外資系企業の選考が進むにつれ「フェルミ推定」という聞きなれない単語を耳にされた方も多いかと思います。フェルミ推定は訓練すればするほどスラスラ解けるようになる一方で、未経験者にはまるでやり方が思いつかない特殊な課題です。さらにコンサルティング業界で多く課される「ケース面接」にはフェルミ推定の利用を求められるため、対策せねば散ることとなります。
そこで今回はフェルミ推定って何? という方でも解きやすい簡単な例題から実際の選考で出題された例題を用いて、フェルミ推定のノウハウをお伝えしたいと思います。
<目次>
●フェルミ推定とは
・フェルミ推定の概要
・フェルミ推定を出題する企業と目的
・フェルミ推定を解くのに必要な基礎知識
●フェルミ推定の基本例題8選・解答例
・例題1:全国に女性は何人いるだろうか
・例題2:小学校から大学までに子供は何人いるだろうか
・例題3:日本に電柱は何本あるか?
・例題4:東京都のマンホールの数は?
・例題5:日本にあるコンビニの数は?
・例題6:東京のラーメン店の一日の売上は?
・例題7:日本で昨年1年間に消費された割り箸の本数は?
・例題8:日本の缶コーヒーの市場規模は?
●企業選考での出題例5選
・出題例(1)EYストラテジー・アンド・コンサルティング
・出題例(2)EYストラテジー・アンド・コンサルティング
・出題例(3)デロイト トーマツ コンサルティング
・出題例(4)アクセンチュア
・出題例(5)ベイン・アンド・カンパニー
●おすすめの書籍
●この記事のまとめ
フェルミ推定とは
フェルミ推定の概要
フェルミ推定とは、実際に調査することが難しい数量や規模を、最低限の知識と論理的思考力を使って短時間で推定する手法です。 例えば「日本にある電柱の数」など一見予想がつかない数値を、国土面積や身近にある電柱の数などから論理的に推定します。日常生活からビジネスまで幅広い場面で応用され、採用試験ではコンサルティングファームや投資銀行、総合商社などで多く出題されます。
有名な問題には、下記のようなものがあります。
・日本にはマンホールがいくつあるか
・日本にあるワイパーの本数を求めよ
正直に申し上げますと、筆者が初めてフェルミ推定のお題を見たときの感想は「知るかそんなもん」でした。しかしながら、フェルミ推定は思いのほか仕事の現場で役立ちます。
たとえば新しい経営企画や戦略を立てる際、すべてのデータがそろうことはまれ。下手をすれば国の統計データしか頼りになる情報がないかもしれません。そんな中で実際に商品をモノにするには「わけのわからない数字も論理的思考力だけで推定する」力が求められました。フェルミ推定は社会人生活を送る上で、極めて実践的な技術なのです。
フェルミ推定を出題する企業と目的
フェルミ推定は、コンサルティングファームや投資銀行、総合商社などで出題されることが多いです。
以下、フェルミ推定を出題する企業をご紹介します。
・EYストラテジー・アンド・コンサルティング ・デロイト トーマツ コンサルティング ・アクセンチュア ・ベイン・アンド・カンパニー ・アビームコンサルティング ・三菱商事 ・三井物産 など
企業が採用試験でフェルミ推定を出題する目的は、限られた情報と時間の中で学生が最善の答えをいかに導き出せるかを見ることです。一般的事実に対して正確な数値を知っているか、知識が豊富かどうかを知りたいわけではありません。
フェルミ推定では出題された問題に対し、人口や面積といった一般的な数値や自分で推定した数値を用いて答えを導き出し、その根拠を論理的に説明できるかどうかが問われます。
フェルミ推定を解くのに必要な基礎知識
まず、フェルミ推定をやってみる前に最低限の知識を頭へたたき込んでおきましょう。フェルミ推定は「ざっくりしたデータから概算する」ことですが、概算するも何も大元のデータがなければどうにもなりません。
詳細データは応用編に書いていますが、基礎として下記知識を丸暗記してください。
人口:1億2,000万人
世帯:約5,000万世帯
国土面積:約40万平方キロメートル
平均寿命:約80歳
労働力人口:約6,000万人
1年に産まれる子供の数:約100万人
大学進学率:約50%
大企業の数:1.2万社
中企業の数:420万社
フェルミ推定の基本例題8選・解答例
次に、フェルミ推定の問題を解いてみます。フェルミ推定を解く上で一番の禁忌は、難問へはなから取り組むことです。段階を踏めば誰でも応用問題を解けるようになるので、最初は「ここまで簡単な概算でいいのか」と思うほど簡単な問題にしましょう。
少しずつ難易度を上げながら、まずは8問解いてみます。
例題1:全国に女性は何人いるだろうか
人口は1億2,000万人で、女性が約半数とするなら6,000万人。
例題2:小学校から大学までに子供は何人いるだろうか
小学校から高校は進学率100%として
100万人 × 12学年 = 1,200万人大学の進学率は約50%なので、
100万人 × 50%(進学率) × 4学年 = 200万人簡単に推定するため専門学校・高専・短大・大学院をあえて数えませんでした。フェルミ推定ではある程度細かい数字を無視するのが大切です。
例題3:日本に電柱は何本あるか?
道端の電柱を想像すると、50メートル四方に1本は電柱がありそうだ。
すなわち2,500平方メートルあたり1本の電柱があると仮定する。
つまり1平方キロメートル(1,000,000平方メートル)あたりは400本ある。
日本は山岳地帯が多く、平地は国土の15%程度。少し多く見積もっても、電柱がある地帯はせいぜい20%と考えてみる。
日本の国土面積は約40万平方キロメートルなので、20%は8万平方キロメートル
従って、日本には約3,200万本の電柱があると推定できる。
例題4:東京都のマンホールの数は?
マンホールの数を予測するには、何メートルごとにマンホールがあるかを想定し、それを1平方キロメートルあたりに換算します。その後、東京都の面積をかけあわせると算出可能です。
100メートルにつきマンホールがおよそ1個あると想定します。すると10,000平方メートルあたり2個マンホールが存在することになります。
この値から、1平方キロメートルあたりのマンホールの数は200個です。後は、東京都の面積約2,194平方キロメートルをかければ計算できます。
200個 × 2,194平方キロメートル = 438,800個
東京都のマンホールの数は、約44万個と推測可能です。
例題5:日本にあるコンビニの数は?
コンビニの数を計算する上では、都市部と田舎でのコンビニのある間隔を設定し、都会と田舎で人がほとんど住んでいない地域の割合と、日本の面積を用いればコンビニの数を計算できます。
仮に都市部では、500メートル四方に1軒の間隔であると想定してみましょう。つまり、都会では0.25平方キロメートルに1軒はある、という計算になります。
田舎の場合は、その1/10分くらいしかコンビニがないとすると、2.5平方キロメートルごとに1軒しかない、という仮定が可能です。
都会:田舎:ほとんど人がいない地域の比率を1:9:20、日本の国土面積を約40万平方キロメートルとした場合、以下の計算式からコンビニの数を算出できます。
378,000 × 1/30 ÷ 0.25 + 400,000 × 9/30 ÷ 2.5 = 98,400
以上より、約9万8,000軒あるという結果になります。
例題6:東京のラーメン店の一日の売上は?
ラーメン店の一日の売上を求める際は、一日の来客数 × 客単価の計算式に当てはめれば算出可能です。さらに、客数は、客数=店の規模(席数) × 稼働率 × 回転率 × 営業時間に分解して求められます。
よって、売上=店の規模 (席数) × 稼働率 × 回転率 × 営業時間 × 客単価 となります。
仮に11時から23時まで営業している10席のお店で、客単価は1,000円、人気店で常に満席とすると稼働率は1、回転率を2と仮定しましょう。
この値を、一日の売上を求める計算式にあてはめると
売上=店の規模 (席数) × 稼働率 × 回転率 × 営業時間 × 客単価 = 10 × 1 × 2 × 12 × 1,000 = 240,000
以上より、一日の売上は24万円と推測できます。
例題7:日本で昨年1年間に消費された割り箸の本数は?
割り箸の消費本数を考える場合には、割り箸をよく使う人の属性を考えましょう。割り箸を比較的多く使う人は、学生と社会人です。
日本の人口を1億2,000万人と想定した場合、100歳を最大として10歳ごとに区切ると、各年代に1,200万人程度いることになります。その中で学生~社会人に該当するのが10~60歳と仮定すると、1,200万 × 5で6,000万の人たちが割り箸を使っていると想定可能です。
使用頻度に関しても、朝、昼、晩、夜食の最大4本が考えられますが、平均2本使うと仮定します。その結果、6,000万 × 2 × 365日で、438億本程度使われていると推測可能です。
例題8:日本の缶コーヒーの市場規模は?
缶コーヒーの市場規模は、客数 × 客単価 × 購入頻度で計算できます。缶コーヒーの定価は140円が一般的です。後は客数と購入頻度を考えて掛け算をすれば、市場規模が算出できます。
客数と購入頻度は、年齢や性別・職業などから推測可能です。日本の人口を1億2,000万人、平均寿命を約80歳とした場合、1歳刻みで約150万人存在すると計算できます。
さらに、以下のように仮定し、18~65歳・66~84歳に分けて人口を計算して売上額を求めていきます。
・0~18歳は缶コーヒーを飲まない ・男女比を50:50にする ・18~65歳の女性は専業主婦の存在を考慮して70%が就労している ・就業男性、66歳以上の男性、就業女性のみが缶コーヒーを飲む
年齢 | 性別 | 人口 | 購入頻度 | 単価 | 売上額 |
18~65歳・7,200万人 | 男性 | 就業男性3,600万人 | 週2回/年104回 | 140円 | 5,200億円 |
18~65歳・7,200万人 | 女性 | 就業女性2,520万人 | 週1回/年52回 | 140円 | 1,800億円 |
66~80歳・2,250万人 | 男性 | 1,125万人 | 週0.5回/年26回 | 140円 | 410億円 |
66~80歳・2,250万人 | 女性 | 1,125万人 | 飲まない | 140円 | 0円 |
これらを合計して、市場規模は約7,410億円と算出できます。
企業選考での出題例5選
ここからは、実際の企業の選考で出題された例題と内定者の体験談を5つご紹介します。
出題例(1)EYストラテジー・アンド・コンサルティング
出題例 コンビニエンスストア1店舗の1日の飲料水の売上本数
内定者の体験談 フェルミ推定は東大生のフェルミ本をやれば難なく解けるお題であった。コンサル対策をしていれば問題ないだろう。準備時間が長いため、詰められるだけ詰めた。
※出典:EYストラテジー・アンド・コンサルティング|テクノロジーコンサルタント2025年卒本選考の個人面接
出題例(2)EYストラテジー・アンド・コンサルティング
出題例 ディズニーランドのポップコーン年間売上数の計算
内定者の体験談 ・計算はアトラクションに乗っている人と乗らずに座っている人に分けて分けて面積ベースの考え方と人数ベースの考え方を用いた。 ・納得感があるよう計算途中に説明の流れを確認した。また、計算ミスをしていると大きく印象を下げてしまうため、ある程度これくらいの値になるであろうと予測を立てながら計算していった。
※出典:EYストラテジー・アンド・コンサルティング|テクノロジーコンサルタント2025年卒本選考のケース面接
出題例(3)デロイト トーマツ コンサルティング
出題例 レンタカーの市場規模やカーシェアリングサービスに関するフェルミ推定
内定者の体験談 資料の重要な点を見落としており、かなり見当違いな数字を算出してしまいましたが、指摘を受けその場で修正をして説明しました。計算が正確に越したことはないですが、思考回路を重点的に見られているように感じたため、正確な計算ができなくても落ち込む必要はないと感じました。
※出典:デロイト トーマツ コンサルティング|コンサルタント職2021年卒本選考の一次面接(フェルミ推定)
出題例(4)アクセンチュア
出題例 スマートウォッチの市場規模推定
内定者の体験談 ケース面接、人物面接ともに結論ファーストで答えることに気をつけました。
※出典:アクセンチュア|戦略コンサルタント職2023年卒インターンシップ選考の一次面接
出題例(5)ベイン・アンド・カンパニー
出題例 業務用ヘアケアー用品(シャンプー)の市場規模の算出
内定者の体験談 ・とにかくディスカッションを楽しんでいる雰囲気を出すこと ・面接官が非常に鋭く、算出方法に対して、すぐに質問をしてくるタイプだったので、負けずに返答することを意識した ・時間は十分あったので、焦らず論理的な解答を意識した
※出典:ベイン・アンド・カンパニー|アソシエイトコンサルタント2021年卒インターンシップ選考の二次面接
おすすめの書籍
以下の2冊をひととおり解き、初見で難しかった問題のみを2、3回解けば十分に対策ができます。
・『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート――「6パターン・5ステップ」でどんな難問もスラスラ解ける!』(東洋経済新報社、2009年)
・『東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート 50の厳選フレームワークで、どんな難問もスッキリ「地図化」』(東洋経済新報社、2010年)
余裕があれば以下の参考図書もオススメです。ただし、あくまで余裕がある人向けです。まずは前出の2冊を完璧にしましょう。
・『過去問で鍛える地頭力 外資系コンサルの面接試験問題』(東洋経済新報社、2009年)
・『戦略コンサルティング・ファームの面接試験 新版 難関突破のための傾向と対策』(ダイヤモンド社、2021年)
この記事のまとめ
フェルミ推定は正しい解答は求められていません。答えが天文学的にズレていたら問題でしょうが(例:日本に電柱は3本しかないと答えるなど)、それっぽい数字であれば後は論理的思考力と、それを説明できるプレゼンテーション能力だけが求められています。
むしろフェルミ推定で苦戦しやすいのは、綿密に計算したい理系の学生です。「思い切って◯◯とする」と仮定できないと、いつまでも前提の数字にとらわれて制限時間内に答えを導くことはできません。インターネットも使えない状況で正しい答えへ近づくのは至難の業であり、そもそも目的ではないと心得ましょう。
フェルミ推定への恐怖心が薄れたら、ぜひ応用編へ進みましょう。論理的思考力をさらに磨くことで、説得力のあるプレゼンを心掛けてください!
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※こちらは2017年10月に公開された記事の再掲です。なお、「例題3:日本に電柱は何本あるか?」の計算方法に誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします(2022/5/26)。