「採用人数が少ないし倍率は高すぎる……。自分は内定できるはずない」
食品業界に対して、そのようなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。
今回取材したのは、大手食品メーカーに内定したEさんです。「企業の目にとまる学生になること」を意識し、苦労や挫折がありながらも、最後まで「食品業界への内定」へのこだわりを持ち続けました。
その一方で、Eさんは、食品業界を第一志望にしながら、就活軸とは異なる「金融」業界も視野に入れて企業を見ていたそうです。その理由を伺うと、食品業界志望者ならではの「戦略」が見えてきました。
「就活の中で後悔したことは何もない」と話すEさん。そんなEさんに、食品業界の内定を獲得する秘けつから、後悔のない就活をするために心得ておくべきことなどを、詳しく伺いました。
<目次> ●食品業界の志望理由は「機能的価値×情緒的価値」 インフラ業界ではダメだった理由 ●内定先の採用人数は5人!? 狭き門・食品業界の志望者が心得ておくべきこと ●身近な存在である「食」。だからこそ、志望動機の差別化が重要になる ●重視されるのは「志望動機<ガクチカ」100人に1人の存在と思わせる工夫が必要 ●就職活動で後悔したことは1つもない。その理由とは?
食品業界の志望理由は「機能的価値×情緒的価値」 インフラ業界ではダメだった理由
──はじめに、Eさんがどのような就活軸を持っていたのか教えてください。
Eさん:軸としてはこの3つです。
(1)社会的な知名度がある(周囲からチヤホヤされたかったから)
(2)年収・複利厚生が良い(生活していく上で、将来的に安定して家族を養ったり、両親を支えたりできる環境がほしかったから)
(3)ホワイトな業界(プライベートも大事にしたいと考えたから)
──まさに「日系の食品メーカー」が当てはまる就活軸ですね。最終的には食品メーカーに内定されていますが、それ以外に志望していた業界はありますか?
Eさん:3つの軸に当てはまるという観点から、最初は「インフラ」業界を候補に入れていましたが、最終的には「食品」「金融」業界に絞って企業を見ていました。
──「食品」と「金融」ですか。「金融」は特に(3)の軸との関連性が薄いようにも思えますが……。「金融」業界に関するお話は後に伺うとしてまずは、「インフラ」業界を候補に入れなかった理由を教えてください。
Eさん:これは食品業界を志望する理由にもつながってきます。インフラ業界の仕事は、「生活の基盤」をつくる仕事だと捉えています。私は、そういった「生活の基盤」をつくる仕事よりも、「ワクワク」や「笑顔」といった情緒的価値を届ける仕事がしたいと考えました。その上で、自身の経験や関心事から自己分析を行った際に、インフラ業界ではなく、「食品」業界への思いが強くなりました。
──なるほど。ご自身の経験に食品業界を志望される理由があるのですね。詳しく教えてください。
Eさん:14年間のサッカー経験です。試合や合宿でどんなにつらいことがあっても、その後に家族や友人と同じ円卓でご飯を囲むことでつらさを癒やすことができていました。
「食」は健康な体をつくる「機能的」な価値もありますが、それ以上にこの経験から、「食」が持つ情緒的価値を強く感じました。食の魅力を最大化して提供したいと考えたのが、食品業界を第一志望にした理由です。これは実際に志望動機としても話していました。──確かに、疲れたときやつらいときも、「食」によって体調面も精神面も満たされるのは非常に共感できます。
内定先の採用人数は5人!? 狭き門・食品業界の志望者が心得ておくべきこと
──それでは、一見、軸には当てはまらない「金融」業界を同時に受けていた理由を教えてください。
Eさん:金融業界を受けていた目的は、食品業界の内定がつかめなかった際の「リスクヘッジ」です。
内定式に参加した際に驚いたのですが、私の内定先の新卒採用人数は5人しかいないんです。この会社だからというわけではなく、食品メーカーは全体的に採用人数が少ないのが特徴です。その上、毎年多くの学生が志望するため、選考倍率がとにかく高いんです。
「採用人数」という観点から業界を見たとき、新卒を多く採っている「金融」業界は選考の負荷が少なく感じました。
──なるほど。それは言い方を変えると、「志望業界を狭く絞りすぎるのは危ない」ということですかね。
Eさん:私はそう思っています。「志望業界を複数持っておく」ということは、食品メーカーに内定した大学の先輩も話していました。食品業界1本で就活を行うと「お祈り」が続くことがあり、精神的にも負担になるので、「落ちるのは当たり前」という前提で受けていました。「抑え」で受ける業界があると良いと思います。
Eさん:最終的に、食品業界では2社の内定をもらえました。もう1つの会社は飲料業界の会社です。
Eさん:最終的な決め手は、「会社が扱う製品が好きかどうか」です。もう1つの企業に比べて、内定先の企業が扱う製品 で人々を「笑顔にしたい」と思いました。
もう1つの内定先は、主に「ビール」を扱う会社なんです。これは、完全に嗜好(しこう)でしかないのですが、私自身お酒があまり得意ではないんです。自分がこの先、営業として売りたいと思う製品はどちらかという観点で考えたときに、内定先の企業の製品の方が良いと考えました。
Eさん:「お酒が弱い人にはこのようなお酒があったら良いのではないか」というように、お酒が得意ではないからこそ出せる価値を伝えていました。無理に「お酒が好きです」とうそを話すのは、自分のためにも良くないと思ったので。志望動機・人柄などが、企業と合致していれば、「お酒が得意ではない」という点で選考で不利になることはないでしょう。
身近な存在である「食」。だからこそ、志望動機の差別化が重要になる
──改めて、高い選考倍率の中、食品業界の内定を獲得できた秘けつを教えてください。
Eさん:「他の人とは異なる」形で「企業と自身の接点」を話したことで、企業の方の目にとまる学生になれたことだと思います。
「食」は誰にとっても身近な存在ですし、志望度のアピールの仕方が均一化しています。また、企業の方は膨大な数のESに目を通していることを考えたとき、「企業の方の目にとまる」ように、周囲とは違うアピール方法を取らなければならないと考えました。
──具体的にどのような方法で、企業と自身の接点があることを伝えたのでしょうか?
Eさん:「自分のかなえたいビジョンは御社でしかかなえられない!」という論理展開をすることで企業と自身との接点を伝えていました。「食の新たな形を提案し、さまざまな人の生活を支えたい」と話し、このビジョンをかなえる環境はその企業にしかないことをアピールしていました。
「確かにEさんの夢はわが社でしかかなえられない」というように、落としどころを企業の方に見つけていただく形式が、選考を優位に進められた秘けつだと思います。
──Eさんは、企業が持っている製品への共感ではなく、ご自身のビジョンと結びつける方法で「接点」があることをアピールしていたのですね。
Eさん:「製品愛」を伝えることは大事ですが、それは企業のファンであるアピールでしかなく、消費者としての意見であると私は思います。あくまで、就活生は企業で働くという観点、つまり「提供側」の視点を持たなければなりません。そのため、選考では企業に自身の強みと、夢や実現したいビジョンを強くアピールするべきだと思います。
重視されるのは「志望動機<ガクチカ」 100人に1人の存在と思わせる工夫が必要
──食品業界と金融業界の本選考をいくつか経験されたかと思います。この2つを比較したとき、食品業界の選考で特徴的だと感じたことはありますか?
Eさん:私が受けた企業での話ではありますが、本選考において最終面接まで「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」を聞かれたことです。さらに、体感ではありますが、質問されたことは1次面接に関してはほぼガクチカ、2次面接に関しても7割がガクチカでした。
──最終面接までガクチカですか!?
Eさん:そうなんです。内定先の企業の最終面接に社長さんもいらっしゃったのですが、ここでもガクチカを聞かれました。実際、「志望動機よりもガクチカのエピソードを重視している」と内定式で役員の方にも伺いました。
学生時代に自分が熱中したことから、「本当にこの人は会社でも働けるのか」を見ているのかなと私は捉えています。だからこそ、ガクチカはどのように深掘りされても良いようにしておくべきだと思います。
──なるほど。ちなみに、ガクチカでも「他の人と異なる」形でのアプローチが必要なのでしょうか?
Eさん:そう思います。就活ではよく「特徴的なエピソードは必要ない」といわれていますが、食品メーカーにおいては例外かもしれません。
実際に、他の内定者のガクチカを聞いた際も「100人に1人しか話すことができないエピソードだな」と感じました。何千何万というエントリーシートが企業に届くわけなので、「企業側の目にとまるような見せ方」で「徹底的な深掘り」ができているエピソードでないといけないと思います。
──ちなみに、Eさんはどのようなエピソードを話していたのですか?
Eさん:ゼミ活動の一環で、「とある地域で環境省の方々と調査を行い、その結果を環境省の方々に提言した」というエピソードを話していました。「環境省」のような国の行政機関と活動をした学生は、周りにも少なく差別化ができていたと思います。
Eさん:よくあるエピソードだとしても、成果を出すまでに「自分にしかないプロセス」が隠されているはずです。ガクチカを深掘りしていくと、「他の人とは違う部分」があると思うので、それを伝えることで、企業の目にとまるエピソードになります。
就職活動で後悔したことは1つもない。その理由とは?
──Eさんは、就職活動の中で「あれをやっておけばよかった」と後悔していることはありますか?Eさん:ないです!!
──それはすごい。なぜ、そのように言い切れるのでしょう。
Eさん:やると決めたことを必ず放置せずに取り組んでいたからです。
──ちなみに、意地悪な質問かと思いますが、結果的に食品メーカーの内定を獲得できなかったとしても「後悔はない」と言い切れますか?
Eさん:もちろん、結果としてうまくいったから「後悔はない」と言い切れるという側面はあるかと思います。ですが、最終面接で落ちてしまった企業が多くあるんです。その結果に対しても「後悔がない」と言い切れます。
その理由として、面接でうまくいかなかったとしても、「この企業とはご縁がなかった」または「自分の努力でどうにかできることではなかった」と思えるくらいに、選考に向けて準備をしていたからです。
──十分な準備をしていたことが「後悔のない」就活だったと言える理由なのですね。
Eさん:もちろん、休むことは大事です。しかし、1週間単位・1日単位で、やるべきことを可視化して、それをこなしていったことが、最終的に後悔なく就活を終えることができた理由だと思います。
──最後に、食品業界を志望する学生にメッセージをお願いします。
Eさん:私は食品業界を第一志望に就活をしてきましたが、とにかく選考の倍率が高くとんとん拍子に選考が進んだ企業はごくわずかでした。一部の優秀な就活生を除いて、食品メーカーの最終面接に落ちてしまうこともあるかと思います。
そのような結果を受けたときに、「自分はダメだ」と思うのではなく、「相性が合わなかったのだな」と思えるくらいのマインドを保つことが重要です。そのためには「後悔はない」と思えるくらいの準備が必要だと思います。
就活の中でうまくいかないときがあっても、明るい気持ちを持ち続けて前向きに取り組んでみてください。
──ありがとうございました!
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