最新の東大京大ランキングはこちら
毎年、3月の「就活解禁」に合わせてワンキャリアが発表している東大・京大就活人気ランキング。まずはこちらを見ていただきたい。
もともと、外資系企業やコンサルは就活解禁前の早期に選考を終えるため、3月のランキングでは例年、日系企業がコンサルよりも上位に入りやすい傾向にあった。今年はさらにその傾向が強まった形だが、東大・京大生からは次のようなコメントがあった。
「2023年卒はコロナ禍で思ったようにガクチカが作れなかった学生や、留学に行けなかった学生も多い。結果的に自信がないまま就活を始めることになり、選考のハードルが高そうな外資系企業や戦略系のコンサルを避けているのだと思う。また、世の中の見通しが明るくないので、安定したイメージのある日系大手を志望する学生も増えているように思う」
新型コロナウイルスが大学生活にも就活にも大きく影響したことで、日系大手を本命に就活する学生が増えている。これが23卒の東大・京大生の傾向といえるだろう。
では、順位を上げた日系企業はどこなのか。キーワードを挙げるなら「リスクの少なさ」だ。
情報をオープンにし、配属リスクをなくしたソニーがTOP10入り
今回、新たにTOP10に入ったのが、6位のソニーグループ(以下、ソニー)だ。業績のV字回復や、アニメ『鬼滅の刃』やYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」といったヒットコンテンツなど、ポジティブな話題が多いが、決定打はそれではない。配属リスクの排除と、情報のオープン化だ。
ソニーは職種別採用を導入しており、そのコース数は約90に上る。就活生の多くが将来の転職を前提にファーストキャリアを選択している今、就職における大きなリスクは「その会社がつぶれること」ではなく「配属ガチャにより希望の職種に就けないこと」だ。職種のコースを細分化しているソニーは「最も配属リスクの少ない日系企業の1つ」といえるだろう。
また、エントリーシート(ES)の内容と人事が聞きたいポイントを事前に学生に伝えるなど、選考情報を公開する「オープン化」にも取り組んでいるのもソニーの特徴だ。新型コロナウイルスの影響で対面での情報収集が難しくなる中「学生のためにできるのは、閉じている情報を外に出すことだ」という結論に至ったからだという。
1月には、こうした新卒採用の方針も語ったオンラインイベントをYouTubeで配信。視聴した東大・京大生からは次のような感想が出た。
「会社と個人が対等な関係であることを大切にしていて、楽しく働けそうだと感じた」
「事業内容も魅力的だが、さまざまな面で社員を大切にしている企業であることが良かった」
学生と企業との対等な関係を重視しているのは、1位の三井物産にも当てはまる。同社は他社の内定を辞退するよう強要する「オワハラ(就活終われハラスメント)」に悩む学生への相談ホットラインを設置するなど、学生に寄り添った施策を続けており、これで3年連続の1位となった。
ランキングの順位は、企業のお気に入り数(複数選択可)の多さで決まるため、万人から支持される企業ほど上位に入りやすい。ソニーと三井物産の順位は、多くの学生がその企業の業務内容だけでなく、採用への姿勢にも注目していることを示しているだろう。
「転職できないリスク」が少ない楽天も上位に食い込む
10位以下に目を向けると、14位の楽天グループ(以下、楽天)が昨年から大きく順位を上げた。楽天に関しては、東大・京大生から次のようなコメントが寄せられた。
「メガベンチャーとして裁量の大きさや実力主義は担保しつつ、スタートアップよりも安定感がある。IT系で将来の転職を考える学生にとっては、就職の選択肢に入ってくる」
ここで、この図を見てほしい。
これは、転職サイト「ONE CAREER PLUS」で公開した「キャリアの地図」の一部だ。楽天からの転職先が、ITだけでなくコンサル・航空・スポーツと幅広い業界にまたがっていることが分かる。
将来の転職を前提としている学生が最も恐れるリスクは、社内でしか通用しない人材となって転職できないことだ。楽天は社内にいても面白い仕事ができる可能性があり、転職も可能という点で、学生の注目度が高まっているのかもしれない。
この傾向はサイバーエージェント(33位)からもうかがえる。広告業界では電通、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズが順位を下げる中、サイバーエージェントだけが順位を上げた。サイバーエージェントのキャリアの地図はこちらだ。
近年は就活生が企業のリアルな情報を収集するために社員のクチコミや転職体験談をチェックすることが当たり前になってきている。楽天やサイバーエージェントのように、社員がさまざまな企業に転職している「人材輩出企業」に入りたい学生は、キャリアの地図を参考に企業を選んでみるといいだろう。
▼「キャリアの地図」はこちら
メガバンクでSMBCだけが上昇し続ける理由
今回、明暗が分かれた業界の1つが、メガバンクだ。三井住友銀行(SMBC)は今回のランキングで、順位、上昇幅ともに3行の中で最も高かった。
SMBCに関しては東大・京大生から「アプリの使い勝手が他行より良く、口座開設もしやすい」というコメントが複数寄せられた。同行はスマートフォン上だけで口座開設ができるアプリを開発するなど、デジタル化に積極的に投資している。新型コロナウイルスの感染拡大で各行のオンラインサービスが普及する中、最も満足度の高かったSMBCへの好感度が上昇に影響したとみられる。
また、「メガバンクの中では『個』を大事にする社風があり、キャリアの幅広さに魅力を感じる」というコメントもあった。SMBCのキャリアの地図を見ると、転職先にさまざまな業界がある。このことからも「キャリアの幅広さ」という感覚は間違っていないだろう。
ベンチャーで順位を伸ばしたのはdely、アカツキ、freee、Sansan
ベンチャー企業についても見ておきたい。今年のランキングの傾向として日系大手の上昇が多かった分、ベンチャーは横ばい、もしくは順位を下げる企業が目立った。その中で、大きく順位を上げていたのが次の4社だ。
上場・非上場の企業が混在しているが(delyは非上場)、共通するのは、企業名やサービス名自体はCMなどで認知されている点だ。その上で、これらの企業は学生向けのイベントへの出演や、経営トップのメディア露出により企業としての魅力を発信。特に、Sansanはビジネスシーンにおける企業の評価・評判をまとめた学生向け企業研究レポート「ECS for アカデミア」の提供を始めるなど、学生との接点創出に力を入れている。「名前は知っている会社」から「就職先の1つ」に切り替わる接点を創出できたことが功を奏した。
実際にワンキャリアのクチコミを見ても、これらの企業に対するイメージがイベントの参加前後で大きく変わっていることが分かる。
<dely>
参加前:クラシルの会社というくらいしか知らなかった。
↓
参加後:社員の平均年齢が若くてフレッシュで挑戦心あふれる雰囲気を感じた。
<アカツキ>
参加前:ゲームを作っているベンチャー企業
↓
参加後:クリエイティブで明るいけど、頭の回転が速い社員の方が多い。自分で考えて行動するリーダーシップを持つ方が多いと感じた。
<freee>
参加前: 会計ソフトの会社
↓
参加後:中小企業を支え、結果として日本を元気にしようとしている。エンジニアを育成するための環境が整っていると感じた。
<Sansan>
参加前:名刺管理サービスのベンチャー企業
↓
参加後:社会を変えたいと強く日頃から強く思っている人には、やりがいを持って働ける会社なのではないかと感じた。
サービスをただ利用するだけでは、ベンチャー企業の実態や魅力は見えづらい。そのため、今回は順位が伸び悩んだ企業の中には、「魅力はあるが、ただ伝わっていないだけ」という企業も埋もれているはずだ。ベンチャー企業を志望する学生は、順位の変動を注視するよりは、企業理解に時間を使って選択肢を増やすことを考えたほうがいいだろう。
編集後記:中長期でキャリアを考えるヒントがデータにはある
ここまでランキングの傾向を見てきたが、根底にあるのはコロナ禍での就活に対する不安だろう。感染の収束も経済活動への影響も見通せない中で、ファーストキャリアを決めるのは簡単なことではない。
ランキングの結果自体は、こうした不安を直接解消する力はない。ただ、社員のキャリアパスやクチコミといったデータを組み合わせれば、中長期でキャリアを考える上でのヒントは提示できるはずだ。
これから始まるキャリアが納得いくものになるように、ワンキャリアはこれからも仕事選びに役立つコンテンツを発信していく。
(Photo:jakk wong , MIKHAIL GRACHIKOV/Shutterstock.com)