昨日に引き続き、「世界経済フォーラム」でYGLのアジア地域の事務局をされていた長尾氏にお話を伺いました。
ーー前編「MBAで流行ってる業界には行かないこと。就活生へメッセージ」はこちら
現在のホットトピックは、「第4次」産業革命
KEN:「議論のプラットフォームとして最高の場を提供するのが目的」という世界経済フォーラムが、今一番注力している課題あるいは、熱いトピックは何なのでしょうか。
長尾:今は第4次産業革命です。多分これを聞いて1次・2次・3次の産業革命は何だという人もいると思います。まず、第1次が、イギリスで起こった水と蒸気によって機械が動くという革命。第2次が、電気の発明によっていろんなものがオートメーション化(自動化)されていくというもの。第3次が電子機器による更なるオートメーション化とインターネットによるネットワーク化が出始めた頃のことです。では、第4次は何かというと、「ハードウェアとソフトウェアの融合化」です。
長尾俊介:
慶應義塾大学商学部を卒業後、新卒にて外資系投資銀行にてバック・ミドル・フロントの各部署で勤務。その後、アジア経済研究所のIDEASで開発経済学コースを修了、INSEADにてMBAを取得。フランス・パリにて食品流通ベンチャーを立ち上げ、幅広く経営に携わった後、世界経済フォーラムにて、スイス・ダボスで行われる「ダボス会議」をはじめとしたさまざまな会議の企画・運営を行う。また世界経済フォーラムが毎年選ぶ40歳以下の若手リーダーであるヤング・グローバル・リーダーズのアジア地域を担当。現在、ユリーカ・ジャポン有限会社代表取締役社長及びシリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム事務局長を兼職。
KEN:「ハードウェアとソフトウェアの融合化」ですか。難しいので、確認させてください。例えば、どういうことでしょう?
長尾:例えば会社でいうとファナックっていう日本の会社があると思うんですけれども、ファナックはロボットアームで精密機械を作っている会社ですが、例えば欠品率を下げたり品質を上げたりするようなソフトウェアをハードウェアに組み込んで機械をどんどん賢くしていくというものをやっているんですね。ファナックはこれをプリファードネットワークスという勢いのあるベンチャーと一緒にやっています。まさに「ハードウェアとソフトウェアの融合」です。
KEN:その中には、いわゆる、人体と機械の融合である「サイボーグ」的なものも含まれますか?
長尾:そうです、今回の特集にも出てくる遠藤謙さんもそうなんですけれども、有機的な組織と機械との境目っていうのがこれからどんどんなくなっていくのかなって思っています。それこそ人工的な臓器が移植されたり、手足も義足・義手になっていく。多分その内、目をカメラで置き換えて脳に直結させるっていうのも出てくるはずで、そういった意味も含めてハードウェアとソフトウェアの有機的な融合っていうのが第4次産業だと定義しています。
「機会もあるが、リスクもある。どう転ぶか全く分からない」時代に入った
KEN:なるほど。とても面白いコンセプトだと思う一方で、個人的には「第3次までの革命」と「第4次産業革命」は性質の違うもののように聞こえました。というのは、第3次までは明確に「エネルギー効率の向上」という分かりやすい至上命題があった。電気の発明によってエネルギー効率は明確に上がったし、インターネットが生まれたことで情報の移動コストは明確に下がった。
一方で、第4次産業革命は、「それが人々の生活に役に立つのか?」が分かりにくい印象を受けました。
KEN(聞き手):
ワンキャリアの若手編集長。広告代理店、コンサルティングファーム出身。長尾氏とプライベートでも親交がある。
長尾:まさに、それが第3次までと第4次の大きな違いです。
今はそれが今後どうなるかっていうのはまだ分からない、映画の予告編のような状態ですね。エンディングがまだ分からないけれども、今までの産業革命に比べてインパクトが大きいので、今考えておかないといざ本編を迎えた時に大きな損害を被るかもしれない。ITの力でいろんなものがより速く、より多く、より遠くへ、瞬時に影響を与える可能性があるので、後から考えましょうっていってると遅いですよっていうのが、この問題を今話し合うべき理由だと世界経済フォーラムではなっていますね。
第4次産業革命では、さまざまな機会が創出されるかもしれませんが、加速度的に進化していく中で、ひょっとしたら大量の失業も出るかもしれない。一つの産業が丸ごと機械で置き換えられるかもしれない。そういったopportunity(機会)もあるけどリスクもあるという観点から、世界経済フォーラムで議題に挙げるべきテーマとなりました。
KEN:なるほど。「どっちに転ぶかが、全く分からない点がこれまでと違う」ということですね。ちなみに、この第4次産業革命の中には、人工知能とかdeep learningも入ってるんでしょうか。
長尾:入っています。ここ2年ぐらいのホットトピックスです。
2年前までは「レジリエントな社会」の実現をゴールにしていた
KEN:2年前まではどういうものがテーマになっていたんでしょうか。
長尾:この2年が今後を見据えたテーマなのに対し、以前はもう少し「対処療法的なテーマ」でした。具体的には、disaster management(災害に対する対策)で、「レジリエンス」、すなわち打たれ強さがコンセプトでした。災害の際でも耐えられるような打たれ強いサプライチェーン・打たれ強い社会をどうやって作るかがテーマでした。アラブの春やアフリカの農業の生産性を上げるかという話や、それこそハイチや東北大震災をはじめとする天変地異にどう対処するか、といったようなことが議題に挙げられました。
KEN:2年前まではより「今の社会課題を解決する」という、どちらかというと、国連がやるミッションに似ていますね。
長尾:そうですね。
YGLは、「強さ」を張り合う場から、「弱さ」を受け入れあう団体へ
KEN:長尾さんは、これまで2,000人近く、世界のリーダーを見てこられてきました。これまで聞いた話の中で、特に印象的だった話は何かありますか。
長尾:2010年で、僕が世界経済フォーラムに入りたての時なのですが、タンザニアでYGLの年次総会をやったときに「リーダーが弱さを見せること」について象徴的な話がありました。
その年次総会では、プログラムの一つで実験的に2時間だけフリーの時間を作って、誰でもいいから、何でもいいから手を挙げて話せるセッションというものが設けられました。その中で一人、アメリカのYGLの人で、ずっとマイクロファイナンスをやっている人が話し出したんですよね。てっきり自分の本業を話すのかと思ったらそうではなかったんです。
彼は大学を卒業して、どこかの投資銀行で働いて自分のマイクロファイナンスの会社を作って、本当に週7日間、毎日20時間ぐらい働いていた。それを10年ぐらい続けたらある日身体が動かなくなって、仕事に行こうと思っても全く体が言うことを聞かなくなり、病院に行ったら実は白血病だと診断されました。それでショックを受けながらも治療して、2年間そういった会議にも行けないしもちろん自分の仕事もできないような状況になったという話をしました。
それを打ち明けるだけでもかなり勇気のあることだったと思うんです。その上でこう続けました。
リーダーの人達は、ものすごく責任を背負って、人の生計を担っている。その責任感から、すごい荷物を抱えながら前に進もうとしているけれども、意外に自分の体のコンディションづくりいっていうのはあまり意識していない。しかし家族もいるわけだし、我々ヤンググローバルリーダーは総合的に自分の健康状態を考えないとダメだよねっていうことを真面目にお話されたんです。
それ以来YGLの中で「弱さ」について話し合うようになったんですよね、それまでは全くなかったんですけど。それまでのリーダーは無理をしてでも完璧さを作らなければいけないっていうのをやっていたんですよね。それをやんなくてもいいというような暗黙の了解が、その人の話のおかげでできたんです。彼の話は今でも印象的ですね。
KEN:完全無欠な「スパイダーマン」にも当然、弱さがあるはずだし、YGLはそれを見せられる場所だということですね。長尾さんは、その光景をどのような心持ちで見ていたんでしょうか。
長尾:美しいな、と思いました。
ものすごいアチーブメント(業績)がある人達でも弱さを見せられるということだったり、弱さを見せるだけじゃなくて、弱さを見た側も、それを許容できてリスペクトできるその姿が美しいなって思ったんですよね。
弱さの話を聞いて「なんで2年間も白血病になって再起不能になってんだよ」っていう感じになるのではなくて、「分かる。自分もすごく無理していたので、言ってくれてありがとう」という部分があったことに感動しました。
弱さを見せられる寛容なリーダー、それが「強い」リーダー
KEN:では、いわゆる「いいリーダー」には「弱さを見せられる」という要素があると思われますか? あるいはこれに限らず、リーダーにはこういう共通項があるなという点はありますか。
長尾:まずやはり、弱さとかを隠さないでもいいリーダーは魅力的ですよね。ハーバードでも何年か前から 「authentic leadership(等身大のリーダーシップ)」っていうのを言っているんですよね 。
「リーダーシップというのはこれしかなくて、これをみんな目指すべきだ」っていうのではなくて、自分は無理をしない、あるいは自分の素の状態を最大限に体現したリーダーシップスタイルっていうのは何なんだろうっていうのを考えて実践している方は裏表がなくていいですよね。その一環として弱さっていうものを享受して、理解していて、卑下することのない人。これがポイントかなと思います。
KEN:「等身大であること」ですか。面白いですね。
長尾:あとは、多分これは好みになると思うんですけれども、寛容なリーダーってすごいなと思っています。一人、僕が将来にわたって尊敬する南アメリカの革命家でスティーブ・ビコっていう人がいます。ネルソン・マンデラさんと一緒にアパルトヘイト排斥運動をやっていた人です。
結局1977年に警察に殺されてしまうんですが、その活動を通して彼が言ったのは、黒人がアパルトヘイトで差別されているのはおかしいけれども、アパルトヘイトがなくなった時に黒人が白人に取って代わって抑圧したりしては意味がないと。それを解決というのではなくて、白人と一緒になってこの国を作っていく必要があるというのを迫害されて盗聴され嫌がらせを受けながらもずっと言っていたんですよね。
僕の父が南アフリカに出張に行った時、ある八百屋でスティーブ・ビコの伝記本を見つけたそうです。父が「なんでこの本を売っているんですか」っていう風に聞いたら「私が昔よく知っていた人で今でも尊敬している、亡くなっちゃった友人の本なんだよ」という風に教えられたらしいんですね。父がさらにその八百屋のおばさんに、どういう人だったの、という風に聞いたら、「He was a man and half」という風に言ったらしいです。彼には1人以上の大きさがある人だったんだという風に言っていたそうで、これがすべてを集約していると思うんですけれども、自分が迫害されているからその場を奪還していじめてやるというような矮小な考えに行くのではなく、全員で国を良くするためにはどうすればいいのかっていうのも死ぬまでずっと考えた人なんですね。
そんな人をすごく理想としているので僕はやはり寛容さを大事に考えています。たとえばアパルトヘイトのお話でも、白人も何かしらの理由があって黒人排斥しているんだからその理由も理解するのは難しいけれども理解しないといけないと思っています。
しかし今は、そういった寛容さっていうのが正直なくなってしまっていると思うんですね。イスラムは嫌だとかシリアの難民は嫌だとか、日中間の関係とか。
だからこそ相手の立場を1回は受け止めて、相手にもなんらかの事情があるからそういうことをやっているんだろうという風に考えて、感情的な反応はしていけないんだろうなと考える寛容なリーダーというのがいいのかなと思います。
KEN:「He was a man and half」(彼には一人以上の大きさがある)。深い言葉です。
100歳まで続く「天職」探しを
KEN:最後にワンキャリを使ってくれているユーザー、就活を迎えている数万人に、メッセージがあれば伺ってもいいでしょうか。
長尾:そうですね。多分今卒業する人達って100歳ぐらいまで働くと思うんですよね。なのでトーンダウンしてもしょうがないので、覚悟するところと楽しむっていうところ両方あるのかなっていうふうに思っています。覚悟するっていうところに関していえば、そうそう引退はできないと思うんですよね。なので自分の天職を探し続けないといけないと思っています。
岩瀬さんみたいに99%の人は天職を持てなくてもしょうがないという考えもあると思うんですけど、やはり100歳まで働くとなると本当の天職がないといけないと思います。僕も探し中なんですけれども(笑)。そこでボケーションとロケーションを分けて考えるべきだと思っています。ボケーションは天職とか使命とかだとすると、ボケーションは探し続けていずれ見つかればいいわけです。見つからなければ探し続けて、そのためにはロケーションを変えるのは全然いいのかなと思っています。ロケーションは職場だったり働いてる国だったりすると思うんですけど、ボケーションの方向性というものをある程度決めたら、それはぶらさず、石の上にも三年といいますけれども、自分はこれが使命だ! というふうに考えて場所(ロケーション)だけ変えるのがいいのかなっていうふうに思いますね。
KEN:僕は80歳まで働く気満々なですけれども、100歳かーっていう感じですね。つまり「今からジムも行っとけよ」っていう話ですよね。
長尾:ほんとそうですね(笑)。体鍛えないと脳は萎縮するらしいのでエクササイズは絶対必要です。お酒も本当は良くないですよね、脳が萎縮してしまうので。僕は、お酒は好きですが(笑)。
KEN:息抜きも必要ですからね(笑)。今日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。いつも通り、楽しい時間でした。
「WORLD5特集」の公開スケジュール ライフネット生命社長 岩瀬大輔
・99%の人は天職に出会えていない。でも、それでもいいと思う
・パワポで世界は変わらない。彼がハーバードを経て起業した理由 宇宙飛行士 山崎直子
・地球から「8分30秒」の職場。それが宇宙
・苦しい業務も、全てが楽しい。きっと、それが「天職」
Xiborg代表/義足エンジニア 遠藤謙
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世界経済フォーラム出身/コーディネター 長尾俊介
・「MBAで流行ってる業界には行かないこと」就活生へメッセージ
・僕らは多分、100歳まで働くことになる