「就職活動における親」について考えた時、私は自分の両親について、「誰よりも味方になってくれるいちばん身近な大人」だと思った。私はこの距離感をとてもありがたく思い、気に入っている。
ただ、もし、あなたにとって親が唯一の社会を覗く窓だと感じていたり、唯一手触り感を持って知ることができる大人としての生き方の見本なのだとしたら、少し危ういのではないかと私は思う。なぜなら就職活動をする前の私がまさにそう思っていて、我ながら良くなかったと思っているからだ。
今回は、そんな閉じた世界から私を脱出させてくれた「大人サンプル」の収集方法とその効能について伝えたい。
「大人と喋る」をちゃんとしたことありますか?
学生時代のうちの数ヶ月だけだが、月に数十人ずつ新しい大人に会うような時期があった。
きっかけは、就活で体験したはじめての面接である。私ははじめての役員面接で、「おっと、全然何話していいか分からないぞ」と思った。
というのも、アルバイトで接客業をしていたわけでもなかった当時の私は、30代以上で社会で働いている一般的な大人に会うような機会が、親と話すこと以外にまるでなかったのである。
ひとりの学生として、未来の期待の新人として、自分の魅力をPRすることなんてまるでできそうになかった。私は、彼らが興味を持つような話も知らなければ、彼らに対する正しい話し方もまるで分からなかったからである。
そんな気持ちになったことをきっかけに、当時京都に住んでいた私は「大人と喋る」ことを目的として、祇園の一等地にあるバーで働き始めた。
手に入れるべきなのは「話す技術」ではなく「聞かせる技術」
バーにやってくるお客さんがお店にいるのはだいたい2〜3時間。バーの店員として気持ちよく相手が過ごしてくれるように接したり自分のことを少しずつ話したりするたびに、最低限のコミュニケーション力と短時間で簡潔に自分を伝える能力をつけられたと思う。
年代ごとに興味関心は違うし、キャリアに関する考え方も違うことを知った。さらにいえば人ごとにそれらは違う。自分の意見を変えるわけではなく、渡す情報を少しずつチューニングすることで、相手に「耳障りよく」伝わることが分かった。
自分のことを話すのではなく、自分の話を『聞いてもらう』気持ちで話すことも大事なのかもしれない。「今回は自分が言いたいことを言えた気がします!」と満足げに語る就活生もいるが、『うまく話せた』だけでは本当は不十分なのだ。相手がちゃんと興味を持っていたかどうかを目標に置くことが本当は必要なはずなのである。
そんな風に、「コミュ障」を自称している私でも、少しずつ大人と話すことに抵抗がなくなり、所謂「大人」に対してどんなふうに接していけばいいかを理解した。
これは余談だが、いわゆる「ファッションコミュ障」はただの甘えだと私は思う。自分が相手にうまく何かを伝えられなかったり、相手を気持ちよく動かせなかったことを「コミュ障」のせいにするのはカンタンで、だけどそうして言い訳にして逃げているだけでは、欲しいものは何も手に入らない。
大人としての生き方を複数知るということ
定型文的な表現だが、BARでは大人の人が仕事とは違う一瞬を過ごす場所だと私は思う。大人とたくさん触れ合う中でコミュニケーション能力の向上が図られれば図られるほど、仕事だけじゃない深い話を聞くことができた。そして感じたことは、人生というのは、本当に多様な生き方があるということだ。
名家に生まれて、毎日朝まで飲んで夕方に起き出し、また飲みに出かける……という生活をしている人もいた。長くて立派な肩書とやりがいに溢れた仕事を背負って、毎日高級な料理を食べているのにもかかわらず、いつも不安そうな女性もいた。時々お店に来ては安いお酒で長居するものの、いつも幸せそうな男女もいた。
仕事だけが人生じゃない。お金だけが人生でもない。最高のパートナーを見つけることだけが幸せへの近道でもない。いろんな人が、いろんな要素の上に成り立つ毎日を、バランスを調合して過ごしているのだということを知った。
「大人サンプル」は生き方の選択肢を広げてくれる
就職活動とはもしかしたら「どんな大人になるか」を選ぶ作業なのかもしれない。その作業において、「親」という存在はやはり大きい。親は「大人」としての生き方の最初の教科書であり、あるいは大人として生きていく上である種の制限をかけてくるような相手であるケースもあるだろう。学生時代に特に何もしていなければ、親が唯一の大人の話し相手であり、大人にとっての「仕事」を垣間見ることができる相手だったりするかもしれない。そう考えると、就活生にとっての「親」という存在は、とてつもなく大きい存在なのだろうと想像する。
だからこそ、就活生にこそたくさんの「大人サンプリング」を意識的に行ってほしいと思う。意外にも私たちは大人たちを知らなくて(ある程度関わりを持っていたとしても、年代や職種や志向が偏っていたりする)、同時に私たちは、私たちについて知ってもらうための方法も知らない。
また、たくさんの選択肢を知るということは、自分の未来を想像するための材料を豊富に揃えるということである。たくさんの選択肢から導き出した答えは往々にして満足度が高い。これもまた余談だが、私はアイスが大好きだ。そしてやっぱり、ストロベリーも抹茶もチョコレートも食べた上で「バニラ味のアイスが好きだ!」と言いたいのだ。
「大人サンプリング」は、私たちの意見を相手に届ける方法を教えてくれる。生き方の選択肢を広げてくれる。「社会で働きながら生きるということ」を考えた上で就職活動を行う手助けになる。
「大人サンプル」は親との関係も良好にしてくれる
そしてまた、「サンプル」が増えることで親との関係も良好になるかもしれない。親の意見はたくさんいる大人のうち1つの人生を生きてきた人の意見だとして受け止めることができるし、また、いろんな人生がある中で自分が大人になろうとするまでの長い期間、まっすぐに向き合い続けてくれたことがどれだけすごいことか分かるからだ。
自分と他者の違いを人に伝えるためにも、最強の味方にも敵にもなり得る「親」という最も身近な他者を知るためにも、まずは全体から見た「親」の立ち位置を知るべきだ。世の中について考え、社会の人となろうとする就活生には、たくさんの「大人サンプル」を収集し、その効能を楽しんでほしいと思う。
ーー来週木曜は、ニャート氏の「地元で就職する気がなくても、地元の企業分析だけはやっておこう」を公開します!
「キャリアを考える 親のこと」特集|記事一覧
Vol.1 トイアンナ:就活を邪魔する親と、感謝される親の違いとは?LINEで見るトップ学生の本音
Vol.2 りょかち:「大人サンプル」を親以外に増やすことの効能
Vol.3 ニャート:地元で就職する気がなくても、地元の企業分析だけはやっておこう
Vol.4 北野唯我(KEN):父よ、母よ。まずはお前が仕事を楽しめ。「就活のアドバイス」はその次だ。