こんにちは、ワンキャリアの多田薫平です。
ワンキャリアに1人目の新卒として入社し、今は事業企画や採用コンサルティング、キャリアアドバイザーなどをやっています。曲がりなりにも4年間、1年に1,000人以上の就職活動生と会って相談に乗り、さまざまな「悩み」を聞く生活を続けてきました。
特集「就活の羅針盤」は、今まで聞いてきた就活生の悩みが元になっています。悩んだところで絶対に答えが出ないことを考えていたり、本当に考えるべきは別の問題だったりする。そうならないための思考法を提示しています。
第3回は、「意思決定」の話です。最後に残った選択肢の中からどの会社を選ぶべきなのか。この難しい問題に向き合うための考え方を紹介します。
▼内定について詳しく知りたい方はこちら ・内定とは?内々定と採用の違いや内定決定後の流れと辞退方法まで解説 ・内々定とは?内定との違いから承諾や辞退のポイント・取り消し事例まで詳しく解説 ・内定承諾のマナーと対応例。メールや電話の例文についてもご紹介
内定をもらうと、デメリットは肥大化する
──1回目は情報収集がテーマで、2回目は情報整理の話でした。
多田:下の図だと、「選ぶ問題」の「情報収集」と「情報整理」の部分ですね。志望企業を絞るまでに必要なプロセスや思考法が伝わったのなら、うれしいです。
──選ぶ問題は、あと「意思決定」の部分を説明していませんね。ここはどういう悩みが多いのでしょうか。
多田:「最後の段階で、入る企業を選べないです。どうしたらいいですか?」という質問が多いですね。多くの就活生は内定後、ここに悩みます。「この会社でいいのかな?」という疑問が出るのは仕方がないと思います。
──疑問が出るのは、どうしてでしょうか?
多田:この悩みが生まれるメカニズムを図で説明するとこうなります。
──内定をもらうとメリットよりデメリットに目がいくのですね。
多田:はい。選考中は「その企業が好きでたまらない」という状態なので、デメリットにフォーカスすることはあまりありません。メリットについては事実に基づいて説明できる状態、つまり言語化できています。このとき、自分の解釈がメリットに入っていることもあるので、事実以上に大きく捉えていることもあります。
──「この会社は『1年目から成長できる』というメリットがある」と就活生が解釈していれば、それが志望動機になっていることもありますものね。
多田:それが、内定をもらって企業の悪い点が見え始めると一転、メリットの本来の大きさに気が付きます。反対に、デメリットはこの段階ではまだはっきりと言語化されていないことも多く、事実以上に肥大化した状態で目に付くようになります。「デメリットが整理されていない」「悩まなくてもいいデメリットに悩んでいる」という状態に陥りがちなのです。
──内定後に「あれ、選考中は気にしなかったけど、給料ってこんなに低いんだ」と不安になるようなパターンですね。理屈は分かりましたが、この問題への対処法はあるのでしょうか。
デメリットを「悩むべき」と「悩むべきでない」に仕分ける3つの観点
多田:この悩みの本質的な原因は「悩むべきデメリット」と「悩むべきでないデメリット」がごちゃごちゃになっていることです。だから、デメリットを言語化して「悩むべき」か「悩むべきでない」かに仕分けをすることが大事です。
──そもそも、悩むべきデメリットと、悩むべきでないデメリットは何が違うのでしょう。
多田:3つの観点で仕分けることができます。Serious(深刻性)、Solvable(解決性)、Unique(固有性)の順番で考えてください。
Serious(深刻性)は、「そのデメリットは、入社するにあたって絶対に解決すべき問題なのか」で考えてください。例えば、選考中は「成長したい!」と意気込んでいた学生が内定後に「年収の低さが気になる……」と話し始めることはよくあります。
──成長した結果として年収が上がることを目指すのか、最初から年収が高いことを重視するのか、で悩んでいるという状態ですね。
多田:このときに「自分にとっては重要なのは、成長ではなかったっけ?」と考えると、年収の問題は「自分の価値判断に照らし合わせたら、悩む問題ではない」という結論になると思います。まずは「そうじゃなかったっけ?」という視点を持って悩みを分類することが第一歩です。
──次のSolvable(解決性)は、どんな悩みが当てはまるのでしょうか。
多田:「転勤の多さが悩みです」というのが定番ですね。このときに大切なのは「解決できないものは解決できない」という事実です。確かに転勤が多いことに悩むのはとても分かります。
ただ、これは自分自身で解決できそうでしょうか。会社の方針が変わらない限りは難しいでしょう。「そのデメリットは自分自身の頑張りで解決できる可能性があるのか」を考えることが大事です。
──最後はUnique(固有性)ですね。これは、どういう悩みでしょうか。
多田:これは「自分の選択肢の中で比較したとき、その企業だけで起きる問題か」で仕分けます。
例えば、3つの会社が選択肢に入っていて、「新卒で行きたい部署/職種に行けないかもしれない」という悩みがあったとしましょう。このとき、「この悩みは3社のうち1社だけで起こりうる問題なのか」を考える必要があります。
──A社、B社、C社で悩んでいて、B社、C社は職種別採用だけど、A社は総合職採用だったとすると、「新卒で行きたい部署/職種に行けないかもしれない」はA社だけの特殊な悩みだということですね。
多田:気を付けてほしいのは、このデメリットがA社の特殊な悩みかは、人によって違うことです。
もし、A社とX社とY社が選択肢にある人がいて、X社もY社も総合職採用だったなら、「新卒で行きたい部署/職種に行けないかもしれない」は特殊な悩みではなくなります。すると、この問題で悩むことはあまり意味がなく、別のデメリットで比較した方が有効でしょう。
悩むべきデメリットは1パターンに絞られる
多田:そして、この仕分け作業をやったときに、悩むべき問題は次の1パターンに仕分けられます。
──理屈は分かるのですが、実際にやるのは難しい気がします。
多田:分からなくなったときは、下の図を使って、ノートに書いてみてください。
──確かに、フローチャートがあると便利ですね。そして、悩む問題ではないデメリットに対しては、取れるアクションが決まっているから、その通りに動けばいいのですね。
多田:はい。たとえそのデメリットが「Serious」に該当する問題だったとしても、選択肢にある全ての会社にあるデメリットなら、別のデメリットで比較するしかありません。また、その会社だけにあるデメリットだったとしても、「解決可能だ」と思ったなら、本当に解決可能かどうかを確かめればいいのです。
ここまでをまとめると、「この会社でいいのかな」という悩みに対しては、「デメリットの言語化」「取捨選択」「アクション」の3段階に分けて対応する必要があります。図に示すとこうなります。
──この中でアクションが決まらなかった問題が、悩むべきデメリットだということですね。でも、実際に悩むべき問題が出てきたとき、どう対処すればいいでしょうか。
悩むべきデメリットは解決しない可能性が高い。だからこそ「覚悟の醸成」が必要だ
多田:初めに断っておくと、この悩みは入社前に全て解決しない可能性が高いです。おそらく入社後も残り続けます。どの会社に行ったとしても、悩むべきデメリットは消えないのではないでしょうか。
──完璧な会社なんて存在しないですからね。
多田:だから、「入社前に分かっていたデメリットについては、入社後に文句は言わない」と自分と約束した方がいいでしょう。この「覚悟の醸成」こそが、企業選択において最も重要なことだと僕は考えています。
──確かに、社会人になって大変なことがあっても、「入社前から分かっていたこと。自分で決めたことだから仕方ない」と思えば頑張れる気がします。
多田:こう話すと、入社前に「デメリットがない状態」を目指して頑張る学生もいるかもしれません。でも、職業選択の大事なポイントは、「選択した時点では、正解/不正解が決まらない」ことです。マーク式のテストとは違います。
むしろ、たとえ「不正解」と思ったとしても、自分の力でその選択を「正解」に近づけていくことはできます。後悔のない選択とは、それを正解にしていくプロセスを楽しめる選択だと思います。
仕事を楽しんでいる社会人は、それを楽しんでいる人が多いなと思います。みなさんには、後悔のない選択をしてほしいです。
今回の思考法については、別の記事でも解説しています。興味のある人はこちらも読んでもらえるとうれしいです。
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(illustration:rudall30/Shutterstock.com)
※こちらは2019年12月に公開された記事の再掲です。