「コンサル人気」というと、僕が就活をしていた3、4年前を思い出す。
当時、コンサルの人気は頂点、もしくはその臨界点へ上昇しているまっただ中だった。
週刊誌での女優のデート記事でも、「お相手は一流コンサルのAさん」なんて文章がちらほら出始めたし、その人気にあやかって、異業種の金融機関やメーカーもこぞって「コンサルティング営業」なんてワードを説明会で多用していた。
卒業前の風物詩、内定先マウンティング大会でも、コンサル内定者はエース格で負け知らずだったことを覚えている。
あいにく僕は優秀な学生でもなく、コンサル企業はミーハー心で1社だけ受けて即日落ちた経験しかないが(そもそも面接官が繰り出す専門用語が分からなかった)、同期や先輩たちの何人かはその難関に合格していた。
つぶしが利く、転職価値が高い、多様な業種に関われる、モテる、給料が高い、グローバル……。
そんな「コンサル最強伝説」に憧れて学生生活を送っていたのは僕だけではないだろう。しかし、今その最前線で働く友人たちに話を聞くと、わずか3、4年ほどの間でも変わりつつあるコンサルタントの姿が浮かび上がってきた。
成長環境や破格の待遇を背景に、時代とともに評価を上げ続けてきたコンサルティング業。「沈まぬ高速船」の現在はいかに。
揺らぐ「コンサル転職最強説」、増えすぎたコンサルタントはコロナ禍で大幅カットか?
「はぁ、何が『転職で有利』じゃ」。
ため息をつくのは、国内最大のコンサルに入社して3年目のTくん。
彼は僕と同期、つまりは「コンサル=なんかすごい、優秀」のステレオタイプが最も強固に確立していたときだった(私感)。
ところがどっこい、コンサル人気にあやかり、多くの企業が業務を表現する際に「コンサルティング」という言葉を使うようになった。コンサルティング営業じゃない営業はないのかと常に探す自分がいるくらいだ。
学生にバイトをあっせんする、知人の個人事業主のおじさんの名刺は「人材派遣業」から「トータルヒューマンリクルートコンサルティングビジネス」に数年前に変わっていた。
Wikipediaによると、コンサルティング(Consulting)とは、企業(行政や公共機関なども含む)の役員(特に経営者が多い)に対して解決策を示し、その発展を助ける業務のことだという。
つまりは、コンサルティングは資格も定義されておらず、あいまいで名乗りやすいものだということだ。解決策を提示し、発展を助ける仕事なんて「どんな仕事もそうじゃないか」とすら思う。
漠然とした業務だからこそ、実力を高め、実績を残すことが難しいため、「本当の」コンサルティング業はニーズが高く、転職市場でも人気なのだろう。しかし、有名なものに便乗する人が多発し、コンサルティングという言葉のありがたみが減少。「玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の時代に突入した」とTくんは鼻息を荒くする。
「でも、ちゃんとした企業の人たちは、さすがにエセコンサルと本物の見分けは付くでしょ?」
そんな僕の質問に、Tくんからは驚きの返答が。
「いや、コンサル企業の人以外って、コンサルが何するか意外と何も分かってないよ」
いわく、それが転職市場でコンサルの評価を下げることにつながっているそうだ。
面接をするエラいおじさんは「コンサル経験者歓迎」と募集要項に書き、実際に面接に経験者が来ると、見分けがつかないまま、その点をグッと評価して採用する。
期待値が上がっている分、パフォーマンスに対する評価も辛めになる。実際の働きを見て、「なんだ、コンサルタントってこんなもんか」と失望する事例が多発しているというのだ。
エラいひとでも、ほんの20年前くらいから普及してきた業種には、意外と明るくないんだね……。とこぼすアサキヒロシでした。
さらに拍車をかける出来事が一つ。ここ数年、コンサル需要が急騰し、各社が採用を大幅に増やしているが、残念ながら質は数年前のそれとは大きく異なるという話もあるらしい(もちろん、上位層は相変わらずスーパースター)。
そんなこんなで、三国志の呂布のような「転職無双」はできないのが現状だ。転職する際に上司から「ウチから転職するのに、一部上場行けないってどゆことやねん」と言われた人もいると聞いたが、今の時代はそういうものらしい。
ほんの数年前に就活をしていた僕も驚きだが、「コンサル転職最強説」は揺らいでいる。ちなみにとがった意見だと、新型コロナウイルスで世界的に景気がヤバくなり、企業も莫大(ばくだい)な料金を出し渋り、日本のオフィスをたたむなどで、増えすぎていたコンサルタントが一斉にカットされる説も出ている(ちなみに僕の会社もコロナでボーナスカットや!)。
外資系コンサル3年目、転職で大苦戦──「専門性のなさ」が致命的な弱点に
人材系のメディアや経済雑誌を見ると、専門性を鍛えて「個人の力」で戦うのが今のトレンドのようだ。
僕は自他ともに認めるあまのじゃくなので、そういった意見には、基本逆張りで生きていくタイプなのだが、天下の外資系コンサルに行ったHくんの話を聞いて、その考えを改めた。
誰もが知っている超名門コンサルに在籍するHくん、結婚や家庭の事情、興味を持った業界の変化などで、国内のとある生産機器メーカーに転職しようとしている。
Hくんの仕事を聞くと、説明が英語と専門用語ばかりなので、僕なりの解釈で言うと、彼の業務は、会社に対して「これをこうすると、こんなお金が生み出せるので、それを使ってこんなビジネスするとこんだけもうかりますよ」という提案をすることらしい。そこには超論理的な思考力や交渉力、調整能力、人脈の広さ、リサーチスキルなどが凝縮していて、見るからに優秀なのだ。
それでも彼の転職活動は難航極まっており、第一志望はおろか、ついに持ち駒が片手ほどという緊急事態らしい。彼の分析によると、「優秀なのは伝わるけど、何ができるかを言えない専門性のなさが厳しい」のだという。
採用を検討する会社からすると、めちゃくちゃすごいのは分かるが、資格もなく、特定の分野に特化しているわけでもないので、具体的な業務やポジションに落とし込みづらい。ベテランはこの弱点を実績でカバーするが、3年目だとそれほどの経験はない。
「いやいや、彼は確実に伸びるんやから採用しよう!」という心理は新卒採用の考え方。そうはいかないのが中途採用だ。かくして「スーパー器用貧乏」が生まれるに至る。
比較する例が自分で申し訳ないが、僕の仕事は職種別採用であり、業界もニッチだ。他業種の転職だとES落ちも珍しくないが、同業や隣接業種で全滅はないし、待遇もステイで行けると先輩から聞くことが多い。
コンサル経験者は確かに他業界でも、のどから手が出るほど優秀な人材。だが、世界屈指のコンサル企業のイスに座っているだけでは、当たり前だが次のイスなどないし、結果を出すのはなお難しいということか。
血気盛んな武者ぞろいのコンサル業界で一旗揚げ、なおかつ自分の能力が生かせる場所を正確に見極める力がないと、金看板はメッキに変わってしまうのだ。
コンサルのリアルな転職事情。「フリーパス」はコンサルを知らない会社にあり?
さて、ここまで延々とコンサル転職最強伝説の陰りを語ってきたが、実際、コンサルから転職する人はどこに行くのだろう? 上位層は同業他社を始め、各界で活躍するのは明白だが、その他大勢の流れる先はどこなのか。
横文字社名のベンチャーから、「○○銀行」や「○○商事」など、戒名のような漢字の羅列の会社に行く人もいる。さらには、古代文字盤のようなアルファベットまみれの名前の会社に行く人もいるとかいないとか。
「コンサルはコンサルを雇ったことがない会社に(転職では)強い。知らない方が優秀そうに見えるんだ」(戦略コンサルのNくん)
なるほど。これはあながち間違っていないようだ。自分の業界はスーパーニッチな世界なのだが、先日、転職エージェントと話したところ「業界1位のこの会社、『コンサル枠』があるんですけど、自社にコンサル経験者がいないので、『コンサルしてる』って言う人がいれば、とりあえず2次までは通りますよ」とのこと。
転職で入るには「知り合いの知り合いに総理大臣がいないと無理」なんてウワサもあったくらいなのに。これぞコンサルの「フリーパス」というやつか。
コンサルタントは「アシスト王にはなれるけど、得点王にはなれない」
昨今「コンサルは激務」という風評を消したいのか、「採用人数も増やしたし、業務量は減った」とホワイトアピールをするコンサルファームは増えているようだ。そのあたりの実情はどうだろうか。
僕の周りのコンサルマンたちはおしなべて優秀、勤勉、忠誠心あふれるハードワーカーだ。THE優秀。その多くが「成長したい」「社会に自分の力を役立てたい」といった理由で今の仕事に就いている。
そして、その分の時間的拘束やハードさを受け入れる覚悟をして入社している。そんなスーパーマンたちでさえ、2〜3年たつと「キツい〜割に合わねぇ〜」と弱音を吐き始める。高い金をもらっても、「おっ、すげえ額もらってるやん」と言われるレベルになるのは、正直、年齢を重ねた人か、よほどブランドのあるファームに入った人くらいだ。
国内系や外資の中規模ファームでは、「入社後しばらくして1000万」など夢のまた夢。そして、大人は結婚、出産、病気などのイベントを経験するたびにどこかで気付くのだ。そんなに頑張れないと。そして、頑張ろうとも思えないと。
全く畑違いの分野の自分から見ると、コンサル人気の上昇で、新卒の学生に「コンサルに入れば、何か一つ成し遂げて、未来への切符を得られる」という幻想を抱かせるほど、憧れやブランドが巨大化したことが理由と見ている。確かに次につながる素晴らしい切符かもしれないが、その先は本人次第。こんな苦しみもある。
「アシスト王にはなれるけど、得点王にはなれない」
某外資系コンサル所属のB君は、自分の仕事の宿命をそう説明した。最強の助っ人として、さまざまな会社とタッグを組めるが、自社だけでは小さなこともなかなか、成し遂げられない。
これを苦に感じて「俺も自分で事業をするぜ!」となるのが前向きな転職で、「俺の仕事って何やねん」と思って動くのが、後ろ向きの転職とのことだ。あなただったら、どちらに転ぶだろうか。
「正解」を出し続けることのプレッシャーに耐えられるか?
最近、僕の所属する会社にも大手のコンサルが入って、経営会議に参加しているようだ。下々の僕らは社内の一斉メールで「コンサルによると、弊社の売上はXX年後にはXXまで減少し……」という文言をよく見る。
それなりに経験も知識もある偉いおじさんたちが、自分の会社について必死に考えても出ない結論を、コンサルはバンバン出す。こりゃすごい人たちだと思っている。
そして、それがなんと30代が中心で自分と同年代の若手もいるというから驚きだ。僕が役員に話しかけようとすれば、その場で無礼打ちされるところを、コンサルの同年代はその役員がわざわざ助言を請う。なんという世界だ、なんて優秀なんだ。
でも裏を返すと、常に違う会社のおじさんたちに「金払ってんだから、結果出せよ」と言われ続けるということでもある。モノを売るノルマとはスケールが違うプレッシャー。これは相当だろう。答えが出ることが少ない社会で、答えを出し、なおかつ正解しないと袋だたきにされるこの仕事は、相当なストレス耐性が必要だと思う。
……。
さて、ここまで話を聞いて原稿をまとめようにも、散文になってしまった。コンサルで聞ける情報は聞き尽くした。書き尽くしたはずだ。
ここらで一つ、締めのメッセージが欲しいところだが、素人の自分には書きようがない。困り果てて3時間。
そうだ。この間話を聞いた「コンサルになってしまったおじさん」に聞こうじゃないか。
・【実録】たまたま戦略コンサルに受かってしまった人の「末路」
「たまたまコンサルになってしまった」おじさんから、学生のみんなへ
コンサルになってしまったおじさん(以下、愛を込めて「おじさん」とする)は、志村けん氏の死にうちひしがれていた。
「世代ではないけど、バカ殿が好きでさ。親戚のおじさんが亡くなったみたい」とぼそりとつぶやく。
「僕も土曜の夜に見て笑っていたので、すごいショックです。今も寝る前に昔の動画を見返すくらいです」。
そう僕が返すと、目を光らせて一言。
「なんで?」
答えに窮すも答えねば……。
「いやぁ、小さいころよく見ていたので、悲しくなりますよね」
「小さいころっていつ?」
「よくって、どれくらいの頻度?」
「見るって何? テレビで? パソコン? ながら見も含むの? というか、ながら見の定義は?」
「悲しいってなに? 日を経つにつれて変わるもの? それグラフにして」
……。
「この問答が楽しいとは言わなくても、耐えられる? 仕事と割り切って、森羅万象を疑問視して、可視化して、数値化して、説明して納得させる習性を身に付けられる? 人間らしさってあると思う? 積極的にできる? これが答えだね」
強烈な知的好奇心と、想像力、考えを広げる力とそれを楽しむ力。これをできますか?
やりたいことを大切にするのは大事だ。ただ、あくまで持論だけれども、周囲の大人はあまり教えてくれないだろうけども、20歳をある程度越えているのだから、「適性」は考えた方がいい。
乗り物酔いしやすい人がキャビンアテンダントに
計算することが嫌いな人が金融機関に
定時に帰りたい人が記者に
機械音痴の人がエンジニアに
電話嫌いの人がコールセンター員に
なれるけど……なったら大変ですよ。
論理的に考えることが苦手な人
書類などを大ざっぱにまとめちゃう人
他人に厳しい口調で言われると数日引きずってしまう人
なりたい気持ちは分かるけど、よーく考えましょう。
自分が好きな人よりも、自分を好きな人とのほうが、幸せに暮らせます。
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(Photo:Shopping King Louie , ESB Professional , vchal , alphaspirit/Shutterstock.com)
※こちらは2020年6月に公開された記事の再掲です。