※こちらは2017年8月に掲載された記事の再掲です。
はじめまして、商社の子と申します。
私は新卒で資源を取り扱う会社に入社し、その後総合商社に中途で入社しました。
外から商社に入ってきた者として、商社あるあるなどを徒然なるままにつぶやいたりしています(@careersis)。
今回は、商社マンにOB/OG訪問するとほぼ間違いなく言われる「商社の仕事は泥臭いよ」の一部始終をお届けできればと思ってます。
「泥臭い」って言われても内容が分からん! 正直なんやねん! って感じですよね。
今回は私が経験した、超~地味な「泥臭い仕事」のエピソードを紹介します。
朝出社して、昨晩のうちに届いた大量のメールをさばいていると、こんな件名が目に飛び込んできました。
件名: [至急] PA-10SK 1,000個 ※実際は英語
何かというと、お客さんからの「至急、品番PA-10SKを1,000個持ってこい」という要請です。
商社のデリバリー業務ではあるあるです。
商社界隈では物流機能のことを「デリバリー」と呼びます。
ヤマト運輸やピザハットのことではなく、「物の仕入から納品・支払いまでに発生する面倒ごとを代行してあげる業務」を指す場合が多いです。
例えば海外向けであれば輸出入の手続きとか、運送屋さんの手配、在庫管理などです。これらの代行手間賃をお客さんからもらっています。
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さて、このデリバリー、「別に商社に頼まなくても良いのでは?」とよく言われますし、実際に商社を挟まない企業さんもいます。
ですが、商社が間に入る大きな理由は、何かあった時にトラブルシューティングとして我々商社マンが血まなこに働くからです。
例えば、突然大量の仕入れが必要となった時。仕入先が即対応できるとは限りません。
納期や生産キャパの問題があります。もしかしたら、強気に値上げを要求してくるかもしれません。
そんな時こそ商社の力の見せどころ。いろんなツテを使って同じ製品を見つけてきたり、仕入先とゴリゴリ価格交渉したり……面倒ごとをまるっと引き受けます。そのおかげで、お客さんは本業に集中できるわけです。
私が当時担当していたのは、建機(建設機械)に装着されるゴムパッキンのデリバリー。
国内品を仕入れてインドネシアへ輸出し、輸出代行の手数料をもらう商売です。
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で、冒頭のメールに戻りますが、どうやらインドネシアで建機の増産が決まったらしく、ゴムパッキンを至急追加納品してほしいとのこと。
早速いつもの仕入先に電話です。追加発注を打診してみます。
仕入先:「追加の発注はね、嬉しいんですよ。でもね、我々も今いっぱいいっぱいで……どんなに頑張っても500個が限界です」
でも、こちらとしては何が何でも1,000個用意したい。じゃないと商社の意味がない。
そんなわけで、「今後の生産計画を一緒に立てる」というのを建前に直談判に向かいます。
仕入先は下町にある家族経営の会社。看板はサビだらけだし、玄関にはぐるぐる巻きの蚊取線香(緑のやつ)が焚いてあって、ボロボロのガレージが併設。元ヤンの金髪受付嬢がお茶をだしてくれて、発注管理責任者として登場したのは社長の奥様、推定65歳(副社長)。
これぞ、「ザ・下町の工場」。
挨拶もそこそこに、人員や作業量を増やせないかと、あれやこれやと提案。
副社長:「みんな精一杯働いていて、これ以上は無理。今以上に儲けたいという気持ちもないし……」
玉砕。全然話がまとまらない。
今日はダメだ……。出直そう……。
ふと工場の方に目をやると、入口に大量のゴムパッキンが詰められたダンボールの山が。
おや? もう、商品はできてるのでは?
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何やら、ダンボールからゴムパッキンを取り出してひとつひとつ並べ、布で拭いているようです。
私:「あれは何の作業ですか?」
副社長:「最終工程で、汚れを落としているんです」
私:「あの工程は、難しいんですか?」
副社長:「いえ、布で拭くだけです」
私:「私やります」
副社長:「えっ」
私:「私やります」
いや、本当にけなすつもりは一切ないのですが、ゴムパッキンを拭くその速度が、猛烈に遅い。やばい遅い。
そりゃそうです。作業をしているのは平均年齢70歳くらいのおじいさまおばあさま。みんな一生懸命やってくれてる。誰も悪くない。しかしながら私のミッションは1,000個納品することなので、このふきふき作業をどうにか終えないといかん。
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炎天下の真夏日。エアコンの効きも恐ろしく悪いガレージの片隅に席をつくってもらい(酒箱みたいなやつ)、猛烈なスピードでゴムパッキンを拭きました。
もう、めちゃくちゃ暑い。あとゴムの匂いも独特で鼻にツンとくるし、酒箱椅子のせいで腰も痛い。
おじいさまおばあさまから
「やっぱり若者は速いねぇ~違うねぇ~」
とお声掛けいただきますが、そんなこと言う暇あったら手を動かしてくれよ! というセリフが出かけたり出かけなかったり。
手はゴムパッキンから出る油(?)で薄汚れて臭く、下ろしたてのシャツも汗でびっしょり。
鼻の下やおでこも、いつの間にか真っ黒に。
次の日からはアメフト部出身の後輩を巻き込んで、金・土・日と3日間工場に通いつめました。
体の大きい後輩が酒箱に座って窮屈そうにふきふきする後ろ姿が大変キュートで、最終日には「うちに就職すっか!」とまで言われるほど心を通わせました。(納期には間に合わせました。)
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あの夏、名門大学出身のコミュ力も意識も高いリア充が休日返上で必死にやったのはゴムパッキン拭き。
グローバルに飛び回って、でっかい契約をまとめてくる商社マンのイメージとはかけ離れています。
それでも、お客さんが喜んでくれるなら、私たちは働きます。
私が拭いたゴムパッキンは今頃、どこかの発展途上国の建機の一部となり、現地スタッフの足元で立派にその役目を果していることでしょう。
これが私の経験した「商社の泥臭い仕事」です。
みなさんも町工場で、何かをふきふきする日が来るかもしれません……。
商社志望の学生のみなさん、これでも商社を目指しますか?
(結局この商売、儲からないと判断され、ほどなく打ち切りになりました……おじいさま、おばあさま、元気かなぁ)