※こちらは2022年3月に公開された記事の再掲です。
「年収」──それは、就活中、しばしば重視される要素です。
生きている限り、ほとんどの行為に「お金」がかかわってきますよね。
「お金を稼ぐために働く。多ければ多いほど良い」と考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、「新卒からその高給、使いますか?」
みなさんの霞が関や官僚就活に対するイメージをアップデートする、「UPDATE 霞が関」。
シリーズ最終回である今回。取材したのは、外資系銀行(外銀)2社、コンサル2社の内定を獲得したにもかかわらず、最終的に外務省を選んだBさんです。
給料に関する話だけでなく、外銀とコンサルの内定を得た秘訣(ひけつ)、「納得内定」が出てからどうしたか、最終的にどんな過程を経て外務省を選んだかなどを聞いてみました。
Bさんの就活スケジュールは以下の通り。
民間就活を1月で終え、それから国家総合職対策を始めて春試験(※1)で合格しています。
(※1)……官庁訪問前の4月〜6月に行われる試験。教養区分との主な違いは、専門科目(法律科目、経済科目など)の試験があること。
▼国家総合職の試験については、こちらをご覧ください
・企業選考を受けながら官僚も目指せる?サマーインターン前に知っておきたい「国家総合職・教養区分試験」とは
選抜コミュニティで対策し、外銀に内定。企業ごとに「キャラ」を変えるのが、内定の極意
──受験勉強の開始が大学3年の2月と、少し遅い方だと思います。何か理由があったんですか?
Bさん:本当は、教養区分で受かっている予定だったんです(笑)。それが落ちてしまって、春試験を受けなければならなくなりました。
昨年の自分に1つだけアドバイスできるとすれば、「教養区分に向けてもっと対策しとけ」と言うと思います。教養区分の対策って、合格すれば万々歳だし、不合格でも春の試験の教養科目に生かすことができるので。
──教養区分後は民間就活で忙しく、受験勉強開始が2月になったということでしょうか。
Bさん:そうですね。教養区分で受かることを想定していたので、もともと民間企業はゆっくり受けていこうと思っていました。
でも教養区分に落ちてしまって、春の試験を受けるしかないので、「早期に内定が出る企業」に絞って選考を受け始めました。選抜コミュニティに参加していたのですが、周りの学生は、夏にはコンサルなどから内定をもらっている状況だったので、かなり焦っていましたね。
──選抜コミュニティに所属していたのですね。結構早くから参加していたのですか?
Bさん:そうですね。企業の選考への応募を始めたのは5月だったんですけど、2月ごろから選抜コミュニティに参加していました。ケース面接の練習やフェルミ推定の演習、グループディスカッション(GD)の練習など、時期ごとにカリキュラムが組まれているので、それに沿ってイベントに参加する形です。秋以降はメンターさんがついて、毎週のように面談をしてもらいました。コンサル・外銀就活のイロハはそこで学びました。
──なるほど。でもそれでも、外銀やコンサルの内定を獲得するのは容易ではなかったと思います。内定獲得の秘訣はありますか?
Bさん:それぞれの企業の雰囲気を見極めて、それに合わせたキャラづくりを徹底するようにしていました。
民間企業は、官庁以上にその組織との相性で学生を見ていると思っています。人物像より能力を重視する部分もありますが、各学生のキャラクターが企業に合うかどうかは重要な判断材料の一つとして考えられています。ジョブ中に周りの社員や学生とどのようにコミュニケーションをとっていたかなども評価されている印象でした。
企業ごとの雰囲気の違いを早い段階で見極めて、自分のキャラづくりを徹底すると良いと思います。私は、エントリーシート(ES)や面接においても、その組織の雰囲気や求めている人物像にあったエピソード選びを心がけていました。
GDでも、ファシリテーターが好きな企業もあれば、サポート役が好きな企業もあります。企業によって見せる自分の側面を変えることが重要だと思います。
最終的に私が内定を得た企業は、落ち着いた雰囲気の人が多い傾向がありました。私も比較的落ち着いている方なので、よく観察されていると思います。
民間企業対策と省庁対策を両立させることで、「相乗効果」が生まれる
──次に、官庁訪問対策についてお聞きします。民間企業の選考に向けた対策と比較して、何か違った対策を行っていたものがあれば、教えてください。
Bさん:大きく違った点は、ES作成にかけた時間の長さですね。官庁訪問のESは、友達に何度も添削してもらい、かなり作りこんでいきました。官庁訪問にケース面接はないし、志望動機やガクチカの質問をされるのが分かっていたからです。実際、考え方やこれまでの経験など、人物像をかなり深掘りされました。
一方で、民間企業ではあまりESの深掘りをされなかったので、別企業のものを使い回すときもあったくらいです。特にコンサルはケース面接しかなかったので、内定先企業の人事の方も、私が大学時代に何をやっていたか全然知らないと思います(笑)。
外銀の面接では自分の経験を聞かれることもありましたが、ESに書いていなかった内容を聞かれることの方が多かったですね。また、人物像というより、能力や頭の回転の速さを見るような質問が多かったです。
──民間就活での経験が省庁対策に生きたことはありましたか?
Bさん:企業の選考で面接慣れしていたので、官庁訪問においてスムーズに面接をこなすことができました。圧迫面接を受けたり、突飛(とっぴ)な質問をされたりすることもあったのですが、自分のペースを崩さず、動じずに答えることができました。GDも同様ですね。
──逆に、省庁対策が民間就活に活用できたことはありましたか?
Bさん:省庁の説明会やインターンで得た知識を、民間企業の面接に活用できました。
ある企業の最終面接で、「どうしたら日本にイノベーションが起きると思う?」「日本の原発は今後どういう方向を目指すべきだと思う?」という抽象的な質問をされたことがありました。予備知識がないと答えられなかったと思うのですが、省庁のイベントで培った知識を使って対応できました。
自分の志望分野と扱う分野が共通している省庁のイベントで得た知識は、民間就活に大いに活用できると思います。民間企業の志望度が高い人にも参加をお勧めできるし、行くと良い経験になると思います。
「社会全体」に影響を与えられる仕事。それが、省庁・コンサル・外銀だった
──国家総合職を志望したきっかけを教えてください。
Bさん:もともと高校生の頃から外務省に関心があったんです。知り合いに外交官の方がいて、お話を聞いて「かっこいい!」と思っていました。でも初めから外務省に絞っていたわけではないです。視野を広げたくて、民間企業や他の省庁も選択肢として考えていました。
外務省を本格的に志望するようになったのは、中国に留学をしてからです。
「中国は脅威である」「重要である」という表現はテキストや報道で何度も目にしていたのですが、実際に中国に行くことでかなり印象が変わりました。「もっと中国と日本が相互に理解し合って、コミュニケーションをとる橋渡しをしたい」と考えるようになったんです。そこから、日本と他国の関係を構築する、外務省を真剣に志望し始めました。
──外務省と比較して、外銀やコンサルって、かなり違った仕事を行う職種だと思います。就活中はどんな軸を持っていたんですか?
Bさん:日本の平和や繁栄を支えられる仕事、かつ社会にインパクトを与えられる仕事に就きたいと考えていました。
──外務省は、パンフレットにも「日本の平和・繁栄を支える」と書かれていて、分かりやすいですよね。コンサルや外銀は、どのようにその軸につながるのでしょうか。
Bさん:最近、日本企業の国際的な競争力低下が叫ばれていますが、私は学生ながら、日本経済の衰退に問題意識を持っています。
コンサルや外銀では「日本の経済を良くするにはどうすれば良いか」が企業の課題として捉えられていました。説明会に参加したとき、その議題を真剣に考えている社員の方が多いことに驚き、すごく共感したんです。
事業会社では「その会社の利益」を考えますが、コンサルや外銀では、「日本全体」を考えて、第三者視点で携わることができます。また、第三者としてさまざまな企業に携わることで、自分ひとりで与えられる影響の範囲も広がるだろうと考えていました。
──なるほど。一事業ではなく、社会全体に影響を与えられる業界を選んだんですね。
Bさん:そうです。でも「日本を豊かにしたい」と考えたときに、民間企業だけでできるものもありますが、最終的に国が動かないとできない分野もあると思います。
例えば、長期的な視点から青写真を描くことが必要とされる政策分野です。最近では経済安全保障の重要性が注目されるようになりました。このように比較的新しい分野や、「経済」「安全保障」のように複数の分野に関係し、多くのステークホルダーが存在する分野は、官庁が真っ先に動いて方針を決定する必要があると思います。
民間企業に「納得内定」をもらっても、周りが遊んでばっかりでも、モチベを保てた秘訣とは
──1月の時点で、コンサルや外銀など志望企業の内定を獲得していますが、その後「もう国家総合職はいいや……」とはならなかったのですか?
Bさん:正直に言えば、なりました。
2月ごろ、最初に勉強を始めたときは、それまで勉強をしていなかったのもあって、新しい知識が増えるのがすごく楽しかったんです。でも、3月くらいになると同期の友達が卒業シーズンを迎え(※Bさんは留学で卒業を1年遅らせていたため、このとき4年生)、旅行や遊びに行っているのを見ると、結構きつかったです。
周りの友達は直近に就職を控えているのに、自分は国家総合職まで手を伸ばしていて、1年後何をしているのか分からない。将来が決まっていないことに大きな不安を抱えていました。内定をもらっている企業に就職を決めてしまった方が楽なんじゃないか、とずっと考えていました。
──それでも勉強を続けたモチベーションは何だったんですか?
Bさん:定期的に志望省庁のイベントが開催されていたのが大きかったです。そこで志望者や職員の方と話して、その度に「やっぱり行きたい!」とモチベーションが上がっていました。
──そこでモチベーションを維持できるのって、国家総合職への思いが強かったからこそだと思います。民間企業より外務省の方が志望度は高かったんですか?
Bさん:そこはあまり比較はしていませんでした。就活開始前から「国に関わりたい」とは思っていて、「視野を広げよう」と思って民間企業を受け始めたんですけど、民間の志望企業にも魅力を感じていて、「行きたいな」と思っていたので。
そもそも志望省庁に受かるかどうか分からなかったので、落ちても納得できる企業に行きたくて、民間企業の選考もかなり真剣に受けていました。だから、就活中は、省庁の中での第一志望・第二志望、企業の中での第一志望・第二志望のように、分けて考えていました。
ただ、省庁の第一志望と、企業の第一志望の優先順位をつけていなかったのが原因で、外務省を含め内定が出揃(でそろ)ったときに、めちゃめちゃ迷うことになったんですが……(笑)。
結論、「そんなにもらっても使わない」。外銀の好待遇を捨てて外務省を選んだ理由
──外務省と民間企業の第一志望で迷ったとき、どういう過程を経て外務省に決めたんですか?
Bさん:最終的には、直感で「外務省の方が惹(ひ)かれるな」って思ったんです。
民間の第一志望は外銀だったんですけど、外銀と外務省それぞれのメリットとデメリットを表にまとめて考えました。
また、外銀にも外務省にも大学の同期が1年目で働いていたので、「つらいことある?」とか「どんな仕事が楽しい?」とか、ポジティブなこともネガティブなことも聞きまくったんです。いろんな人にとにかく電話して相談していました。
その中で、「外務省でしかできない仕事だから、外交をやりたいなら絶対外務省に来た方が良い」という話を聞いて、最終的に外務省に決めましたね。
──比較のためにそこまでやったんですね……。作った表ではどんな項目を挙げていたんですか?
Bさん:待遇、労働環境、業務内容、1年目の仕事、10年目の仕事、上司の雰囲気、同期の雰囲気、転職の可能性・しやすさなどの項目を挙げていました。
例えば「10年目の仕事」の項目だったら、外銀に入った場合は別の企業に転職している可能性が高い。しかし、転職先の選択肢は多くて、チャレンジングな仕事ができるだろうと考えていました。一方、外務省に入った場合、留学と大使館勤務を終えて帰国し、東京で課長補佐(※2)として一番現場に出ている時期。両方楽しそうだなと思っていました。
「上司の雰囲気」の項目については、外銀の社員の方はみなさんコミュ力がすごく高くて、人当たりの良い方ばかりでした。しかし、同時に、非常にドライで実力主義だったため、少し怖い印象も抱いていました。
また、個人の感覚ではあるんですが、外務省の方が職員の方々が優秀だと感じました。優秀というか、「すごいなこの人……!」と思うような人たちです。そのような方々の下で仕事をできるのはすごく光栄だったので、この要素は大きかったですね。
(※2)……課長補佐とは、おおむね課長と係長の間のポスト。分野の「担当」として最も前に立ち、チームをマネジメントする役職。
──表の項目のうち、「待遇」が気になりました。外務省の場合は公務員になるので、当然ここは外銀と比べてマイナスポイントになりますよね。それでも、「外務省に行きたい」と思ったんですか?
Bさん:外銀の年収は国家総合職の何倍にもなるので、正直この要素は悩んだ原因の大きな部分を占めていました。
でも、自分が1年で使いそうな金額を計算して、「正直そんなにお金いらないな……」って思ったんです(笑)。
例えば年収1千万、手取りで700万円もらったとして、1万円のコース料理を毎日食べてもまだお金が半分残りますよね。そんなに高いお店に毎日は行かないし、ランチは1,000円くらいだし、激務だから休日もプライベートに割く時間がないかもしれない。多分、旅行に行く体力もない。若いうちは、そもそもあまりお金を使うところがないということに気付きました。
もちろん、結婚・出産・育児などのライフイベントが発生する時期になったら、ワークライフバランスを重視できで、給料が高い職場が良いと思うようになるんだと思います。でも、今の段階で、10年くらい先のことのために、面白そうだなと思っている仕事を選ばない選択をするのは、もったいないような気がして。
だから、お金が必要になってから、そのときにまた考えよう、って今は思っています。
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(illustration:Viktoria Kurpas , 21kompot , Pretty Vectors/Shutterstock.com)