Amazon、楽天市場、メルカリ、ヤフオク──ひと昔前は小さかったEC(Eコマース)市場ですが、インターネットやスマートフォンなどが普及し、プレイヤーも増えたことで、今では毎年10%弱ほどのペースで伸び続ける巨大市場となりました。読者の皆さんの周りでも利用する人が増えているのではないでしょうか。
ユーザーの目に触れやすいという点もあり、上記のような、いわゆる「プラットフォーマー」が注目されやすい一方、その裏で驚異的な業績を誇る「隠れ優良企業」もいくつかあるのをご存じですか?
今回紹介するのは、「創業以来、15期連続で増収増益」「非上場なのに1人当たり売上高1億円越え」を実現したという株式会社イングリウッド。
自らを「商品を売る最強の集団」と名乗り、EC領域のコンサルやデジタルマーケティング、AIシステム開発と事業を積み上げ、順調に成長してきた同社。最近では日本だけでなく、中国、アメリカ、北米にもビジネスを広げています。
「常に学び続けないと淘汰(とうた)される。本気でマーケティングをやりたい人にとっては、理想的な環境ですよ」と自信を見せるのは最高経営責任者(CEO)の黒川隆介氏。その真意と快進撃を続ける秘けつに迫りました。
<本記事の見どころ>
・コンサルからデータ会社へと進化──商品を買ったユーザーの居住地データまで予想できる
・「非上場なのに売上1人1億円」の理由は、ビジネスモデルだけではない
・イングリウッドには、ファイナンスが分からない人は「1人もいない」
・Web広告、マーケティング、プログラミング、デザイン──現場に出るために「死ぬ気」で学べ
・「1,400ページの研修資料」は、社員教育で大失敗した過去があるから
・世間知らずで突き進んだ創業期、失敗事例の共有こそが「30年後の成功」を生み出す
・イングリウッドの成長戦略──どんなビジネスも「中国」を意識せざるを得なくなる
・自分に自信があるなら「ベンチャー企業」を選んでほしい
コンサルからデータ会社へと進化──商品を買ったユーザーの居住地データまで予想できる
──今日は15期連続で増収増益、売上高も100億円越えという業績の秘密を探れればと思っています。やはり、主力事業である、他社のEC販売支援を行う「ECコンサル」が好調なのでしょうか。
黒川:そうですね。これまで700社以上の支援をしてきており、9割以上のお客さまが増収増益を果たしました。ECコンサルというと、自社ECサイトのメンテナンスや、Amazonや楽天といった「ECモール」でいかに売れやすくするか、というアプローチをする企業が大半ですが、私たちはECに限らない商品流通全般をカバーすることで他社と差別化を図ってきました。
当然、実店舗などのオフラインチャネルも押さえていますし、広告にしてもWebに加えて、テレビ広告などの手段も持ち合わせています。最近では「OMO(Online Merges with Offline)」といったオンラインとオフラインを融合させるマーケティングの概念も出てきていますし、もはやチャネルを分類する意義はなくなってきているように思います。
黒川 隆介(くろかわ りゅうすけ):株式会社イングリウッド代表取締役社長兼CEO。
1978年生まれ。大学卒業後にアメリカ製品のエクスポート事業をスタート。2005年、有限会社イングリウッドを設立し、取締役社長となる。2014年、株式会社イングリウッドに組織変更し、現職へ。アメリカのDEXTER NYC CO.,LTD.CEOも兼任。セールス・ライセンス事業、データテクノロジー事業、AI戦略事業を3本柱に事業を展開する。
──あらゆる手段で「モノが売れるようにする」ということですか。
黒川:はい。ただ、イングリウッドで支援するのは販売の部分だけではありません。場合によっては、市場調査や購入データ、広告への反応の分析などから、商品開発やプロモーションの企画なども行います。
「どのチャネルで、何の商品を販売すると効果的か?」というのを各種データから読み解き、それを戦略に生かしていく。今はコンサルというよりも、データ会社になったなと感じています。事業部の名前もデータテクノロジー事業本部としているんです。
──商品開発にも携わるのですね。データ解析からは、ユーザーの趣味や好みなどが分かるのですか。
黒川:それ以上の情報ですよ。例えば、その購入者がどこに、どんな家に住んでいるのか、間取りや家賃相場、仕事の内容など、あらゆる情報が予測可能です。これらの情報を基に、市場を予測し、商品を販売していきます。
昔のように、「SNS広告を出せば売れる」という時代は終わりました。Web広告のROI(費用対効果)も悪くなり、資金力のないベンチャー企業などは参入できない状況です。上位層は伸びるし、中盤から下位層は淘汰されようとしている。二極化が進んでいます。業界で生き残り続けるためにも、各データを研究し、どのプラットフォームであれば勝負ができるのかを常に追求していく必要があるのです。
「非上場なのに売上1人1億円」の理由は、ビジネスモデルだけではない
──市場が広がっていることもあり、ライバルも増えていると思いますが、イングリウッドが同業他社よりも優れているポイントはどこだと思いますか?
黒川:他社さまだと、販売のジャンルや手段の面で単一のものしか扱っていないケースが多いです。Webでのマーケティングだけとか、ページの制作だけとか。イングリウッドだと先ほども挙げたように、「商品を売るため」の施策なら何でもやりますし、そのほとんどを内製で行える。こういったサービスを提供できる会社は、国内でも例がないと自負しています。
──なるほど。社員1人当たりの売り上げが1億円を超えているというのは、ここに理由があるということでしょうか。
黒川:それはあると思います。この事業は成果報酬型なので、クライアントの売り上げに応じて、我が社の売り上げも伸びていきます。そのため、クライアントを伸ばせる実力がないと双方共倒れです。社員の実力が高くないと、成し得ないものだとも思います。
──確かに、市場分析から商品開発まで、マーケティング、コンサル、営業など、求められる役割が多岐にわたる印象です。デジタルマーケターとして、総合的なスキルが身に付くということでしょうか。
黒川:はい。網羅的に商品の流通やデジタル業界が分かるというところはありますね。弊社には、楽天やAmazonのOB・OGもいますが、「自社プラットフォームのことは分かっても、そのほかについては知らなかった」と話す人は少なくありません。
例えば、代理店でデジタルマーケティングを担当していても、実際は、Googleアナリティクスの管理だけだった……なんてことは往々にして起こります。これではそれしか知らない人になってしまう。過去に転職面接にきた人の中には、「◯◯を極めました」と言う人もいましたが、正直、正気かなって思いました。デジタルの世界において、1つのことだけを極めるのは、キャリア上、大きなリスクになりかねません。
──社内でしか通用しない人材になってしまうというわけですか。
黒川:デジタルは総合力勝負です。企業で言われたことだけを頑張る人や、1つのことに没頭するタイプの人は、はっきり言ってこの仕事には向きません。そのためか、中途でも新卒でも、業界全体について広く知りたいと思う人たちが、イングリウッドにはやってきます。
イングリウッドには、ファイナンスが分からない人は「1人もいない」
──広く知識が得られるというのは、魅力的に聞こえる一方、キャッチアップがしんどそうなイメージがありますが……。
黒川:少なくともスピードを持って自学し、仕事に固執する精神は必要でしょうね。これは企業で生き残るためではなく、デジタル業界で生き続けたいなら必要だと思います。弊社で成果を出している人たちは皆そうです。
その素養があるなら、本気でやれば3カ月ほどで基礎的な知識やトレンドなどはキャッチアップできるでしょう。例えば、社内にはデータが読めない、ファイナンスが分からないという人はまずいないですね。お客さまの売り上げや利益を増やすわけですから、PL(損益計算書)やBS(貸借対照表)が読めて、かつファイナンスプランが書けないと、そもそも仕事になりません。
──デジタルの世界は、1年でガラリとビジネス環境が変わるイメージがあります。
黒川:そうですね。世界の動きも含め、日々学ばないとすぐに業界から退場させられてしまう。正直な話、モノになるかどうかは25歳くらいで分かりますよ。ダメだったら、30歳過ぎてキャリアダウンの転職しかやってこない、ということが起こりうる世界です。
デジタル業界は、一度キャリアダウンをしてしまうと、正直上がってこれません。この事実を若いうちに知っているかどうかで、未来は変わります。だから、社員たちにも早い段階でこの話を伝えます。
──シビアな話もはっきりと伝えるんですね。
黒川:事実を知らないまま、ダメになっていくのはかわいそうじゃないですか。伝えること、「自分にはこの業界は合っていないかも」と考えて早い段階で転職ができるかもしれない。
それこそ今は、転職が当たり前の市場になりました。だからこそ、次のキャリアに行きたいのであれば、早く行った方が良い。それこそ、ボーッとしていたら1年なんてあっという間です。デジタルマーケティングの世界に居続けたいなら、徹底的にのめり込むしかないと思うんですよ。
Web広告、マーケティング、プログラミング、デザイン──現場に出るために「死ぬ気」で学べ
──新卒で入った場合、膨大な知識を得るためのサポートはあるんですか?
黒川:流れが早い業界で生きていくためにも、最初は研修でプログラミング、Web広告(マーケティング)、デザイン、ファイナンス、商流理解といったテーマをがっつり座学で学びます。合計1,400ページほどの資料があり、全ての項目でテストを行い、合格するまで何度でも繰り返し研修を受けることになります。
──え、じゃあ社員みんながこのテストをクリアしているということですか?
黒川:乱暴な言い方かもしれませんが、テストで平均点以上を取れるような人ならば、死ぬ気でやればできると思います。研修の面倒を見る、教育プログラム担当の「校長先生」がおり、研修データは各マネージャーと連携しながら、毎月アップデートしています。基礎的な内容でも、ビジネスの知識や実践方法をきちんと体系立てて学ぶ機会は意外に少ないので、魅力に感じてもらえることが多いですね。
──なるほど。ちなみにイングリウッドを卒業される方は、どのような道に進まれることが多いのですか?
黒川:例えば、メーカーでマーケティングの全域を担当するポジションについたり、ベンチャーのCMOになったりする人は多いですね。ただ、最近は離職率が低いんですよ。年間で1%くらいです。ありがたい話ではあるのですが、もう少し、高くてもいいかなとは思います。それだけキャリアに対して貪欲な人が多いということでもあるので。
「1,400ページの研修資料」は、社員教育で大失敗した過去があるから
──お話を聞いていると、教育に相当なコストをかけているように思うのですが、ここまで力を入れているのはなぜなのでしょう。
黒川:社員教育に取り組まず、大失敗した経験があるからです。今でこそ話せますが、昔は「見て学べ」という一番ダメなタイプの企業でした。それこそ2010年ぐらいまでは、基本能力が既に高い人しか働けないような環境だったんです。
私は会社が提供できる価値は、報酬と経験、そして教育の3つだと思っています。当時は「報酬で報いるのが一番だ」と考えており、教育には全く投資をしなかった。そんなある日、辞めようとしている社員から「イングリウッドからは何も学べなかった」と言われたんですよ。同時に、うちの会社はたくさんの人が落ちこぼれているということに気付きました。
年収は高くても、人は離れていく。結果的に私は人を不幸にしているのではないか──自分の力不足、そして会社の力不足を痛感しました。
──それでこそ今は「学び」が人を引きつける要素になっています。どの辺りから変わったんですか。
黒川:自身が培ってきたノウハウを可視化し始めたのが2015年ごろです。「1人が10人分の引き出しを持つ」「売上1億円以上を作れる人材になる」をコンセプトにして資料を作りました。それが今の約1,400ページにわたるカリキュラムにつながっています。
こうした取り組みが功を奏し、学びに飢えている人がどんどん入ってきました。それで業績などの結果が出るとさらにいい人が入ってくる。いいことしかありません。
世間知らずで突き進んだ創業期、失敗事例の共有こそが「30年後の成功」を生み出す
──社員教育のお話以外に、創業時に苦労されたことなどはありますか?
黒川:私自身は大学卒業のタイミングで起業したのですが、そのきっかけは報酬に対する疑問でした。「新卒だから」という理由だけで、給料は統一されているし安い。釣り合わないと感じました。自分の価値を自分で決められるのは、起業家しかない。だから、起業したんです。
創業当初はオフラインメインの輸入卸業を行っていましたが、そのうち、仕入れから小売、つまり、川上から川下までを全て押さえた事業をやりたいなって思うようになりました。そちらの方が最終的に粗利も増えますしね。
──え、それって業界的にまずくないですか……?
黒川:そうなんですよ。卸が小売まで担うのは業界的にご法度です。ただ、社会の構造を全く知らなかったこともあり、私たちはやっていました。そしたらある日、「小売をするなら、敵ですよね?」と他の企業から言われたんです。
世の中の常識や固定観念といったものは、就職しないと生まれないんだなと学びました。ただ、それがプラスになったとも思っています。世間の常識を知ったのは、BtoBに取り組み始めた2011年ごろですよ。それまでは、融資面談のために金融機関に訪問するときも、Tシャツと短パンで行くこともざらでした。
──なるほど。ある種の「世間知らず」が武器になることもあると。
黒川:他にもテレビの世界で苦戦することもありましたね。ショップチャンネルやQVCジャパンといったテレビショッピング系のチャネルは押さえているのですが、自社企画の番組は2連敗。今、内製チームを作って土台を固めつつある状況です。
──悪い点や失敗談も臆せず話されますね。
黒川:イングリウッドでは、成功事例の継承よりも失敗の継承を大事にしています。損した金額なども含め、ちゃんと後輩たちに話すぐらいです。失敗からどれだけ学べるかが大事ですから。誰しも自分の失敗ってあまり言いたがらないですよね。下手をするとなかったことになることもある。それを防ぎたいと思っています。30年後まで語り継がれ、取り組み方が変わったり、結果として事業の成功に結びついたりする方が大事なはずです。
イングリウッドの成長戦略──どんなビジネスも「中国」を意識せざるを得なくなる
──今後、イングリウッドはどのようにビジネスを伸ばしていくのでしょう。その戦略について教えてください。
黒川:オフラインと海外展開の強化ですね。最近では、デジタルサイネージを使い、ユーザーの服装から趣向を判断して広告を出す……といったマーケティングも増えてきましたし、無人店舗の実験も始まっていますよね。例えば、アプリをダウンロードしないと入れない無人店舗とか。オフラインで完結するようなサービスを作りたいですね。早い段階で動いていきたいです。
海外展開については、少子高齢化の影響が大きいです。どうしても中国や北米あたりに出ざるを得なくなっています。特に中国は調子がよく、力を入れています。この前も上海や深センなどで行われていた展示会に行ってきましたが、会場の規模は東京ドーム16個分。日本では考えられませんよね。
──確かに。人口のケタも違いますから、ビジネスチャンスは大きいですよね。
黒川:中国人は10億人以上いますし、世界に散らばっている中華系の人々を含めれば30億人ほどいると言われています。タイ、ベトナム、ミャンマー、シンガポールといった東南アジアも中華圏と言っていいでしょう。私は今後「中国人が世界を獲る」と思っているんですよ。いかなるビジネスをしていても、中国人とどう寄り添うかはテーマになるでしょうね。
自分に自信があるなら「ベンチャー企業」を選んでほしい
──今、イングリウッドが求める学生像って、どんなものなのでしょう。
黒川:先ほどお話ししましたが、自学の精神がある人ですね。学びを行動へ移すことが求められるため、学ぶことが習慣化している自学力の高い人じゃないと、正直うちの仕事は難しいと思います。
また、「商品が好き」という素養も求められますね。変化が早い業界だからこそ、ゆっくり働きたい、学びたいという人には向きません。じっくり1つのキャリアを育てている時間はないのです。圧倒的なスピードで社会を変化させたい、そんな人を求めています。
──ありがとうございます。最後に、これから就活の準備を進める学生にメッセージをお願いします。
黒川:もし、自信があるなら「ある程度の規模があるベンチャー企業」に入社して欲しいと思います。米国では優秀な人ほど、起業やベンチャーを選ぶ傾向がありますし。
人材育成にはお金と労力、そして教育の知見が必要です。とてつもないスピードで成長するには、質の高い教育を受ける必要があります。だからこそ、選択した環境が自身に合うかどうかを、冷静に判断してもらいたいです。
──もし、今黒川さんが就活をするとしたらどの企業を受けますか?
黒川:もちろん、うちの会社以外ということですよね(笑)。今なら中華系企業を見ると思います。技術力の高い企業で働く人々と競争しながら、自己を高めていきたいですね。そこから日本のハイエンド人材として逆輸入されるのが理想でしょう。
──強い環境に身を置くことで、強制的に自学する状態になりますね。
黒川:自分の人生なので、自分が最高に楽しめて、満足できる道を探すのが大切だと思います。ただ、もし悩むなら、周りに視座の高い人間がいる環境がいいのではないでしょうか。あと事業に対する熱量も大切ですね。「この世界が好きかどうか?」を同僚から感じられるか。特にベンチャー企業を考えている人にとっては、大切なポイントだと思います。
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【ライター:スギモトアイ/撮影:塩川雄也】