たった1つのツイートをきっかけに、「平凡」な生活を送っていた女子大生の人生が一夜にして変わった──。
「令和最初のバズ」「3日でフォロワー5万人増」「女子大生SNSマーケター」など、センセーショナルな言葉に覆われ、各方面から注目を浴びている女性がいる。都内の大学に通う2年生、くつざわさんだ。
インタビュー前編では、バズを生み出すための隠された戦略を聞いてきたが、後編ではくつざわさんが今後やりたいことや、就職活動を含めたキャリア論について聞いていく。
▼前編はこちら
・徹底解剖、策士くつざわ(前編) 突然バズった20才、見えたSNS世界の光と闇
もう一度、動画を投稿するなら「モノマネだけは絶対にやらない」
──ちなみにもう1回、大学1年生の冬に戻ってTwitterで動画を上げられるとしたら、どんなものを投稿しようと思います?
くつざわ:そもそも動画を投稿するかも分からないですね。結局、Twitterでは小難しくて胃もたれするような動画は、よほどのことがない限り受け入れられないし、初速に貢献はしない。何なら最終的にどうなりたいかさえあやふやな私が、正解と言える動画を作れる自信はないですよ。ただ、モノマネは確実にもうしないです(笑)。
──え、どうしてですか?
くつざわ:あまりにもコンテンツ自体のイメージが残りやすいからですね。人間そのものではなく。動画となるとなおさらです。そしてマネもされやすい。実際にキャプションのやり方を丸々マネしたり、編集の仕方をマネしたりという人も多くて。
ものまねをする人のものまねが現れるということは、私がすでに「モノマネの人」という認識になっているということ。その時点でもう失敗だったんです。イメージが固定化されてしまった。別の一面を見せやすいイメージだったらまだ良かったんですが。戦略的な部分を隠して、「適当にやってたらバズってウケた」という立ち位置に見え過ぎたことも良くなかった点だと思ってます。
──1人の人間として興味を持ってもらいたい、認めてもらいたいと思っているのに、コンテンツの力がそれを凌駕(りょうが)してしまったように思います。そういう現象は、SNS時代ならではのリスクじゃないかと思いますが、くつざわさんはどう考えますか?
くつざわ:今のSNSは、良くも悪くも拡散性に非常に優れてます。「個」を求められる時代に、それを容易に発信できるサービスがあふれかえっていることは素晴らしいことです。いい自己広告は狙いたい人に深く刺さりますが、狙っていない人にとっては受け入れられないこともあります。そういった感情も含めて拡散してしまうことで、発信した「個」が受け入れられない場所が生まれてしまう。その事実を受け入れない限りは、SNSでは生きていけないでしょうね。
私はどの層にも受け入れられやすい「共感コンテンツ」を発信していたので、1つのカテゴリーにはまとまらない人々が集まりました。逆に、そのコンテンツに個の思想や人格を付随させたところで拒否反応が起きてしまった。「どの層にも受け入れられやすい」ことは最強だと思ってましたが、逆に自分を出せなくなった。個の発信が簡単な時代だからこそ、自分がどう見られれば(自分に)都合がいいのかを最初に見定めるべきです。
デジタルネイティブ世代が、ステマを「きれいなPR」で駆逐する
──今後、くつざわさんがやりたいことってどんなことですか?
くつざわ:私ができる全てを使って、私がいいと思ったものを発信していきたいです。先日「旅人育成企画(タビイク)」のPRをしたんですが、私がPRの方法を考えて、私が本気で楽しんで、周りを巻き込んで、巻き込んだ人も本気で楽しんでいました。起用する側とされる側が寄り添って仕事をすることのうれしさを感じましたし、それで完成したPRが人を動かすことも確信しました。私はもっと、そういうことがしたいです。
──とはいえ、インフルエンサーの話をした際に「ステマ」のような投稿も少なくないとお話ししてましたよね。
くつざわ:だから「きれいなPR」をずっとしていこうと思ったんです。きれいなものってきれいな人しか分からないし。PRって、その人のビジネスパーソンとしての技量が試されるわけじゃないですか。どうやったらコンバージョンにつながるか、こういう見せ方をすれば、みたいな部分が試されるわけで。
それで、きれいな見せ方で私という個性を出したものを作れるとなれば、すごく強いじゃないですか。だからそういうPR、いやエンタメをやろうと思っています。広告だと思われたらユーザーはもう見てくれませんから。
良くないPR広告が回っていく中で、私はデジタルネイティブ世代のインフルエンサー、発言力がある人が、きれいな方法でそういうのを払拭(ふっしょく)していくという活動は、ビジネスパーソンとしての私の技量も試されているし、結構うまくいくんじゃないかなと。あくまで憶測ですが。
旅人育成企画のPRコンテンツを作成したときの様子。「自分が心から楽しむのが、いいコンテンツを作るカギ」とくつざわさんは語る
自分が起業するのは「法人化せざるを得なくなったとき」
──くつざわさんって、事務所みたいなものに所属せずにマネージャーをつけて自分でやってますよね。
くつざわ:自分でやりたい仕事は自分でしか受注できないので。好き放題やりたいところに大人を巻き込んでゴタゴタするのは苦手で。こういう感じの広告資料を作るためにこういうことをやって、じゃあ営業資料が作れたからこう営業しよう、みたいなことは自分でしかできないわけじゃないですか。
私はインフルエンサーとして活動したいわけではなくて、ビジネスパーソンとしてやってきたいんです。「いざというときは事務所が守ってくれる」とかいう人もいますが、自分で弁護士を雇えばいいわけですし。守るって何? という感じです。事務所の存在意義が全く見当たらないですね、今の私にとっては。
──もっと大きなことをやりたいと思ったとき、人の手が必要になったりしたときに、会社を作るみたいな可能性はあるんですか?
くつざわ:あったりなかったりです。とりあえず今はないですね。急に変わるかもしれませんが。でも、法人化せざるを得なくて法人化した、となると一番楽ですね。
焦って起業して名前をつけて、こういう事業を展開することになりました、それに向けて頑張っていくぞ……というよりは、自分の好きな枠で一度稼いで、自分の生活をしていく上で、これは法人化しないとそろそろヤバイとなって、法人化せざるを得ないとなった方が、いろいろうまくいくと思います。
──「法人化せざるを得ない」ってパワーワードですね。世の中には起業が目的になっている人もいますけど、くつざわさんの中で起業はあくまで手段なんですね。
くつざわ:そうですね。別にいきなり起業してうまくいくとは思えませんし。今はどこかの会社に所属して働きたいという気持ちが大きいです。
──そうなんですね。ちなみにどこですか? 入りたい企業って。
くつざわ:チョコレイトさんとかめっちゃ入りたいんです、今。個人のクリエイティビティを一番引き出せる場所だと思っていて。自分でいろいろできると考えているからこそ、そういうところで1回別の方とお仕事する経験をした方がいいと思ってます。いきなり起業するよりも。
就活でSNSを使うなら、情報「収集」ではなく「発信」すべき
──行きたい企業があるということですけど、くつざわさんって、ぶっちゃけ就活とかするんですか?
くつざわ:いわゆる一般的な就活はしないでしょうね。履歴書と数分の面接だと、どうしても私の伝えたいことは伝わらないと思います。私、もともと伝えるのが下手ですし、これだとその時点で自分がどんなことをできるか、相手がどんなことを求めているか、文字上でしか分からないじゃないですか。
就活って、相手の求めてることと自分が提供したいことが一致することが一番大事だと思うんですよ。それが面接だったり履歴書だったり、動画だったとしても見る側は多分1、2時間くらいが限界でしょう。これじゃ自分の半生なんて語れないです。それが一致しないまま、入ると結局モヤモヤしてしまう。
今は「個の時代」と言われているじゃないですか。私の場合は、SNSが自分の履歴書代わりというか。こんなことをやっていて、こういう成果を挙げました、今はこういうこともしています、というのを示すのには使いやすい。その方がより人が見えて、採用側にもメリットがあるんじゃないかと思います。
──自分の武器を見せる、やりたいことを見せるという意味では、SNSは確かに有効ですね。
くつざわ:届けようと思えば、その層に届く形にできるところがいいです。不快感のない状態で相手のタイムラインに上がってくるわけじゃないですか。結局それはプラットフォーマー側のアルゴリズムなので。狙いがあったとしても、相手側からすればたまたま出てきた存在。それが興味につながれば、めちゃくちゃいい出会いになる。
──例えば、就活生がSNSを使う理由の大半は情報収集です。そう考えると、情報発信の方が大切なんでしょうね。とはいえ、過去のツイートを消したり、「鍵付き」のアカウントにしたりする人もいます。
くつざわ:その時点でもう、見せるためのSNSを作っているわけじゃないですか、見られる前提なので。だとしたら、そこをもう少し有効活用するのもアリなんじゃないかと思うんですよ。隠す方向に行くんじゃなくて。
──確かに隠すようなことでもないですもんね。
くつざわ:別にみんな飲み会くらい行ってるわけですし(笑)。
──企業とニーズを確かめ合って自己表現をして、それで出会って一緒に何かをする。これが仕事なのであれば、くつざわさんは既に「就活」をしているのかもしれません。
くつざわ:そうですね。現時点でいろんな人と関わり、間近で私のことを見てもらって、いろんな経験ができる機会が与えられているのだから、私にしかできないことをしてみたい。その上で、求められていることと、できることが合致するようなことがあれば、どんな苦労をしてでもその企業のメンバーになりたいと考えるでしょうね。
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※こちらは2019年10月に公開された記事の再掲です。