こんにちは、ワンキャリ編集部です。
日本を代表する総合商社7社が一堂に会する特別企画「総合商社の採用戦略」。
今回は三井物産で人事総務部 人材開発室 室長 を務める古川さんにお話を伺いました。
三井物産の採用戦略 押さえるポイントはここ!
・三井物産の強みは「チャレンジ精神」「多様なプロ人材」
・1年目で、異例の経営企画配属へ。柔軟な人員配置と社内制度
・採用で見るのは「人間的魅力」。話題の合宿選考も意図は同じ
26年で3回の事業経営。一人ひとりがプロ人材として道を究める
──古川さん、本日はよろしくお願いします。古川さんは三井物産に新卒で入社され、今年で26年目になります。今までのキャリアで、特に印象的だった仕事は何でしょうか?
古川:2007年からの4年間、大手家電メーカーのベトナム現地法人の立ち上げ責任者として駐在した時のことです。ベトナムでの事業は、相当な苦労をしましたね。当時のベトナムでの家電市場は飽和状態で、新規で参入するには障壁が高かったのです。打開策が見つからず、在庫だけがどんどん増えていってしまって。責任者としてプレッシャーがのしかかる毎日でした。
今でこそインフラも整いつつありますが、当時の市街には信号機もなく、医療設備も心もとない環境でした。道にはバイクが溢れ、常にクラクションが鳴り響いている。そんな状態だったんですよ。
古川 智章(ふるかわ ともあき):三井物産 人事総務部 人材開発室 室長 1991年入社。機械経理部で経理を担当後、健康産業部にてスポーツ用品の輸入、内販を担当。1996年に研修員としてフランス駐在。2000年にB2Bのe-market placeのベンチャー企業を設立し代表取締役副社長として出向。2003年から携帯電話のコンテンツプロバイダー企業の社長として出向。ベトナム駐在を経て、2011年、情報産業本部でインターネット・ECの投資事業室長を務める。2015年、Wharton Business School AMP。2016年から現職。
──それは想像しただけで気分が滅入りそうです。逃げ出さずに頑張れた理由はどこにあるのでしょうか。
古川:ベトナム駐在は、私の三井物産のキャリアの中で3度目の経営経験です。やはり与えられたチャンスは最後までやりきりたい、という思いは強く持っていました。もちろん、うまく行かないならば早めに諦めて次に進む、というのも一つの手ではあると思います。でも同時に、ここで負けたら次も負けるんじゃないか、この先も負け続けてしまうんじゃないか──そんな「諦めることへの恐怖心」もあって最後までやりきりましたね。今ではその事業はメーカーさんに譲渡しましたが、アジアでも最大級の販売拠点になっています。
──やはり経営に携わるとなると、相当な覚悟や精神力も必要になってくるということですね。一方で、そこにやりがいを見出し、商社を目指す学生も多くいます。商社ならではの経営人材の資質や経営スタイルはありますか?
古川:正直なところ、「商社ならでは」というのは、個人的にはないと思っています。経営で求められるものは、ある意味どの企業や業界でも同じである一方、どこも違う。環境や方針など、さまざまな要素で変化をしていくものなので、お決まりのパターンは無いんですよ。
「商社=経営者」という話も同じで、誰もが必ずしも経営者を目指す必要はないと思っています。三井物産が求めているのは多様なプロ人材であり、経営のプロがいれば、財務のプロや商品のプロ、トレーディングのプロもいます。その中で私は経営のプロになりたいと思ってやってきたというだけの話です。
異例の人事「1年目から経営企画」人の物産、その強さの真価
──多彩な人材も、三井物産「ならでは」の強みと言えますね。その多様性を支える人事制度についても伺います。学生の間では、三井物産は「ブリテン制度」として異動の希望が叶いやすいと言われています。実際のところ、柔軟なキャリア形成はどの程度可能なのでしょうか。
古川:三井物産ではずっと同じ部署で、ずっと同じ業務を続けるケースの方が圧倒的に少ないんです。本部そのものが変わるケースも多くて、私自身もコンシューマーサービス事業本部からICT事業本部への転籍を経験しています。自分自身で望んで異動をすることもあれば、会社として貴重な人的資源を重要分野にシフトすることもあります。
──「配属リスク」の観点では、新卒入社時の配属決めも重要です。そちらはどのように決めるのでしょうか。
古川:新入社員に関しては、内定後に第四志望まで希望を尋ね、配属面談を行いながら決めていきます。希望を出した部署のことをしっかりと理解できているのかどうか、イメージだけで決めてしまっていないかをしっかり見極めながら、本人の能力や適性まで確り考慮して配属を決めるようにしています。全体の約90%は第四志望までに配属されるようにしていますし、全く希望していない部署に一方的に配置するようなことはありません。
──その他に、若手社員のキャリア形成に活用できる制度などはありますか?
古川:特徴的なものとしては『修業生制度』があります。海外で1年間、英語以外の第三言語を大学に入って学び、その後は現地のオフィスで働くという制度ですが、帰国のタイミングで違う部署に配属されるケースは多いですね。現地で学んだ語学や知識を、新しいプロジェクトに活かす形で、自分の可能性を広げることができます。また『求職制度』というものもあります。「自分にはこんなスキルがあって、こんな仕事を求めている」というのを会社に進言できる制度ですね。
──2017年春から始まった社内ベンチャー制度(※)など、三井物産は若手人材の挑戦を後押しする環境が更に整いつつある印象です。最近の例として、若手が自身の強みや能力を活かして異動をしたケースはありますか?
(※)日本経済新聞「三井物産が新制度 社内ベンチャー、社員本人が出資」より。
古川: 2つの事例を紹介します。1つめは、新卒社員がこの秋に、経営企画部のイノベーション推進室に異動したことです。1年目から経営企画部に配属されるのは異例の人事ですが、AIに関する知見を買われての異動でしたね。2点目として、28歳の新卒社員が入社10ヶ月でインド派遣が決まりました。海外大学で博士号を取得した社員ですが、投資先からの評判も非常に良く、インドの合弁会社で活躍してくれています。三井物産のカルチャーに、慣例や従来のやり方にとらわれない姿勢があると思いますが、それが人事や各種制度にも反映されていますね。
CDO設置──求められる変革と、変えてはいけない使命と信念
──最近の三井物産では事業面でも興味深い取り組みが伺えますね。CDO(最高デジタル責任者)の設置など、IT分野へ注力しています。
古川:CDOに関して言えば、DT(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、私たち商社に求められるビジネスの形態も大きく変わっていくことが予想されます。従来のICTの領域を攻めていくためというよりは、AIやIoTの進歩で変化が見込まれる既存のビジネス領域にどのように対応していくか、新しいビジネスをどう展開していくか、という意識を高める目的が強いと言えるでしょうね。
──デジタル化が進む中で、これからの人材に求められる要素などはありますか?
古川:自ら課題を設定して、それに対するソリューションを考え出し、解決に導いていけるような「やりきる力」のある人が求められます。与えられたものだけをやる、というような形では、今後のビジネスの世界で成功はないでしょう。
──近年は特に技術進歩のスピードが早く、変化が激しい時代です。古川さんが26年間を過ごす中で、「三井物産の仕事や働き方が変化した」と思うことはありますか?
古川:やはりモバイルインターネットの普及とそれに伴う通信コストの飛躍的な低減というのは大きなインパクトがあったと思います。すべての産業構造が変わったと言っても過言ではないでしょう。私たちの仕事も90年代までは『時間と距離のギャップを埋める』ことがメインでした。地球の裏側に駐在員を置いて、彼らの仕入れた情報や資材を国内へ輸入したり、逆に国内のものを海外に輸出したり。
ただ今ではそういった情報は瞬時にリアルタイムでわかるようになっています。スマホが1台あれば、それだけで世界と繋がることができます。手の平に世界がある。物流のインフラも整っていて、個人で輸出入を行うことだって簡単にできる世界になりました。しかし本質的な使命は変わりません。「日本をベースとしたグローバル企業として、日本と世界に価値を提供していくこと」──これはいつの時代も変わらない私たちの原点となる考え方ですね。
──三井物産では、2020年の史上最高収益達成を見据えて事業を展開しています。目標達成と更なる飛躍のために、どんな人材を求めていますか?
古川:三井物産が、そのDNAとして脈々と引きついでいるキーワードが「挑戦と創造」。常に何かに向かって挑戦する気持ちが強い人が向いていると言えますね。学生時代に色んな事にチャレンジし、それを最後までやり抜いた経験があるような人材は、私たちも大歓迎です。逆に受け身で安定志向の人は、弊社よりも他の会社を選んだ方が、活躍の場も多くなるでしょう。コミュニケーション能力の高さや専門的なスキルといった単純な要素で判断はしません。チャレンジ精神や、困難に負けない胆力、そして惹きつけられるような人間的魅力を持った方を採用していきたいと考えています。
採用基準は『人間的魅力』。世間を騒がせた合宿選考の真意とは
──求める人材像と関連し、選考についても伺います。商社志望の就活生にとって、三井物産が2018年卒採用からスタートした「合宿選考」は外せないトピックです。その背景や狙いをお聞きかせください。
古川:そもそもの出発点は、日本の選考プロセスに対する問題意識です。「30分の面接で数回話しただけで、一生働くかもしれない会社や、一生雇うかもしれない社員を決めていいのか」という疑問から、新しい採用手法を模索した結果が合宿選考です。2泊3日の共同生活を通して、学生と社員とがお互いに理解を深めながら採用を判断していきます。
短時間の面接で見極められるのは、どうしてもコミュニケーション能力や短期的な突破力のような表面的な部分に偏りますし、自分自身を無理矢理に演出することもできてしまいます。それが1日2日と続くとなると、無理な演出はできず、その人の本質が見えてきます。
──なるほど、大変興味深いです。初年度の「合宿選考」を終えての手ごたえはいかがですか。
古川:感触としては非常に良いですし、合宿型の選考はこれからも継続して取り組んでいきたいですね。この選考の利点は、隠れたリーダーシップや責任感といった、面接でアピールしにくい魅力に気付きやすくなることです。いわゆる『スルメ人材』──噛めば噛むほど味がでるような人材を採用できたのは大きな収穫でした。
──初めての採用手法ということで、社内外からの反響も大きかったのではないですか?
古川:そうですね。他社の採用担当からも「よくそんなチャレンジができましたね」と驚きの声が多かったです。ただ、個人的には「実施するメリットの方が圧倒的に大きいはずだし、なぜ他社はしないんだろう」くらいに思っていました。三井物産がトライ&エラーに寛容な文化だからか、社内では特に反対も起きずにスムーズに実行に至れました。もちろん、選考の意義や想定される結果に関しては徹底的に議論をしましたよ。
──今後の展望についても伺います。合宿選考を1〜3年向けや、6月以前に実施する予定はありますか?
古川:現状、それは想定していません。就職広報の規定や経団連のガイドラインはもちろんですが、そもそも私たちは大学3年生以下を新卒採用の対象にはしないつもりです。大学生活を通じた経験こそがその人の成長や人格形成に最も寄与するものだと考えていますし、そこで築かれた「生き様」こそが、私たちが採用活動を通して一番見たい要素でもあるからです。必ずしも大きなチャレンジや華やかな実績である必要はありませんが、何かに挑戦し、やり遂げた経験がある人は、社会人になってもやり切れる人材になれると思います。
──通常選考でも合宿選考でも、問われるのは人間としての本質的な魅力というわけですね。最後に、ワンキャリアを見ている全国の就活生にメッセージをお願いします。
古川:真剣に、慎重に、社会人としての一歩を踏み出す会社を選んでほしいと思います。自分がどんな会社に向いているのか。しっかりとこれまでの生活を棚卸しして、どんなことにモチベーションがわいて、楽しくなれるのか。またその逆にどんなことで悲しくなったり怒ったりするのか、そうした自己分析の末に見つけた自分自身の人物像に合わせて、向いている職業というのを探していっていただきたいですね。もしそうした中で、チャレンジしたいという気持ちが強いと思うのであれば、ぜひ三井物産を選んでいただきたいと思います。
──ありがとうございました。
▼三井物産株式会社 新卒採用サイトはこちら
▼総合商社7社が参加! 商社業界研究セミナーの詳細はこちら
▼特別企画『総合商社の採用戦略』
・【豊田通商】世界最先端のものづくりと並走する仕事。豊田通商のキャリアと魅力
・【双日】一番若い総合商社だから「何度でも挑める」んです。失敗は恐れない。 ・【丸紅】自らチャンスをつかみ、挑戦する。強い「個」を育てる丸紅の風土 ・【住友商事】「確固たる事業精神」「徹底した現場主義」、住友商事の強さと魅力に迫る ・【伊藤忠商事】目指すは「厳しくとも、働きがいのある会社」少数精鋭の商人たちのDNA ・【三井物産】合宿選考の真相が明らかに。仕掛人が語る「挑戦と創造」の採用戦略 ・【三菱商事】三菱商事の魅力は「強い想いを持つ社員」と「目指すゴールへの無限の道筋」人事と1年目社員が語るキャリア論