良質なベンチャーの中にも、まだGoogleの検索上位には表示されない企業はあります。人材サービスを軸に女性の活躍支援を行うアウローラは、そんな企業の一つ。
2018年より新卒採用を開始し、優秀な新卒には経営者候補として新規事業の立ち上げを任せるという同社。代表取締役の古瀬一臣社長に、女性から高い共感を得る事業内容とその成長性、経営者候補採用の意図や具体的にどう育成するのかなど、ググっても出てこない情報を伺いました。
「女の子の世界を変える」会社、それがアウローラ
──本日はよろしくお願いします。アウローラの情報はググってもなかなか出てこないため、学生からの知名度は高くありません。まずは事業内容を教えてください。
古瀬:当社は「女の子の世界を変える」をミッションに、女性向けに特化したサービスを提供する会社です。具体的には、自社の求人メディア「RUN-WAY」を通じた女性の採用支援、その他の女性向け求人広告の販売、加えてネイリストの派遣・求人サービスなども行っています。
これまでは営業活動優先で、ほとんど広報に力を入れてこなかったんですよね。ネット上に情報が少ないのは、そのせいだと思います。私たちの思いをより広く伝えようと情報発信に力を入れ始めたのは、まだここ1年ほどのことなので。
古瀬一臣(ふるせ かずおみ):株式会社アウローラ代表取締役
大学を中退し、インテリジェンス(現パーソルキャリア)へ入社。営業職でトップの成績を収めた後、女性のキャリア支援・女性活躍推進に対する課題意識から、2007年にアウローラを創業。正規雇用での就業経験のない女性をメインターゲットとする人材サービス「RUN-WAY」、ネイリスト派遣・求人サービス「@nails」などを展開する。
──サービスのターゲットは若い女性だけではないですよね。ミッションで「女の子」という表現を使っているのは?
古瀬:きっと、賛否両論あるんだろうなとは感じているんですけどね。当社のサービスは常に女性向けですから、女性の感性に寄り添おうという考えから、すべての女性を「女の子」と意識しようという意味で使っています。
──男性である古瀬社長が、なぜ女性向けサービスに特化して起業しようと思われたのでしょうか?
古瀬:インテリジェンス(現パーソルキャリア)で求人広告の営業をしていたこともあって、知人から就職や転職の相談を持ち掛けられることが多かったんですが、その中で女性の採用には大きな課題を感じていたんですよ。
日本には、結婚や出産に伴う離職を懸念して女性の採用をためらう企業が、まだまだあるのが現状。女性が仕事とプライベートのどちらも諦めずに済む社会を実現しようと思ったら、より女性に特化し、定着率を高めるような採用支援のあり方が必要だと気づいたんです。
「ふさわしい人がいればCEOを代わります」
──2019年入社からは、優秀な新卒を経営者候補として採用・育成する予定と聞きました。経営者候補として採用する人数や意図を教えてください。
古瀬:経営者候補枠は5名です。当社のミッションに共感する方が、先入観のないうちから自由な発想で事業を立ち上げ、将来的にボードメンバーになってくれたらと想って採用を始めました。対象者には、1年目から事業立案、2年目には実際の事業立ち上げを行ってもらう予定です。
──新卒のうちから事業を立ち上げるのは、ハードルが高いようにも感じます。経験不足はどのように補うのでしょうか?
古瀬:事業立案の基礎的な考え方は、約3カ月間の外部研修を通じて習得してもらいます。また、研修後は事業立ち上げの経験が豊富な上司の下で、新規プロジェクトや他社とのアライアンス締結の場など、どんどん場数を踏んでもらうつもりです。
私を含めた3名のボードメンバーとブレストをしたり、直接的にフィードバックが受けられる機会も用意します。環境は整えるので、臆することなく、誰も思いつかなかったようなサービスを考え、時にはレベルの高い失敗をしてほしいですね。
──最短で、入社から何年でボードメンバーになれるのでしょうか?
古瀬:早ければ2年でなってもらいます。極端な話、来年にでも私よりふさわしい人が現れたら、CEOを代わってもいいと思っているくらいなんですよ。この会社は私のものではなく、「女の子の世界を変える」会社ですから。この考えを私以上に正しく体現できる人がいれば、喜んでその人のサポート役に回るつもりです。
女性活躍が注目される時代だから強い
──広告業界を見ると、他にサイバーエージェントなどのメガベンチャーも存在します。そんな中で、優秀な学生が貴社を選ぶべき理由はどこにあるのでしょうか?
古瀬:一番は裁量の大きさですね。新卒であっても、自由度を与えて本気で事業立案をしてもらいますので。1年目から自分で立案した事業の責任を負える企業は、国内でもそう多くないでしょうね。
──ベンチャーの場合、学生の立場から見ると成長性が気になるところだと思います。アウローラが今後成長していくと確信できる根拠を教えてください。
古瀬:日本における女性活躍は、今後ますます推進されていきます。こうした社会背景は、当社にとって追い風。実際、すでに当社への引き合いは増えてきています。
これは、女性の採用支援を専門的に行い、定着率を上げるためのノウハウを蓄積しているからこそ。この時代の要請に応える形で、当社はさらに成長していけると確信しています。
──ノウハウの蓄積というのは、具体的には?
古瀬:一般的に、人材紹介というのは入社後の長期的なフォローを行わないものなんですよ。ですが、当社は半年後、1年後まで、すべてのユーザーにヒアリングを行うことにしています。これによって、「どのような人が」「どのような企業で」「どう働き」「どう成長していくのか」といった知見を蓄えることができるからです。長期的に見て、どれだけ人材の活躍を支援できるか。ここが、当社の最大の強みだと思っています。
売上至上主義からミッション重視への転換
──創業から11年たった今、アウローラは「第二創業期」を迎えていると聞きました。
古瀬:2016年にミッションを改定し、ミッション達成のためのカンパニーポリシーや行動指針も設定しています。正直にお話しすると、かつてのアウローラは売上至上主義に陥っていたんです。ところが、2015年ごろにそうしたマネジメントへの不満から退職者が相次いでしまって。この時の反省から、創業の思いに立ち返ることを決意しました。
──売上重視をやめたと。社風や業績への影響はいかがですか?
古瀬:ミッション重視に転換したことで、社員がより自由に働けるようになり、同時に顧客との向き合い方も変わりました。現在は、売上よりも顧客企業の成長に貢献することを目指す組織へと変化していますが、意外にも、それで業績が落ちるようなことはなかったですね。
副業OK、完全フレックス。時代に即した最先端のワークスタイル
──今後、評価制度も変更される予定だそうですね。
古瀬:2018年10月からは、成果に基づく評価を完全にやめます。評価全体のうち75%は行動で、残り25%は能力で判断する方式に変更することに決めたので。
──非常にチャレンジングな変革ですね。なぜ成果での評価をやめたのですか?
古瀬:成果を見ているうちは、どうしても売上重視から離れることはできないからです。「正しい行動を能力の高い人が行えば、結果は自ずとついてくる」と考え方を変え、改善を重ねながら最良の評価方法を探っていくことにしました。
──アウローラは、洋服やエステなどの費用を補助する「おしゃれ手当」や、オフィスでネイルケアを受けられるなど、ユニークな福利厚生制度を導入されています。働き方についても特徴があれば教えてください。
古瀬:コアタイムなしの完全フレックス制を導入しています。月間の勤務時間を160時間と定め、社員は土日や祝日も含めた6時から22時の間で、自由にシフトを組めるようにしました。2018年10月からは副業も解禁するので、さらに働き方の自由度が高まります。
──人材や広告の仕事でフレックスを導入するのは難しいようにも感じますが、不都合はないのでしょうか?
古瀬:定時で働いていたとしても、顧客との先約があれば、他の顧客との打ち合わせは入れられませんよね。その先約って、仮に子どもの入学式であっても同じことだと思いませんか? 最良の働き方は十人十色ですから、自由度を上げて楽しく働いてもらい、その結果として社員がいいサービスを生んでくれたらと思っています。
「どんなに優秀でも、性格の悪い人は採用しない」
──社員の育成、働きやすさに本気で取り組まれていることが分かりました。そんなアウローラが求めるのは、どんな学生でしょうか?
古瀬:新しい事業を生み出してくれる人ですね。と言っても、実は最も重視するのは、その人のパーソナリティなんですよ。どんなに優秀であっても、性格の悪い人は採用しません。これは、私たちがハートフルなサービスの提供を心掛けている企業だからです。
──いわゆる孤高の天才タイプではダメ、ということですか?
古瀬:新たな事業を進めるには、熱意を持って周囲の共感を得ることが不可欠です。それに、当社ではミスをした部下をいきなり叱るのを禁止するなど、コミュニケーションの質には非常に気を使っています。だから当社に向いているのは、きちんと相手を承認でき、自然と周りがついてくるような人なんですよね。
──今年のインターンでは、2日間の参加に対して10万円の報酬を予定しているそうですね。なぜ、そこまで投資するのでしょうか?
古瀬:それはもちろん、本気で事業を立ち上げようと考える学生に参加してもらいたいからです。優秀なアイデアがあれば、実際に事業化を検討します。熱意ある方からの応募が増え、革新的なアイデアが生まれる場が作れるのなら、決して高い投資とは思いません。
──事業の立ち上げに意欲的な学生は、就職せずに起業するケースも考えられますよね。
古瀬:独自に起業する場合に比べて、会社のリソースが使えること、同じ思いを持った仲間とともに働けることは、当社の大きなアドバンテージ。意欲ある人にこそ、事業の実現可能性を最大化するために当社をうまく使ってもらいたいですね。
企業がシェアできる保育園事業をはじめ、社会貢献性の高いサービスを展開していく
──今アウローラに入社するメリットを伝えるためにも、今後の事業展開について教えてください。
古瀬:これまでは、「毎年150%成長するベンチャー企業」という点を会社の魅力としてアピールしてきました。ですが、今期は業績の伸びが鈍るのを覚悟の上で改革を進めています。
今後は、より社会貢献性の高いサービスを展開していく予定でいます。その一つが、企業主導型の保育園事業。すでに第一弾として、2018年12月に開園する保育園の準備を進めているところです。さらに、この先2年ほどかけて、さまざまなベンチャー企業がシェアできる保育園を実現しようと計画中です。
──女性向けサービスを軸に、採用を越えたより広い範囲で社会に影響を与えていくということですね。
古瀬:私たちの取り組みは、厚生労働省が取り組む女性活躍推進とベクトルが同じだと思っているんです。なので、いずれ必ず行政とも連携していけるよう、サービスの透明性を高めていくことも当面の課題です。
また、当社はグローバル展開の方針も強く持っています。日本の女性が国内だけでなく海外でも活躍したり、逆に海外から日本に来て活躍する女性が増えたり、そういう未来を描くための支援も、できれば国と連携しながら進めていきたいですね。
──ありがとうございました。
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【インタービュー・執筆:福田さや香、写真:塩川雄也】