最近、インターネット上でHatelabo::AnonymousDiaryの「就活のせいで自殺するかもしれません」という文章が、多数の共感を集めて話題になりました。
題名の通り、就活のプレッシャーに苦しみ、内定が決まらないことで自分が否定されているように思えて苦しい、という内容です。就活中、もしくは来年に就活を控える皆さんの中には、同じ苦しみを抱えている人がいるかもしれません。
皆さんの悩みの元である「新卒一括採用」は、卒業前の学生を、限られた期間に大量採用する制度です。
実は、これは日本に特有の制度で、欧米ではこうした採用は行っていません。
今日は、新卒一括採用の成り立ちを紹介し、メリット・デメリットを考えた上で、冒頭のような就活に対する悩みをどうしたら解決できるのかについて考えたいと思います。
新卒一括採用はいつから始まったのか
新卒一括採用は、終身雇用や年功序列の一部として機能する制度でした。生涯雇うという保証と引き換えに若い間は安めの給料で雇い、何年もかけて教育し会社への忠誠心を育てるというのが本来のあり方です。
しかし、終身雇用が崩れた現在では、「若いうちは給料が安い」「就職時に経験等は重視されず、むしろ面接受けの方が求められる」「海外の企業よりも、忠誠心を求められる」といった学生にとって美味しくない面ばかりが見えてくるかもしれません。
ですが社会全体との関わりで見ると、若年層を大量採用するため、日本の若年層における失業率の低さにもつながっているという一面もあります。
企業側・学生側に新卒一括採用がもたらすメリットとデメリット
ここから、「新卒一括採用」が企業と学生にどのようなメリットとデメリットをもたらすか見ていきます。
それぞれのポイントは大まかに以下のようにまとめることができます。
このメリットとデメリットは表裏の関係であるものが多いです。これらを一つずつ解説していきます。
新卒一括採用の企業側のメリット
上記でお伝えしたような、時代の変化に合わせてその実態が変化していないこんな昔の制度が、なぜ百年以上も続いているのでしょうか。
おそらく、企業にとっては「優秀な人材の囲い込みができる」という最大のメリットゆえに、この制度は変わらないのでしょう。アメリカ等のように、ポストが空いたら募集をかける通年採用では、他社に優秀な学生を取られる恐れがあります。
さらに、時期を限って採用を行うことで、企業側の手間とコストが省けて効率的です。
新卒一括採用の企業側のデメリット
この制度が、企業に直接的かつ短期的に与えるデメリットは無いように思えます。だから、百年以上も続いているのでしょう。ですが、この制度が長期的に社会に影響を与えたことによるデメリットは大きいと私は思います。
最も大きいデメリットは、新卒一括採用への依存度が大きすぎるため、転職市場が発達せず、中途採用で優秀な人材を採用できないことです。
※出典:内閣府「青少年に関する調査研究等 第2部 調査の結果」のデータをもとに筆者がグラフ作成
※日本・韓国・アメリカは2007年、イギリスとフランスは2008年のデータ
これは、18~24歳の若者の転職回数を、各国間で比較したグラフです。
日本では、フルタイムの職に就いた人の3分の2が一度も転職していないのに対して、アメリカとイギリスは転職経験がある人の方が多数派です。
アメリカとイギリスでは、転職しながら自分により合う職を探していくことが主流ですが、日本でそのような転職をした場合は「ジョブホッパー」と呼ばれて敬遠されることすらあります。
つまり、転職自体があまり良いこととみなされないため、転職する人も少なく、転職市場も発達しません。
厚生労働省『雇用動向調査』によると、入職率(就転職で新しい仕事についた率)は、20~24歳は男女ともに40%前後と高いですが、男性は25~34歳は10%台、35~59歳までずっと10%台以下、女性は25~34歳は20%台、35~59歳は10%台と、35歳以上で転職する人は10人に1~2人と、ほとんどの人は同じ会社に勤め続ける結果が出ています。
このような硬直した労働市場は、「中途採用で優秀な人材を採るのが難しい」状況を生み、長期的には企業のデメリットになっていると思います。
新卒一括採用の学生側のメリット
今度は視点を学生側に移してみましょう。
学生にとって最も大きいメリットは、新卒を大量採用するシステムのため、「新卒時が大企業に入れる最大のチャンス」といった、いわゆる「新卒カード」と呼ばれる現象です。
次に大きいメリットは、「就職時に経験やスキルを問われない」ことでしょう。
例えばアメリカの学生は、インターンシップを受けて「実務経験」を積まないと、高学歴でも書類審査すら通りません。さらには、インターンシップの期間に優秀と認められる必要もあります。
しかし、日本ではその必要はありません。今実績がなくてもポテンシャルがあると認められれば内定をもらうことができます。入社後に、時間をかけて教育するからです。
新卒一括採用の学生側のデメリット
学生にとって「新卒は、大企業に入れる可能性が人生一番大きいチャンスであり、経験やスキルは問われない」新卒一括採用ですが、それは「一番大きいチャンスだからこそ、失敗できないというプレッシャーがかかる」「経験やスキルを問われない分、面接受けや『この会社に染まれるか』などという、仕事とは関係ない部分で判定されているように感じる」というデメリットにつながります。
リクルートスーツがあり、「就活のためのメイク講座」があり、横並びで画一的に見られて個性を出せないと学生が感じるのは、日本だけです。
また、同じ期間にほぼ全ての企業が募集を行うため、短期間で多数の企業を受けなくてはなりません。心身への負担や学業への影響が出ています。
就活に振り回されて落ち込まないために
上記を踏まえて大切だと思うのは、「プレッシャーを感じ過ぎないこと」「自分が何を辛いと思うかを把握すること」「スケジュールを入れ過ぎないこと」です。
プレッシャーを感じ過ぎないこと
就活は、人生で最も大きなチャンスではあります。
ですが、たとえ失敗しても、日本で「若い」とみなされる20代の間はまだまだチャンスがあります。「失敗できない」という意識ばかりが先走り、力み過ぎてバットを振れないことがないよう、肩の力を抜いてみましょう。
自分が何を辛いと思うかを把握すること
私は神経が弱く、心配性です。新卒で出版社に入社しましたが、数年勤めた後、過労で退職しました。思えば、就活の圧迫面接で失敗した時から、そうした兆候はありました。
だから、当時そのことを自覚して、もっとストレスの低い職種を目指せたら良かったのにと思うことがあります。
冒頭の学生も、「嘘をついた学生だけが内定をもらっていって、何が正しいのか分からなくなりました」という表現から、面接で自己PRを誇張する学生を「嘘をつく」と言いたくなるほど、面接が嫌いまたは苦手意識を持っていることが推測されます。
私や冒頭の学生のような、「面接で上手に自分を演出できない」「人よりも悩み過ぎてしまう」人は、対人やストレスに対する耐性は低いです。練習でいくらかは克服できますが、そもそも面接が苦でない人に比べれば、営業職などの対人業務や、ストレスがかかりそうな職種は不向きでしょう。
無理してそれらを目指すよりも、多少ストレスに弱くてもスキルがあれば評価してもらえる職種や会社を探す努力をした方がいいでしょう。
もちろん、苦手と分かった上であえて挑戦するのは良いことですが、苦手ということは覚えておく必要があります。
このように、就活は自分の向き不向きを見極めて、対応できる進路を探すプロセスでもあります。
「何が何でも大企業に入るため、就活がどんなに辛くても頑張る」という精神論で押し通すのではなく、「なぜ辛いのか」「どこが辛いのか」を客観的に分析し(もしくは他人に分析してもらい)、自分の短所をカバーでき長所が発揮できるような職種や会社を探しましょう。
スケジュールを入れ過ぎないこと
上記の2つはあまり気にならない「強い人」でも、スケジュールを入れ過ぎれば潰れることもあります。
就活は、多くの企業をじかに見られるいい機会ではありますが、どんなに受けても最終的に入社できるのは1社です。逆にいえば、99社落ちても、最後の1社で合格できれば良いのです。手当たり次第受けるのではなく、ある程度厳選して応募しましょう。
おわりに
あまりに悩みが苦しい時は、就職浪人の経験がある先輩を紹介してもらうのも良いでしょう。散々苦しんだのに、決まる時はあっさり決まった人も結構います。悩んだ人の体験談を聞くのが、一番参考になるかもしれません。
※こちらは2016年8月に公開された記事の再掲です。