コンサルが深夜まで働くのは過去の話──。
働き方改革の影響もあり、「コンサルの働き方は昔よりも緩やかになった」と話す人は少なくありません。
「昔は尖(とが)った優秀な人が少人数チームで、徹夜で限界まで働くプロジェクトもありましたが、今は違います」
そう語るのは、ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)のプロジェクトリーダーで、2児のママでもある熊倉かれんさん。BCG入社後に2度の産育休を経て、現在は製薬業界のトップ企業を相手とする、2つのプロジェクトのマネジャーを務めています。
働き方改革で多少緩やかになったといえども、ここは外資系コンサルティングファームの最前線。本当に仕事は回っているのでしょうか。ママでもある女性コンサルタントの働き方の実態と本音から、彼らの「ワークライフバランス」の新常識に迫ります。
熊倉 かれん(くまくら かれん):東京大学薬学部、東京大学大学院薬学系研究科生命薬学専攻を卒業後、外資コンサルティングファームを経て、2012年にBCGに入社。ヘルスケア領域にて製薬、医療機器などのプロジェクトに従事。プライベートでは2児の母(5歳と3歳)。2度の産休・育休を経て、現在はフルタイムのプロジェクトリーダーとしてチームを率いる。
製薬業界の最先端プロジェクトで真剣勝負。ワクワクしないはずがない
──熊倉さん、本日はよろしくお願いします。早速ですが、現在のお仕事について教えてください。
熊倉:2012年にBCGに入社して以降、ヘルスケア業界を中心に、経営コンサルタントとして働いています。ヘルスケア業界は、製薬企業や病院、医療機器メーカーなどさまざまな企業がありますが、私のクライアントは、ほとんどが製薬企業です。
──コンサルタントとして、どのようなプロジェクトを進めているのでしょう?
熊倉:製薬業界はこの10年くらい、厳しい環境にさらされています。一般的な病気に対する薬はすでに広まっており、新薬を作るニーズが見つけにくいのです。そうすると、研究開発が難しくなりますし、対象がニッチな領域の薬になる。ビジネスとしても成り立ちにくくなります。
さらに世界中で高齢化が進み、薬の価格を下げたいというプレッシャーもあります。最近では、価格が安い「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」も普及してきて、利益率は下がりつつあります。そういう状況下でも、ビジネスを成り立たせながら、人々の健康をどう守っていくか。難しいミッションをクライアントとともに考えています。
──なるほど。具体的には何を行っているのでしょうか。
熊倉:研究開発から販売までのプロセス最適化の提案や、デジタル機器を使った新規事業のサポートなどですね。プロセスを変えると、組織も変えなければならないので、組織開発にも携わっています。クライアントと議論を続けながら、その時々で出ている課題を解決していきます。
──聞いている限り、苦境に陥った歴史あるトップ企業を変革する、というミッションだと思うのですが、相当難しいことではないですか?
熊倉:はい、難しいです。ただ、それ故面白いという部分もあります。担当するクライアントは、日本のマーケットでトップクラスの企業ばかり。さらにプロジェクトテーマは「業界で最先端の会社が今、真剣に悩んでいること」です。それを一緒になって真剣に考えられる。これ以上、ワクワクすることがありますか?
今の仕事を進める中で、クライアントの持っている知見が自分にも累積していくので、製薬業界全体がどう進んでいくべきか、大きな視野も持てるようになりました。
──トップ企業とのプロジェクトだからこそ、生まれるやりがいや面白さがあると。
熊倉:はい。それがBCGの魅力だと思います。私自身は、2つのチームをマネジメントする立場ですが、マネジャーになってからその思いが一層強くなりました。
「徹夜で解決」は時代遅れ。働き方まで変えたコンサル業界の構造変化
──2チームのマネジメントですか!? 熊倉さんはお子さんが2人いらっしゃいますよね。「激務」と言われるコンサルティングファームで、それだけの業務をさばいているイメージが湧かないのですが……。
熊倉:確かに最初の頃は苦労しました。大事なプレゼンテーションの日に限って、子どもが体調を崩して、保育園からお迎えの要請が来るとか(笑)。ただ、コンサルタントの働き方は、この10年で大きく変わりました。今は子育てしながらでも活躍しやすい環境になっていると思います。
──ただ、昨今人気が高まり、採用人数が増えた状況を受け、「コンサルは尖った優秀な人材が行く場所ではなくなった」という人もいます。その意見について、どう思われますか?
熊倉:今も優秀な人が集まることに変わりはありませんが、タイプの違う優秀な方がチームで結果を出すようになっています。これまでは、コンサルタントというと、似たような尖った人が少人数で限界まで働くというイメージが一般的だったかもしれませんが、今はそんな時代ではありません。
これからはガツガツ働きたい人もゆったり働きたい人も、分析モデルを組むのが得意な人も、話すのがうまい人も、いろんな人が混ざってチームを編成し、お互いを認め合いながら合わせ技で戦っていく必要があります。徹夜で解決するというのは、もはや時代遅れと言えるのではないでしょうか。
──個人戦からチーム戦に変わったというわけですね。その理由はどこにあるのでしょうか。
熊倉:世の中に出てくる課題が複雑になったからだと思います。
先ほどの製薬業界の例で言うと、昔はビジネスがシンプルでした。新薬を作り、できるだけ早く広めるというサイクルを繰り返すだけだったわけですから。それが今は、マーケットは枯渇するわ、価格は下げられるわといった状況の中で、複雑なアプローチが求められています。シンプルで分かりやすい答えなど、もはやありません。
そうなると、新薬研究開発の専門家、デジタルの専門家、販売の専門家、法務の専門家など、さまざまな知識・知見をもつ専門性の高い人材たちが共闘しないと突破できないというわけです。そういう意味で、各方面に尖った人が求められているのだと思います。
──ロジックだけでは、どうにもならない世界がやってきていると。
熊倉:ええ。単純なロジカルシンキングでは解決の糸口が見いだせないような、複雑で難しい課題が増えています。だからこそ、さまざまな知識や専門性が必要とされるようになります。BCGのように規模が大きいファームこそ、多様な人材の力で、難しい課題でもインサイトを導き出せるのだと思います。
──求められる能力が変わっている中、あえてコンサルタントの道を選ぶメリットについて、キャリアの観点から改めて教えていただけますか?
熊倉:コンサルタントになると、課題解決の方法を学ぶことができます。
「本質的な課題は何なのか」を特定し、ロジックで分解してファクトで裏付け、実際に人を動かして課題を解決していくというプロセス。これについて学べる場という点では、コンサルティング業界は最も良い環境であり、これからも変わらないでしょう。ただ、最近は課題解決といっても、ロジックだけでなく、専門性を身に付けたり、チームを動かす方法も学べたり、できることの幅が広がっているように感じます。
戦略提言から実行支援まで。顧客からの信頼を勝ち取り、成果を実感できる
──ちなみに、熊倉さん自身はなぜコンサルタントになろうと思ったのですか?
熊倉:私は大学院で生命薬学を専攻しており、研究者になろうと考えていたこともありました。研究自体はとても面白く尊い仕事でしたが、インパクトとスピードという観点で物足りない部分も感じていました。
当時は脳の研究をしていたのですが、研究結果が薬になって、世の中に出回るのは何十年も先の話です。しかも、その薬に私が関わったことは誰にも認められないかもしれない。もちろん素晴らしい貢献ではあるのですが、私の場合、もう少し成果を実感できる仕事がしたかったのです。
──その後、転職でBCGに移られていますよね。
熊倉:ヘルスケア業界を重点的に担当したかったからです。前職の外資系コンサルティングファームでは、金融などさまざまな領域を担当していましたが、3年目で製薬企業のプロジェクトに参加したとき、改めて「ヘルスケアは面白い」と思うようになって。
前職はそこまで規模がなく、インダストリーが明確に分かれていませんでした。しかし製薬業界は、法制度なども含めて専門性が高い領域です。基本的な知識がなければ、クライアントと満足に議論すらできません。そのため、ヘルスケア領域に強く、かつインダストリー単位で専門性を高めていけるBCGに転職しました。
──実際のところ、転職してみてどうでした?
熊倉:期待していたより10倍くらい良かったです。とても満足しています。ヘルスケア業界に注力できる点もそうですが、大きい組織ということもあり、サポート体制が整っているのも非常にありがたかったですね。
例えば、過去に担当したプロジェクトで得られた知見を整理するナレッジチームというものがあります。クライアントから「このビジネスについて知りたい」と聞かれても、大体の情報が整理されているので、翌日からすぐに議論ができることも少なくありません。
また、似たような案件を経験した方が社内にいることも多く、彼らに聞けば、案件の大枠がすぐに分かります。本質的な議論ができる段階まで、効率的にショートカットできるのは、BCGならではの特徴だと思います。
──他に「ここだけは他ファームに負けない」と感じているポイントはありますか。
熊倉:各業界やクライアントに深く入り込める点でしょうか。ロジックだけではなく、広く深い業界知識が蓄積されているので、お客さまからの信頼を得やすいです。業界のトレンドというのは、さまざまな企業と向き合うことで初めて見えてきます。逆にそれがないと、現実感のある提案はできないでしょう。
また、BCGでは戦略提言のみならず、その実行段階までサポートします。仮にレールを敷いても、その上を進むクライアントが「脱輪」してしまっては意味がありません。クライアントが目指すゴールにたどり着くまで、しっかりと並走し責任を持つことが大切なのです。
時間の無駄遣いをなくして、仕事をやり切る。子どもが生まれて効率は上がった
──案件も複雑になっているし、実行までサポートすることも求められる。いくらチーム戦になったとはいえ、やはり負担は少なくないのではないかと感じます。特に子どもが生まれると、働き方に制限がかかる部分があったのでしょうか。
熊倉:確かに時間の意識は大きく変わりましたね。睡眠時間を取りつつ自分のやるべきことに時間を投入する、時間の無駄遣いをしないという意識は強くなりましたし、産前に比べて仕事の効率は格段に上がったと思います。
早いときには19時くらいにオフィスを出ますし、平常時はいつも20時くらいに上がるイメージですね。ただ、もちろんプロジェクトが佳境のときは、遅くまで仕事をすることもあります。
──そういうときは、誰が子どものお迎えに行くのですか?
熊倉:保育園の延長保育を依頼したり、親に面倒を見てもらったりと試行錯誤を繰り返しましたが、最終的にベビーシッターの方にお願いする形に落ち着きました。私は仕事を途中で切り上げるのが苦手でして。この方法が最もストレスが少なく、うまくいくと考えたのです。
──出産を経て、キャリアチェンジをする人も少なくありません。熊倉さんの場合、子どもが生まれてからキャリア観は変わりましたか?
熊倉:時間の意識は変わりましたが、自分がやりたいことを主体的に選んでいく、という点は変わっていません。「私が幸せじゃないと、子どもも幸せじゃない」という信念を持っています。
私はフルタイム勤務ですが、他にも時短で働いている方もいますし、復職を機にナレッジチームのようなバックオフィス寄りの部署に異動する方もいます。それぞれの希望に応じて、柔軟にキャリア設計ができるようになっています。
──社風として、子育てに対して前向きな雰囲気があるのですね。
熊倉:そうですね。産休や育休を取って復帰する方がとても多いですし、男性も育休を取得する方が増えています。私の場合は1人目で1年休んで、2人目は半年休みました。基本的に稼働がプロジェクト単位のため、いつから休むか、いつ復帰するかをかなり柔軟に選択でき、周りに迷惑をかけることも少ないです。
──復帰する際はスムーズにプロジェクトに入れるものなのですか。ブランクを感じることはないのですか?
熊倉:皆さん、よく心配されるのですが、2日くらいで感覚が戻ります(笑)。よく同僚と「正月休みで仕事のテンションに戻れない」などと話すこともありますが、半日くらいたったら「もう正月休みは忘れ去った」という感じで、すぐモードを切り替えて仕事していました。
──それはすごい。それならあまり心配しなくても良さそうですね。
熊倉:男性もそうですが、コンサルタントは、例えば平日夜何時以降は帰宅したい、こういうタイミングで休みを取りたいなど、希望する働き方を自分で設計しやすいので、とても働きやすいと思います。もちろん、結果としてパフォーマンスが上がって、成果を出せることが前提ではありますが。
とはいえ、私も子どもを産むかどうかは正直少し悩みました。私の場合は、すでに子育てをしながら働いている先輩の体験談を聞くことで、子どもを産む決断ができました。
男女問わず、社員の働きやすさやキャリア形成を支える「Women@BCG」
──それは心強いですね。同じ部署の先輩とかですか?
熊倉:いえ。BCGにはワールドワイドな取り組みで「Women@BCG」と呼ぶ活動があり、日本でも以前から年に1〜2回全社向けイベントを開催しています。そこで行われた座談会で、さまざまな先輩ママコンサルタントの方に、どのように家庭と仕事を両立しているのか、詳しい話を聞くことができました。
ベビーシッターなど、育児に必要な費用を一部補助してくれる制度があるのもうれしいですね。
──Women@BCG……ということは、女性社員向けのイベントなのですね。
熊倉:それがそうでもないのです(笑)。もともとはそうだったのですが、最近は男女関係なく、さまざまな人の働きやすさを支える活動になってきており、イベントの頻度も増え、男性が普通に参加しています。
他にも、事業会社に転職して活躍している卒業生を集めてパネルディスカッションを行うなど、若手向けに自分が将来どうキャリアを積めばいいのかイメージできるような意見交換の機会もあります。先輩社員にも気軽に相談できますし、私も今は先輩として、自分の経験を後輩に伝える側に回っています。
子育て中でも海外プロジェクトを手掛けたい。世界中で信頼されるコンサルタントに
──熊倉さんは、今後どのようなコンサルタントを目指していくのでしょうか。
熊倉:Trusted Adviserと言いますか、プロジェクトのあるなしに関わらず、常にクライアントから相談されるような存在になりたいです。あと、今後は海外のプロジェクトにも関わっていきたいですね。
子どもが生まれてから海外のプロジェクトに参加したことがあり、2カ月に1回のペースで海外出張する期間がありました。最初はかなり大変でしたが、そのように対応できる体制を家庭内でも整えました。今後も積極的に、グローバルプロジェクトに入っていきたいと思っています。
──ありがとうございました。最後に、これから就活を始める学生にアドバイスをいただければと思います!
熊倉:もしコンサルティングに興味があるなら、悩みすぎずに飛び込むことをオススメしたいです。最近、学生の方と話す機会が多いのですが、「コンサルタントは忙しすぎるのではないか」「結婚できるのか」「子どもを持てるのか」など、先々のことを考えて躊躇(ちゅうちょ)している様子がうかがえます。
会社にもサポートの仕組みは整っているので、あとはその時に課題解決の能力を発揮して、自分のやりたい働き方を実現していくだけです。家庭と仕事の両立は何とかなります! 心配しすぎてチャンスを逃すよりは、挑戦した方がいいです。
──熊倉さんから見て、BCGに挑戦してほしいのはどのような学生でしょうか。
熊倉:BCGは多様性を認め合う文化なので、いろいろな人に来てもらいたいです。最近は、「コミュニケーション能力」が求められている風潮もありますが、私自身はコミュニケーションが苦手な方がいてもいいと思っています。
課題解決が好きで、クライアントや企業、社会、世の中のために何かをしたいと思っている方はぜひBCGに応募してください。間違いなく成長できますし、何より楽しく仕事ができると思います。
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ボストン コンサルティング グループ
【ライター:工藤まおり/撮影:保田敬介】