※こちらは2022年3月に公開された記事の再掲です。
「規模が大きい仕事がしたい」「少しでも社会を良くしたい」── 。
就職先を選ぶときに外せない「社会への影響度」や「規模感」。
最近では、これらを求めてコンサルや外資系企業を志望する学生も増えました。「就活人気ランキング」にも、その傾向が数字として如実に表れています。
しかし、「大きな仕事ができる」のはこれらの業界だけではありません。
国家総合職、いわゆる「キャリア官僚」もそのひとつ。「官僚」と聞くと地道な仕事のイメージがあるかもしれませんが、キャリアパスによっては国家規模の事業にかかわることができるんです。
みなさんの霞が関や官僚就活に対するイメージを「アップデート」するこのシリーズ、「UPDATE 霞が関」。
1本目の前回は、現役の外務省官僚である石田春菜さんに取材しました。
・「コンサルに転職して、成長もやりがいもあった」と語る官僚が、それでも霞が関に戻った理由
今回は、国家総合職の業務やキャリアパスの解説に加え、【民間×省庁相関図】として、みなさんの志望業界にぴったりの省庁を提案します!
<目次>
● 【ギモン1】そもそも国家総合職って公務員なの? 何をやっているの?<国家総合職の概要>
・国家総合職の仕事内容
・国家総合職のキャリアパス
●【ギモン2】どんな省庁があるの?<省庁紹介>
・新卒で入省できる省庁(採用人数順)【狙い目の省庁も!】
・この業界志望者にはこの省庁がおすすめ!【民間×省庁相関図】
【ギモン1】そもそも国家総合職って公務員なの? 何をやっているの?<国家総合職の概要>
みなさんは「公務員」と聞くと、市役所などで受付をしている人や、都道府県庁で働いている人を思い浮かべませんか?
これらの人々は「地方公務員」と呼ばれ、地方自治体(都道府県、市町村など)が独自に採用している公務員です。
一方、「国家公務員」は、国の機関(省庁、委員会、衆参議院など)がそれぞれ採用する公務員。この中でも、省庁に幹部候補として採用されるのが国家総合職(キャリア官僚、旧国家一種)です。
基本的には「霞が関」(※1)での勤務ですが、地方赴任や外国の大使館勤務、他省庁への出向を経験することもあります。
(※1)……千代田区にある、日本の行政機関が集まる地域の名前。
国家総合職の仕事内容
国家総合職は入省後、キャリア官僚として政策立案や法案作成を行います。
扱う分野は省庁によって違いますが、業務の規模が非常に大きいことと、どの業務も唯一無二であることが特徴です。
1. 業務の規模が大きい
省庁の主な役割は、国の行政の根幹を担う大きな意思決定を行い、日本社会のあり方を決めること。
そのため、省庁で働く国家公務員も、普段の業務から規模の大きい事業にかかわることとなります。みなさんがニュースで何気なく見ている政策のほとんどに、官僚が携わっていると言ってよいでしょう。
例えば、2020年には、カーボンニュートラル(※2)を2050年までの目標とすることが発表されました。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)での取り決めに応じて、官邸含め多くの中央官庁が連携し、国を挙げて進められている政策です。
この目標に伴い、経済産業省は、産業界全体に向けて「グリーン成長戦略」を打ち出しました(※3)。
火力発電から再生可能エネルギー(風力、太陽光など)への移行だけでなく、住宅建設、飛行機・船舶の運行、情報通信、農林水産業など、日本の産業全体のあり方を改革する戦略です。
中でも自動車産業分野の政策は耳にしたことがある方が多いのではないでしょうか。「2035年までに新車販売のうち電気自動車を100%」とするものです。産業全体だけでなく人々の生活にまで浸透する、社会的影響の大きい政策の代表例です。
これらの政策のうち、ほとんどに官僚が携わっています。日本社会全体に影響を及ぼす「法律」の内容を考えるのが、国家総合職の大きな仕事です。
また、国家間レベルでの仕事を行うこともあります。
私が説明会で出会った外務省の職員は、入省1年目の夏から、大阪で開催されたG20(※3)を担当したそうです。
「(G20の成果が)翌日の新聞の一面に載ったときが一番やりがいを感じた。国レベルで仕事ができるのはやはり省庁しかないと思う」と話していました。
大きな仕事をしたい、社会に大きな影響を与えたいと考えている人にとって、省庁の業務は魅力的に感じられるのではないでしょうか。
この点については、このシリーズの1本目である石田春菜さんの記事で特にフィーチャーしています。ぜひお読みください!
(※2)……カーボン(温室効果ガス、CO2)の排出量と吸収量(森林など)を均衡させ、「排出を全体としてゼロにする」こと。2050年までの達成目標として据えられている。
(※3)……Group of Twentyの略。世界の主要20カ国の首脳や財務大臣などが一堂に会し、地球規模課題について議論する会議。年に1回、主催を各国持ち回りで行われる。2019年には大阪で開催された。
2. どの業務も唯一無二
「グローバル化の現代、どんな企業でも国際的なビジネスに携わることはできる。でも、外交は外務省でしかできない」
ある外務省職員は説明会でこう話していました。
全中央省庁は「◯◯省設置法」という法律で設置され、それぞれ固有のミッションと任務が定められています。そのため、同じ目的で設置された組織が日本にひとつも存在しないのです。
たとえば文部科学省は、「教育の振興及び(中略)創造的な人材の育成、学術の振興、科学技術の総合的な振興並びにスポーツ及び文化に関する施策の総合的な推進(中略)を任務とする」と定められています(※4)。
文部科学省の他に、日本全体の教育制度を抜本的に変えられる組織はありません。最近では大学入試センター試験を廃止し、大学入学共通テストへと移行しました。新型コロナウイルスの感染拡大に合わせて、学校教育のあり方の基礎を考え直しているのも、文部科学省です。
民間企業でも規模の大きな事業にかかわることはできますが、ほとんどの場合は競合他社が存在するため、「真にそこでしかできない仕事」は経験できないでしょう。
省庁の業務は、その省庁でしかできない。
これが、民間企業と省庁の大きな違いです。
(※4)参考:e-Gov「文部科学省設置法 第一章総則 第三条」
国家総合職のキャリアパス/キャリア支援制度
以下は、国家総合職の標準的なキャリアパス(※5)です。
1〜2年目:係員。政策立案や国会対応、法令事務を通して、霞が関の仕組みや業務を一から学ぶ。
3〜7年目:係長。係員を指導しつつ、政策立案や法令事務を行う。このタイミングで海外に留学する人も多い。
7〜15年目:課長補佐。係員・係長を指導するとともに課長を助け、政策立案や制度改正の中心的役割を担う。他省庁への出向や地方支分部局への赴任、大使館勤務、海外留学を経験する人が多い。
16年目以降:課長、室長、企画官など。管理職として部下をマネジメントし、大きな政策判断や意思決定を行う。
※出典:国土交通省「総合職事務系について」
国家総合職として採用されたキャリア官僚は、将来各省庁の幹部になることが期待されています。そのため、若手の頃からさまざまな経験を積みながら、一般職や専門職より格段と速いスピードで出世していきます。
出世街道を登り詰めた先には、事務次官や各局の局長、各国に駐在する大使など、華々しいポストが待っています。
また、キャリア支援の制度も充実しています。
例えば、「行政官長期在外研究員制度」として、国費で外国の大学院(修士課程または博士課程)に留学できる制度が整備されています(※5)。毎年、多くの若手職員がハーバード大学やコロンビア大学、ケンブリッジ大学、パリ政治学院など、世界を代表するような大学に留学しています(※6)。
官僚になると、国家規模の仕事を遂行しつつ、自らのスキルを高めることもできると考えてよいでしょう。
(※5)参考:人事院「派遣研修」
(※6)参考:人事院「国家公務員試験ガイド2022 P.12」
【ギモン2】どんな省庁があるの?<省庁紹介>
※デジタル庁設置前
※出典:人事院「組織図 P.3」
日本の行政機構の組織図です。ニュースで名前を聞いたことはあるけれど、どの省庁が何をやっているのかわからないという人も多いのではないでしょうか。
「そもそも新卒でどの省庁に入ることができるの?」
「自分が関心を持てる省庁はどこなんだろう……」
そんなみなさんのギモンにお答えします。
新卒で入省できる省庁(採用人数順)【狙い目の省庁も!】
これから紹介するすべての省庁には、国家総合職試験と官庁訪問を経て内定を獲得すると、新卒で入省できます。
気になる省庁があれば、ホームページ(HP)を検索してみてください!
令和3年度4月の採用人数順(大卒程度)(※5)
※技術系職員も含めた人数です。
※出典:人事院「府省等別採用状況」
(※5)……大学卒業年4月入省での採用区分のこと。大学院卒業後の入省区分である、院卒程度も別に存在。
令和3年4月の採用人数(大卒程度)が20人以上の省庁
国土交通省(75人)、農林水産省(63人)、総務省(44人)、財務省(39人)、厚生労働省(37人)、経済産業省(34人)、外務省(31人)、防衛省(25人)、文部科学省(21人)
これらの省庁はみなさんも名前を聞くことが多いと思います。日頃のニュースにも頻繁に登場する、規模の大きい省庁であり、多くの人が業務内容をなんとなく想像できるのではないでしょうか。
令和3年4月の採用人数(大卒程度)が11人以上20人以下の省庁
特許庁(19人)、法務省(17人)、警察庁(16人)、内閣府(15人)、金融庁(13人)
採用人数が20人以上の省庁と比べると、「名前は聞いたことがあるけれど、実際何をやっているのかはわからない……」という省庁がある人も多いのではないでしょうか。
そこで、業務内容が抽象的といわれる省庁について、簡単に説明します。
内閣府は、内閣の重要政策の企画・調整を行います。子ども行政から地方分権、クールジャパン戦略まで、幅広い分野を取り扱い、沖縄振興局や男女共同参画局なども抱えています。分野に捉われず、日本に必要な政策に携わりたいという方におすすめです(※6)。
金融庁の任務は、日本の金融システムの安定です。民間金融機関の監視・検査を行い、預金者・投資者などの利用者保護をはかることで、市場の透明性を確保しています(※7)。
令和3年4月の採用人数(大卒程度)が10人以下の省庁
国税庁(10人)、人事院(9人)、環境省(8人)、出入国在留管理庁(7人)、公正取引委員会(6人)、会計検査院(5人)、公安調査庁(4人)、 気象庁(2人)、海上保安庁(1人)
いよいよ「環境省と気象庁、海上保安庁以外、何をやっているかさっぱりわからん……」という人もいるのではないでしょうか。
しかしこれらの省庁は、知名度が低いながらも、非常に重要な任務を持っています。採用人数が20人以上の省庁などと比べ、倍率は高くない傾向にあり、狙い目の省庁といえるでしょう。
ここでは、出入国在留管理庁と公安調査庁の業務内容を説明します。
出入国在留管理庁は、難民の認定や外国人材の受け入れなど、日本に在留する外国人の管理を行っています。日本国内の労働者数が減少している今、その役割の重要性が増している省庁のうちのひとつです(※8)。
公安調査庁は、日本の公共の安全確保が設置の目的で、旧オウム真理教や左翼・右翼集団の観察、国内外テロの情報収集などを行っています。他にも、北朝鮮、ロシア、中国をはじめとする周辺諸国の動向を探るなど、インテリジェンスの役割も担っています(※9)。
(※6)参考:内閣府「内閣府の政策」
(※7)参考:e-Gov法令検索「金融庁設置法」
(※8)参考:e-Gov法令検索「法務省設置法第四章第二節 出入国在留管理庁」
(※9)参考:公安調査庁「公安調査庁とは」
この業界志望者にはこの省庁がおすすめ!【民間×省庁相関図】
ここまで読んで、「自分はどの省庁に興味を持てるのだろう?」と疑問を持った方もいるのではないでしょうか。
ここからは、志望業界ごとのおすすめ省庁の例をご紹介します。
省庁内定者の志望業界については以下の記事もご覧ください。
・125社にエントリーした就活ガチ勢が、企業選考の経験を活用して経済産業省から内定を得た方法 ・年収1000万円、もらっても本当に使えますか……?私が外銀と悩んだ末に霞が関を選んだ理由
1 . コンサル志望者、マスコミ報道志望者は、自分の関心分野に応じて省庁を選ぼう!
仕事の規模が大きい、時には公共性を持つ、(ちょっと激務)── 全く違う職種のように思われる、コンサル・報道・官庁ですが、実は共通項が多いんです。
大きな違いは、コンサルやマスコミが第三者性を持つのに対し、官庁は自分たちが主体であること。どの職種にせよ、与える影響力が非常に大きいことも大きな共通点です。コンサルや報道関係を志している方は、一度自分の関心分野を扱う省庁のHPをのぞいてみてください。きっと「面白そう」と思える省庁が見つかるはずです。
2. メガバンク・政府系金融志望者には財務省、金融庁がおすすめ!
金融面から日本や国際社会を支えたいと考えている、メガバンク・政府系金融志望者には財務省・金融庁がおすすめです。
財務省の最大の任務は、国家予算の編成です。日本の将来にとって最善と考えられる予算案を作り上げ、民間では難しい分野も含めて財政投融資を行います。金融庁は、財務省と協力して日本の金融システムを整備します。
財務省、金融庁は日本の財政・金融システムの根幹を築く機関です。入省(庁)後は、民間のメガバンクや政府系金融よりも大きな規模で、日本の金融を動かすことができるでしょう。
3. 総合商社志望者には外務省・経済産業省がおすすめ!
物流の観点から日本の産業を支えたいと考えている総合商社志望者には、経済産業省がおすすめです。
経済産業省は、日本の経済の発展を主な任務としており、国内の経済構造改革や貿易政策などを扱っています。貿易協定の締結などを行う経済産業省の業務は、日本の商品の販路を広げたり、事業投資を行ったりする総合商社のビジネスと共通するところが大きいのではないでしょうか。
海外を飛び回るような働き方をしたいと考えている総合商社志望者には、外務省がおすすめです。
官僚には留学や海外出張、大使館勤務など、海外で働く機会が多くありますが、その中でも外務省の官僚は「キャリアの半分を海外で過ごす」といわれるほど。アフリカの国や途上国など、留学や民間企業のビジネスでは行くことのできない国々で働く機会も得られるでしょう。
4. ベンチャー、IT企業志望者はデジタル庁がおすすめ!
2021年9月1日に発足したデジタル庁。府省を横断したデジタル・ガバナンスを実現する目的で設置されました。
職員600人中200人を民間から登用し(※10)、行政のデジタル化やサイバーセキュリティ、データ戦略などを行います。
デジタル庁は「省庁の中のベンチャー」のような存在で、従来の霞が関官庁とは一線を画します。スタートアップや成長産業に身を置いていたい、デジタルにかかわりたいという方におすすめです。
5. インフラ系志望者には国土交通省がおすすめ!
人々の日常生活に欠かせない設備やシステムを運営するインフラ系企業を志望する人には、国土の面から日本の基盤を作り出す国土交通省がおすすめです。
国土交通省は、社会資本整備、交通政策、海上の安全確保などを通して、国土の利用促進・開発・保全を行う省庁です。人々の生活を直接支えられるという点で、インフラ企業と共通しているといえるでしょう。
6. 食品系メーカー志望者は農林水産省がおすすめ!
農林水産省は、農業・水産業政策だけでなく、食育の推進や食品企業の安全・信頼対策、食品の安全確保・輸出促進なども行っています(※11)。
食の良さを伝えたい、食の面から社会を支えたいと考えている、食品メーカー志望の方には、農林水産省がおすすめです。
(※10)参考:時事ドットコム「デジタル庁が発足 担当相に平井氏、事務方トップ石倉氏」
(※11)参考:農林水産省「政策情報」
おわりに
シリーズ2本目の今回。ここまで、国家総合職の概要や省庁の業務についてご紹介してきました。
しかし、この記事でお伝えしたことは、国家総合職の数ある魅力や業務内容のうちの、ほんの一部です。少しでも国家総合職に関心を持っていただけましたら、人事院の主催する合同説明会や、各省庁のイベント(説明会、ワークショップなど)に参加し、職員の方々の生の声を聞いてみることをおすすめします。
次回のシリーズ3本目では、国家総合職試験の区分や、民間就活と両立するスケジュールの運営についてご紹介します!
▼シリーズ3本目はこちら
・企業選考を受けながら官僚も目指せる?サマーインターン前に知っておきたい「国家総合職・教養区分試験」とは
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