こんにちは、ワンキャリ編集部です。
ワンキャリアが総力を挙げてお届けする人気企画、総合商社特集。今年は「総合商社の現場力」と題し、第一線で輝く若手社員に焦点を当ててお送りします。現場で活躍する商社パーソンは、魅力的な仕事に携わる一方、多忙を極めるためOB・OG訪問が難しいのが実情です。インタビューを通して、普段なかなか知ることができない総合商社のリアルと、大義を持って働く商社パーソンたちの気概を味わってください。
今回は三菱商事の現場力に迫ります。2012年入社、環境事業本部 環境エネルギー事業部所属の杉浦泰介(すぎうら たいすけ)さんにお話を伺いました。
<三菱商事の「現場力」 押さえるポイントはここ!>
・前例のない挑戦を後押しする、グローバルに築き上げたアセット
・社会へ与える影響まで見通し、持続可能な事業を目指す企業理念
・配属は「リスク」ではなく「チャンス」。避けるのはもったいない
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日
インド、アフリカに電力を。三菱商事のアセットが、前例なき成功を生んだ
──杉浦さん、今日はよろしくお願いします。早速ですが、現在の担当業務について教えてください。
杉浦:私が所属する電池サービス事業チームでは、リチウムイオン電池に着目した新規事業開発に取り組んでいます。三菱商事はリチウムイオン電池製造業に10年ほど前から携わり、知見を蓄積してきました。私のチームはこうしたアセットを横展開して、電池を「つくる」事業から「つかう」事業に広げることで新たな事業を創出しようと発足した、社内でも新しいチームです。チームメンバーは10名で、年齢的には私がちょうど真ん中の世代です。入社21年目のチームリーダーを筆頭に10〜20年目が4名、7年目が私ともう1名、その下に新卒1〜3年目が3人います。比較的若手の多いメンバー構成です。
■杉浦 泰介(すぎうら たいすけ)さんのプロフィール
2012年4月:三菱商事入社、自動車関連事業ユニット リチウムイオン電池販売戦略チーム配属
2012年10月:自動車関連事業ユニット 磁石・モーター事業チームに異動
2015年1月:環境事業本部 環境エネルギー事業部 産業用電池事業チームに異動
2016年10月:グローバル研修生(※)として、インドに1年間派遣
2018年4月:環境エネルギー事業部 電池サービス事業チームに異動、現職
(※)グローバル研修生制度:海外での実務研修を主軸に、海外のビジネススクールへの派遣や世界各国の文化と言語を習得するための語学研修も含め、年間約120名の若手社員を海外へ派遣する制度。原則として、入社8年目までに、全職員が派遣される。
──リチウムイオン電池はモバイル機器や電気自動車など、今やさまざまな製品に欠かせない存在です。日増しに注目が集まる電池・電力エネルギー分野ですが、今まで経験した中で特に印象的だったエピソードを教えてください。
杉浦:入社3〜5年目に携わった、インドでの「蓄電システム実証プロジェクト」です。これはインド国内で配電系統につながった大型蓄電システムを取り入れる、史上初の試みでした。私が日本国内でこの事業を進めていたところ、タイミングよく私のグローバル研修先がインドになり、日本とインド現地の双方でプロジェクトに関わることになったのです。
──このプロジェクトは、アメリカの大手独立系発電事業者AES Corporation(以下、AES社)とともに、インドのデリー近郊で配電事業を展開するTata Power Delhi Distribution Limited(以下、TPDDL社)の変電所内に蓄電システムを設置し、配電系統の安定化を実証するものです。三菱商事が橋渡し役として実現に大きく貢献したわけですが、文化も地域も異なる企業をまとめるのは相当に苦労されたのではありませんか?
杉浦:そうですね。特に、契約面での調整が大変でした。当時の研修先がムンバイで、蓄電システム実証プロジェクトの実験先はデリーだったので、事あるごとにTPDDL社の担当者に話を聞くため、朝一番の飛行機でデリーを訪問していました。
──調整役としての苦労が、お話から容易に想像できます。このプロジェクトでは、どのようなことにやりがいを感じましたか?
杉浦:大きく2つあります。1つ目は、総合商社としての存在価値を感じたことです。確かに交渉は大変でしたが、TPDDL社の担当者から「三菱商事が紹介してくれたから、AES社に出会えた。そして、君が話を前に進めてくれたから実証実験までこぎつけられた。タイソン(杉浦さんの愛称)がいなかったら、この案件はダメになっていたよ」と言われたのは今でも印象深いです。インド側のタタ・グループとつながりの深い三菱商事が、まさに両社を結びつけたことになります。
──2つ目についても教えてください。
杉浦:社会的なインパクトの大きさです。蓄電システムの導入が、インド国内の電力供給を安定させる一歩になると思っています。膨大な人口を抱えるインドは慢性的に電力が不足しており、突発的な停電や火力発電による大気汚染が社会問題になっています。自分がその解決に貢献できたと思うと、意義のある案件だったと実感します。
──同じように社会的な意義を感じたプロジェクトの例はありますか?
杉浦:フランス電力公社と連携し、アフリカのオフグリッド地域(無電化地域)での分散電源事業に取り組んだことです。アフリカでは約6億人がオフグリッド地域で暮らしております。電化製品はおろか照明さえも健康に有害な灯油ランプを使わざるを得なかった地域です。そこに太陽光発電と蓄電池を活用した、安価でクリーンな電源を供給できるようになりました。
日本から遠く離れたアフリカ、しかもオフグリッド地域での取り組みはチャレンジングでしたが、三菱商事が積み上げてきた成功事例とネットワークがあったからこそ実現した試みだったと思います。「意義がある以上、何としても成功させたい」と、関係者が一丸となって進めたプロジェクトでした。
徹底したリスク管理が「10年先も続く事業」を生み出す
──こうした大プロジェクトを成功に導くには、綿密な調整が必要です。その一方で、ベンチャーや外資系企業と比較したスピード感に疑問を持つ学生の声もあります。三菱商事では、どのような理念や考え方のもと、事業の意思決定を行っているのでしょうか。
杉浦:三菱商事の強みは、「事業リスクを徹底的に洗い出して摘み取ること」だと思います。だからこそ意思決定には比較的時間がかかるかもしれませんが、それは「一度決めたことをやり通す」という責任と大義があるからこそです。そのため私たちは、事業が終わった5〜10年後までを見据えて、ビジネス面の収支だけでなく、事業リスクや社会に与える影響や価値も検討します。三菱商事として手掛けるビジネスである以上、先人たちが築き上げた価値を損なうことは決してしたくないのです。
──ビジネスを全うする責任があるからこそ、足固めを堅実に行うと。実際の業務の中で、具体例があれば教えてください。
杉浦:先ほど紹介したインド、アフリカの案件では、取引にあたって詰めの甘い点や法的な穴がないか、各部署が徹底的にチェックしています。例えば、契約書の助動詞1つにしても「Shouldではなく、Wouldを使って」など、細やかなニュアンスに至るまでチェックが入ります。このように、全社で徹底的にリスクを洗い出して摘み取るからこそ、現場の私たちはプロジェクトに安心して取り組めるのです。
変化を続けないと、成長を続けることもできない
──ここまでのお話を受けて、三菱商事が自社と社会とのつながりを常に考えていることが伝わってきます。過去のワンキャリアのインタビューでも、その姿勢が一貫して表れているように感じます。現場で働く杉浦さんの目には、三菱商事の風土はどのように映っていますか?
杉浦:三菱商事では、社員一人ひとりが「自分の業務がどう社会に影響するか? 社会の変化が、自分の業務にどう影響するか?」を本気で考えています。例えば私が所属する環境事業本部は「環境に優しいこと」をビジネスにしています。裏を返すと、もはや「環境に優しくないこと」がビジネスにならない時代だから、三菱商事の事業として注力しているのです。
──環境問題への対応が全世界的な法規制に落とし込まれている今、この視点を欠いていてはビジネスは成立しませんね。
杉浦:環境事業本部では、他にも、電力関連のトレーディング事業や、水素エネルギーの導入など新しいビジネスに取り組んでいます。ビジネスを続けていくためには、私たちも変化をしていかなければいけません。社会ニーズやトレンド、世の中の変化に対応できなければ、成長を続けることはできないと思います。
──それでは、ここまでの話を踏まえて、三菱商事で活躍できる人材像を教えてください。
杉浦:私は「変化を恐れない人」だと考えています。三菱商事では、計数管理の部署に所属する社員が事業投資先へ出向したり、反面、営業から計数管理の部署へ異動したりと、人材交流が盛んに行われます。さまざまな部署を経験することで、事業に携わるさまざまなステークホルダーの気持ちを理解することができ、効果的に業務を進められると感じています。
三菱商事では、こうしたローテーションに基づき多種多様なキャリアを歩むことができますし、だからこそ、チャレンジ精神が旺盛で「変化を恐れない人」が活躍している印象を受けますね。
自分の苦手が、一番の強みかもしれない。配属は「リスク」ではなく「チャンス」だ
──編集部には「商社は配属リスク(※)があり、下積みが長い」「キャリアにつぶしが利かないのでは?」と心配の声が寄せられます。現場の目線からいかがでしょう。
(※)配属リスク:新卒で配属される部門によりキャリアパスが左右されるリスクを指す
杉浦:正直に言うと、学生時代は私も同じことを思っていました。だから当時は「下積みや配属リスクがある前提で、それでもまずは配属先で頑張ろう」と覚悟を決めていました。しかし、今同じことを社員訪問で聞かれたら「その思い込みはもったいない!」と返します。
──「もったいない」と学生に伝える理由を教えてください。
杉浦:皆さんは「下積み=トップダウンのもとで我慢すること」だと思っていませんか。私は入社以来、上司に相談すると「で、杉浦はどうしたいの?」と常に問われてきました。大きなビジネスを動かす以上、確かに決裁権は上司にあるかもしれませんが、案件の方向性を決めるのは、現場を知る若手の役目です。実際のところ、三菱商事には、年齢に関係なく自分の意思を持って積極的に意見をぶつけ合うカルチャーがあると思います。
──言われるがままに行動をするのではなく、上司と並走していくのですね。配属リスクについてはいかがでしょうか?
杉浦:配属される可能性のある部署が多岐にわたることを、リスクではなく、チャンスと捉えてほしいと思います。そもそも「やりたいこと」がどれだけの選択肢の中から選んだものか考えてみてください。
先ほどお話ししましたが、三菱商事では、さまざまな部署や仕事を経験していくキャリアを歩みます。「三菱商事にはたくさんの仕事がある=皆さんが知らない世界がたくさんある」と捉えてほしいですし、自身の知らない世界をのぞくことで、見据えることができるキャリアの幅が広がります。私自身、就活時点で電池ビジネスは選択肢の中にすら入っていませんでしたが、入社してがむしゃらに仕事に取り組む中で、その面白さにのめり込んでいきました。
──とはいえ「最初から自分の好き・得意な領域に取り組んで、スキルを育てるべき」という意見もあるかと思います。杉浦さんなら何とアドバイスしますか。
杉浦:やはり、「もったいないね!」と言いますね。最初は望まない業務でも、実際に取り組む中で苦手だと思っていたことを好きになったり、得意になったりする可能性があります。そこを見落として好きなことだけに取り組んでいると、気づかないうちに自分の可能性を狭めているかもしれません。まさに機会損失です。
もし、あなたの好きなことを頭ごなしに否定されたら「知ろうとすらしないのに、何を言っているんだ!」と思いませんか。今、あなたも同じ状態になっていませんか? と問いかけたいですね。
失敗から学んだ「苦手なこと」「細かいこと」こそ素早く丁寧に
──杉浦さんが、その考えに至った経緯もぜひお聞きしたいです。この記事を読んでいる就活生に向けて、杉浦さんの若手時代のエピソードを教えていただけますか?
杉浦:入社半年後から4年目近くまで担当していた、名古屋にある事業投資先の営業支援をしていた時代の経験です。この時に、受注の喜びと契約を継続できなかった悔しさを同じお客さまで経験しました。自分が初めて受注したお客さまと、その後の契約更新で折り合いがつかず、同案件の契約を継続できませんでした。その要因は、私がお客さまと丁寧に向き合えなかったことです。お客さまの調達ポリシーの変更や、将来の調達計画、競合の価格や性能を把握できず、要望に沿えなかったのだと考えています。
──この経験を通して得られた教訓を、ぜひ教えてください。
杉浦:先ほどの配属リスクの話と関連しますが「自分の中で優先順位を下げていることや、苦手なことほど、逃げずに取り組もう」ということです。当時は、忙しさのあまり「取りあえず」と「いいや」で仕事を回している時がありました。だからこそ、今は小さいこと、細かいこと、苦手なことを丁寧にするよう心掛けていますね。
キャリア選択は「反省はしても、後悔はするな」
──最後に、杉浦さんのキャリア選択についても伺います。率直に聞きますが、「なぜ、ご自身は三菱商事に入社できた」と思いますか?
杉浦:「うそをつかない」「会話のキャッチボール」の2つを意識できたからだと思います。うそをつかないことは、就活中に一貫して心掛けていたことです。他社の選考状況を聞かれたときは、正直に伝えるようにしました。
会話のキャッチボールは、学生は大人に話をじっくりと聞いてもらえる機会がほとんどないと思ったので、1往復の質問や回答に終わらないような、先輩社員や面接官の方々の考えも伺えるようなコミュニケーションを取るということを意識的に実践しました。やりとりを通して自身も相手とのフィット感を見極めたかったという意図もあります。
──杉浦さんは、しっかりと入社先を見極めた結果、三菱商事を選んでいたのですね。最後に総合商社を目指す就活生にメッセージをお願いします。
杉浦:百聞は一見にしかず。まずは三菱商事の社員に会ってほしいです。そして、「反省はしても、後悔はするな」と伝えたいです。
働く中でも、事業を始める瞬間にうまくいくかどうかは誰にも分かりませんし、5年後、10年後になったら評価が変わっているかもしれませんが、その時点でのできる限りの範囲で、納得いくまで考え抜く事が大事だと思います。そうすれば、仮に失敗したときにも「あれだけ考えたのだから仕方ない、この失敗は次に生かそう」という振り返りが反省として今後に生きますが、「もう少し考えればよかったなぁ」と惜しんでも、それは後悔でしかありません。これはキャリア選択でも同じです。ぜひ納得いくまで考え抜いて就活を進めてほしいと思います。
──杉浦さん、ありがとうございました。
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日
【インタビュー:めいこ/ライター:スギモトアイ/カメラマン:友寄英樹】