大学3年生へのインターン募集が本格化する6月に、毎年ワンキャリアが発表している東大・京大就活人気ランキング。まずはこちらを見ていただきたい。
これは、ONE CAREER会員の2024年卒の東大・京大生がお気に入り登録をしている上位50社の顔ぶれだ。この時期は外資系企業の選考が本格化し始める時期だが、就活の早期化により日系大手が本命の学生も「腕試し」として選考を受けるようになり、近年は外資と日系が入り混じる結果になっている。
今年もその傾向自体に大きな変化はない。ただ、新型コロナウイルスが24卒に落とした長い影を理解しなければ、このランキングに隠れている変化は分からないだろう。
ずっとコロナ禍だった大学生活。就活は厳選傾向に
24卒が入学したのは、日本で初めて緊急事態宣言が出た2020年4月。最初に友達を作ったり、部活やサークルに入ったりする機会が失われた。その後も授業はオンラインが中心だったが、感染者の減少に伴い、今春から各地の大学で制限の緩和が進んでいる。ようやくキャンパスライフを楽しめるチャンスが回ってきたのだ。
そんな中、始まった就活。ある企業のインターン選考を受けている24卒の学生からは次のようなエピソードが出てきた。
「選考で同じグループだった人が、早期内定が欲しい理由を『効率的に早めに終わらせて、残された時間でコロナ禍にできなかった海外旅行や遊びをしたい』と話していた。私たち世代ならではだと思った」
他にも、「8月から留学に行きたいので、インターンでは夏までに内定がもらえる企業の選考を受ける。でもたくさん受けるとパンクしそうなので、絞る予定」といった声もあった。
コロナ禍で失っていたキャンパスライフと、就活。2つを天秤(てんびん)にかけないといけない24卒は、受ける企業も厳選傾向にあるようだ。
IT・通信業界が軒並み上昇。NTTデータはGAFAMを抜く
では、そうした状況下で選ばれた企業はどこなのか。1つが「IT・通信業界」だ。
入学してからオンラインで授業を受けてきた24卒は、ITの力を感じる機会が多かったのだろう。「何か社会課題を解決する上で、ITツールは不可欠」とIT業界を志望する東大・京大生もいた。
特に順位を上げたのが、16位のNTTデータだ。アマゾンジャパン(18位)や日本マイクロソフト(22位)などGAFAMを抑え、IT・通信業界ではトップとなった。
もちろん「GAFAMは新卒よりも、転職で入るイメージ(東大生)」という点も影響しているだろうが、NTTデータが学生にとって有力な選択肢になっていることは間違いないだろう。
NTTデータを受けた学生からは、次のような意見が出た。
「企業の安定性は欲しいため日系大手を見てはいるが、今は転職することが当たり前の時代。NTTデータは外資系コンサルや日系の事業会社への転職者も多いことから、セカンドキャリアにもつながりやすいように感じた」
ONE CAREER PLUSでNTTデータの転職体験談を見ると、ボストン コンサルティング グループやアクセンチュア、リクルートなど就活生に人気の企業に転職していることが分かる。会社の安定性と転職できるスキルの「良いとこ取り」をできる点が、NTTデータが選ばれた理由のようだ。
「総合職として採用されるのではなく、職種別採用を行なっている」といった点も理由に挙がった。職種別採用は江崎グリコ(43位)でも導入しており、パナソニックグループ(48位)も初期配属の職種を確約できるコースを設けて順位を上げている。
「配属ガチャにより希望の職種に就けないこと」をリスクと捉えるのは、ここ最近の就活生の傾向でもある。そうした傾向を受け、近年は職種別採用を導入する企業も増えている。この点については、後日に改めて記事にする予定だ。
SaaS企業に注目の兆し? 問われるインターンの質
IT・通信業界の他企業に目を向けると、SaaS企業が伸びているのも特徴だ。先程のランキング表には入っていないが、マネーフォワード(263位)やHRBrain(230位)は順位を上げている。2社の特徴は後述するが、SaaSを手掛けるスタートアップがさまざまな領域で誕生しているので、ここから新たな人気企業が生まれる兆しとも見ることができるだろう。
また、Works Human IntelligenceやSpeeeは「インターンの内容が実践的で面白そう」という理由で志望する東大・京大生がいた。両社とも以前からインターンは人気だったが、IT・通信業界の人気に合わせて順位を上げた形だ。Speeeの社員座談会に参加した24卒の学生からは「『何か就活で困っていることはない?』と声をかけてくれた。インターンの宣伝目的の企業が多い中で、好感を持てた」と話している。コロナ禍で多くの就活生が不安を抱いている中、こうした学生への向き合い方も順位上昇の下支えになっていることも見逃せない。
順位を上げたPwCと江崎グリコの共通点
毎年人気のコンサル業界に目を向けると、総合コンサル「BIG4」のうち、PwCコンサルティング合同会社(4位)とEYストラテジー・アンド・コンサルティング(27位)のランクアップが目立った。
EYは「中長期的な価値を重視する」「グローバルの連携」といった特徴をグループ全体で学生に発信し、順位を59上げた。ファームのカラーを打ち出すことで、BIG4の他ファームに水を開けられていた状況から一気に差を縮めた形だ。
PwCは2021年6月〜12月、東大の学部生・大学院生向けにAI経営寄付講座を開催した。授業で接点を持つことで身近に感じ、興味を持った学生が一定数いたと推測される。
京大生の間で似た特徴を持つのが、69のランクアップを果たした江崎グリコ(43位)だ。同社は職種別採用を行っており、マーケティング職が人気の職種として挙がった。
マーケティングを学んでいる京大生からは次のような声があった。
「マーケティングが強い会社として、ゼミで名前が挙がったのが、ユニリーバ、P&G、資生堂、江崎グリコ。特に江崎グリコは、オフィスグリコがマーケティングの事例として授業に絶対に出てくるので、そのイメージが強い」
大学の授業などで聞いたことのある企業の方が興味を持ちやすいのは自然なこと。もちろん企業の魅力自体も向上したのだろうが、その訴求方法にひと工夫があった方が、ランキングには反映されやすいようだ。
会社のカラーが出たベンチャー・スタートアップが上昇
最後にベンチャー・スタートアップ。特に順位を上げた企業が次の4社だ。
このうち、上場企業であるグッドパッチ(Goodpatch) とマネーフォワードは、着実に東大・京大生の間での存在感を高めていった印象だ。一方で、急上昇したのが、HRBrainとエッグフォワードの未上場2社だ。
HRBrainは本田圭佑氏が代表を務めるKSK Angel Fund LLCが出資しており、本田氏が出演するCMで注目を集めた。新卒採用を行う理由を「新規事業を含む新しいことへのチャレンジを行う風土や機会をこれまで以上に増やしたい」と採用HPで説明しており、今後も新卒の採用に力を入れそうだ。
戦略コンサルティングファーム出身の徳谷智史氏が設立したエッグフォワードは企業へのコンサルティングを行う一方で、自社サービスの開発にも取り組んでいる。「事業会社かコンサルか」と悩む学生に対して、「どちらもできる」という第三の選択肢を提示することで魅力付けを行っている。
ベンチャー・スタートアップの新卒採用は、その企業のカラーが出やすい。興味のある学生は、経営者や社員の発信も参考にしながら企業研究をすれば、より理解が深まるだろう。
編集後記:限られた時間で、納得のいく選択ができるように
今回、記事執筆にあたり複数の東大・京大生にヒアリングをしたが、「皆に乗り遅れたくないから、今から就活をしている」という声をよく聞いた。コロナで想像していた大学生活が今まで送れなかった分、「就活は順調に進めたい」という思いも強いのかもしれない。
一方で、前述したようにようやくキャンパスライフが送れるようになったタイミングでもあり、限られた時間で就活を進めることにもなるだろう。ONE CAREERには先輩の体験談や企業説明会の動画など就活を効率的に進めるコンテンツがあるので、ぜひ活用して効率的に就活を進めてもらえると幸いだ。
大学生活も就活も納得のいく選択ができるように。ワンキャリアはこれからも仕事選びに役立つコンテンツを発信していく。
(Photo:jakk wong , MIKHAIL GRACHIKOV/Shutterstock.com)