23日時点
<調査詳細>調査対象:東京大学・京都大学、または同大学院に所属し、2019年度卒予定のONE CAREER会員3,500 名のうち無作為抽出した450名調査主体:株式会社ワンキャリア/集計時期:2018年2月23日時点
作成方法:企業別のお気に入り登録数(複数選択可能)を元に作成