今回は、大学入学前や在学中に精神疾患などを患ってしまった場合に利用できる制度「障害者雇用率制度」についてお話したいと思います。
皆さんは企業採用ページを見ている時に、「障害者採用」という文字を見たことはありませんか?
あまり馴染みがないと思う方が多いかもしれません。
しかし、人によっては就職後に過労で精神疾患などを患い、この制度を利用することになるかもしれません。
そのため、こうした制度があることを知っておくだけでも役に立つのではと思います。
変化する障害者雇用率制度。統合失調症、双極性障害も対象に。
では、「障害者雇用率制度」とは、どんな制度なのでしょうか?
従業員45.5人以上の民間企業などにおいては、従業員の一定割合(民間企業なら2.2%。以下「法定雇用率」)以上の障害者を雇用することが義務づけられています(参考:厚生労働省「障害者の雇用 雇用する上でのルール」)。
この制度の対象者は、下記になります。
<「障害者」の範囲>
障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています(短時間労働者は原則0.5人カウント)。
ただし、障害者雇用に関する助成金については、手帳を持たない統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む)、てんかんの方も対象となり、またハローワークや地域障害者職業センターなどによる支援においては、「心身の障害があるために長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な方」が対象となります。
(引用:厚生労働省「障害者の雇用 雇用する上でのルール」)
実は、この「障害者雇用率制度」は2018年4月から大きく変更されました。
それまでは、企業には「身体障害者」と「知的障害者」の雇用義務しかありませんでしたが、新たに対象として「精神障害者」が追加されたのです。
制度の罰則規定。改善されないと企業名を公表
ここで気になるのは、「障害者雇用率制度にはどれくらいの強制力があるのか」です。
【法定雇用率未達成の場合】
常用労働者100人超の企業において、不足1人当たり月額5万円の「障害者雇用納付金」を徴収。
【法定雇用率を達成した場合】
超過1人当たり、常用労働者100人超の企業では月額2万7千円の調整金、100人以下の企業では月額2万1千円の報奨金が支給。
(参考:厚生労働省「障害者雇用納付金制度の概要」)
さらに、障害者の雇用状況において、改善が見られないと厚生労働省が判断した時には、企業の実名が公表されます。
2016年度は2社の実名が公表、2017年度は公表なしとなっています(参考:厚生労働省「平成28年度障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表等について」)。
不足1人当たり月額5万円の納付金徴収や企業名公表が効いているのか、「障害者雇用率制度」はそれなりに遵守されているという印象が私にはあります。
大企業も採用しているが、障害者枠は狭き門
では、実際に「障害者雇用」を活用している企業例を見てみましょう。
2018年7月8日時点で、障害者のための就職サイト「webSana」に掲載されていた「OB/OG情報」から、ハンディキャップを持った方を採用した企業27社をピックアップしました。東京海上日動火災保険、富士通、ソフトバンク、大和証券、積水ハウスと言った就活生に人気の有名企業も名を連ねています。
【採用した27社(株式会社略・掲載順)】
アイシン・エィ・ダブリュ/レオパレス21/トランスコスモス/SMBC日興証券/リクルートオフィスサポート/積水ハウス/楽天ソシオビジネス/アイシン精機/ソフトバンク/太平電業/博報堂DYアイ・オー/日本ガイシ/NTTコムウェア/富士通/トヨタ紡織/新潟原動機/東京海上日動火災保険/大和証券/関電工/中菱エンジニアリング/アドヴィックス/NTTドコモ/三菱重工業/パナソニック システムソリューションズ ジャパン/キヤノンITソリューションズ/日本電気通信システム(NEC通信システム)/セブン-イレブン・ジャパン
(出典:webSana「OB/OG情報」。2018年7月8日時点で掲載されていた情報です。募集の掲載が終了していることがありますのでご了承下さい。)
このように従業員数が多く、ブランドイメージを重んじる大企業ほど、障害者雇用を遵守する傾向があります。
しかし、「障害者だから大企業に簡単に入れる」ということは全くなく、むしろ、法定雇用率以上を採用する企業は少ない傾向があることから、狭き門になると考えた方がよいかもしれません。
例として、アイシン・エィ・ダブリュ(自動車部品で世界シェア5位(※1)のアイシン精機のグループ会社)の例年の採用傾向を見てみると、全職種の採用人数は800〜900名前後(※2)、障害者の採用人数は20名以下(※3)となっています。
(※1) 参考:ビジネスIT「自動車部品業界の世界ランキング:デンソー、アイシン精機を襲うドイツ勢の猛攻」
(※2) 出典:アイシン・エィ・ダブリュ「2018年度(平成30年度)の新卒採用計画について」
(※3) 出典:WebSana「アイシン・エィ・ダブリュ 新卒採用情報」
「身体障害者」に偏る採用の現実
次に、先程の企業27社に採用された55人において、どんなハンディキャップを持った方が採用されているのかを調べてみました。
【障害の種類】
聴覚障害:15人
下肢障害:15人
上肢障害:11人
心臓障害:7人
腎臓障害:3人
視覚障害:3人
小腸障害:2人
内部障害:1人
体幹障害:1人
指肢障害:1人
左手足に軽度の麻痺:1人
不明:1人
(※:障害に重複がある人が6人いるため、計61−6=55人)
(出典:webSana「OB/OG情報」。2018年7月8日時点で掲載されていた情報です。募集の掲載が終了していることがありますのでご了承下さい。)
結果から分かるように、55人全員が「身体障害者」でした。
結果が偏った原因には、以下の2つが考えられます。
1つ目は、前述の「今年の4月までは、『精神障害者』の雇用義務はなかった」こと。
2つ目は、集計元の「OB/OG情報」が実名・写真つきで掲載のため、単に知的・精神障害者のインタビューが取れなかったこと(ただし、匿名・写真なしのインタビューもあり)。
自分の「傾向」を自覚し、それに適した職場を探す
私は新卒で出版社に入社し、数年働いた後に過労でパニック障害(精神疾患の一種)を患ったため退職しました。
その後、自分がパニック障害であることを隠し続けて就職活動をしてきました。
もし私が現在、精神疾患を抱えた就活生だったら、どのように就職活動をするでしょうか。
おそらく、下記の戦略を立てるのではと思います。
・ある企業では健常者枠、ある企業では障害者枠での応募と使い分ける
・健常者枠では、リモートワークなどの在宅業務を取り入れている会社を探す
・障害者枠では、とにかく多くの会社に話を聞きにいく
精神疾患を抱えて働く中で、私が最も辛かったのは「通勤」「会社で座っていること」でした。
理由は、パニック障害の症状には、電車に乗ったり部屋に閉じ込められたりすることに対して恐怖を覚えて発作を起こす、というものがあるからです。つまり、自宅なら問題なく仕事ができるのです。
したがって、精神疾患を抱えた人にとって、私が最も大事だと思うのは「自分のペースで働ける会社を探すこと」です。
精神疾患を抱えている場合、自分にはそうした「傾向」があることを理解して、苦手なことをできるだけしなくてよい職場を探すことをお勧めします。
同時に、「自分は障害を抱えているのだから、こうしてほしい」と主張するばかりではなく、一歩引いて、「自分はこういう傾向があるからAの分野は苦手だけど、Bの分野では貢献できるのでは」と、自らが職場で貢献できることは何かないか考えることも心に留めておいてください。
できることなら、何でもよいのです。
「だれにでも明るくあいさつする」など、小さいことからコツコツ積み重ねていけると、何よりも自分がラクになると思います。
この記事が、ハンディキャップを抱えた人の一助になれば幸いです。